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第6話

友人に「主人公が複数の女性から好意を寄せられていればハーレムってことでいいの?」と聞いたら「いいんじゃない?」と返されたので、タグにハーレムを追加してみました。


いやまあ僕の中でのハーレムの定義が「複数の女性と(ソイヤッ!)する」だったので。

 夜を凌げば太陽と共に暖かさがやってくる。焚き火の始末を終えた僕たちは、その後森の中をまた歩き回っていた。



「……あっ!」



 偵察の魔法を使っているアリスがハッとしたように声を出した。僕は「どうした?」と何かに気付いたらしい彼女の言葉に耳をすませた。



「いた、いたよ、ハクさん。あなたが探していた女の子」

「よし、でかした! それで、今彼女はどういう状況だ?」

「――ちょっと、いや、かなりまずい。交戦中よ。なにか、デカい――ヤバい生き物と戦ってる。他2人の冒険者は……!? ちょ、アイツら正気!? 仲間置いて逃げやがった!」

「――ッ!」



 僕は途端に怒りが沸騰するのを感じた。



「アリス! あの子のところへ行けるか!?」

「言わずもがな! ついてきて!」



 アリスが勢いよく駆けだす、僕は彼女の慌てた様子に気が焦り、奥歯を噛み締めその後ろを追う。



「――間に合ってくれ」



 ぼそりと呟き、胸中で祈る。頼む、頼む、耐えてくれ、と。そうして僕たちは、風よりも速く現場へと走り抜けていった。



◇ ◇ ◇ ◇



 ――少し前に時間は遡る。コニーは大きく体を揺らしながら、重い足取りで前を行く2人の後を追っていた。


 まずい。昨日はストレスと苛立ちからか、まったくもって眠れなかった。そのせいか、どうにも体が言うことを聞いてくれない。コニーの頭は焦りと、「休みたい」という言葉に埋め尽くされていた。


 体がどうにもふらつく。少し頭を揺らしただけで、あるいは首を回しただけで世界がぐわんぐわんと歪曲する。息が上がり、熱を持った脳が頭痛を引き起こす。毒でも飲んだかのような吐き気が襲い掛かり、しかし、吐くわけにもいかずに無理強引に体を動かす。コニーの体は、既に限界を超えていた。



「おい、コニー」



 と。コニーはおぼろげながらも、レックスの声を聞いた。



「なにちんたらやってんだよ。急げ、まだ依頼は終えていないぞ」



 もはや返事をする気力もない。ただ靄がかかったようになった意識の中で、流されるままに、義務的なまでに彼らについていくだけだった。

 とにかく、早く。早く帰りたい。帰ってベッドに横になりたい。いや、この際もう地面でも構わない。とにかく楽になりたい。さながら砂漠で水を失くしたかのような休眠への渇望がコニーを支配していた。



 とさり、とさりと葉の上を歩く。鉛の巻きついた足を、砂袋を背負った体を引きずり、引きずり。と、途端。



 空間をつんざくような猛獣の咆哮が、辺りに響き渡った。



 森林の奥から響く衝撃にコニーは思わず耳を塞ぐ。レックスが慌てたように「な、なんだ!?」と叫んだ。



「モンスターよ、気を付けて!」



 ヘルガが腰に着けた鞘からダガーを抜いた。彼女の警戒を感じたのか、木々の奥にいるモンスターはぐるると唸り声をあげる。と、レックスは剣を抜き、ニヤリと笑いながら体を軽く揺らした。



「ハハ、モンスターか。だったら話は早い、さっさと片付けて――」



 レックスが一歩を踏み出し、直後。

 森の奥から鞭のようにしなる尻尾が飛び出し、レックスがそれに吹き飛ばされた。



「――かはっ……!」



 背中をぶつけ空気を吐き出すレックス。コニーはそんな切迫した情景を、どこかぼんやりと見ていた。



「なにやってるの、コニー!」



 と、そんな彼女の目を覚まさせるかのようにヘルガが怒声をあげた。



「ぼんやりしてないで回復しなさい! 私はアレを倒してくるから!」



 ヘルガは言い、勢いよくモンスターのいる木々の奥へと駆け出す。コニーは頭を振り、慌てるようにレックスへと駆け寄った。



「れ、レックスさん、今回復しますから……!」



 コニーはレックスに手をかざし、回復魔法を使う。手の平が淡く緑に輝き、体が熱くなる。

 が、直後。パン、と音を立て、魔法が発動しないままに光が散ってしまった。


 失敗だ。レックスが「なにを、やってやがる!」と言う、しかしコニーはそれさえ聞き分けられないままに、体を震わせながらもう一度手の平を緑色に輝かせた。


 直後。



「きゃあああ!」



 森の奥から勢いよくヘルガが吹き飛ばされてきた。受け身も取れないままに地面を転がり、全身を擦り傷だらけにする。



「うっ……ぐ、うぅ……!」



 ヘルガが悶えるように声を出す。コニーは目を見開き、そしてヘルガが飛んできた木々の奥へと目を向けた。


 と。森の奥から、のそり、のそりと、1匹の巨大な獣が現れた。



 身の丈は家屋の2階ほどはあろうか。岩のような灰色の肌は太陽の光を一切反射せず、そこにおぼろげな暗闇が生まれでたかのようだった。

 巨大な前足、長く先端に棘の着いた尻尾。そして何よりも、口元から伸びた、空気さえ切るような極太の牙。さながら地獄より這い出たかのようなそのモンスターの眼を見て、コニーは恐怖で腰が抜けてしまった。



「……ク、ッソがぁっ!」



 レックスが表情を歪ませ立ち上がる、「舐めんじゃあねえ!」と叫びながらモンスターに向かい走り、そして大きく飛び上がって剣を掲げた。



「ぶっ殺して、やる!」



 剣を振り下ろす、モンスターはレックスの方を見上げ、そしてただぼんやりと、彼の一撃を眺めていた。

 剣がモンスターに振り下ろされる、しかしその瞬間、剣が音を立て、脆い木のように容易く砕け散ってしまった。



「なっ……!」



 レックスが目を見開く、同時にモンスターが腕を振り回し、レックスの体を虫のように吹き飛ばしてしまった。

 レックスが木にぶつかり、そのまま力なく落ちる。コニーはぼんやりとそれを見て、なお、動くことができなかった。


 しかし直後、コニーの前にいたヘルガが2本のダガーを手に持ち駆け、「ちくしょう!」と吐き捨てながらモンスターに迫った。

 前足を駆け上がり、一瞬で頭頂部へと登る。同時にヘルガは「ハアっ!」と叫びながらダガーを突き刺した。

 しかし、ダガーの先端が硬質な表皮に突き刺さると同時に、薄氷のようにパキリと音を立て折れてしまった。



「しまっ、」



 ヘルガが声を漏らす、しかし彼女が言葉を言い切る前に、巨大なモンスターは突如として身をよじりだし、

 そしてそのまま、体を大きく回転させた。


 長いしっぽが振り回される、それが周囲の木々を薙ぎ倒していく。ヘルガが強烈な勢いに吹き飛ばされる、他方コニーはその情景を見てなお、動くことができなかった。


 まずい、そう感じた頃には遅かった。ろくな防御もできないままにモンスターが振り回した尻尾が体に当たり、息をする頃には既に体は宙に浮いていた。


 とてつもない勢いだ。それこそ痛みを忘れてしまうほどに。コニーは生えている木に背中をぶつけ、口から血を吐き出しながら地面に倒れこんだ。



 ――ああ、まずい。コニーの脳裏にそう言葉が浮かんだ。


 ダメだ。何をしているのか、自分でもわからない。コニーは朦朧とする視界の中で、同じく吹き飛ばされていたであろう2つの影をとらえる。


 ――なにをやっているのだろうか。何かを話し合っている。声が聞こえる。「見捨てろ、所詮Dランクだ」「俺たちが死んだらギルドの損失だ」「役に立たないアイツが悪い」。


 コニーは確かに、その言葉を耳にした。しかしコニーにとってこれらの言葉はもはやただの音であり、そこに極めて不合理な意味があるのだとは理解できなかった。


 コニーが2人を見て思ったのは、ただ1つ。「自分も後を追わなければ」という、義務感にも似た感情だった。


 朦朧とする意識の中、コニーは立ち上がる。立ち上がりふらふらとしながらも、森の奥へ行き、もはや影さえ見えなくなった2人を追おうとする。が、直後。

 再度強い衝撃が身を襲い、またコニーは吹き飛ばされてしまった。


 痛みが全身を駆ける。だがそれもどこかおぼろげだ。

 血が、血があふれている。とめどなく流れ、視界を上から覆い、意識も力も何もかもを吐き出しぽたぽたと落ちていく。コニーはそこでようやく、自分が見捨てられたことを理解し。


 ――まずい。痛い。逃げろ、逃げろ、逃げろ。ようやく焦りと恐怖が体を突き動かし、ゆっくりと迫るモンスターに背中を向けた。


 だが、立ちあがることができない。力が入らない、地面を手が着けばその瞬間に痛みで筋肉が緩み、足を突き立てればそれもまたくねりと折れてしまった。どうやら骨が折れてしまっているようだ。



「あ……あうあ……」



 うめきと言える声を出す。地面を這いずり、誰もいない彼方へ手を伸ばし、神に祈るように声を出す。



「いや……だ、死にたく……な……。

 た、たす……け――」



 蓄積した疲労と混乱した脳。そして甚大なまでのダメージ。それらが彼女から判断力を奪ったせいだろうか。コニーはその声が無意味であることを理解できなかった。


 後ろには、すでに手の届く範囲にまで迫ったモンスターがいる。コニーはその姿に気づきもせず、生きようと地面を這いずった。

 そしてモンスターは、さながら彼女をもてあそぶように口元をペロリと舐めると。

 勢いよく前足を掲げ、鋭い爪を彼女に体に向け振り下ろした。





 ――その、瞬間だった。


 ガキリと歪な音が響き。しかしコニーの体は、引き裂かれることなく、一片の肉片さえ出さないままにそこにあり続けた。



「――よかった、間に合った」



 コニーの耳が声を拾った。

 言葉は理解できなかった。それはただの音でしかなかった。だが、それでもコニーは1つだけ理解したことがある。


 この声は、どこか温かい。その思いは、彼女の脳の片隅で、自身の生存を確信させた。



「もう大丈夫だ。絶対に、僕が助けてやる」



 命が吹き飛ぶその間際に。コニーとモンスターの二者の間に。


 よくよく見知った黒髪の男――ハクが立ち、巨大な爪を、刀で防ぎ、押さえ込んでいた。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  ハーレムのタグからこの作品を見つけました。興味深い作品だと思います。 [気になる点]  ハーレムエンド(一夫多妻的な)で終わるもの(終わらないものも有りますが)が「ハーレム」タグで、好意…
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