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黒い覚悟  作者: ビターグラス
3 都には着かないけれど
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別れではなく

 世留は町を見渡して違和感を感じた。この集落には家の数の割りには、人が多い。決して、家の大きさは大きくはない。商店はすべて露店だ。そこに並ぶ商品はどれも品質は悪そうだ。町を行く人々には活気がなく、談笑しているものもない。入場料を取っていると言うのに、だ。


 彼が昔、フェリアから聞いた話だ。通行料や入場料を取る町は、取ったお金は町の発展に回されるから町が豊かになる。もし、そういう町で町の中が貧相なら町に入らない方がいいと言っていた。なぜなら、取った金が町のために使われていないということはろくでもない町だかららしい。


(しかし、もう町に入ってしまったな。なぜ、こんなときに思い出したんだ。いや、情報を得ようと思ったが、町を出た方がいいか)


 彼が昔のことを思い出して、次の行動を迷っている間に、サラがその町の活気の無さや人々の笑顔のなさが気になる。彼女の可愛そうを感じとるレーダーのようなものが反応しているのだ。


 つまり、この町にはきな臭い何かが、この町の根底にあるということだ。


 世留はその事を勘づいていたが、わざわざ面倒ごとに首を突っ込むのはごめんだと考えて、結局はこの町を出ることにした。彼女にそれを伝えようと思ったが、彼女が近くにいない。辺りを見回せば、露店の一つの前にサラがいた。彼女はその露店の店主に何かを聞いているが、店主は訝しげな顔をして首を降っていた。彼女はそれ以上しつこく聞くことはせずに肩を落として、戻ってきた。


「いきなり、どうしたんだ。あの露店に何か気になるものでもあったか?」


「いえ、この町の人たちが可愛そうな感じがして、その原因をなんとかしてあげられないかと思いまして。何か教えてもらえればいいなと思ったのです」


 世留とは正反対の考え方。よく考えずとも、彼女がこういう人たちを助けようとするのは、今までの行動を見れば明らかだっただろう。しかし、世留は彼女に興味がないのだ。


「そんなこと、している暇はないぞ。すぐにこの町を出て、どこか違う街に行く。そして、そこでまた情報を集めることにした。ついてこないならここでサヨナラだ」


 世留はその言葉は本気で、子供に言うような説教のようなものではない。だが、可哀そうな人を救うという彼女も生半可な覚悟でそう言っているわけではないのだ。


「わかりました。では、ここでお別れしましょう。また、どこかで会うこともあります」


 彼女はすんなりと、彼の言葉を受け入れた。そして、彼女は町の人々から情報を得るためにそこら辺にいる人々に寄っていく。しかし、荒んだ町の人々がボランティアで情報を教えることは少ない。少なからず、対価になるものを求めてくる。彼女のような綺麗な人なら、なおさら対価を用意しろと脅してくるだろう。


 彼の横で遊羽の亡霊が、彼を見ては、ちらとサラの方を見る。それはまるで、行かなくていいのかと言っているようだった。


 遊羽の亡霊には、魂だけが宿っている。思考することも意志もあるはずがない。そして、今、亡霊と繋がっているのは世留だけだ。つまりは、その亡霊が意志があるような行動をしているのだとしたら、それは世留が無意識にそう思っている部分があるということである。つまりは、彼の無意識の良心が、彼女がどうなるか知っていながら放置していることに罪悪感を覚えているのである。さらに、このまま彼女がこの町について調べていくと必ず目立つだろう。そして、もし何かばれるといけないことをこの町の管理者がしているとすれば、彼女を捕らえるか殺すかするはずだ。悪いことをする人は徐々にその手の汚れを増やしていく。それもフェリアが彼に教えたことの一つだ。汚れが増えて最後にはどれだけ洗っても落ちない汚れになっている。だから、悪いことはしてはいけない。幼い頃に彼女に教えられたことだ。この町の管理者がそうなっている可能性は低くはない。


 彼は遊羽の亡霊のせいにして、彼女に近づいていく。


「一人だと危険そうだから、手伝うことにした。全く、お金もないのにどうやって何をどうやって調べる気だったんだ?」


 彼がサラの後ろから声をかけると、彼女は振り返って、不思議そうな顔をしていた。彼女は既に彼が町を出たものだと思っていたのに、後ろにいて自分に話かけてきたのだ。しかし、同時に彼がいてくれることが嬉しくて、心強いと感じていた。


「……あの、その、ありがとうございます。戻ってきてくれて」


 彼女にはそれを言うだけで精いっぱいだった。それ以外の言葉は彼女の頭の中になかったのだ。世留はその言葉を聞いても特に変化はない。彼女が嬉しそうな顔をしているのはわかっても、それがなぜなのかは理解しなかった。


「それで、まずはどうするつもりだったんだ。まさか、かたっぱしから話を聞こうと思っているわけじゃないだろうな」


 彼女の頭の中にはその作戦しかなく、彼と目を合わせることしかできなかった。

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