第9話
ここから数話だけ閑話的な内容です。物語上必要なんだけど。
僕は日が沈みかけている森の中で、大小様々ある木の枝で作った薪や木屑の塊を傍らに置き、焚き火の準備をしていた。
レックスたちを殴り付けた後、僕達はギルドへ戻るために森を移動していた。さすがに3日ほど移動した後だったので1日で抜けることは叶わず、こうして野宿の準備をすることとなった。
現在、コニーやレンファ、アリスは近くの水場で汗を流している最中だ。『後はやっておくから君たちは水浴びでもしてきな』と僕が声をかけ、3人はそれに甘えて休息を取っている……という次第だ。
僕は装備していたナイフを手に持ち、木の枝を刃で薄く削り、木屑を作り出す。それを乾いた葉っぱの上に乗せ、風で飛んでいかないよう細心の注意を払う。
次いで僕は、常備している『着火石』という石を取り出した(使いやすいよう棒状に加工している)。
着火石は名前の通り、火を付けることができる石だ。着火石そのものに可燃性があるだけでなく、これをナイフで擦ると火花が飛び散るので、これ一つで火種にすることもできるくらいには優秀な鉱石だ。それほど珍しくはなく、探そうと思えばちょっとした丘や山からいくらでも見つけられる(これほど便利であるのに魔法が便利過ぎる故、世間にはあまり拡がっていない)。
僕は着火石をナイフの背でこすり、表面を粉末にして木屑の中に落とす。ある程度落としたらナイフの刃で着火石をこすり、粉末状の着火石が振りかけられた木屑に火花を散らす。
何度か火花を散らすと、木屑の一部が赤く光った。
火が付いたようだ。僕は乾いた葉っぱを持ち、火のついた木屑を、あらかじめ用意していた木屑の塊の中に入れ、そこにゆっくりと息を吹きかける。
やがて火種は強い炎となり燃え上がる。僕は「よし」と呟くと、メラメラとしている炎を薪の中に入れた。
木の枝がパキパキと燃える。僕は火の勢いに合わせた太さの枝を入れて、焚き火が消えないようにした。
――ひとまず、完成だ。僕は一息ため息をつき、首を回して焚き火の前に座り込んだ。
と。
「おーい、ハクー。私たち終わったぞ」
レンファとコニーが水場からこちらへと戻ってきた。どうやらコニーの魔法で髪を乾かしたらしい、水場から上がってきた割にはあまり濡れた様子はなかった。
「ああ。こっちは終わってるぞ」
「お、もう焚き火できてるじゃんか。流石に手慣れてるな」
「君だって火を起こす技術くらい持ってるじゃないか」
「まあ流石にシ……アリスがかわいそうだからな」
レンファは「どっこいしょ」と言いながら焚き火の前に座り込んだ。
「いつも思うのですけど、すごいですよねハクさん……どうやったら魔法もなしに火を着けられるんだろう」
「別に、然るべきことを然るべき状況でやれば火はつく。まあでも、実際雨が降ろうと枝が水で濡れていようと火をつけられる魔法の方が優れている。僕の技術は、ただ魔法使いの負担を肩代わりすることだけしか取り柄がない」
「いやでも私はすっごく助かってますよ! 特に火を付けるとか、こういう繊細な作業は普通に魔法を使うよりも大変なので。それなのに……本当にもう、聞いてくださいよ! アイツらですね、全部私にやらせるくせにいざちょっと苦労したら『そのぐらい早くしろよノロマ』とか言いやがるんですよ? 自分でやれよって思いますよ、やろうともしていないくせに文句言わないでよって! こっちの苦労を想像しようともしないから本当にストレスで頭がおかしくなりそうで……」
どうやらコニーの何かを着火させてしまったようだ。僕は内心しまったと呟きながら、コニーの話を「うん、うん」と相槌を打って聞いた。
と、突然レンファが「なあ、」と横槍を入れてきた。
「ハクもさ、そろそろ水場行けよ。汗くらい流しとかないと、明日臭くなるぞ」
「アリスが戻ってきてないぞ?」
「ああ、アイツ髪乾かしたりすんのに時間かかるんだよ。もう服とか着てたから大丈夫だぞ」
「……そうなのか? いやそれでも遅い気が……」
「女の子ってのはこういうの時間かかるもんなんだよ。まあいいから、行けって」
……そういうものなのだろうか。僕は眉をひそめながらも、「……まあ、わかった」と言い、荷物を持って水場へと向かった。
◇ ◇ ◇ ◇
「……あの、レンファ? ……さん」
「……ん? どうかしたのか?」
「い、いえ……あの、えと、よか……ったん、ですか? アリスさん、まだ……」
「……気にすんな。アイツは1回、誰かに裸を見られた方が良い。いや、誰かと言うより……特にハクには、か」
「傷ついちゃうと思うんですけど……」
「かもな。でも、絶対いい結果になるよ」