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序章

 覚えてしまった魔法を忘れることはできない。身体に流れる人のものではない血を消すこともできない。

 人の身にありながら魔法を使うことができるのはその血のどこかに魔族の血が流れているからだと教えられた。人とは違う何者かである魔族との混血は長生きできないと言うのが世界の理で、それは他でもない人が作り出したものだった。

 魔族とは人の敵であり、その血族もまた人の敵である。

 人の言葉を理解し人の世界を理解し、人に似た身体をもって、人同様の心をもって。それでも、人ではないという呪い。それなのに、僕にまで継がれてきた絆。

 その絆を断ち切らないための方法は一つしかないと知って、僕は魔女になる方法を探していた。

 人として魔族に襲われ、魔族として人に狩られる。僕を許さない世界で、それでも生きて繋ぐための方法。

 お伽噺の魔女が残した、生きるための魔法。

 その魔法へ近づくために、今日もまた呪いの言葉を放つ。

「この血を以って我が罪と成す」

 意味はなく。ただ魔法を使うという意思表示。

 草木など関係なしに大地に星を象るような陣が浮かび、夜空から光が降る。

「ガアアア!」

 森と暗闇を裂いた光の中から形も知らない魔族の断末魔が聞こえた。

 これが魔女になる方法だと信じてひたすらに魔族を屠る。

 魔族に襲われる人々を魔法の力で助けた魔女は人の敵ではないと認められたという、いつの日か聞いたお伽噺を信じて、自分が人であることを疑うことをせずに。


 魔女のお伽噺の原点とされる逸話があった。

 世界を支配するために、魔族の持ち得る他を圧倒する暴力と人の持ち得る知力を掛け合わせ新たな力、即ち魔法を生み出そうという話からなる魔法使いの物語。

 人に近い肉体を持つ魔族に人を喰らわせ、それを数世代にも行いより人らしい魔族を生み出し人と交配した。それが最初の混血だった。

 魔族の腹から生まれた人の知性を宿した何者か。

「汝、その大罪に堕ちよ」

 人の言葉を使い。未知の現象を起こす何者か。

 支配者と呼ばれた者とその実験場は世界で初めて使われた魔法によって消えた。後に星が落ちた日と云われることになるその瞬間、世界中で魔族と人が突然死していた。

 最初の魔法使いである彼女だけがそれを力の代償と知り、それ故に彼女は魔法を無意味に放ち続ける。己を生み出した者から受け継いだ支配欲と、魔族としての人への敵意と、人としての魔族への敵意。そのすべてを成就させる方法としてそれはあまりにも最適で。

 幾度となく光の柱を突き立て世界中の命を消し去って、魔法使いは罪を知る。それは遅まきながらに芽吹いた人としての心だった。

 無心に放ち続けた魔法を止めて人の形をした両の手を見つめる。

 握り、開き。その掌で自分の輪郭をなぞり人であると言う自意識が芽生え、同時に人ではないと理解した。

 自ら作った更地から逃げるように走り続けた。魔族であることと人であることの両方からも逃げたかった。走って走って辿り着いた湖にぼんやりと映る自分。人の形。けれど、意識を向ければ背には翼が生え、尾が生え、頭部には角が生え、額には第三の眼が開いた。

 その異常に恐怖し魔法で湖を消し去って、どこかで死に絶えた命を感じで自分を苛む。

 自分自身がその存在を認められず、それでも自分自身に魔法を落とすことはできなかった。

 そして人よりも遥かに長い寿命を得ていた魔法使いは次第に人として知力も増し、人として生きられるほどに器用になっていた。

 意として人の形を再現し人の社会に溶け込んで、変わらぬ容姿を疑われぬように旅をして過ごした。

 いつか自分の命が終わるまで人として生きようと。魔法使いではなく、魔族でもなく、その人は旅路を行く。

 それでもその身体に流れる血は変えられない。

 人の言い分として、親の罪が子に継がれることはなくとも。人の言い分として、運命とはそんなものだった。

 旅先で魔族に襲われる人を助けようとして、魔法を放ってしまった。

 人は助けられた。けれど自分は人ではなくなってしまった。

 魔女。それが魔法使いに付けられた人の世界での区分だった。

 人には認められ、けれど人とは認められなかった魔法使いの話。


 彼の逸話に記された魔女の血を継ぐ魔法使い。これは魔女の悲願を知らずに目指す魔法使いの物語。

短編のつもりでしたが続きが欲しいので連載投稿としています。

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