世留と同じ
「あなたはわたしと同じだわぁ。あなたもネクロマンサーなのね」
彼女は徐々に世留に近づいていきながら、そんなことを言った。この辺りでは嫌われ者だと言われるネクロマンサーだと正体を明かすのは馬鹿のやることだと思うのだが、自分以外にもネクロマンサーがいるのも驚きだった。だが、彼女が従えているはずの死霊は彼女の近くには見えない。そもそも、他人には見えないものなのかもしれないが、彼女が嘘を言っている可能性はあるだろう。わざわざ嫌われている肩書を使っているのは不思議だが、あの都の王がこういった搦手を使ってこないという確信はない。たとえ、嫌われているネクロマンサーの肩書を使ってでも自分たちを殺そうとしていると言われても、彼には驚きはない。しかし、とりあえず、目の前の黒マントの少女の言うことが嘘ではないと思うことにした。何か危害を加えようとしているなら、すぐに反撃できるように警戒はしておくことにした。
「何か用か」
「そうね。まさか、わたしと同じものと出会うことがあるとは思わなかったのよ。だから、珍しくてね。話しかけたくなってしまったの」
「そうか。それではな」
世留が彼女の横を素通りして、目の前にある町に行こうとしたのだが、黒マントが彼の袖を掴んで足を止めさせた。そして、右腕に自身の体を密着させる。まるで娼館街で客引きを行うような動作だが、世留の心は微塵も動かなかった。それどころか、纏わりつかれて鬱陶しいとさえ思った。彼女の両腕が彼の右腕にを手先から撫でるように絡みついてくる。彼はその腕を引き抜こうとしたが、彼の予想より力が強く、簡単には抜けなかった。彼女の超能力なのか、それとも本当にネクロマンサーの身体能力の向上なのかはわからないが、とにかく、彼は腕をとられたままだった。
「そんな、逃げなくてもいいじゃない。せっかく、同じ運命なのだから、あの町でお話でもしましょうよ」
彼女は目の前の町を指さしていた。目的地が同じであるため、ここで別れても付きまとわれる可能性を考えると、ここで引き離しても意味がないと予想して、彼は彼女を引きはがすのを諦めた。彼女は腕に纏わりついたまま、自己紹介をした。
「わたしはソフっていうのよ。このマントがお姉ちゃんなの。わたしを守ってくれてるの」
ソフはマントをじっと見つめて、嬉しそうなにそういった。世留も覚えがある。好きな人が殺されたあの夜。自身の認識が変わるような体験をした。今でこそあの状態がおかしくなっていたのだとわかるが、ソフはまだそれを認識していないのかもしれない。その体格や、マントに宿っているのが姉だと言っているところを見ると、もっと幼い頃に姉を殺されているのかもしれない。そうなれば、それに耐えきれなくなり、心を守るためにネクロマンサーになってしまったのかもしれない。彼女の真実は、今は彼女すら知らないのかもしれない。
「……俺は世留。パートナーは遊羽だ。そして、彼女はサラ」
「ふーん。普通の人には興味ないわ。どうせ、普通の人には理解できないもの」
ソフはサラには興味が全くないようで、彼女を無視してべったりと世留にくっついていた。
サラは、紹介されても挨拶することが出来なかった。今はそれどころではない。世留に自分ではない女性が引っ付いている。さらに自分には敵意を向けてきているとのだ。世留の隣は自分が居たい場所なのだ。それを今は取られている。いくら見た目が少女だからと言って、それを許容するのは難しい。しかし、それを口に出すのは更に難しい。怒ろうとしても何を言えばいいのか、わからない。ソフと名乗る女性は邪魔だが、どうすることもできないのだ。
彼女は考えすぎて、頭が真っ白になった。その状態で体が無意識に動いて、世留の左側に着いた。それから、彼の手にそっと触れた。世留が彼女を見る。手を避けたりはしていない。サラは彼の手の感触が指先に伝わるだけで、手を引っ込めてしまった。それでも、彼女はもう一度、彼の手の指先に触れる。世留には彼女が何をしたいのかわからなかったが、その指をすっと引っ張ってぎゅっと手を握った。彼はサラも手を繋ぎたかったのかと思ってそうしたのだ。しかし、サラの方は、手を全力で開いて、彼の手を握ることは出来ていない。それでも彼は手を離してはくれない。だから、彼女は少しだけ彼の手に触れるように最弱の力で握った。それが今の彼女の精一杯だった。
世留は完全にソフの相手をしており、彼女のいじらしい様子には気が付いていない。サラにとってはその方が良かった。こんなに顔が熱いのだから、きっと真っ赤になっていることだろう。そんな顔を彼には見られるのは恥ずかしいのだ。




