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第18話

【お詫び】

本日仕事が忙しくなり、疲れにより帰宅後すぐにベッドへ飛び込んだために寝過ごしてしまい、更新時間(20時)に間に合わなくなりました。申し訳ございません。

 真っ暗だ。なにも見えない。私はくらり、くらりと揺れる視界の中で、この暗闇に恐怖心を抱いた。



「ゲホッ、ゲホ……だいじょうぶ、か?」



 と、ハクの声が聞こえた。私は壁に打ち付けた後頭部を押さえながら、痛みに顔を歪め、「だい、じょうぶ!」と返した。



「シキ、無事だったか」

「なんとか! ほ、他のみんなは!」

「私は大丈夫、だぜ」

「わたしも、なんとか生きてますうぅぅ……」



 私の呼びかけに応じて、レンファとコニーが声をあげた。ハクが「よかった、全員無事だったか」と安堵の声を漏らし、そしてさらに指示を出した。



「みんな、そこを動くんじゃない。待ってろ、光を――」



 ハクが言うと、カラン、と何かを揺らす音が聞こえたかと思えば、彼の手元が明るく輝いた。それは辺りを照らし、私たちは、それでようやく、各々の位置を把握した。



「よし。ゆっくりとこっちに来い。転ばないようにな」



 ハクが言う、私は恐る恐る、暗い闇の中を、足を踏み出し彼の元へと近寄った。

 そろり、そろりと全員が集まる。そこでハクはまた「よし」と言い、手に持ったガラスの光源を地面に置いた。



「――なにこれ?」

「ガラスの中に、光を発する石を入れた光源だ。知り合いに作ってもらった。ちなみに僕はカンテラと名付けている」

「どこかで聞いたことあるわね」

「なんというか、この形ならその名前だと思ってな。いや、そんなことはどうでもいい」



 ハクは一度咳払いをすると、全員の顔を一瞥して、ため息を吐くように続けた。



「ひとまず、全員無事そうでよかった。みんな、なにか気になることはあったか」

「いや、この辺りには別段ねーけど……ひとまず、私はアイツらのふざけた行動が気になるな」

「なるほど。そうだな、それも含めて、今の状況を整理しておこう。まあとは言っても、憶測の域をでない話もあるがな」



 そう言うとハクは口元を摘み、少し顔をうつむけて、自らの考えを語り出した。


 内容は極めて複雑だった。ようは『私たちはハメられた』ということだったのだが。

 まずハクが言及したのは、ローマンとあのジェイクが協力関係にあったこと、そして、恐らく奴らは、このダンジョンに過去に一度は踏み入ったことがあるだろう、という点だった。

 その根拠とも言えるのが、曰く、焚き火の跡や、松明を壁に掛けた跡があった――ということだった。さらに彼は付け加えて、『地上からこの層まで一直線に繋がっている穴があったこと』『地面を爆発させた際に都合よく自分たちがその穴に落ちたこと』を挙げ、それらから、元よりこの穴へ自分たちを落とす算段をつけていたのだろうという結論を導き出していた。

 ちなみに地上まで繋がっているこの穴については、恐らく自然発生したもので、爆破した地面は後から何者かが作ったものだろうと推測していた。Sランクの魔法使い複数人程度の実力があるのなら、その位の芸当は十分に可能だろうとのことだったが(付け加えてこれの根拠も挙げており、『落ちている最中に瓦礫を見たが、明らかに数が少なかった。突貫工事で作ったのだろう』と言っていた)。



 私は彼の説明を聞きただただ圧倒されていた。この遺跡に来てからこの状況になるまでのほんのわずかな間に、コイツはここまでの推理が可能なほどの観察をして、さらにこれほどの理屈を練り上げたのだ。コイツ、どこまで知性に能力を割り振っているんだ。



「けどよ、おかしくねえか? 私らよ、アイツらとは面識が一切ねえんだぜ? 恨まれるようなことをした覚えもない、じゃあなんでここまで手の込んだことを?」

「それは恐らく、君たちが関わっているよ。レンファ、そしてシキ」

「はあ? 私ら?」



 レンファがハクの言葉に眉を潜めた。私も彼の言葉の意味がわからず、しかしなぜか妙に信憑性があるような気がして、ゴクリと唾を飲んで彼の説明を待った。



「レンファ、君は普段サクラと名前を偽って、その黒髪で生活しているね?」

「――ああ。それがどうしたんだよ?」

「それが原因でギルドからマークされた。ドレッドも言ってただろ、レンファは黒髪だけど、ジパングじゃないから差別の対象外だって。無論そんなことはないのだが、なによりもそれが影響したのは、シキの――いや、アリスの正体だ。

 アイツら、レンファと仲のよいアリスという女が、恐らくはジパングの人間だってことを知っている。いやまあ、知っているのはギルド側の人間だけだろうが」

「ってことはなんだ? 私らは、そんなたかが差別感情とやらで殺され掛けたってのか?」

「そういうことだ。正確に言えば元々マークしていた君たちに僕が関わってしまったからこそ、都合よく利用されたと言うべきなのだろうがな」

「人を嫌がらせで殺そうとか、クソッタレもいいところじゃねえか」



 レンファが舌打ちをしながら地面を蹴飛ばした。私は2人のやりとりを聞いて、思わず、顔をうつむけてしまった。

 と。



「あ、あの……さ、さっきから、気になっていたんですけど……」



 コニーが恐る恐ると言った感じで小さく手をあげ、ハクに尋ねた。



「その、シキ……さん? ていうのは、つまり、アリスさんのことでいいのですか?」

「ああ……しまった、つい本名で……」



 ハクが申し訳なさそうに唇を噛んだ。

 いや、やめてほしい。私はその表情を見て、思わず声を出してしまった。



「気にしなくていいよ、ハク。……コニーちゃんは、黒髪とか関係なく接してくれるもん。だから、大丈夫」

「すまない。少し僕も混乱していた。次からは気をつける」

「いいよ、別に。それよりも、これからどうするかを考えようよ」



 私はハクの辛そうな表情が見たくなくてそう答えた。するとハクは「……それもそうだな」と呟き、また口元を摘んで、なにかを思案し始めた。



「まあ、ひとまずは上に上がる道を探そう。いつまでもここにいたら、なにが起こるかわからない。

 幸いこの遺跡は軽度ながらもダンジョン化している。だからこんな地下深くでも、僕たちはしっかりと生きていられる」



 そういえば、以前レンファから説明を受けたことがある。ダンジョン化した場所は、基本的に人が生きていられる環境にはなっている、と。ただし凶暴なモンスターも多いので、ダンジョンで暮らしていくことは難しい――とも。



「気を付けて進もう。いずれにせよ、前に行かないことには生き残れない」



 そう言うとハクはカンテラを揺らして先頭に立ち、私たちを誘導し始めた。

 ハクの後ろをコニーが行き、それをレンファがついていく。私は先ゆく3人の背中を見て、ふと。


 ドレッドさんに言われた、ある言葉を思い出した。



「シキ」



 と。ハクが私の名前を呼んだ。



「なにをしている? 行こう」

「――うん」



 ――『ハクは確かに、凄い奴だ』。

『だがだからこそ、同時に、アイツは危険だ』。私は頭の中でその言葉を反芻した。

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