ジータル戦
宿を取って、サラを休ませた翌日。彼女は昼になっても、目を覚まさなかった。具合が悪そうというわけではなく、単純に溜まりに溜まった疲れを回復しているためだろう。大量が元に戻れば、彼女も目を覚ますはずだ。
世留はサラの元に遊羽の亡霊を護衛に付けて、彼自身はギルドに顔を出すことにした。ジータルとの約束を果たすためだ。昨日、彼は自分と手合わせしたいと言っていたし、袋と護衛のお礼もしていない。まずはお礼からだ。
ギルドに入ると入った時だけは視線を受けることになったが、既にそこにいる人たちは世留の姿に慣れたのか、特に視線を向けて続けたり、陰口を叩くようなことはなかった。そして、ギルド内のテーブルの一つに腰かけている、全身鎧と大きな盾を背負った男を見つけた。彼の隣には光の反射するほど綺麗な青い髪を持った男性だ。彼もジータルに負けず劣らずのイケメンで、整った顔をしていた。その男性は、世留が入ってきたのを見ると、ジータルに声をかけて、世留を指さしていた。ジータルも世留を見つけたようで、彼に向かって手を振った。世留は急ぐことなく、彼の近くに移動した。
「よぉ。今日も仕事か?」
「いや、昨日約束しただろ。戦ってみたいって言ってたから」
「ああ、戦ってくれるのか。サンキュ」
彼はそう言うと、立ち上がり、軽く伸びをして、ギルドの外を指さした。
「じゃ、町の外に出てやろうぜ」
もちろん、このギルド内や町中で戦闘するとは思っていない。世留は彼の提案に逆らうことなく、頷いた。
「本当にやるの?」
「当たり前だ。どんな経験も無駄にはならないからな。あ、こいつは俺の相棒のオグリッサだ」
いきなり、紹介された彼は焦ったように、世留の方を向いた。
「あ、僕はオグリッサだよ。一応、僕も冒険者なんだよね。彼と組んでるんだ。よろしくね」
オグリッサは世留に手を差し出した。世留はその手を握り、握手を交わした。言動はあまり強そうではないが、手を握った瞬間、彼がジータルと同じくらいには戦闘をこなしていることは分かった。ジータルが盾を務めているということは、攻撃役はこの人と言うことになるだろう。この短時間の会話だけでは、オグリッサは明らかにサポートするような人柄に見えた。世留も彼の自己紹介に自分の紹介を返した。オグリッサも彼の名前を珍しいと言っていたところを見ると、まだまだ起鼓詩や大湖のある地域は遠いのだろう。
「挨拶も済んだようだし、行こうぜ。ヨル」
「ちょ、ちょっと待ってって。模擬戦でも怪我したらどうするのさ」
「大丈夫だって。この町には治癒師もいるだろ?」
「……わかった。僕も一緒に行くよ。それで、怪我しそうなら止めるからね」
「ああ、わかった。オーケーだ」
話はそれでまとまったようで、結局、オグリッサもついてくることになった。彼らは、町を出て森には入らず、道の途中の開けた草原に移動した。魔獣も少なく、二人の模擬戦を邪魔するものはいないだろう。
「ここらでいいか。じゃ、やるか」
ジータルは盾を背中から手に移し替えた。右手にその大きな盾を持ち、左手には片手で持てる程度の大きさの斧を持っていた。世留は手を刀を握る形にすると、そこには、黒い刀が出現した。世留はそれで戦闘準備は完了だ。その黒い刀を見て、オグリッサは不思議そうな顔をした。ここらへんには刀と言う文化自体がないのだ。ジータルは単純で、そういうことを気にしていなかったから何も思っていなかったが、オグリッサは違う。彼はジータルよりも、様々な情報を得て戦闘をするタイプだ。だからこそ、彼の持っている刀と言う武器が気になった。それに、この辺りでは黒い武器と言うのは不吉の象徴であるネクロマンサーの武器とされているのだ。意図的にその色の武器を使っているのだとしたら、中々に怖いもの知らずな冒険者と言うことになる。オグリッサはそのことを頭の片隅に置いて、戦闘を見守ることにした。もし、ネクロマンサーであれば、死霊を従えているはずなのだ。その死霊が誰にでも見えるわけではないため、世留がネクロマンサーではないと確信はできない。
ネクロマンサーが不吉の象徴になっている理由は、疑似的に死を超えているからだった。ネクロマンサーが従えている死霊は、元は生きた人である。つまりは、死んだ人間を疑似的に生き返らせているということだ。この国にとって、死を拒否することは神の元で幸せになる権利を放棄させていることであり、共通の理に逆らっているということでもある。それはこの地域にとっては、まさしく悪なのである。だから、ネクロマンサーは不吉の象徴として存在しているのだ。ジータルのように何も気にしない人間も多少はいるだろうが、この地域のほとんどの人はネクロマンサーを忌避すべき人間だと考えている。オグリッサもその一人だ。彼は冒険者だ。つまりは力のある人。だから、彼は自らの力で悪を消すことが出来るなら、この場で消そうとも考えている。今、彼の黒い武器をみた瞬間から、ジータルとの戦闘を見て、彼が悪なのかどうかを見極めようとしていた。
「いいのか。始めるぞ」
「ああ、どこからでも」
草原に二人は対峙した。いよいよ、戦闘が始まる。




