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第11話

 僕たちは、例のジパングの人にも寛大な料理店へと来ていた。

 シキと会話をした翌日、僕たちはなんとか日が高い内に森を抜け出すことができた。現在はギルドにて色々な手続きを済ませ、少し遅めながらも昼食を取ろうという話になったのだ。



「本当に今回のことはお礼を言うよ。一応僕からの依頼だし、報酬は弾ませるが、その一貫としてまずは昼ごはんを奢らせて欲しい」

「ヒョー! タダ飯だタダ飯!」



 僕が言うとレンファがわかりやすく喜んだ。髪を金に染めきったらしいシキは顔を赤くさせて終始そっぽを向き(流石に恥ずかしかったか)、コニーに関しては「い、いや、私は……そんな立場じゃないので……」とぶつぶつ呟いていた。別に、ついでなのだから君も食べればいいと僕は思うのだが。



「おいハク、いいのか? 私めっっっちゃ食うぞ」

「ああ、いくらでも頼んでいい」

「マジかよ!? お前のどこにそんな資金力があるって言うんだ!?」

「ジパングの民は店屋で下手に買い物ができないから持ってても仕方の無いお金がどんどん貯まっていくんだよ」

「……なんか、すまん」

「いいさ。お金(こいつ)も使われた方が喜ぶ。だいたい食事も住居も自給自足の僕には、コレは無用の品物なのさ」



 僕の言葉を聞きシキが「1回言ってみたいわね、それ」と呟いた。僕は敢えて札束を見せつけパタパタと自分の顔を扇いでみる、シキは「うっざっ!」と言いながらにへりと笑った。どうやらユーモアが上手く伝わったらしい。

 と、隣に座るコニーが「あ、あの……」とボソリと呟いた。



「どうした、コニー?」

「え、えと……ハクさん、その……自分の家、無いんですか?」

「ないわけではないが、まあ自分で作ったよ。テントみたいなモノだけど」

「あの……その、えっと、だったら、」



 と直後。コニーのか細い声をかき消すように「うぉーい! 店長! いるか!」と野太い男の声が響いてきた。


 店の扉が乱暴に開け放たれ、浅黒い肌で、金色の髪をロープのように細かく編んだ塊をいくつも作った髪型の男が現れた。かなり大柄で、僕よりも少し大きい。

 彼は――。僕は現れた知り合いの顔に目を見開いた。



「――! うおっ、ハクじゃねえか!」



 男は大声をあげ僕に近寄ってきた。隣のコニーが「ぴえん……」と呟きながら言葉を言い切れなかったことに涙ぐむ。あとでまた話を聞いておこう。



「……ドレッド。どうしてここに?」

「いや店長に用があってきたんだよ。はあ、にしてもお前……」



 ドレッドがそう言って、金色のあごひげを撫でながら僕達を一瞥した。



「やるじゃねえか」

「は?」

「いや、俺はずっと心配だったんだよ。ただでさえ黒髪でモテねえのに、女っ気なんてひとつもねえお前がとうとう女を侍らすようになるなんてよ。んで、ここにいるのは全員嫁にすんのか?」

「待てドレッド、あんたとんでもない勘違いをしているぞ。彼女らはただのパーティーメンバーだ」

「照れんなって。そりゃあ女の子と遊んでるところ見られちゃ恥ずかしいだろうけど、どうせ全員と一緒になるんだし、今のうちに慣れといた方がいいぞ?」

「生憎重婚は趣味じゃない」

「なんで? ダメじゃねーのに。選ばれなかった奴がかわいそうだぞ?」



 ドレッドがそう言って僕の背中を叩いてきた。僕は少しばかりうっとうしさを感じて目の端をヒクヒクと痙攣させてしまった。



「っと悪い、あんまり他人のプライベートに突っ込むべきじゃなかったな。ちょいと調子に乗りすぎた」



 ドレッドがそう言って僕から離れた。わかってくれたならまあよしとしよう。

 と、目を丸くして僕たちを見ていたシキが、「あ、あの、そちらの方は、どなたですか?」とドレッドに尋ねた。ドレッドは「あちゃあ、知らねえのか。俺も案外知名度低いんだな」と残念そうに肩を落とし、しかしすぐに親指で自分を指しニヤリと笑いながら大きな声で喋った。



「俺はドレッド・レイジング! まあ冒険者だが、同時に冒険者ギルドの運営側にも回っている。それなりに権力もあるから、振りかざして欲しくなった時にゃ言ってもらえるとどんどん利権乱用してやるぜ!」

「ハクさん、もしかしてこの人危ない感じの人?」

「大丈夫だ、見てくれは怖いし言動には問題があるが、悪い奴ではない。信頼に足る人物だと思うよ」

「ハクさんがそう言うなら……」

「おいおい俺の自己紹介よりハクの言葉の方が信用できるってか! まあそうだよな! 俺だってそう思うからな!」



 そう言ってドレッドはゲラゲラと笑った。下品ではあるが、こう言ったところがあるからこの男は信頼できる。天然のカリスマ性とでも言うべきだろうか。



「おっと、あとの奴らは知ってるぜ。えっと、レンファに、アリスに、あとコニーだっけか? ああ不思議がるな、こう見えて運営側だからな、めぼしい冒険はしっかり覚えている。

 っと、そうだ。どうせお前らいるのなら、ついでに連絡しとくか」



 ドレッドはそう言うと、僕たちが座るテーブルの上に何枚かの3紙を放り投げた。


 どうやらスティノドンの死体を持ち帰ったことによる報酬の内約とそれに伴う報告書、そして僕たちへの連絡事項が書かれた連絡書のようだ。と、ドレッドはレンファの顔を指さし、ニヤリと笑った。



「お前、Aランク昇進な」

「は?」

「ちなみに立てた功績はスティノドンの討伐だ。Bランクなのに2Sランクのモンスターを倒した才ある者として、昇進を認めるだとさ」

「ちょっと待てよ」



 レンファはそう言ってドレッドの顔を睨みつけた。



「どういうことだ? 私はスティノドンには何もしちゃいないぞ?」

「だろうな。はっ、ふざけた連絡と報告だって思うぜ」

「ああ、やっぱり(・・・・)な。そうだ、あんたギルドの職員だったな? そういや私も一つ聞きてえことがあったんだ」



 そしてレンファは僕を指さしドレッドにガンを飛ばす。



「コイツがBランクってどういうことだ? はっきり言うが私にゃとてもそうは見えねえ。スティノドンをたった一太刀で殺したんだぞ、Bランクふぜいがそんな芸当できるわけがねえ」

「ああ、その通りだ。俺の見立てじゃハクの実力は、いくら魔法が使えないっていう特殊体質があるとは言え3Sランクはくだらねえ。ご存知の通りだが、ギルドのランク制度は純粋な強さを評価している。だがその評価をつけているのは人間だ、ってことはそこにゃ何かしらの思惑が入って然るべしってことだ」

「黒髪差別ってこったろ。クソッタレじゃねーか」



 レンファがそう言って机をバンと叩いた。僕は思わず「他のお客に迷惑だからそういうことはしない方がいい」と注意してしまう。レンファは「……すまん」と小さく謝罪した。



「けどよ、おっさん。これはどういうことだよ? お前らギルドは一体どういう体制で運営してんだ?」

「おいおい、まるで俺を責めてるようじゃねえか。こっちだって精一杯やったんだぜ、だけどこれが限界だ。奴ら、『黒髪は劣等種族だからこれほどの戦闘力を有しているはずはない』って理由でこいつを過小評価しやがるんだよ」

「はは、まるで自分は悪くねえって言い分じゃねーか。一つ聞くが、あんた――」

「レンファ」



 僕は彼女が何を言おうとしているのかを察して思わず割って入ってしまった。



「君の邪推は見当違いだ。ドレッドはむしろ僕のためによくやってくれている。Bランク程度じゃない、僕は彼の力があったからBランクにまで上り詰められたんだ」

「……なる、ほど。それは、すまん。私、なんかとんでもねえ勘違いを……」

「はは、気にすんな。俺ァ見た目がこんなんだからよ。男らしいイケメンってのはいつだって嫉妬をあびる」

「ソウイウノジャネーンダケドナ」



 レンファの呆れた声にドレッドが殊更に笑った。



「ま、とにかくこれがスディノドン討伐に対するギルドの確定評価ってわけだ。いやすまん、本当に、これ以上は無理だった」

「僕は気にしていない。報酬が貰えるだけでも儲けものだからな」



 僕はドレッドが頭を下げるのを見てそう返した。なんとなく彼がこんな姿を晒すのは見たくないが、彼の魅力はこんな姿を簡単に晒すことができる点だからいささかもどかしくもあるが。


 と。しばらくの沈黙が流れたあと、「ドレッドさんさあ」とレンファが声を出した。



「なんだ?」

「Aランク昇進の話だけどよ、蹴ってもいいんだろ?

 昇進の辞退はギルドでも認められてるはずだ。こんなふざけた理由でランクアップなんざ私はごめんだぜ」

「ああ、それについてはな。できるけど、やめといた方がいい」

「は?」

「正しく言えば“理屈上できるけど不可能”だ。不服言ったところでなんだかんだ揉み消される。そういうふうにするってギルドが決めた」

「どういうことだよ?」

「よくあることなんだぜ? そいつの度量に合わないランクを敢えて与えることで危険なクエストに無理矢理行かせること」



 ドレッドはそう言って大きくあくびをした。



「まあそういうこった。おおよそなんか変なことでもしてやがっただろ? それが今回の事でとうとうって感じだったぜ」

「…………」

「心当たりもアリ、か。だとしたら、ますます見逃せねえな。

 ハク。お前しばらくコイツらと組んどけ」



 ドレッドは僕の方を見もしないでそう命令した。

 そう、これはお願いでも要望でもない。命令なのだ。



「まあわかると思うが、レンファはギルドからマークされている。ぶっちゃけこのままなら死ぬだろうな。だからお前が守れ」

「ああ。指示されなくともそうする」

「よしよし。すまねえな、いつも変なこと抱え込ませて」

「気にするな。僕だってあんたの口添えでパーティーに入れてもらっていたりするからな。まあレックスたちはハズレだったが」

「はは、やっぱしか。教育の意味合いもあってお前と組ませたんだが、そうか。誰があそこまで育てたか知らねえが、まあぶっちゃけ修正は難しいって思ってたからな。考えてもしょうがねえ」

「そう言えばアイツらはどうなった?」

「2人とも保護されたよ。まあどっちも体が一部足りてなかったがな。精神的にも参ってる、ありゃもう冒険者は無理だな」



 その程度で済んだのか。自分の実力よりも危険な場所へ踏み入ったのだから、生きているだけでも儲けものだな。僕は2人がひとまず無事らしいことを思い、小さく舌打ちをしてしまった。



「まあそんなところか。あとは紙見て確認しろ。俺はちょっと店長のボブに用がある」



 そう言ってドレッドは僕たちの元を離れていった。

 ……ここの店長、ボブという名前だったのか。僕はどうでも良いことに頭を回したあと、頭をひとかきして、コニーに話を振った。



「それで、コニー? さっき何を言いたかったんだい?」

「えっ!? あ、え、えと……いや、その、大丈夫……」

「遠慮はしなくていい。別に言うだけだ。まあ、恥ずかしいことだったりしたら、強要はしないが」

「あう……じゃ、じゃあ、その……」



 コニーは少しもじもじとして、やがて意を決したように言った。



「や、宿が無いなら、私の家……! みんなで、来ませんか!」



 全員の視線がコニーに向いた。途端にコニーが「はああああ、初めて人を誘いましたあああ……!」と震え出す。

 ――なるほど。随分と都合が良い。僕は少し考えてから、「じゃあ、今晩は泊まらせてもらおうか」と答えた。


 そして僕たちは、コニーの家へと向かうことになった。

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