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第3話

「……よくもまあこんな店知ってたね」

「ジパングの人間が生き残るには、ジパングの人を受け入れてくれる人間が必要不可欠だからな」



 僕はサクラとアリスに連れられ飲食店へと来ていた。


 なにやら様々な国の料理が作られているバラエティに富んだ店だった。木材のテーブルで背筋を伸ばし、僕は隣に立つ店員に話しかけた。



「リザードのステーキ1つ」

「SU☆SHIはいりませんか?」

「いえ、リザードのステーキ1つ」

「わかりました。リザードのステーキとSU☆SHIが1つですね」

「いえリザードの……」

「テンチョー! SU☆SHI1つ! あ、あとリザードのステーキも!」



 どうやら彼はジパングの文化が好きという珍しい人間みたいだ(SU☆SHIとは恐らく寿司のことだろう)。というか頼んだ物がついでになっているのはなぜなのか。僕は訂正するのも面倒になり、もうこのまま食えば良いかと諦めていた。



「それで、どうして僕とパーティーを組もうって言ったの?」

「あんたがジパングの人間だから。同胞を集めてパーティーを組みたくなること、あるじゃん?」

「同胞? 冗談だろ」



 僕はそう言って、目の前にいる女を指さした。



「君、ジパング出身じゃあないだろ。その髪は黒染めだ。あとサクラって名前も、本当の名前じゃない」



 サクラ、否、名称不明の女とアリスが目を見開いた。アリスがあわあわと慌て出す、しかし女の方はニヤリと笑って、「へえ」と言い返した。



「よくわかったな? つむじは見せてないはずだけど」

「そこの女がマヌケにも名前を言ってたからな」

「なるほど。アリスがマヌケにも、ね」

「……ごめんなさい」

「いいって気にしなくても。どうせバレてただろうし」



 女はケラケラと笑い、座っている椅子を傾けバランスを取り遊びだした。



「ちなみにあたしの本当の名前はレンファ。ああ、あんたの言う通り、ジパングの人間じゃない」

「なんでわざわざ僕たちのマネをするんだ? 君にメリット無いだろ、それ」

「さあ、なんでだろうね。ただ1つ言えんのは、世の中には、損得じゃなくて、手前の信念とか好みで動いちまう奴もいるってことよ」

「――なるほど」



 理由を話す気は無い、と。僕は彼女へ睨みを効かせた。


 全てを話さないとなると怪しさが付きまとう。しかし僕は、彼女を訝しむ一方、『損得ではない』というその言葉には納得していた。


 気持ちはわかる。僕だって髪を染めればそれなりにはカモフラージュができるのに、わざわざそれをしないでいる。

 理由なんてない。ただそれをやっちゃいけないと体が拒否反応を起こすのだ。


 それが如何に非合理的で、如何にバカに見えたとしても。それをしてはならないのだ。我ながら愚かだとは思うが、どうしても自分を曲げることができない。


 ――どうやら、この女は信用できそうだ。僕は少し身を乗り出すと、彼女の目を見つめて返事をした。



「いいよ。パーティー、組もう」

「あら? あっさり了承するんだな」

「だけどその前に、一つ。僕から頼みがある」



 レンファとアリスが僕の顔を見て首を傾げた。僕は少し目を閉じ、しっかりと自分の言いたいことを整えてから、深呼吸をするように声を発した。



「――実は、」



◇ ◇ ◇ ◇



 コニーはギルドが運営する集会場にて、机に突っ伏し大きくため息をついていた。



 ハクがパーティーを抜けて1週間が経つ。たったそれだけしか経っていないのに、コニーは既にハクという存在の大きさをひしひしと感じていた。


 コニーは魔法使いと言う、魔法を主に扱う役割を担っている。魔法は極めて利便性が高く、様々なことができるため、魔法が得意であればただそれだけで様々なパーティーに誘われる。


 だが、魔法は極めて便利だが、万能ではない。できること、できないことにも限度があるのはもちろんだが、この場合はそういう意味ではない。


 一言で言えば、疲れるのだ。


 例えば、ただ火の玉を出すだけの魔法であったとしても、疲労が溜まった状態で使えばともすれば頭痛が起きる。そもそも疲労が溜まれば魔法に成功しない場合もある。そしてその場合は、また同じ魔法を繰り返さねばならぬという負の循環に陥ってしまう。


 別段この疲労と言うのも、特別疲れるという訳では無い。だが、森の中でろくに整ってもいない地面で野宿をし、モンスターと戦い、飢えや渇きに注意を払わなければならないサバイバルの状況下では、やはり疲労は積み重なるもの。


 魔法はそうした中で使わなければならないのだ。さらに言えば、魔法の中には『目の前にある植物などを食べることができるか』というのをしらべる可食判定の術というものがある。つまり戦闘の時でなくとも使われる時は使われるのだ。

 無論それも魔法であることには変わりないのでさらに疲れが溜まる。故に魔法ばかり使っていると、ろくな休憩もできない。そんな暮らしを1週間も続ければ、如何なる豪傑でも疲弊し切ってしまうのは目に見えている。



 コニーは先輩冒険者の言葉を思い出す。『魔法使いはすごく大変だから、気を付けた方が良い』と。まさにコニーは、先輩が懸念していた状況に陥ってしまっていたのだ。


 この1週間だけで3、4件の依頼をこなした。その中には、2、3日程森の中で生活した物もある。とどのつまり、コニーは1日たりとも休んではいない。

 ハクが居た頃にはこれほどの激務はありえなかった。彼は依頼を終えると、必ず『1日、2日は休むように』と言って、何があっても他のメンバーたちに依頼を受注させなかったからだ。


 最近、このパーティーは依頼をこなすことに躍起になり過ぎている。おそらくその理由は、自分たちの評価を上げるためなのだろうが――。



「おい、コニー。なにやってんだよお前」



 と。レックスがコニーに近付き、机をバンと叩いた。



「……レックスさん……。ごめんなさい、疲れちゃいまして……」

「しっかりしろよ。これはまだDランクのお前が昇格するためでもあるんだぞ? お前のためを想ってやってんだから、もっとやる気出してくれねーと」

「えっ……あの、」

「なんだよ、『え』って」

「あ、いえ……その、はい」

「ったく。こっちだって疲れてんのに。気合いが足りねーんだよ」



 レックスはそう言いコニーから離れていった。


 ――何が気合いだ。自分たちだって疲れているとは言うが、自分とあんたたちじゃやっている事が大違いだ。コニーは心の中でそうボヤいた。


 だいたい、だ。準備した食糧が切れた後に、現場で採取した植物等にいちいち可食判定の魔法を使わせているのは誰なのか。

 否、それまではまだ許せる。動植物の知識を大量に持っていたハクが異常なのであって、本来であれば多少そうしたことを行うのは魔法使いの役割だからだ(それにしても、レックスたちは知らなすぎるのだが)。

 だが、ただ火を起こすだけでもいちいち自分を頼るのはやめて欲しい。ハクはしっかりと火を起こすための道具を持っていたし、たとえそれが壊れて使えなくなろうとも、近場にある道具でなんとか火を付けてみせた。

 水の浄化も魔法に頼り切っているが、ハクはそれさえも一切魔法を使わずしてやってみせたのだ。ハクが居た時は『なんか、すごい』という程度の認識だったが、今はあれがどれほど自分の負担を解消させていたかが身に染みてわかる。


 対して彼らは何をしているか。自分が浄化や可食判定をしている間、2人でイチャコラと遊んでいるのだ。


 冒険者になってから3ヶ月程度しか経過していないが、そんな新人に対しての扱いとしては極めて雑に感じる。こんなことならハクに魔法以外の火の起こし方などを学んでおくべきだった(とは言うが、アレはアレで疲れるので魔法使いが習ったところで同じではあったのだが)。


 言いたい事は日々募るだけだが、しかし、自分は気が弱く言うことができない。コニーはそんな自分に嫌気がさし、大きくため息をついた。



「おい、コニー」



 と、レックスがコニーに話しかけてきた。コニーは虚ろな目で彼の方を見ると、レックスは1枚の依頼書を見せながら、威張るように鼻息を出していた。



「次はこの依頼だ。『ウィングリザード』の討伐。空を滑空するトカゲ種だ、遠距離攻撃が得意な魔法が要になる。気合い入れていけよ」



 コニーは引きつった笑みを浮かべ、無理矢理に「はい」と答えた。


 このままでは、本当に死んでしまうかもしれない。コニーは去り際にハクが言った言葉を思い出していた。

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