結局は……
肩を刺されても、世留はうめき声をあげることはなかった。オグリッサはそれを大したダメージになっていないと感じたため、次に腹に短剣を突き刺そうと狙いをつける。そして、振り下ろす。世留は冷静にその短剣を刀で防いだ。オグリッサはそれでもしつこく、腹を狙う。肩も胸からも血を流しているはずなのに、彼はそれを気にしていないかのように、刀を正確に動かしている。そして、腹に短剣を突き刺すことに集中し始めた彼は、世留の肩を抑える力が緩くなる。世留はすぐに体を起こして、胸の棘から抜けた。傷に何もなければ世留の黒い刀が、彼の体を修復する。すぐに塞がるわけではないが、もはや気にする必要はないだろう。棘を抜いた彼は、オグリッサを足裏で蹴っ飛ばして、後ろに倒した。世留は彼とは距離を取らず、オグリッサに馬乗りになり、腕や体を押さえつけた。オグリッサは必死に抵抗しているが、そこから抜けだすことは出来ない。体を捻り、逃げ出す空間を作ろうとしたが、その足掻きも無駄になる。彼の体重がまるで、大きな岩のような重さで全く動くことが出来ないのだ。オグリッサは最終的に体が動かなくなるほどの疲労を感じるようになるまで抵抗を続けて、動きを止めた。それ以上は彼の体が言うことを聞かなくなったのだろう。
「くそっ。ふざけるな、ネクロマンサーごとき、殺せるはずなんだ!」
体で抵抗できなくなると、今度は口。大声でわめいていたが、彼はすぐに口をきけなくなった。なぜなら、その大声でようやく我に返ったかのようなタイミングで、ジータルが彼の顎辺りを殴り、気絶させたのだ。
「……お前、ネクロマンサーなのか……?」
ジータルは世留を訝しげに見ている。彼にとっては、オグリッサほどネクロマンサーを嫌ってはいない。しかし、快く歓迎できるわけでもない。昔からの伝承のせいで印象は悪い。
「それが何なのか、俺にはわからないが、ある人にもそう言われて追いかけられたことがある」
ジータルは訝し気な表情をより深くしていた。それからジータルはネクロマンサーを一言で表した。
「死霊を従えている生物のことだ」
世留にはその説明だけではピンとこず、彼の次の説明を無言で求めた。ジータルはしばらく、彼の答えを待っていたが、全く答えないところを見て、ネクロマンサーの説明をし始めた。
「はぁ。ネクロマンサーってのは、死霊を従えている生物のことだ。死霊ってのは死んだ後もこの世界で霊として活動しているもののことだ。それと共に行動しているのは、確実にネクロマンサーだ。それにかなりの能力が強化される。超能力も変質すると聞く。どうだ、思い当たる節があるんじゃないか」
「……ああ、ある。俺と一緒にいるのは、遊羽という幼馴染だ」
世留は自身の能力がいつの間にか強化されていることもわかっているし、超能力はいつの間にか、違う力が使えるようになっていた。ジータルが説明したことは全て自身に起こったことだ。
「そうか。悪いことは言わない。事情があるんだろうが、あの町から出ていった方が良い。オグリッサにばれたのはまずい。こいつは、病死した妹がネクロマンサーに使役されてたんだ。だから、ネクロマンサーを許さない。気絶から復活すれば、すぐに襲い掛かるだろう」
「忠告、どうも。サラも回復しだろうし、街から出ていく。世話になった」
「……」
ジータルはどうも、この状況に納得していない様子だが、世留を庇うこともできない。できるのは、町を出ていけと言うアドバイスだけ。なんとも酷い話だろう。だが、きっとお互いにそれが一番いい選択になるはずだと、ジータルは自身に言い聞かせるしかない。納得できないことはいままでも沢山あっただろう。そう思って諦めるしかないのだ。
町に帰り、宿に戻ってきた世留。ジータルはオグリッサが気絶から回復するまで、あの場所にいると言っていたので置いてきた。彼が付いてきたとしても、気まずいだけだっただろう。世留は気にしなくても、ジータルには耐えられなかったかもしれない。自身の言葉に納得できない彼は、きっと、彼を助けるようなことを言ってしまっていただろう。世留には全く知ることもできないが。
宿の部屋に入ると、サラはベッドに座っていた。部屋に入ってきた彼に気が付いて、彼の方を見た。振り返ったその顔は一瞬だけ、寂しそうだったが、すぐに笑顔になった。
「おかえりなさい。仕事、だったのですか」
「少し、世話になった人にお礼をしていただけだ。回復したなら、もう町を出よう。追手が来るかもしれない」
サラは彼の言葉に反抗することもなく、静かに頷いて、身支度を始めた。しばらく待っていると、彼女が準備が出来たと言ったので、宿を出ることにした。幸い、宿代を払っても、しばらくはお金に困ることはないと思える程度の金銭は確保できていた。宿を出て、一直線に街の門へと向かい、町を出た。未だ、何の情報もないが、追手から逃げる方向に移動するしかない。さすがに民全員が、追手と言うわけではないだろうが、騎士たちは追手として来ているかもしれない。彼らは、クリーターから離れていく。




