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黒い覚悟  作者: ビターグラス
3 都には着かないけれど
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往生際の悪いやつ

 袋を担いだふくよかな男は辺りをキョロキョロしながら、家を出ていく。男は誰にも見つからないように、夜道を歩く。


 夜逃げを始めた男をずっと監視していたものがいた。男が廃人の前に現れた時から、ずっとくっついて監視していたのだ。


(そろそろ泳がせておく必要もないな)


 男の前に世留が出ていく。黒い袴と髪、刀も闇に紛れている。輪郭が曖昧で、夜の闇に溶けかけているように見えた。


「誰ですか、あなたは」


 男は案外、落ち着いていた。世留は相手が逃げたそうとしているのを知っている。だから、誰かに見つかるだけで焦るものだと考えていたが、この集落の管理者を勤めているだけはあるのかもしれない。そもそも、口ぶりからすればこういうことは初めてではないことは予想がつく。


「いや、そういうのはいい。全部見てたからな」


「……はぁ、なんの話ですか? この袋なら明日、売りに出す装備品ですが」


 あくまでとぼける男に、世留は言葉を交わすことに意味が感じられない。いつまで話していても、きっと話がかっちりはまることはないのだろう。


「まぁ、とぼけるならそれでもいいが、何も言わないなら、斬り殺すぞ」


 その言葉には、嘘を言っている気配はない。彼にして見れば相手には隙が多く、いつでも殺せる状態だ。もし、この男が廃人を捨てさせた男たちを待っているのだとしたら、中々無駄な時間を過ごすことになる。どうせなら、自分の知りたいことを訊いて、少しは有意義な時間にしてみようと世留は口を開く。


「話は変わるが、二本角の黒い化け物のことを知らないか? 他国では悲しみと怒りの妖精と呼ばれているみたいなんだが」


 男は世留に見えないように、うつむいて下種な笑みを作る。彼の足元を見て、何かいい交換条件を飲ませようと画策し始めた。そして、男は暗くてよく見えなかったが、彼が刀身の黒い刀を持っていることに気がついた。刀身の黒い刀など聞いたことがなかった男はその刀が珍しいものだと思い込んだ。珍しいなら手元に置いておきたい。男の深い欲が頭を出した。


「そうですねぇ、私の知っていることでよろしければお教えしましょう。ただし、その刀と情報を交換いたしましょう」


 世留は相手がそういうことを言いそうな奴だと思っていたので、特に動揺することはない。それに、彼の持っている刀は例え売ったとしても彼が望めば、世留の手元に戻ってくるのだ。刀を誰かに渡すことには意味がない。


「ああ、わかった。ただし、先にお前の持っている情報を聞いてからだ」


「そうですか? ならば、お教えできませんなぁ。話を聞いた後に、その刀で殺されるかもしれませんし、ね?」


 男はうさんくさい優しい笑みを浮かべながら、彼と交渉している。そして、その間に、廃人を埋めに言っていた男たちが戻ってきていた。世留はそれに気がついていたが、相手にはそれがばれないようにする。きっと、相手は不意打ちをしてくるはずで、そのタイミングでカウンターを仕掛けた方が早くすむだろうと考えていた。


「今だ! そいつを殴り殺せ!」


「バカだな」


 ふくよかな男が、世留を指差して叫ぶ。相手に作戦をばらしているような状態で、不意打ちの意味がない。彼は後ろにいた男の一人の、上から来る拳を避けて、その腕に刀を三度滑らせた。腕からは血が流れて、地面に滴り落ちる。だが、相手の男は呻き声も漏らさない。まるで痛みを感じていないかのような振る舞い。ただ、斬撃が確実に効いているのはその腕を見れば明らかだ。もし、痛覚がないのだとしても、腕が動かなくなれば世留の勝ちなのだから。


 腕に傷を負った男はそれでも、世留に攻撃を仕掛ける。まだ、傷ついていない腕と足を駆使して、連続攻撃。しかし、世留には一発も当たらず、世留の反撃で体に傷が増えているばかりだ。だが、その男の攻撃ばかりではなかった。どこから出てきたのか、二人目の男が彼の腹部を狙って、短剣を突き出していた。彼はそれに驚くことなく、刀の面でその突きを受け止め、弾き飛ばす。そこから、反撃したのは彼ではなく、遊羽の亡霊。相手の腕を伝って、短剣を突きだした男の体に腕から腹部、足の付け根にかけて、大きな斬り傷が出来上がる。その傷から血が吹き出て、男は真後ろに倒れた。もはや、命尽きる運命は逃れられそうもない状態。残るは傷だらけの男のみ。世留がそう考えていた時、後ろから何かの気配がして、その場を飛び退く。そこいたのはふくよかな男だ。その手には、オレンジ色の宝剣。刀身に、エメラルドのような宝石が五つはめられていて、まともに戦える武器ではない。見た目はまさしく、宝剣だ。たが、今、男はその剣使って攻撃してきたのだ。何らかの仕掛けがあるのかも知れないが、すぐにそれを見抜くことは出来値かったが、彼には関係がなかった。


 なぜなら、次の瞬間には男の両腕が彼の後ろで宙を飛んでいたからだ。

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