オグリッサの魔法
「殺しやるから、おとなしくしろよ!」
オグリッサは飛び上がり、落下する勢いを利用し、短剣を世留の脳天から斬りつけようとした。そんな見え見えの攻撃に世留が当たるはずもなく、刀でその攻撃を弾く。オグリッサはそのまま地面に落ちると同時に、左手を地面に着いた。それは体勢を整えるという意味もあったが、それだけではなかった。世留の足元がぐらつき、そこにひびが入る。彼の立っている地面が隆起してバランスを崩して体がふらつく。そこまで大きな隆起ではない。せいぜい、手を広げた程度の高さだ。しかし、それでも不意を突かれれば、バランスを崩すのは当たり前だった。ふらつく彼に用斜なく、短剣が下から抉るような角度で迫る。バランスを崩しているところに攻撃するのは当然であると、彼は既に予想しており、相手の体勢から来るであろう攻撃の軌道上に既に刀を置いていた。だが、それがあだとなる。短剣がその刀を避けて、彼に刃を届けようとしていた。彼は転びそうな体を捻って、ぎりぎりで短剣を回避した。彼の服の腕の辺りが少しだけ切れて、腕が見えている。彼はすぐに立ち上がった。その隙を逃してくれるはずもなく、オグリッサが彼の横腹目掛けて蹴りを出していた。立ち上がった時には既に、横腹寸前の位置にあり、回避は間に合わない。彼は自ら蹴りと同じ方向に飛び、地面を転がる。オグリッサとの距離が空いて、追撃からは免れた。
世留はその場に立ち上がり、オグリッサを見た。彼はすぐに動くつもりはないようで、世留をじっと見ている。世留から見れば、この大きな隙を逃していると考えていた。オグリッサにとっては、その隙がありすぎるという状態の方が怪しいのである。攻めることが出来る場所が沢山あるということは、自身を近づけるための罠だと言っているようなものだ。隙が少ない方が、そこに呼び込まれたときの対処方法も思いつくが、隙が多いとその対処の手数も増やさなくてはいけない。だから、攻めあぐねてしまうのだ。そんな状態でも先に動いたのはオグリッサ。攻撃しないと始まらないと考えていたのかもしれない。短剣でも攻撃ではなく、左手を世留に向けての魔法での攻撃。
「風よ。広がれ。スプリットウィンド」
彼の掌に風の魔気が集まり、薄い緑色の球が作られ、そこから世留に向かって、見にくい風の刃がいくつも飛んでいく。世留はそれを回避することはなく、空間を斬り離して対処した。魔法もその隔たりを乗り越えることは出来ず、隔たりにぶつかるとその場で空気に溶けた。
「水よ。伸びろ。エレクトウォーター」
次に彼の手に集まったのは水の魔気。それらが水の球になったかと思った次の瞬間にはそこからまっすぐ伸びるレーザーのような水が世留に向かっていく。その魔法も彼の作った隔たりを乗り越えることは出来ない。彼は左手を振るい、水の魔気を霧散させる。彼もほぼ零距離でないと魔法が効果を成さないことを理解して、無謀にも真っ直ぐに世留に向かって走っていく。世留はその行動を見てから、空間を繋ぎ合わせた。刀を構えていない世留に向かって、ただただ策もなく、短剣が突き出される。それが躱されているか確認せずに、その位置から横に凪ぐ。次は左下から斜めに右上に。いったんそれを自分の方へと引いて再び突き。その突きを体を引いて避けたと思ったが、下がった先には妙な出っ張りがあった。指の先のような大きさの出っ張りだ。だが、そのでっぱりは彼を転ばせるには十分な大きさだった。しりもちをついて、世留は転ぶ。自身を殺そうとしている相手の目の前で完全に隙だらけだった。だが、それでも世留は自身の状況をピンチだとは思っていなかった。そこから抜け出すことは容易だ。刀も手元にあり、超能力もまだまだ使える。
世留は超能力と刀ばかりを使っていて、魔法の戦闘には精通していなかった。魔法の知識や戦術、技術で言えば、どうあっても世留よりオグリッサの方が上だった。だから、転んだ後に来る攻撃は彼の短剣だと思った。その短剣で腹や胸、顔を刺されるものだと思っていた。ましてや、背中側にあるのは地面だけなのだ。
彼の胸を貫く茶色の棘。それは地面から突き出ていた。世留の衣服が血で染まる。元々黒だったため、目立つことはないが、確実に血が流れていた。世留は自分の胸を見た。痛い、と言うよりは熱い。彼はそれを抜かないと、と思った。体を持ち上げて棘から逃れようとしたが、彼の肩を押さえつける者がいた。それはオグリッサだ。胸に刺さった棘が、体に力を入れにくい位置にあり、いつものような力で彼を押しかえすことが出来ない。挙句、オグリッサは彼の肩に短剣を突き刺し、抜いた。そこからも血が流れている。熱い液体が彼の衣服に染み込んでいく。




