57 好き好き大好き! 大団円!!
〜〜タケル視点〜〜
ーーワカツ平原ーー
グレンと別れた俺達は、ゆっくりと色々な所を旅しながら、俺の母国、スタット王国に戻ることになった。
当然、俺達の目的は解雇と辞職の報告をすることだ。
バルバ伍長には、ある程度伝えているから、王国への手紙は出さなくていいだろう。
魔王は俺が倒した訳だし、世界は平和になる。
この先、世界がどんな風に変わるのか、俺には想像もできないが、しばらくはゆっくりお茶を楽しめるのではないだろうか。
俺達は楽しく会話を楽しみながら足を進める。
そんな中、リリーは思い出したように口を尖らせた。
「レイーラさんは、タケルさんのことを城兵だとかなんとか言って物凄く馬鹿にしていましたよね? ああいうのは謝った方がいいと思うんですよね」
〜〜僧侶リリー視点〜〜
レイーラさんは目を細めた。
「ちょっと、マーリア、シシルルア、リリー。3人とも集まってくれない?」
急に女子会が始まった。
タケルさんは汗を垂らす。
「ゴリゴス……。何が始まったと思う?」
「さぁ〜〜。おいどんにはさっぱりわからんでごんす」
レイーラさんは私達を集めてボソボソと話した。
「あ、あたしはね。タケルに振られたんだよ! 勿論、あいつは優しい男だからさ、優しく断ってきたさ。でもね。女のプライドはボロボロさ。あたしに言い寄る男なんてごまんといるのにさ。タケルったら全くなびかないんだから!」
うーーん。
レイーラさんと恋話するなんて初めてだから、何が言いたいのかよくわからないわ。
とりあえず、事実だけを突きつけよう。
私は眉を寄せた。
「でも、それとこれとは別ですよ。レイーラさんは勇者であるグレン様の方が、城兵のタケルさんより良いって言ってたんですから」
マーリアさんも同調する。
「あなたは……その……。おモテになる訳で、気に入った男を……その……。言葉は悪いですが、獲っては食い、獲っては食いをしていたのではないのですか!? し、下着とか肉食系だったし……」
そうそう!
レイーラさんの下着って真っ黒で透け透けで薔薇の刺繍が入ってました!!
完全なる肉食系女子!
「そうですよ! レイーラさんはタケルさんに付いていく資格がありません! 他の男と旅をすればいいんです!!」
レイーラさんはみんなの肩をぐっと寄せてボソボソと話した。
「確かにね。タケルにはキツイことを言ったわよ。今でも悪いと思っているわ。でもね。少しくらいイケズしたって許して欲しいのよ! 好きの裏返し! 乙女心くらいあなた達にもわかるでしょ!」
みんなは乙女心という言葉に顔を見合わせた。
レイーラさんは更に声をひそませる。
「これは他言無用だよ! いいかい、私はね……」
シシルルアさんは大きな声を出した。
「ええ! 処じ——」
「わぁぁあああああああ!! シシルルア!! あんた声が大きいよ!!」
「……す、すみません。レイーラさん。肉食系だから、てっきり男性のことは熟知しているものだと思っていました」
「あ、あたしはね! こう見えて硬いんだ! キスだって他の男に許したことはないのさ!!」
うーーん。
大人の恋愛は私にはまだわからないけど、キ、キスくらいならわかるわ!!
「じゃあ。レイーラさんは本気でタケルさんのことが好きなんですね?」
レイーラさんは真っ赤な顔。
「…………。お、温泉で話していたことがあるだろ?」
「「「 ? 」」」
「ほ、ほら! 3人がタケルのさ……」
「え……? レイーラさん聞いていたんですか! 私達3人がタケルさんのお嫁さんにしてもらうこと!!」
「そ……………」
「「「 そ?? 」」」
「それに、あ、あたしも入れとくれよ!!」
私達は絶叫した。
「「「ええええええええええええええええええええええええええええ!!」」」
タケルさんとゴリゴスさんはビクンと驚く。
もう何が起こっているのかさっぱりわからない様子。
うん、まぁ、そうだと思う。
でも、一番驚いたのは私達の方だ。
レイーラさんが私達の仲間になりたいと言い出すなんて、誰が予想をしただろうか。
私は一番年下だから、こんなことはよくわからない。
「あのぅ。シシルルアさん。マーリアさん。どうしたらいいんですかね?」
2人は見合わせてコクンと頷く。
シシルルアさんは優しく笑った。
「タケルはね。凄い男だから。こうなることはわかっていたのよ。彼女とは命をかけて闘ってきた仲間。勿論、それ以上の仲間になることも認めなくちゃね」
レイーラさんは大喜び。
「じゃあ! あたしもみんなの仲間だね!!」
シシルルアはウインク。
「そうね。これからもよろしくね。レイーラ!」
わぁ〜〜! なんだか仲間が増えて楽しくなってきました!!
シシルルアさんは意を決したように立ち上がる。
「さて、悔いが残らないようにしよう……」
私は意味がわからない。
でも、立ち上がるマーリアさん、レイーラさんの凛々しい顔つきで察した。
そうだ!
私達は勝手に盛り上がっていたのだ。
愛しい人に自分の想いを伝えていなかった!!
シシルルアさんはタケルさんの目の前に立った。
「タ……タケル。き、聞いて欲しいの」
タケルさんは彼女の深刻な表情に何かを察したように、コクンと頷いた。
「わ……私……。私ね……」
シシルルアさんは感極まった。
ポロリポロリと涙を流す。
自分の気持ちに素直になること。
そして、好きな人にその想いを伝えること。
彼女は生きていることを実感したのだ。
今までの旅では、無口で、冷静で、自分の感情なんか死んでいたような彼女だった。
それがタケルさんを通じて、感情豊かになって、まるで別人みたい。
心が温かくて熱い。そんな人間になった。
人を好きになれるって最高に素敵なことだ。
彼女の気持ちが本当によくわかる。
私も気がつけば泣いていた。
シシルルアさんはあふれ出る涙を拭った。
「ああ、タケル。ごめんね……。止まらないの」
「いや……。いい、気にするな」
タケルさんの全てを受け入れてくれる優しい言葉に、彼女は更に涙を流した。
「タケル……。好きなの……。あなたのことが、大好きよ」
タケルさんは微笑んだ。
優しく、全てを受け入れてくれるように。
でも、私達の手前、返答は濁した。
それがタケルさんだ。
本当に、最高に優しい!
マーリアさんもポロポロと涙を流しながら前に出た。
「タ、タケル様! わ、私だって! だ、大好きです!!」
レイーラさんも泣いていた。
「あ、あたしもね。あんたのことは……。ず、ずっと好きなんだから!!」
よーーし! こうなったら私だって負けてられない!!
ずばっと言っちゃうわよ!
「タ、タケルさん!!————」
しかし、意外なことに言葉は詰まった。
あ、あれ? 意外と恥ずかしいものなんだな。
面と向かって言うのは緊張してしまう。
勢いでぱっと言えると思ってたのに……。
まごつく。
「タ……タケルさん。わ、わた……。わたわた!」
そんな中、遠くの方から馬に乗って誰かが近づいて来た。
「おおーーーーーーーい!! タケルゥゥウウウウウウウウウ!!」
銀髪の美人兵士。バルバ伍長である。
ああ、この感じ。
彼女もタケルさんが大好きなんだ!!
伍長は颯爽と馬を降り、タケルさんの手を取った。
「もう〜〜。お前に逢いたくて逢いたくてな。小隊の指揮をウットイとロジャースに任せてこっちに来たという訳だ! なーーに、心配はいらん。長い道のりを兵士みんなで帰るだけなのだから!」
いや、隊長なんだから問題ありありだと思いますけど!
「もうな。私はお前の為なら伍長を辞めてもいいと思っているんだ!!」
うわぁ、もうとんでもないこと言い出してる!
これにはみんな我慢ができない。
もう、それぞれの気持ちが大爆発!!
「タケル!」
「タケル様!!」
「タケル!」
わ、私も参戦!
「タケルさん!!」
みんなでタケルさんを抱きしめる。
取り残されたゴリゴスさんはニッコリと笑って、その大きな腕で私達を抱きしめた。
「おいどんも! タケルどんが、大好きでごんすぅううううううう!」
「「「「「「 えッ!? 」」」」」」
「……いや。仲間としてでごんすよ。おいどんノーマルでごんすから」
良かったぁぁぁああああ。
ゴリゴスさんも私達、お嫁さんのグループに入るのかと思っちゃいました。
タケルさんは爽やかに笑った。
「よし。それじゃあ、みんなでお茶でもするか!」
「「「「「「 賛成!! 」」」」」」
えーーと、この辺なら、ハピラの街が近いかな?
「タケルさん。近くの街まで、まだ2キロはあると思いますよ」
「そうか、よし!」
そう言って、ゴリゴスさんの腕から1人降りる。
タケルさんは、バルバ伍長の馬をひょいと持ち上げると、そのままゴリゴスさんの首に掛けた。
「ゴリゴス。ちょっとみんなを抱きかかえていてくれ」
片手でゴリゴスさんを持ち上げるタケルさん。
「リリー。その街はどの方角だ?」
「あ、あっちの方ですけど……。もしかしてタケルさん??」
「みんな大丈夫だ。必ず受け止めるから!」
タケルさんは私達をハピラの街に向かって、
「せーーーーのッ!」
投げた。
ギュゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!
「「「「「「 !? 」」」」」」
猛スピードで街に向かって飛んで行く。
これの説明をすると、タケルさんは高速移動でハピラの街に先に到着して、空から降ってくる私達をキャッチするのである。
この前代未聞の移動方法。
私達は2度目である。
シシルルアさんは大笑いで喜んでいた。
「きゃほーー!! 最ッ高ッ!!」
一番驚いているのは、これを初めて体験するバルバ伍長だった。
「あわわわわわわわわッ!!」
あとで説明してあげよう。
彼女には、私達、女の子のルールも話さないといけないし。
まぁ、きっと参加するだろうけど。
私達は晴れ渡る青空に向かって想い想いの言葉を叫んだ。
「気持ちいいでごんすぅぅうううう!!」
「快適ね!」
「見晴らし最高です! 流石はタケル様!!」
私も大きな声を張り上げた。
「タケルさん! 大好きでーーーーーーーーーーーーす!!」
どんなことを叫んでもいいのだ。
彼が全てを受け入れてくれる。
どんな困難も、強敵も、彼がいれば大丈夫。
私達家族が、もしも、大きなお城であったなら、それは難攻不落の城になる。
私達の安寧は、きっと永遠に続くのだろう。
最強の城兵、タケル・ゼウサードがいるのだから。
〜〜1章完〜〜




