第22話
今更ですが、主人公最強タグについて
これは『ハクとシキ』という2人の主人公が合わさると無敵だよ、位の意味です
だから男主人公、女主人公とタグが付いていたりします。
まあうし○ととらみたいなものだとおもってくだされ
「まさかシキさんがあんなにも強かったなんて思わなかったです……。まさかB級冒険者が使うような魔力付与まで使えたなんて。それに比べて私はお役に立てず、本当に申し訳ありません……」
「し、仕方ないよ、コニーちゃん。むしろ、力を持っているのに使わなかった私が一番悪いよ。……最初から全力だったら、誰も傷つかなかった」
「し、シキさんも事情が事情だから仕方ないです! 髪の毛が黒くなるのなら、魔法を使うことに躊躇しても仕方ないですよ……」
コニーとシキが互いに話をしている。僕たちはホーンドレイクとの戦闘を終え、ダンジョンの上の階層へと来ていた。
地下の遺跡とは言うものの、かなりの大きさがある。ここに住んでいた古代人たちには、恐らく極めて優れた魔法使いがたくさんいたのだろう。僕は暗い通路をカンテラの灯りを頼りに進んでいた。
深く息を吐き、気を静めて辺りを感じる。カンテラの灯りは十二分に明るいのだが、しかしやはり光弾に比べると照らせる範囲は狭まってしまう。それでは敵が近づいてきた際に状況を把握できないため、こうして気を研ぎ澄まし、わずかな気配も逃さぬようにしているのだ。
無論光弾を使っても良いが、基本的にそれは魔法使いが特定の場所に向けて放つ固定式の明かりだ。ダンジョンの中を歩き回ろうものなら暗くなった矢先で次々と光弾を放ち続けなければならない。それでは魔法使いの体力が持たないため、こうして移動式の光源を使う。ある意味で僕でないとできない手段とも言えるだろう。
そうして遺跡を走るネズミの音をも感じ取りながら進み、そして僕はふと、この通路の先に怪しい気配があることに勘付いた。
「止まれ」
僕は一同に指示を出す。皆が僕の声を聞きピタリと足を止め、途端、警戒を露わにし僕の更なる指示を待つ。
「――奥になにか……いる……?」
「どうして疑問形なんだよ」
「いや……気配は、しなくもないが……不思議な感覚だ。いる、というより、これは……」
僕は鞘に納めた刀へ手を触れ、おそるおそる通路を進む。後ろをピッタリとくっつき歩くシキに対して「シキ、光弾を頼む」と指示を出すと、彼女は「オッケー」と言いながら僕の視線の先へと手を向け、そして明るい光弾を放った。
やや斜め下方に放たれた光弾は、ちょうどよい場所に落ちて辺りを照らし始める。僕たちは見えた場所に向かいまた歩いた。
そして行き着いたのは、巨大な門が開け放たれた、何もない空間だった。
「……なんだ、ここ?」
レンファが部屋の中へと入りながら呟く。僕は警戒を緩めないままに同じく空間内に忍び込んだが、しかし、やはり何かの気配は感じられたが、感じられなくもあった。
「……どうやら、以前何かがいた、ということみたいだな。それにしても、広い空間だ。広すぎてカンテラの明かりじゃあ見えない」
「ハク、また光弾放つ?」
「ああ、そうしてくれるとありがたい。シキ、連続だが頼めるか?」
「うん。そんじゃあ待ってて」
シキはそう言うと、天井に向けて手をかざし、そしてバン、と明るい光の弾を放った。
しばらく尾をかくような音が響き、やがてパチンと天井に何かが当たる音がし、そして広い空間が一瞬にして照らされる。
「――ッ!」
照らされた先で僕たちが見たもの。それは、水溜りのようになった血の池と、そして、何者かの千切れ飛んだ腕だった。
「ヒエッ!」
「な、なんだこれ――!?」
「ぴええええ、お、恐ろしいです!」
「――これは……」
僕は多少の胸糞悪さを覚えながら、顔を苦々しく歪め地面の血溜まりへと近づいていく。
ザクリ。血溜まりが音を立てる、しかしどうにも乾いている。どうやらこれができてからそれなりに時間が経過しているようだ。他方、その中に落ちている腕を見ると、固まってカサブタのようになった血液が一面を覆うように付着しているが、あまり腐敗が進んでいないようだった。
「――比較的新しい?」
「ぴえええ! ハクさん、お、おお恐ろしいこと言わないでくださいよ! わ、私、ここここういうの苦手なんですから! ひ、人の死体があるなんて聞いてないないない……」
と、怖がり喚くコニーが何かにつまづき「ぴえっ」と言いながら後ろ向きに転んだ。
「な、なんですか、いった……」
途端、コニーは足元にあるそれを見て顔を青ざめさせた。
「ぴ、ぴええええええっっっ!!!!!」
彼女の目の前にあったのは、女の首だった。僕の産毛が思わず逆立つ、レンファやシキまでもが息を詰まらせ転がるそれに目を見張っていた。
「う、うえ、おええ……」
コニーが恐怖の余りか胃の中身を吐き出した。シキが「こ、コニーちゃん、ちょっとこっち来て!」と言いながら彼女を少し離れた位置へ連れて行く。未だDランクで経験の浅い少女がこんなものを見たのだ、無理もないと言えるだろう。
「な、なあ、コイツ、どっかで見たことないか?」
「……ああ」
レンファの言葉に僕は頷き返す。
間違いない、これは確かにアイツだ。僕は込み上がる不快感を押さえつけながら、レンファの問いかけに答えを言った。
「コイツは――ローマンのパーティーにいた女だ!」
あの時僕たちを、表層から最下層にまで落とした張本人。僕は僕たちを陥れた女が死んでいる事実に、しかし、一切の清涼感を感じられず、むしろふつふつと恐怖と吐き気が込み上がるばかりだった。