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第33話

「さて、とりあえず集めた情報を整理しよう」



 ギルド内の長机に手をつき、僕は集まった面々に向けてそう口火を切った。


 あの後、僕は周りの人間に必要な情報を集めさせた。しばらくしてから冒険者や騎士、そして町民の人々からも協力を得て、いくつかの報告を受けた。


 僕が指示したのは、人員の把握、町に落ちているモンスターの残骸の回収(鱗や爪など、言わばモンスターの体の一部だ)、そしてこの町とその周囲の地形図を持ってくることだ。僕は手元の紙にまとめた情報を読み上げた。



「まずは人員。戦闘に参加できる人数は計800人。内50人がS級以上、250人がBからAの、最低限今回の戦闘に参加できるランクの人間だ。つまるところ実質的な戦力は300人程度というわけか」

「プラスで俺とガーフィールだ。忘れんじゃねえぞ」



 ドレッドが僕にツッコミを入れてきた。僕は「すまない、ドレッド」と彼に微笑みを返す。



「S級以上の冒険者の中で、3Sランクに相当するのは僕とシキ含めて5人。2Sランクは15人、残り30人がSランクだ。僕たちは間違いなく今回の戦闘の要になるだろう。

 次に、モンスターの種類について考察していくが……」



 僕はそう言って、傍らに置いておいたモンスターの残骸を机の上に乗せた。



「まずはスティノドン。あの森の動物の中では最強の捕食者と言える。他にも警戒すべきモンスターとして、遺跡内に発生したホーンドレイク。こいつは3Sランクだ、重々気を付けた方が良い。他にも素材や僕が見た奴をまとめ合わせると、大体……まあ、6、7種類程度は固いな」



 僕がそう言うと「スタンピードで7種類……」「どうなってやがるんだ一体……」とつぶやく声が聞こえてきた。僕はそれを聞きながら、言葉を紡ぎ続けていく。



「特に気になると言えば、この小さな角や毛皮の持ち主――フラウラビットだ。ああ、みんなもご存知の通り、凶暴性自体はそれほど高くないうさぎのモンスターだ。風の魔法を操りとてつもない速度で逃げ出すから捕獲率が低くなり、それ故にランクはBとされているが、単に戦うだけで言えばCランクの人間でも十分に対処可能だ。

 そんなモンスターがなぜ気になるか、と言うのは――コイツにとって、スティノドンやリノファングは天敵だからだ」



 僕が言うと同時に周りの人々が首を傾げていく。そんな中、レンファが「ああ!」と納得したように言って指を鳴らした。



「確かに、天敵と組んで戦ってたなんて意味わかんねーもんな!」

「ああ、そうだ。操られて戦っていたにしろ、もしもこいつらに“意思”というものがあるのなら間違いなく、なにがあってもフラウラビットは他のモンスターとは組まない。そもそもで臆病な動物なんだ、それこそスティノドンなんて見ようものなら一目散に逃げだすだろう」

「つまり!」

「そう。こいつらはなにも自分たちの意志で戦っていたわけじゃあないってことだ。つまるところこいつらは、そも、一時の協力関係さえ築けていない、烏合の衆以下の集団ということになる」



 僕が言うと同時に周りからざわざわと声が聞こえ始めた。僕は「それを踏まえたうえで、今度は地形を見てほしいのだが」と言って机に地図を広げた。



「見ての通り、森はこの町から西へかなり向かった先にある。モンスターが帰って行った方角なども考えると、奴らはここから隊列を組んで現れるだろう。モンスターの集団は別の場所に伏兵を用意するにはあまりに巨大すぎる。移動中にバレるのがオチな以上、そういったことはしないと考えた方がいい」

「なるほど!」

「さて。敵はつまり、町に向かって真正面から向かってくるというわけだ。無策と言うよりかは物量で攻めた方が有利だと踏んでいるわけだな」

「おい、ちょっと待てよ」



 と、突然僕の正面にいた男が軽く手を挙げた。僕は「なんだ?」と言って、彼の方を見遣る。



「今回はスタンピードの対策だろ? 口ぶりがまるで戦争でもおっぱじめるようじゃないか」

「そうだな。誤解を恐れず表現するなら、今回の戦いは、モンスターと僕たちにより戦争と捉えた方がいいかもしれない」

「なに……?」

「まず赤い石のモンスターが奴らを操っているわけだが、動きがモンスターというよりかは、完全に意思を持った集団の物だった。隊列を組み攻めてきた点や、突然撤退を始めた点もそれを物語っている」

「おいおい、さっきは“意思を持っていない”って言ってたじゃないか。早くも矛盾か?」

「モンスター単体で見たら意思はないが、集団としてみれば意思があるということだ。そしてその意思とは、つまりは赤い石のモンスターの意思とも読み取れる」



 男が眉間にしわを寄せ黙り込んだ。僕は反論がないことを確認すると、さらに続けて発言をしていく。



「話を戻そう。正面から突っ込んでくる以上、僕たちもセオリー通り町の前に人の壁を築き、このモンスターたちに対抗していく」

「それだと防戦一方だぞ? なんとかして殲滅しなきゃだめじゃないか?」



 男がまた僕に突っかかってきた。僕はその時、なんとなくこの男の心理が読めてしまい、小さく鼻息を漏らしながら反論した。



「君は布一枚で濁流をせき止められると思っているのか? そも、僕は今回の戦い、モンスターを殲滅しようなんて気はさらさらない」

「殲滅しないって、それじゃあ意味なんかねーじゃねーか。この作戦会議はなんのためのものなんだ?」

「落ちつけ。そもそも僕たちの勝利条件はあくまで町の防衛であり、スタンピードの殲滅じゃあない。殲滅はあくまで防衛のための手段の1つだ。目的と手段をはき違えちゃあいけない」



 僕が言い切ると、男はまたしても黙り込んだ。どうやら、ひとまずは理解してもらえたようだ。僕は「さて」と言うと、また話を続けた。



「町の前で壁を築くのはそうだが、一方で、防戦一方になるという意見も正しい。そしてもしもそうなれば当然僕たちは敗北するだろう。そこで、今回の戦いでは単に壁を築くだけでは終わらせない」

「となると?」



 ドレッドが尋ねる。僕はそれを聞いて、ガーフィールの方へと視線を向けた。



「ガーフィール。例えば、僕が今からとんでもない量の物資を用意しろと言われたら、できるか?」

「私は製造ギルドの名家の当主ですぞ。そのようなことは容易い」

「なるほど、それは助かる。であれば、ああ、もしかしたらこの勝負、勝てるかもしれない」



 僕が宣言すると同時、周りからざわざわと声が出始めた。



「――すなわち、この防衛戦、私の働きが極めて重要であるということですな?」

「ああ。まどろっこしくなったが、今から作戦の概要を説明していこうと思う。意見や反論、疑問点がある人間はどんどん声を出してくれ」



 僕はそう言って、机の上に広げた地図に戦術や人員の配置を書き込んでいった。説明の間、皆々は目を丸くしたり、納得したように声を漏らしたりしていた。

 説明を終えると、僕は「それで、なにかあるか?」とみんなに問いかけた。するとふと、ドレッドが手を挙げた。



「ハク。この作戦、確かにまあ、できるだろうが――なんで俺がこの位置なんだ? ぶっちゃけ俺は防衛に回らない方がいいだろ」

「可能ならそうしたい。だけど奴は“君が来たと同時に”逃げ出したんだ。正確には君が戦っているのを察知してだろうがな。当然、君の気配は覚えているだろう」

「なるほど。それじゃあ確かにダメだな」

「ああ。今回の戦いだが、ハッキリ言えば敵は僕たち人間を舐めている。もしかしたらできないだけなのかもしれないが、遥か長い時を眠っていたにも関わらず、偵察もせず、突然大軍を組んで襲って来たんだ。長い長い時間というのが人をどのように変えたのかということを考えていない。

 生物である以上、最強ということはありえない。逆に言えば、最弱の生物というのも、この世界にはいない。

 見せてやろうじゃないか。モンスターよりはるかにちっぽけな人間が、如何にしてこれほどまでに繁栄したのかというその力を」



 僕の言葉にギルド内全体の空気が引き締まるのを感じた。


 ――さて。正直なところ、この作戦、絶対に勝てるかどうかで言えば、わからない。

 そも無理のある戦いだ。故にどのような作戦を立てようと、絶対という言葉は絶対にありえない。

 しかし勝機はある。吉と出るか、凶と出るか。僕は眼鏡の位置を修正しながら、迫る緊張に不敵に笑った。

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