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第32話①

書いてたらあまりに長くなったので3分割にして投稿しています。ちょっと強引に切れていますが、今日中に32話分は更新し切るのでどうかよろしくおねがいします。


 夕焼けが町を包み、疲弊の色が見え始める。僕とシキはボロボロになった町を歩いていた。


 町は悲壮感が漂っている。布をかけられた死体、未だそうした処理が行われず地面に転がる肉塊、家族や友人を失い目を虚ろにさせた人々。僕はこの情景を見て、小さく舌打ちをしてしまった。



「あ、シキ、ハク!」

「ハクさん!」



 僕は聞こえてきた声に顔を上げる。と、少し向こう側の方から、レンファとコニーが走り寄ってきていた。



「レンファ、コニー……」

「大丈夫だったか? すまねぇ、あたしらが頼りないばかりに……」

「いや、いい。……それよりも、町の人は?」

「ああ、結構な数避難させたぜ。けど、やっぱし全員は無理だった」



 レンファが僕から目線を逸らした。コニーも顔をうつむけて、悲しそうな顔をする。


 当然の反応だろう。仕方がないとは言え、大勢の人を救えなかったのだ。彼女らは特に、性根が善意に寄っている。たとえ2人がどれだけの数を救っていても、人の死を前に、『それでも自分たちはたくさんの人を助けた』などとは思うことができまい。だからこそ、僕は2人に小さく、語りかけた。



「大変だったな。……だけど、本当にありがとう。確かに全てを助けることはかなわなかったかもしれないが、君たちは間違いなく、悲劇の数を減らしたよ。……よくやった。辛いかもしれないが、救われた人間もいるんだということを、どうか、頭の片隅でもいいから入れておいて欲しい」



 僕がそう言うと、レンファがゆっくりと顔を上げ「ああ」と複雑そうに表情を引き締めた。コニーは相変わらず顔を下に向けているが、少しだけ目に涙を浮かべながら、こくこくと僕の言葉に頷いていた。


 ――と。



「おいみんな! 全ての元凶がいるぞっ!」



 突如として、僕たちを刺すような声が聞こえてきた。間違いない、これはローマンの声だ。



「なにを『自分たちは頑張った』みたいな雰囲気出しているのかな〜? 見ろよ町を、町の人を! みんなみんな悲しそうにしているじゃあないか、それを前にして申し訳ないとは思わないのかな?」

「――ローマン」

「悲劇だ、ああ、本当にどうしようもない悲劇だ。君たちがあの獣を解放しなければ、あそこで悲しんでいる人も、あそこで死んでいる人も、明日にはいつもと変わらない日常を送って、家族や友達と楽しく団らんしているだけの日常がやって来ていたはずなのに。なにもかも、なにもかもが君たちのせいだ!」



 僕は芯の底から心が冷え入るのを感じた。レンファに「レンファ、コニーを頼む」と言うと、真っ直ぐに足を踏み出し、ローマンの元へと向かっていく。



「な、なんだよ」



 僕がローマンに向かうと同時、奴は狼狽えるように声をあげた。



「なんだよ、なんでそんなに怒ってるんだよ。ぼ、僕は当然のことを言っただけだろ? お前がキレる訳はないじゃあ――」



 僕は黙し、そして、ローマンの前に来た直後。

 奴の顔を、全力で殴り付けた。



「グアバッ!?」



 ローマンが地面に倒れ込む、殴られた勢いで歯が1つ吹き飛んでいく。僕は尻もちをついた奴の胸ぐらを掴み、そして、キツく睨みつけた。



「お前、減らず口を叩くのもいい加減にしろ」

「な、なんだよ! 言い返せないからって暴力に訴えるのか! はは、やっぱり黒髪は野蛮だね……」



 僕は再度ローマンの顔を殴り付けた。自分でも抑えられないほどの怒りが全身から溢れ出るのを感じる。僕は沸騰する脳に身を任せて胸ぐらを掴む手にさらに力を込めた。



「無為無能もいい加減にしろ。なにも考えず獣を解放し、仲間を死なせ、それを他人のせいにした上に無計画にみんなを煽り、町を壊し、挙句の果てにまた他人のせいか? どういう生き方をしたら貴様のような人間が生まれ出るんだ?」

「な、なんだよ、まるで全部僕が悪いかのようだな! お、お前が、お前がふざけたことをしなければこんなことにはならなかったんだろ! 被害者面もいい加減にしろ!」



 僕はさらにもう一度ローマンの顔を殴りつけた。ローマンが「グアッ」と叫び、僕は奴の目を強く睨み威圧する。



「口を開くな。お前の声は、息は、なにもかもが不愉快だ。ああ、本当はここで首を切って殺してやりたいとさえ思っているよ。お前ほどに“死ねばいい”と思った人間は初めてだ」

「ひっ……。い、いや、お前、お前が全部悪いんだ! 全部お前が悪いんだ! そ、そうだろう、みんな!」



 ローマンがそう言って周囲へと顔を向けた。



「コイツが例の“赤い石の獣”を封印から解き放って、このスタンピードを、町の破壊を生み出したんだ! それを棚に上げて僕のことを殴りつけやがる! コイツには責任感の文字がない! どこまでも品性に欠けた、誇りのない、どうしようもない野蛮な劣等種の黒髪なんだ!

 コイツがいなければ、みんなの家族も、愛する人も、死なずにすんだんだ! 死なずに、すんだんだ!」



 ローマンの声に呼応して、町の人々が「そうだ……」「そうだ……」と呟き始めた。

 僕は静かに息を荒げながら、周りを見回す。人々の憎悪の目が、僕の方へと向いていた。



「お前がいなければ、町はこんなことにならなかった!」

「あなたのせいで私の夫は死んだのよ!」

「この黒髪が、お前なんか死ねばいい!」



 消えろ、死ね、目障りだ、劣等種が。様々な声が響き、こだまし、僕の脳を揺らす。

 声に交じり石が飛んでくる。それが僕のこめかみに当たり、僕の側頭部から血がたらりと、流れる。


 怒りがわき上がった。殺意と憎悪が芯の底から全てを黒くしていく。目の前でにやにやと笑っているローマンをぶち殺し、ここにいるこいつら全員を切り殺してやろうか。一瞬そんな思いが頭をよぎった、直後。

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