第3話 どうしてこうなった?
小さな公園に辿り着いた。外灯に照らされたブランコ、すべり台、砂場が視界に入った。
ここで少し様子をみよう。
リュウスケは木製の古びたベンチの下に仰向けの姿勢で、身体を潜りこませた。サイレン音もだいぶ遠ざかっている。
呼吸は吐く息でベンチが吹き飛んでしまうくらい激しくなっていた。
手探りでブラックジーンズのポケットに手を入れた。マルボロとジッポーライターを取り出す。残り二本しかない。
新しいマルボロ、買っときゃ良かった。
マルボロに火をともし、リュウスケは深く吸い込んだ。
煙を吐き出したら、狭い空間に白煙が充満し、リュウスケは激しく咳き込んだ。両目にも煙が入り、涙が出てくる。
考えてみればこんな狭い場所でタバコを吸うなんて、生まれて初めてだ。
最悪の一服だ、こりゃ。
そういえば子供の頃、鬼ごっこでよくこういう場所に隠れたことがあったっけ。意外に高確率で見つからなかった覚えがある。
でも今は違う。遊びじゃない。鬼は本気だ。
サチは無事にベースメントに辿り着いただろうか?考えてみればあのとき、サチと一緒に階段を降りて逃げれば良かったんじゃないのか?
やっぱりそうだよなあ。格好つけて「逃げろサチ!」とか言ってたよなあ、俺。
言わなきゃ良かった、あんな台詞。
それにサチの説教が恐ろしい。あいつに怒られるのは本当に苦手だ。
サイレン音は、ほとんど聞こえなくなるくらいに遠のいた。あいつら、逆の方向を探してやがる。
身動きはとれないが、ようやくリュウスケは胸に安堵感が広がるのを感じた。
ほどなくしてサイレン音が止まった。
リュウスケはポケットからスマートフォンを取り出し、時刻を確認した。
午前1時30分だった。時間の感覚がまったくなかったが、思いのほか長い時間をかけて逃げていた事実に気づく。
連中もそろそろ飽きた頃だろう。このまま夜明けまでここで粘って、朝になったらベースメントに行こう。
身体のあちこちが痛い。そりゃそうだ、こんな狭い空間にいるんだから。おまけに汗で濡れたTシャツが急に冷えはじめ、寒気を感じる。
とても眠れたもんじゃないが、とりあえず目を閉じてみよう。
やっぱり眠れない。仕方ない、時間を潰そう。
ローリング・ストーンズの曲名を一曲づつ思い出そう。あのバンドは曲がたくさんある
から。
リュウスケは思いつくままに、心の中に曲名を浮かべた。
無情の世界、サティスファクション、夜をぶっとばせ、友を待つ、ジャンピングジャックフラッシュ、スタートミーアップ、ブラウンシュガー。
次の曲名を思いつく直前だった。
リュウスケの全身に電流のような刺激が走った。全身に痺れを感じる。
一体何だこれは? 刺激を受けたリュウスケの身体は、自分の意思とは無関係に暴れ出した。
頭、肘、膝がベンチにぶつかり、鈍い痛みを感じる。
俺は見つかったのか? どうやって連中は俺を見つけやがった?
意識が急激に遠のいていく。視野も急速に狭くなっていった。
やがて、リュウスケの視界に漆黒の闇が広がった。