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第24話

 町の中。行き交う人々が私を奇異の目で見つめている。

 探索から2日程度が経ち、私はハクたちと共にクエストから帰還し歩いていた。


 黒い髪は染めることなく、私は私をさらけ出していた。

 町に入る前、ハクはしつこいぐらいに「いいのか?」「染める時間位はやるが……」と尋ねてきた。無理もない、この状態で人に見られるというのは、それだけ危ういことだったからだ。


 だけど私は、頑として「このままでいる」と答え続けた。

 おおよそ、合理的な意味など無い。生活をするのならこんなもの、染めた方がいいに決まっている。だけど私は、その先へ進むのがどうしても嫌だった。


 言わばあの金髪は、私にとって鎖なのだ。安心と安寧を引き換えに、私という全てを縛る楔。

 確かに気持ちの問題と言えばそうであろう。だけど、ここで染めることを許せば、おそらく私は、あの時の決意をふいにしてしまうだろう。


 だから染めるわけにはいかない。それはきっと、今進もうとしている私の足を止めてしまうから。



 しかし、そうは言ったものの、怖いものは怖い。今でこそ集団で歩いているから嘲笑を浴びる程度で済んでいる、しかし1人で出歩けば、また石を投げられることになるだろう。私は情けなくも周りの声にビクビクと震えてしまっていた。



 ふと、道中で、母親に手を引かれている、1人の女の子と目があった。その子は無邪気に笑いながらこちらに手を振った。


 ――子供は純粋でいいな。私は思わず表情をほころばせて、その子に小さく手を振り返した。しかし、それと同時に彼女の母親が私を睨み、子供に小さく声をかけたかと思うと、そそくさとその場から立ち去ってしまった。私はちょっと悲しくなって、思わずうつむいてしまった。



「……やっぱり、怖いか?」



 と。ハクが私に話しかけてきた。私は少し戸惑ったけど、小さく「……うん」と答えた。



「……しょうもないよね。あんな大口叩いたけど、やっぱり、怖くて怖くて仕方ないの」



 私は自嘲気味に笑って見せた。ハクはそんな私を見て、しばらく黙り込んで。やがて、私の頭に一度、ぽんと手を置いた。



「――誇れ。その恐怖は、君が確かに選んで勝ち取ったものだ。前に進もうと立ち上がった人間に、しょうもないなんて言葉は似合わない。

 だけど、怖いのは仕方がない。世間から忌避の目を向けられるのは、外で猛獣に襲われることよりも恐ろしいからな。だから僕たちがいる。隣に誰かがいるのなら、それだけで、落ち着くこともあるだろう。

 いつでも頼れ。僕たちはそのためにいるのだから」



 ハクはそう言って、もう一度頭をぽんと叩いて歩き出した。私はすっと震えが止まるのを感じて、呆然と彼の背中を見続けた。



「さて。ギルドに戻って件のことを報告……と行きたいが。まあ、その前に昼食としよう。ドレッドにも会っておきたい」



 ハクが私たちの方を振り向き言う。レンファが「おいおい、状況が状況なんだぞ。さっさと報告済ますべきだろ」と言う、しかしハクは思案顔になり、「いや、」と返した。



「まずはドレッドに当たった方がいい。今回の件、ギルドは怪しい」



 ハクの表情は真剣そのものだった。私はゴクリと唾を飲んで、彼の言葉に従うことにした。



◇ ◇ ◇ ◇



 カランカランとドアベルが鳴る。僕は例の、ジパングの人間にも分け隔てなく料理を出す店へとやってきた。

 後ろには僕以外の、レンファやシキ、コニーの3人がいる。入店するや否や、黒い肌の男――この店の店長だ――が「いらっしゃいませ」と声をかけてきた。



「オー! また来てくれましたねお侍さん!」

「ハクです。……そんなに刀が珍しいですか?」

「イエス! 私が元々……と言うと語弊がありますが、住んでいた世界、国では刀は魂とまで言われていました! もうカッコイイ! ニホンの宝です!」

「……? 2本も無いですが……」

「ああ、そうでした。いえいえ、お気になさらず」



 ――なんだろうか一体。僕は首を傾げながら、ひとまず空いている席が無いかと店内を見渡した。


 と。



「おう、ハク」



 ドレッドだ。僕はやたらと広いテーブル席を1人で占領している彼に小さく手を掲げた。



「……というか店長さん、アレいいんですか?」

「今はお昼にしては少し遅いですからね。混んでもいないので、まあ、別にいいかなと」

「緩いんですね」

「良識と常識を持ってある程度の寛容さを見せた方がお互いに楽ですからね」



 そう言って店長は「HAHAHA!」と笑った。なんともまあ、陽気な性格だ。僕は「まあ、確かに」と同意の意を示しながら店長の前を通り、そして全員でドレッドのいるテーブル席に座った。



「来ると思ってたんだ。待ってたぜ」

「なぜ僕が来るとわかっていたのか――は、まあ、聞くのはやめておこう。面倒くさいからな」



 僕はそして、「で、だ」と言って空気を切り替えた。



「実はこちらから話がある」

「――なんだ?」

「遺跡探索の調査報告だ。何分、いささかまずい状況になった」



 僕はそして、ドレッドに遺跡で見た遺物の話をした。

 例の人型の石像や、壁画に書かれたモンスター、スタンピードが起きる可能性……。すべてを聞き終えたドレッドは、真剣な面持ちでどこかを睨みつけながら、やがて大きくため息をついた。



「――ハク。まだギルドには行ってないんだな?」

「ああ」

「ローマンやジェイクには会ったか?」

「いや。そもそもアイツらが生きているかもわからない」

「そうか。まあ、ならいい」



 するとドレッドは立ち上がり、そして店の外に向かい歩き始めた。



「ハク」



 と、ドレッドがこちらを振り向く。僕は彼がいつも以上に真剣な表情をしているのを見て、彼が極めて気を張り詰めさせているのを察した。



「ジェイクとローマン、あとギルドには気をつけろよ。奴ら、何か企んでるぞ」



 そんなことはわかっている、とは言わなかった。ドレッドはそれを見越した上で、僕にそう警告したように思えたからだ。


 ドレッドは店長に金銭を渡すとそのまま店から出て行った。



「……な、なんか不穏だね」



 シキがドレッドが去った跡を見て言う。僕は「ああ」と返して、同じく彼のいなくなった虚空を見つめた。



「ただ、アイツはアイツなりに色々考えているってことだろう。……まあいい。とりあえず、昼食を取ろう」



 僕はそう言って、店長を呼んだ。

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