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第37話

 モンスターたちが動きを止める。ドレッドはその一瞬の動向を見逃さなかった。

 と、途端にモンスターたちが慌てふためき、同士討ちを始める。今までの数とは比べ物にならない。モンスターの大軍が、まさに内側から瓦解していくかのようだった。



「ハクの奴、やりやがったな!」



 ドレッドはニヤリと笑う。そして巨大な鐘を強く打ち鳴らすかのような大声で周囲へと言った。



「てめぇら! これでこの戦は終いだ! あとはこいつらが町に入ってこねぇように上手く殺したり森に誘導しろ!」

「んなことできるか!」



 モンスターの攻撃を避けながら、レンファがドレッドに叫ぶ。しかしドレッドはニヤニヤとしながら彼女に受け答えた。



「あん? 簡単だろーが、ようはビビらせて逃げさせりゃあいいんだよ! 牧畜犬見たことないのか? あんな感じだよ!」



 瞬間、ドレッドはモンスターたちを威圧した。空気が凍りつき、モンスターたちは争いを止め、一目散に後方へと散っていく。ぶつかりあった個体同士が一時争うことはあったが、しかしそれもすぐに止み、とにもかくにも森に逃げようと必死に駆けていった。



「だっはっは! 見ろ、こう見るとかわいいもんだろうが!」

「アレできんのお前だけだよバカ!」

「修行が足んねーぞ。お、見ろ、スティノドンだ」


 

 と、ドレッドはこちらへと突進してくるスティノドンを「どすこーい!」と受け止めると、恐ろしい笑みを浮かべながら呟いた。



「よう、なかなか根性座った個体じゃねーか。けどなあ、お前、周りからバカって言われたことねーか?」



 ドレッドはそう言うとスティノドンを持ち上げ、そのまま振り回し、森の方へと投げてしまった。


 放物線を描き小さくなっていくスティノドン。ドレッドはそれを見てまたゲラゲラと笑った。



「おお、すげー! 新記録じゃねえかこれ?」

「ほんっとデタラメな強さだなお前。ぶっちゃけお前1人で良かっただろ?」

「なわけねーだろ。せいぜい1000が限界だ。まあ嫁さんたちも手伝ってくれたらできるだろうがな」

「お前の家族どうなってんだ一体」

「まああのスタンピードよかガキの相手の方が大変だけどな! ハッハッハ!」

「お前の子供どうなってんだ一体」



 レンファがドレッドに冷静に言う。ドレッドは「お前も子供を作ればわかる話だよ」と言いながらレンファの肩をバシバシと叩いた。



「……まあいいけどよ。おっさん、こうなったらあとはお前らに任せるぞ? あたしじゃどうしようもねえ」

「おお。意外と弁えてるなお前」

「……あんなもん見せられて、自信過剰でいられるような人間じゃねーよ、あたしは」



 レンファはそう言うと、急ぐように他の冒険者たちの元へと向かった。

 モンスターの被害が出る前に、弱輩とも言える自分たちを安全な場所へと避難させるつもりなのだろう。ドレッドはレンファの行動を読み笑った。



「アイツはなかなか期待できる奴だな」



 ドレッドはそうつぶやくと、表情を変え、モンスターたちの退避に専念した。



◇ ◇ ◇ ◇



「臭い玉、噴霧!」



 ガーフィールの指示と共に、茶色い色の異臭を帯びた煙が噴出され、冒険者たちがそれを風の魔法でモンスターの群れへと送り込む。


 モンスターたちはそれを嗅ぐと次々と煙とは真逆の方向――森の方へと走っていった。ガーフィールはなお警戒を緩めることなく、ナイフを手に持ち群れの中からはみ出るモンスターを撃退する準備をしていた。



 敵はあの大群であったが、それに対してこちらの損害は100もない程度。ガーフィールはその数値の大きさに舌を巻いていた。

 なぜ損害が少なかったのか。それは、ほとんどモンスターたちとの戦闘をしなかったからというのが大きい。


 当然と言えば当然だ。進軍していた敵が突然立ち止まり、仲間割れを始めたのだから。なによりも驚くべきなのは、ハクはそうなることを計算して準備をしていたということだ。


 あの混乱の中にあっての観察力。そしてあの短時間で敵が「とどのつまり、協力関係にさえもない個々の集大成」だと見抜いた洞察力。そうして集めた情報を分析し、圧倒的に不足していた戦力を極力使わずに敵を停滞させる方法を思いついた発想力。どれをとっても並外れていた。


 持ち場につく前、ドレッドという男にハクのことを少しだけ尋ねたが。彼はハクの能力について、こう語っていた。

『奴の能力の本質は知性だ』と。



「まさか、こうまでも丸く収めてしまうとはな」



 誰に聞こえるわけでもなくガーフィールは呟いた。


 ああ、この男にコニーは救われたのか。ふとガーフィールは目を閉じ、そして頭の中に娘の姿を思い浮かべる。


 ――もしかしたら、彼ならば託せるかもしれない。ガーフィールはため息をつくように笑い、そして空を見上げる。



「よもや、我らレオ家にこのような巡り合わせがあるとはな」



 空に昇った太陽が、今日の彼の目には、いつも以上に明るく映った。

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