王の通告
世留は通された部屋でしばらく待ってみても、特に迎えが来るわけでもなく、その部屋で待たされていた。ただ、待っているだけでは退屈だが、勝手に出てしまうと、自分だけでなく、他にも迷惑が掛かる可能性があった。特に自分と一緒にいたサラにも何らかの罰があるかもしれないと考えると、その部屋からは出られなかった。しかし、出られないのは世留だけで、遊羽の亡霊は簡単にその部屋から出ることが出来た。ましてや、他の人には全く見えず、壁や床などをすり抜けるというのだから、彼女を閉じ込めておくことは出来なかった。世留は遊羽の亡霊にサラの様子を見てくるように言いつけて、彼女の報告を待つことにした。しばらく、待っても戻ってくる気配はないが、彼女のことを心配することもない。
さらに待っていると、ようやく遊羽の亡霊が戻ってきた。彼女が体験してきたものは、世留の近くに彼女が戻ってきた時点で、彼にもその体験を共有できるようになっている。そして、世留はサラが思ったよりも危ない立場に置かれていることを知った。死刑にはならないと期待したいが、あの冷たい印象がある国王がその処罰をしないとも限らない。そして、彼女がこちらに来ようとしていたことも知った。それを止められていることも知った。シスターに止められてなければ、こっちまで来てただろう。そうなれば、きっとそのことも国王の耳に入っただろう。そうなれば、死刑を言い渡す理由が増えるだけだ。
彼女が死刑になるかもしれない原因については、国王は、世留と共にいたことと言っていたが、あくまでただの理由付けだろう。シスターの言っていたことを信じるなら、民からの信頼が厚い彼女のことが気に食わないか、国王の成し遂げようとしていることの弊害になる可能性があるのかもしれない。彼女を死刑にすると、さらに大きな弊害があると思うのだが、あの国王が何の考えもなしに反乱を許すような愚行に出るとは考えにくい。何らかの対策が既に考えられているのかもしれない。
とにかく、世留はサラを死刑に掛けさせるつもりはない。彼は出ようと思えば、すぐでもこの部屋から出ることは出来るし、サラを連れ出すことも簡単にできるだろう。しかし、簡単な手段で解決すると、後々大変なことになるかもしれない。例えば、国王を殺せば、死刑はなかったことにはなるだろうが、この国で生活している人々は路頭に迷うことになるかもしれない。道中にあった小さな村とは規模が違うのだ。この都で生活する民たちを見たことはないが、この城で働く人たちを見ると、そこまで悪い国王ではないのだろう。貧困で困っているようには見えなかったのだ。城の中で働いている人たちだからと言うのはあるのかもしれないが、民を貧困で苦しませる国王なら城で働く人にも悪い影響が出て、態度や仕事ぶりにそれが出るだろう。しかし、この城で働く人たちは精力的に仕事しているように見えた。つまりは、国王は少なくとも圧政を敷き、民を苦しめているわけではなさそうだ。
世留は無口な方ではあるが、頭はそこまでよくはない。国王に勝つような作戦を思いつくことは出来ないだろう。結局は祷花を連れ出した時と同じようにするしかない。あの時はサラが祷花を守ってくれていたから、今度は世留が彼女を守り連れ出す番だ。
「では、サラ・イストン。そなたに反逆罪とする。本来なら死刑だが、無期限で獄中で過ごしてもらう。意見するものはあるか?」
そこは、王の庭だった。バルコニーに国王と騎士二人が立ち、彼らの前にサラが立たされている。体のどこかを拘束されているわけではない。この場で、怪しい動きでなくとも、何か行動をしようとしたときには騎士が二人がかりで剣を抜いて、罪人を躊躇なく殺すのだ。
世留をあの部屋に拘束したまま、二日が経っていた。その間、サラは世留に会うことは出来ず、結局何もできないまま、悩み続けた。そして、いつの間にか国王の前に来て、彼女には罪が押し付けられていた。サラにはあまりにショックなことで反論する元気もない。そして、その場にいる誰もが、国王の言葉に意見するものなどはいない。民の信頼を得ていたはずだが、国王に意見すれば何されるかわからない。彼女とは違い、死刑になる可能性だってある。そうなれば、誰もが自分の命や生活を優先するというのもだ。誰もが、誰かを責められない。国王は冷徹な表情で民を見渡す。意見が出ないことを理解しているのにも関わらず、誰かに意見を求めるように視線を滑らせる。誰もが畏怖を抱きながら、視線を王に集めていた。誰も口を開かいないのを確認して、王は最終判決を言い渡そうとしたその瞬間、国王の言葉を遮るように、民の中の誰かがこういった。
「俺は、反対だな。彼女は優秀な治癒師だろ」
声の出所の周りにいた民たちは瞬時に彼から離れる。その中央に立っていたのはいつの間にか、部屋を抜け出していた世留だった。




