５ 何も死ぬことはない
〜〜通常のタケル視点に戻ります〜〜
俺はワカツ地方一帯に潜むボスクラスのモンスターを全て倒していた。
俺の横には、巨大なスライムのモンスター、スライムエンペラーの死骸が横たわる。
「ふぅ〜〜。これで強力なモンスターは全部だろう」
１０体以上は倒したと思われる。
グレン達、これで少しは楽に旅ができるはずだ。
なんだかんだ言ってあいつらには世話になったからな。
少しくらいは礼をしとかんとな。
「よし、では近くの街まで行こうか」
街までの距離、およそ２０キロ。
俺はその距離をスキル闘神化、神速を使って瞬時に移動したのであった。
◇◇◇◇
ーーデイイーアの街ーー
人口１０万人。緑に囲まれた中規模の街である。
周囲を綺麗な川が流れており、のどかで美しい景観だ。
街の前に架かる大きな橋。
俺はそこを歩いていた。
「うむ、いい街だ。豊富な水。ここなら川魚が旨そうだな」
１０メートル先、橋の中央に女が立つ。
女は意を決して川に飛び込んだ。
やれやれ、事情は知らんが、俺の目の前でやるとはな。
身捨てる訳にはいかん。
俺は直ぐに川に向かって飛び上がった。
水面までの高さは２０メートルはある。
「スキル闘神化、飛翔！」
俺の背中に光の羽が生える。
これで５０メートル程度なら飛行が可能となる。
そのまま空を飛び、女が着水する手前で抱きかかえた。
着地。
女は助けられたことに驚きを隠せない。
腕からそっと降ろすと俺から離れた。
美しい見た目をしている。
輝くピンクの髪。大きな瞳。白い肌。
幼さの残る顔立ちではあるが、成熟した身体つき。
胸は大きく、引き締まった腰にすらりと細い脚を見せていた。
「あ、あなたは一体！？」
「俺はただの通行人だ。怪我はないか？」
「どうして私を助けたのですか？」
「どうしてって……。何も死ぬことはないと思ったんだ」
「わ、私は呪われているのです！ 死んだ方が良いのです。このままでは大変なことになってしまう！！」
呪われている？ 死んだ方が良い？
「それは穏やかじゃないな。俺が力になれるかも知れないぞ」
心配のあまり、少し身を乗り出す。
彼女は険しい表情を見せた。
「近寄らないで！！」
「…………安心しろ。君を助けたいだけだ——」
！？
「なんだこの寒さ？」
急に、寒い。
「どういうことだ？」
凍える空気が辺りを覆う。
空気中の水分が氷の結晶となりポロポロと落ちる。
それは地面に衝突してパキンパキンと音を立てた。
女はブルブルと震える。
それは寒さではなく、呪われた力に対する恐怖だった。
「始まってしまった……」
地面には霜が立ち、川の水面には薄らと氷が張る。
女は涙を浮かばせたが、それさえも凍っていた。
懇願する。
「逃げて……」
これが彼女の言う呪いの力か？
女は大きな口を開いた。
「逃げてぇぇえええええッ！！」
瞬間。女の全身は凍りに包まれた。
そこから地面が凍り出す。
薄い霜はパキパキと音を立て、分厚い氷へと変化していく。
「なるほど。どうやら、凍ってしまう呪いらしいな」
彼女は凍る身体で最後の力を振り絞った。
「逃げ……て……」
俺は笑う。
「逃げろだって？ そんなことは却下だ」
俺は自分の足が凍りつくのを感じながら、彼女の方へと歩いた。
彼女は目を見張る。しかし、凍りつく身体では声が出せなくなっていた。
俺は、そんな彼女を優しく抱きしめた。
「スキル闘神化 灼熱血行」
俺の体内に流れる血液を神界線とリンクさせる。
人の血液は闘神の血へと変化し、発熱現象を起こす。
俺の体温はマグマの如く上昇した。
すると、彼女を中心にドンドンと氷が溶けていった。
やがて、彼女の氷が全て溶けると、雹と化していた涙も溶ける。
それは滝のように流れる涙になった。
彼女は泣く。閉ざされていた心が解放されたように。
「あ、ああッ……！！」
俺は、抱きしめる力を強めた。
「安心しろよ。俺が氷を溶かしてやるから」
その言葉に、彼女の嗚咽は、より一層大きくなった。
「ああ！ ううう……」
死を覚悟するほどに絶望していたのだ、無理もない。
「大丈夫。大丈夫だから……」
俺の言葉に応えるように、彼女は俺を抱きしめた。
スキル アレスマキナ！
ってお風呂で叫ぶ作者です(//∇//)
毎日、お昼頃に投稿しますよ( ´ ▽ ` )
