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第20話

ポイントの伸びが良いので2回目更新です

 轟く衝撃、急速に体温を奪う埃と風圧。私は目の前に突如として現れた四つ足の竜に、声も出せずに固まってしまった。



「――コイツは……『ホーンドレイク』!」



 ハクが警戒で目を血走らせ、ひどく強ばった声を出す。土煙の中で、灰色の鱗の竜が額から生えた1本の角を蒼く光らせた。



「モンスターの危険度は3S、極めて危険な竜種のモンスターだ! まずい、本来ならこのランクなら僕でも相手取れるが、今回は別だ!」

「な、なにが別なんだ!?」

「奴は魔力障壁を持っている! 魔力のこもっていない攻撃は効かない、たとえ格下でも僕じゃあ相手にはできない!」



 ハクが叫ぶ、私はそれを聞き自体がどれほど切迫しているのかを瞬時に理解した。


 魔力障壁。これはつまり、魔力の無い単純な物理攻撃を、一切受け付けなくする魔法のバリアだ。

 ハクは武芸や身体能力だけでも3Sランクはくだらないと言われていた。しかし彼には、重大な弱点が存在する。


 魔法を扱うことができない。曰く魔力の操作がなぜかできないとのことだが、つまりそれは、多くの者が可能な『魔力の込められた一撃』を放つことができないことを意味している。

 魔力障壁を展開するモンスターの前では、たとえそれが子供でも倒せる程度のモンスターであったとしても、彼には倒すことができないのだ。実力ではない、絶対的に相性が悪いのだ。



「コニー、緊急事態だ、光弾を放て!」

「は、はい!」



 コニーがハクの言葉で直ちに天井へ向け手を向ける、そして魔力を集めバン、と光の弾を放った。


 周囲が明るく照らされる、暗闇が一瞬の間に晴れ、ホーンドレイクの凶暴な顔が明るみになる。私は奴の姿をハッキリと視認した瞬間、恐怖で足がすくみあがってしまった。



「シキッッッ!」

「!」



 私はハクに呼びかけられハッとする。次いでハクは「奴の目の前に閃光弾を出せ!」と私に指示を出した。


 そうだ、今は怖がっている場合ではない。しっかりと意識を保たないと。私は「うん!」と返答して、そのまま両手を構えてホーンドレイクの目前に弱い光を放った。


 光は奴の目の前に迫ると同時、バンと弾けて強烈な閃光を発した。ホーンドレイクが光に怯む、同時にハクは大きく跳び上がり、刀を振り上げながら竜の顔面へと迫った。



「ハアアアアッ!!」



 ハクが刀を振り下ろす。刀は竜の額の一角に当たり、歪な音を立て、しかしビクともしなかった。


 ホーンドレイクが「グガアアアオオ!!!」と雄叫びをあげた。ハクは地面に着地すると同時に舌打ちをし、そして私たちに呼びかけた。



「シキ、レンファ、コニー! 君たちは速く逃げろ!」

「!? な、なにをバカなこと言ってんだ!」



 ハクの言葉に反応しレンファが叫ぶ、しかしハクは「黙って従え!」と彼女の怒声を突っぱねかて返した。



「いいか、こいつは僕たちじゃあ相手にできない! 相性が悪い他に、根本的に実力が足りていない!」

「でも、だからってお前が残る意味は――」

「僕じゃなきゃあコイツの相手はできないだろ! いいか、冒険者はこういうモノだ! 1人の犠牲で全員が助かるのなら、その道を選ばなくっちゃならない!」

「――!」

「大丈夫だ、僕だって死ぬ気はない! 君たちが逃げた後、うまくコイツを撒いて後を追う! だから、速くッ!」



 ハクが叫び、ホーンドレイクの元へ迫り刀を振る。歪な音とともにハクの刀が弾かれる、しかし竜へは一切のダメージが入っていなかった。


 直後、ホーンドレイクは長い尻尾を振りそれを鞭のようにしてハクへとぶつけた。ハクは刀でそれを受け、歯を食いしばり、地面に足が食い込むほどに力を入れ攻撃を耐えた。



「ッ――、行くぞ、シキ、コニー!」

「そんなレンファ、ハクを見捨てるの!?」



 私はレンファの言葉に反射的に答えてしまった。レンファはしかし些か青ざめた表情で、「それが一番良い選択ってことだろうが! 逃げなきゃ全滅するだけだぞ!」と私に返す。



「で、でも……わ、私は、助けてもらったのに……!」

「過去の義理なんざ気にすんなコニー! アイツがやれって言ったんだ、だとしたらそうすることが義理の返し方だ!」

「だ、ダメです! 私、一緒に戦います! じゃなきゃ申し訳が……!」

「私らじゃアレに勝てねえ! 犬死には恩返しじゃあねえんだぞ!」



 コニーが前に出ようとする、しかしレンファは彼女を掴みそれを抑え込む。


 ――と。私はふと、全身に寒気が走るのを感じた。


 直感に任せ私はホーンドレイクの方を見る、と、奴は額の一角を鈍く光らせ、明らかになにかの準備を整えていた。



「――ま、マズイ!」



 私は叫ぶと同時に地面に手をつき、急いで仲間へ魔法のバリアを展開する。

 直後、ホーンドレイクの角が輝きを増し、バチン、と弾けた。


 瞬間。ホーンドレイクを中心にして、激しい電撃が辺り一面に拡散した。それは一瞬で私たちを飲み込み、ハクを含め、全員が地面に膝をついてしまった。



「あう……!」



 私は痛みと脱力感に言葉を漏らす。体がバチバチと痛い、痺れが体を震わせ、律動する筋肉が動きを止める。しまった、展開し切れなかった。

 私は周りを見る。レンファは膝をついてはいるものの意識はある、しかし彼女の傍らのコニーは完全に倒れ、気を失っていた。


 ――まずい。この状況で、完全に動けなくなった人間が出来てしまった。言わば持ち運ぶだけでも厄介な荷物が1つ増えてしまった、とも言える。


 戦っているのは遥かな格上。逃げの一手が難しい今、打開は絶望的。


 詰みだ。せめてもっと早く、バリアを展開していたら。私は先の見えた未来に呑まれ、静かに視界を真っ暗に染め上げた。


 ――だけど。



「――まだだッ……!」



 漆黒を穿つように、その声は私の胸に響いた。



「まだ、死ぬわけにはいかない……! 僕はまだ死ぬわけにはいかない……!」



 おぼろげな風景の中。私は、ハクが、絞り出すように声を出し、体をぴくり、ぴくりと震わせながらも立ち上がるのを見た。



「ここで死ねば全てが終わる……! コニーも、レンファも、シキも……! そして、僕の運命も……!

 終わらせてたまるか、死んでたまるかっ! 僕には、僕には、生きなくっちゃあならない理由があるんだッ……!」



 膝が笑っている。電撃が筋肉を刺激し、彼自身もうまく動けないのだろう。それはさながら、体を蝕む猛毒のようだった。


 しかし、そんな猛毒に全身を焼かれながらも。彼は立ち上がろうとし、そして、私たちのことを考え、自らの生存を考え、動こうとしていた。



『僕は常々思っている。死にたくない、死んでたまるか、と』

『助けられるはずの仲間を、みすみすと殺してしまうことが怖かった』

『僕が真に嫌悪するのは、恐怖に駆られて、仲間を蹴落とす奴だ』



 ――ああ、そうか、ハク。私はふと、彼の芯とも言えるなにかを理解した。


 あなたは、自分の命がどれほど愛おしくても、なお誰かのために、恐怖に立ち向かっているんだね。

 臆することのない蛮勇は持ち合わせていない。威風堂々たる心の強さを持っているわけではない。彼はそんな鋼のような人間ではないのだろう。


 むしろ逆だ。彼は臆病で、全てを跳ね返す強さなんてものは持ち合わせていない。それはつまるところ、弱さとも捉えられるだろう。

 しかしそれでも、彼は自らの弱さを、恐怖を理解し、なおそれに呑まれることなく抗ってみせるのだ。それはおそらく、誰か(・・)のために。


 彼の行動原理は、勇猛故ではない。性根の奥まで根付いた、その優しさと責任感にこそあるのだ。


 ――なんだよ、それ。そんなの、蛮勇なんかより、ずっと、ずっと格好良いじゃない。


 ――そうだ。なんで彼に憧れたのかがわかった。

 強いからじゃない。彼はいつだって、他人のために動いていたから格好良かったんだ。

 私は違う。自分のために怖がって、自分のためにしか行動していない。だから情けないんだ。


 ――私も。私も、彼のようになりたい。ハクのように、憧れるほどに格好良く。彼の横に、並びたい。

 ――だとしたら。捨てなきゃならないものが、そこにはあるんだ。私はそして、腕に力を込め。

 体内の魔力を一気に噴出させ、髪を、一瞬にして漆黒に染め上げた。

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