エスケープ
「どうしたらいいのでしょうか。ホシのヨルは今日ですよ。まだ、誰が生贄なのかもわかりません。助け出すには時間がありませんね」
「サラは心配しなくていい。祭りでも楽しんでおけばいい」
サラはそういわれても、心配はなくならなかった。しかし、できることがもう無いというのも理解しているため、何もできない。祭りを楽しむことはできないが、おとなしくしているしかないのだ。
町の広場には屋台がいくつか並んでいた。ほとんどが食べ物の屋台で、一件だけは服が並んでいた。見た目には賑やかで華やかな祭りだ。広場を行き交う人々は楽しそうだ。その中で、広場の端で体育座りで座り込んだ女性がいた。彼女は膝の上に顎をのせて、俯いている。一人だけ不安そうな顔をしているが、誰も彼女に目を向けない。
「私は結局、何もしてない。お二人に任せっきりで。自分でやろうと言い出したのに」
サラは一人、楽しい雰囲気の中、誰にも聞こえない声でそう呟いた。
「いい加減にしてください。夜通し叫んで、迷惑ですよ」
「では、わたしの話も聞いてください。考えもせずに、はね除けて!」
「その話に関しましては、すでに、いえ、最初から取り合うつもりはありません。あなたが生まれた瞬間から決まっていることなのです。あなたが楽になるまで、もう少しの辛抱ですから。静かにしていてください」
祷花は眠ることなく、部屋の中で騒いでいた。世話係の二人は、彼女が閉じ込められている部屋の近くで、見張りもかねていた。交代で休むはずだったのに、祷花がうるさいため眠ることができなかった。二人とも寝不足だ。そのため、彼女に当たりが強いのも仕方がない。二人の世話係は、彼女には部屋から出ることはできないだろうと判断して、その場から離れた。彼女たちももう眠いのだ。
足音が遠ざかっていくのを聞いた。見張りがいなくなったのだ。万が一でも、きっと男性はこの部屋の近くにはおかないだろう。彼女には理由はよくわからないが、とにかく祷花には男性に会わせたくないようだった。そして、彼女は最初からその部屋から逃げ出そうとしていた。窓はなく、ドアにも鍵がかかっている。彼女の素の力では全く歯が立たないだろう。ドアもただのドアではなく、魔法に耐性が付いている。それを身一つでどうにかできるわけがない。彼女の超能力である何の補助もなしに空を飛べる能力でも、そこから脱出することは出来ない。だが、彼女は誰にも知らせていない力がある。超能力と言うより、生贄として生まれてきたことで得た能力だと彼女が考えていた。彼女は星への祈りと呼んでいる。
「神様。神様。わたしの祈りが届きましたら、力をお貸しください。この扉を開け、新たな未来に進む勇気をください」
彼女は指を絡めて、手を組んで、目をつむって神に祈る。やがて、祈る彼女の手の中に小さな光が生まれ、彼女の手が暖かさを感じた。その温かさが体を包んでいるような感覚を得て、彼女は祈りを止めた。祈りの力を使える時間は一回の祈りに付き、彼女の体感で十分程度、祈りの時間が長いほど、効果も高くなり、効果時間も長くなる。
彼女はドアの前に立ち、拳を構える。息を吸って、空気が体に満ちるのを感じる。一瞬だけ息を止めて、一気に吐き出す。それと同時に、ドアに正拳突きをかました。攻撃を食らったドアは見事に折れている。もはや、ドアとしての役割を果たすことは出来ないだろう。
「ありがとうございました」
再び、手を組んで祈りを捧げる。力を貸してくれた神様にお礼の祈りだ。彼女はこのお礼の祈りをしない場合はどうなるのかは知らない。なぜなら、この力に気が付いてから、彼女はずっとお礼をしているからだ。それも、再び力を借りれなくなるとか、そう言ったことを考えているわけではなかった。彼女にとって唯一、絶対的に信頼できる対象なのだ。だからこそ、助けてもらったらお礼をする。本当なら、面と向かってお礼を言いたいが、未だにそれが叶ったことはない。
「な、何しているんですかっ! ど、どうやって」
彼女は祈りを済ませて、今まさに壊れたドアから出てきたところを、戻ってきた母親に見つかった。ちょうど様子を見に来ただけだったが、まさか、ドアを壊して出てくるとは予想もしていなかった。か弱いと思っていた彼女がそんなことをするなんて誰が予想できただろう。
「お母さま。もうわたしはこの町を出ていきます」
「あなたには一人で生活できるとは思いません。野で息絶え、無駄死にするよりも、この町で生贄として死んだ方が役に立ちます。たとえ、私の四肢をもがれようとも噛み付いて、あなたを逃がしませんから」
「そうですか。なら、わたしも同じ覚悟で逃げます」
彼女が怖い顔で覚悟を決めて、母に向かっていった。




