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第1話

この作品で理不尽なのは元パーティーではなく「世界」そのものなので、こうやってあらすじの段階で元パーティーを壊滅させちゃっても割とすぐに次の敵が出てきます。

 ガヤガヤと騒がしい酒場の一角にあるテーブル席。僕は1人の男と、2人の女に対面するように椅子に座っていた。



「ハク。お前はもうこのパーティーにはいらない」



 目の前にいる赤髪の男、レックスが僕にそう言った。



「は?」



 僕は彼の言葉に思わず声を出してしまった。



 僕と目の前にいる3人の男女は、共に冒険者としてパーティーを組んでいた。


 冒険者とは、世界にある謎の迷宮、ダンジョンを攻略したり、あるいは未だ未開の土地を調査する人々の事だ。僕達4人はそれなりに腕が立つとして、冒険者を管理している組織であるギルドからAランクパーティーの称号を得ていたのだ。



 レックスは僕たちのパーティーのリーダー役をしている人間だ。極めて武芸に優れ、その才覚であっという間にSランクと言うかなり上位にあたる階級へと登りつめていた。


 だが、僕から言わせてもらえば、あまりに性格に問題がある奴だ。確かに強いが、いつかその人格に足をすくわれ破滅するだろうなと思っている。



 そんな男から突然言われたのが先のセリフだ。いくらなんでも突然過ぎるし、何よりも意味がわからなかった。



「意味がわからない。なにがどうしてそうなったのか、説明してくれないか?」



 僕はかけている黒縁の眼鏡を指で上げ、レックスを睨みつけた。



「だから、お前みたいな役ただずはいらねえって言ってんだよ。耳ん中に糞でも詰まってんのか?」

「説明を求めてるんだ。君は問題文に問題文で返すのか?」

「あ? うるせえんだよ、黒髪(・・)の劣等種の分際で俺に意見すんじゃあねえよ」



 僕はピクリと眉を動かした。



「――確かに、僕が一般的に劣等と称される失われた島国(ジパング)の人間で黒髪なのも確かだ。だが、それが一体なんの関係があるって言うんだ?」

「あぁ!? わかってねえのか、やっぱ劣等種の脳みそってのは俺たちより劣ってんだなあ」

「煽る前に答えを言え」

「はっ、じゃあ教えてさしあげようじゃねーか」



 そう言ってレックスは紙を1枚僕に見せつけてきた。


 これは……ギルドが発行している戦績か。なるほど。僕はコイツが何を言い出すのかを理解した。



「見ろよ。お前の『討伐対象モンスターの撃破数』は俺たちの中で1番少ない。これがお前が無能の証明だよ!」

「何度も言ってるがそれは君たちが討伐対象のモンスターにばかり気を向けているからだ。僕はその間も周りにいる別のモンスターとも戦っている。いいか、モンスターの討伐は物語のように都合良くはいかない。一体の猛獣の周りに別の猛獣がいるなんてことは多々あることなんだ。そしてそっちに襲われて殺されることもよくあることだ。

 あと1番少ないとは言うが、10体かそこらの違いだろ? 所詮微々たる差だ。わざわざ咎めるほどじゃあない」

「ぐっ……! そ、それにお前はパーティー内で唯一魔法が何一つ使えない! ほら、本来ならどっかのパーティーに入れてもらえること自体がありがたいんだ!」

「その代わり僕は君たちより倍以上は知識と知恵がある。森で迷い食糧が尽きた時に誰が動植物の可食判定をしていた? 水のろ過は? 天気を読んでいたのは、拠点を作っていたのは?」

「うるせえ! そんなもん全部コニーの魔法でなんとかなるんだよ、なあコニー?」



 レックスの隣で不安げにニコニコとしていた少女、コニーが「ぴえぇ!?」と驚き飛び跳ねた。茶髪のおさげと大きな丸眼鏡の奥の瞳がゆらゆらと揺れる。



「え、えっとお……私は、みんな仲良くが……」

「あ?」

「ぴえぇ! ごめんなさいごめんなさい!」



 コニーが涙目になりブンブンと頭を下げた。正直このパーティーの唯一の良心だから同情を禁じ得ない。



「……1つ言っておくが。魔法は便利だが、万能じゃあないぞ。いいか、何度も言っているが、最も恐ろしいのはモンスターじゃない……」

「環境だ、だろ? もう聞き飽きたぜ、お前のそのセリフ」

「理解しているならなぜコニーの魔法を宛にするんだ?」

「あ? うるせえんだよ、黒髪の分際でわかっているふうに俺たちに意見しやがって。つーかお前まだ俺たちの中じゃあ唯一Bランクじゃねえか。俺はSランクだぞ? どっちのが立場が上かわかってんのか?」



 レックスが机をバンバンと叩いた。僕は目元をピクピクと痙攣させながら、しかしレックスの言葉に反論できずにいた。

 そこは正直痛いところだ。僕がBランクの冒険者としているのはまず間違いなく黒髪による差別が原因なのだが、しかしそれを材料に反論した所で結局ランクによるマウントは覆せない。僕は苦々しく顔を歪めることしかできなかった。



「……あ、あのう、私一応Dランク……」

「あぁ!?」

「ぴえっ! すみませんすみません!」

「ったく。大体コニー、お前とハクとじゃあ状況が違う。お前はまだ冒険者になって日が浅い。それを俺がその魔法の才能を見込んでパーティーに引き入れたんだが。だがハクはな、もう1年以上は冒険者やってんだ。俺たちのパーティーにいるにはあまりに成長が遅すぎんだよ」

「い、1年でBランクってかなりすごくないですか……?」

「うるせえ黙ってろ!」

「ぴええん!」



 レックスが机を蹴り、その音に驚きコニーがまたも萎縮した。



「レックス、いい加減にしろ。いたずらにメンバーを怖がらせるな」

「黙ってろ糞野郎! いいぜ、だったら全員の意見を聞こうじゃあないか。ハクをパーティーから追い出した方がいいと思う奴は?」

「はぁい」



 と、レックスの隣に座る紫髪の女が手を挙げた。


 やっぱり、コイツはそっち側か。僕は紫髪の女を見遣り、心の中で舌打ちをした。



「……ヘルガ。一応聞くが、なぜ僕はいなくなった方がいいと思うんだ?」

「んー、だって〜、なんて言うのかなあ? ほら〜、やっぱり、Bランクでしょ? パーティーにも貢献してないしぃ、なんか偉そうだし。正直うんざりしてたんだよねぇ。だからさ、ちょうどいいから言っちゃおうかなって!」



 ヘルガはキャピ、とでも音が鳴りそうな雰囲気で、わざとらしく人差し指を頬に当てながら言う。彼女もレックスと同じくSランクの人間だが、やはり些か性格には問題があるように感じられる。

 まあ、見た感じでわかる腹黒さがある分、考え無しのレックスよりかは幾分か知能が高い気もするのだが。しかし見た感じでわかるということは所詮その程度ということだ。僕はまた内心でため息をついた。



「ほら、ヘルガもこう言ってるんだ! 全員の意見を聞いて出した結論だ、お前はこのパーティーには必要無いんだよ!」

「え、私はそんなこと1度も……」

「黙ってろ!」

「ぴえええん!!!」



 怖がるコニーを見て、僕は思わず「やめろって言ってんだろ」とレックスを威嚇するように睨んでしまった。

 レックスが「ああ?」と言って僕を睨む。僕は目を合わせると、しかし一切逸らすことなく、彼の目を睨み続けた。


 直後。



 レックスは僕の髪を引っ掴み、そのまま机に僕の頭を叩き付けた。



「生意気言ってんじゃあねえぞこの糞頭がっ!

 劣等種なら、劣等種らしくしてりゃあいいのによ! この糞黒髪野郎が、調子に乗んじゃねえ、調子に乗んじゃあねえ!!!」



 何度も何度も頭を叩きつけられ、痛みが加速度的に増していく。同時に怒りが膨れ上がり、瞬間、僕はレックスの手を掴み捻り上げた。



「やめろ」



 僕は顔を上げ彼に怒りを向け言う。レックスはヘラヘラと笑い、「鼻血、出てやがんぞ」と僕を煽り立てた。



 ――コイツ。切ってやろうか。僕の脳裏に一瞬そんな思いが横切り、装備している刀へ空いている手が伸びた。


 ――いや。ダメだ。ここでコイツを切れば、それは僕がコイツら以下に落ちることを意味する。そんな誇りの無いことはできない。僕はレックスから手を離し、怒りを抑えて鼻から流れる血を指の腹で拭った。



「――全く、本当にあんたはバカだ。あんたのように短期間で登りつめた冒険者にはありガチだが、その中でも度を超えた大バカ野郎だ」

「はっ、負け惜しみか?」

「なんとでも言え。――わかった。あんたらとの馴れ合いはここで終わりだ。清々するよ、こんな意地汚い、誇りも無い連中と縁が切れるって言うんだからね」



 レックスが「何言ってんだよお前」とケラケラ笑う。僕は着ている服の着崩れを直すと、傍らに置いたリュックを持ち去ろうとした。


 ――ああ、1つだけ。コニーには言わなくちゃならないことがある。



「……コニー。君も早くやめた方がいい」

「え、えっ……」

「これは君のためを想っての警告だ。でないと、殺されるぞ。こいつらに」



 僕が言うと同時、レックスが「早く消えろ、クズが」と僕に言った。


 ――クソが。僕はそのまま、奴らに背を向け酒場を去った。

ネタバレだけどコニーは割とすぐに仲間になるよ

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