生贄を助けるのは……
魔法を当てた男はサラに魔法を当てた時点で、勝ちを確信していた。全身に魔法が当たった時点で、どれだけ威力が弱かろうと、体内の魔気がかなりの量が消費される。少なくとも立っていることは出来ないだろう。
サラはその消費を感じながら、その足が崩れそうになることもなかった。そもそも治癒師である以上、魔気の扱いは魔法のスペシャリストである魔術師と同等が、それ以上の技術を持っている者がほとんどである。そのため、全身に魔法を当てられて魔気を消費されても、ある程度、魔気を逃がす操作はできるし、それを体に循環させることも難しくない。
相手の魔法が消失しても彼女は倒れることはなかった。彼女は地面を蹴って、勝ったと油断している相手に近づいていく。魔法が無くなっても彼女が倒れていないことに唖然として、思考が停止している。動かない相手にメイスを当てることなど造作もないことだ。相手のわき腹辺りにメイスを叩き込んだ。相手の胴から、骨が折れたような嫌な音が鳴って、相手はうめき声も上げられずに倒れた。
「早く追わないといけません。捕まっていなければいいのですが」
「いい加減、追いかけっこは終わりですよ。お嬢様」
結局、どれだけ走ろうとも逃げきることは出来ず、追手の中で一番、筋力がありそうな見た目の男に腕を掴まれて止まらざるを得なくなった。彼女は悔しそうな、苦々しい顔をして男を睨んでいた。
「睨んでも怖くありません。さ、お早く戻りましょう。祭りはもう始まっているのですから、そろそろ準備をしていただかないと。こんなところで、遊んでいる場合ではないでのです」
丁寧な言葉とは裏腹に、もう彼女を離さないように力強い力で彼女の腕を握っている。少し痛いくらいで、振り払うこともできない。神様の力を借りるにも、言葉を聞かれて、言葉が途切れてしまうと力を借りることが出来ない。彼女の超能力は単純に空を飛べるというだけだ。この場でその力を使っても、すぐに地面に引き戻されるだけ。彼女は魔法の扱いも知らない。もちろん、非力な彼女では力押しで逃げることは出来ない。逃げるための手がかりを感がていたが、一人ではどうあってもこの状況から逃げることが出来ないのだ。
「なっ」
彼女の腕を掴む男の後ろにいた一人が声を上げた。祷花の腕を掴んでいる男以外の追っては二人。その男が後ろを振り返ると、そこには一人の女性が立っていた。メイスを二本、右と左に持っている。彼女の周りには二人の人が倒れていた。
「誰かを痛めつけるようなことは今すぐやめなさい。嫌がっているでしょう。ましてや、力ある者が力なき者に攻撃するなんてこと、あってはいけないのです」
その女性は、力強く宣言する。正義の騎士と言ったような堂々とした態度。メイスを相手に向けて、男を睨んでいる。
「はぁ。何者かは存じませんが、この者が逃げ出したのです。彼女は祭りの重要な主役なんですよ。その役割が嫌で、逃げ出したんでしょう。しかし、嫌だと言ってもやっていただくしかないんです」
「わたしは嫌だと言っているんです。生贄なんて、死にたくなんてないっ!」
生贄と言う言葉に、サラが目の色を変える。彼女が助けたかった人が目の前にいて、自分が助け出せる状況。これをチャンスと言わずに何というのだ。彼女は更にやる気を出して、彼女を助けようと強く思った。彼女は相手が動く前に走り出す。身体強化の超能力を駆使して、相手との距離を一瞬で縮めた。その勢いのまま、流れるようにメイスを振るう。メイスが何かに当たった感触はあった。しかし、手応えがない。骨を折ったとか、内臓にダメージを与えたとか、そう言った感触がなかった。彼女は二本目のメイスを相手の肩に向かって振り下ろす。そのメイスも当たったはずなのに、手応えはない。彼女は一度、相手から離れようとしたが、体がぐっと引っ張られた。腕が痛いくらいに握られているのを感じたときには体が宙を飛んでいた。相手に腕だけ掴まれて振り回されているということを認識したのは地面に落ちた後だった。
「全く。困りますね。よそ者の貴女にこの町の何がわかるんですか。そもそも、生贄になってきたのは彼女が初めてではないんです。貴女は目の前で生贄になっているこの子を助けることしかできませんよ。来年もその次も、生贄になる人は出てくる。それを全て助けられないのだから、貴女のわがままでしょう。自己満足でこの町を荒らさないでいただきたいですね」
男はどうあっても冷静だ。サラが地面に伏しているのを怖いくらい冷たい目で見つめて、彼女に説教くさくべらべら喋っていた。




