第13話
「この国は複数のギルドによって治められています。商工ギルド、製造ギルド、採集ギルド、医療ギルド、あなた方も所属している冒険者ギルド。そしてそれらを総括するのが総括ギルドで、これらのギルドそれぞれが投票で決めた代表者3名が集まり国家の運営方針を決めていくのがギルド議会というものです」
ガーフィールは歩きながら僕とシキにそう話しかけた。
「ひと口にギルドとは言いますが、このギルドの中にもまた様々な役割が分かれております。例えば私が代表の1人を務めている製造ギルドでは、武具や日用品などを作る分野と、家屋を作り水道を引く分野とがある。冒険者ギルドも、未開の土地を開拓していく分野もあれば、古代の遺物を見つけ歴史を解明する分野もある。他のギルドも同じです」
「総括ギルドもですか?」
「ええ。総括ギルドは主に国家運営の根幹になる分野が集まっている。防衛とか法務とか、あとは経済とかですな」
僕は「ふむふむ」と頷き彼の話を聞いていた。と、シキが悩ましげに眉を寄せ、ガーフィールに尋ねた。
「ねえ、ガーフィール……さん?」
「なんですかな?」
「いあ、ちょっと違和感があってさ。他のギルドはまあわかるんだけど、冒険者ギルドだけ浮いてない? 歴史は学者の領分だし、なんでも屋と考えても商工でいいし。かと言って開拓って話になったら、それも総括ギルドが担えばいいじゃんってなる。……こんなこと言うのはアレだけど、ぶっちゃけ無駄じゃない?」
「――ふむ。言われてみれば確かに。なんでですかな?」
「いや知らんのかい!」
シキがつっこむのと同時にレンファが彼女の頭をバシりと叩いた。痛そうだ。
「いったい!」
「バカお前今の話聞いてわからなかったのか! ガーフィールさんかなりのお偉いさんだぞ! 失礼な態度取るんじゃねえよ!」
「あっ、ご、ごめんなさい!」
「ちょっと素が出るとすぐこれだよ……」
レンファが呆れて肩を落とす。しかしガーフィールは「ハッハッハ」と楽しそうに笑い、あまり気にしていなさそうな様子を呈した。
「私はそんなことでは怒りはしない。特に娘の命の恩人に対してはね。私がどうしても我慢ならんのは、悪意を持って他人を傷付ける者と愚か者、そして認めてもいないのにコニーを奪い取ろうと考えるクソ野郎だけだ」
そう言ってガーフィールはおぞましいまでのオーラを噴出させた。言動の節々がいちいち怖いな。
「さて、ここがあなた方の部屋です」
やがて僕たちは広い一室へと辿り着いた。館の部屋、というよりかは、数人で過ごすことのできるリビングと言った方が適切だろうか。ピンク色の絨毯の上に四角い机が置かれ、壁際にはとんでもないサイズのベッドが1つ置かれている。
「ガーフィールさん、せっかくだが僕たちは3人で眠ることになるんだ。ベッドはできれば3つ欲しいのですが」
「あのベッドはまさにキングサイズ、ハクさんのように多数の女性と婚約した方にはとても人気の優れた1品です。どうか今宵はお楽しみを」
「待て、アレで寝ろと?」
「他に何が?」
「ガーフィールさん、さっきコニーが説明したが僕たちはそんな関係じゃない。ただパーティーを組んだ仲間でしかない、そういうのは、その、少し困る」
「むぐう、男女比が偏っていたからそういうことなのかと思っていた。まあ良い、ならば様相を変えるのみ」
と、ガーフィールがパチンと指を鳴らすと、途端に部屋からベッドが消え、かと思えば、いつの間にか小さなベッドが3つほど並んでいた。
風が吹き荒れるような一瞬だったが、何が起こったんだ? 僕があっけにとられていると、とさりという靴の音と共に、目の前に黒い服を着込んだ、中性的な見た目の金髪の少年が現れた。
「ガーフィールさま、お部屋の準備がととのいました」
「よくやったぞセバスちゃん」
「セバスくんです。女の子みたいって言われるの結構気にしてるんだからやめてください」
「まあそう言うなセバスちゃん。なんかこっちの方がしっくりくるのだ」
「セバスです。ぼくの名前はセバスです。くん付けでお願いします」
「ハッハッハ、わかったぞセバスくん。良い仕事だった、また呼んだら頼む」
「ありがとうございます」
ガーフィールは笑いながらセバスと言う名らしい少年の頭を撫でた。セバスは毅然とした態度で部屋を出て、ぱたん、とドアを閉めた途端、「やった、頭撫でられた!」と喜んでいるらしい声が聞こえた。なんともまあ、かわいらしいな。
「まあこれで大丈夫だろう。こちらの配慮が足りなかった点、申し訳ない」
「いえ、僕の方も、うるさく注文して申し訳ない」
「お気になさらず。客人をもてなすのは家主の宿命故。さて、ではあとはゆっくりとお過ごしください。私は仕事がありますので」
そう言ってガーフィールは扉から室外へと出ていった。
かと思えば外から「うわぁーんお仕事嫌だよ娘と遊びたいよう!」と情けない叫び声が聞こえてきた。気持ちはわかるがギルド代表である男がそんなことを言っていていいのだろうか。
「ま、まあいい。ひとまず今日はここで寝させてもらおう。いいな、みんな?」
僕は(彼の様子はひとまず忘れ)パーティーメンバーに呼びかける。するとシキが「わ、私は……いい、けど」とおどおどした様子で受け答えた。
「よし。君はどうだ、レンファ?」
僕はレンファに視線を向ける。しかし彼女は、目をギラギラとさせて扉の向こうを見つめていた。
「どうした、レンファ?」
「さっきの男の子……この家のどの辺りにいるんだ?」
「えっ」
「あ、いや、なんでもない。忘れてくれ」
………………。しまった、どうやらコイツも変態のようだ。僕はこれから辿るであろう先行きを案じ、摩訶不思議な恐怖さえ感じてしまった。