第一話 米米太とワタシ
ドドスコス海峡を抜けて南へ進むと、シンイチ島があった。あまりにも暑い夏の日のことである。米米太は馬のように濡らした鼻面を拭きながらチラリと指時計を見た。時刻はまもなく32時であった。
「少し遅く着きすぎたか、、」
誰に言うともなくそう呟くと、米米太はまるで初めて陸の上を歩いたタコのような顔をしながら、コンクリートで舗装された島の道をしっかりとした足取りで歩き始めた。
米米太はどこからどう見ても変な人であった。頭には束ねた髪を固めて1メートルほどの角のようにしたものが無造作に7本生えており、それぞれ虹の7色が割り振られて染められていた。
顔は正三角形で背中には小型の掃除機と大きなバックパックを担いでおり、ズボンは履いていなかった。
身長はゆうに2メートルは超えていたがどれだけ多く見積もってもスタイルは4頭身であり、側から見るとそもそも人に見えなかった。
米米太は時々立ち止まっては道を確認するように大声で叫び、反響して返ってきたこだまで進路を調整していた。
また数分に一度文字通り道草を食いながら1時間ほど歩いた頃、急に米米太は振り返って、
「おもちですか?」
とにこやかな笑みを浮かべながら言った。
ワタシに話しかけたのである。コレには流石のワタシも目を丸くしてしまった。何しろこの旅が始まって以来、一緒に行動こそしてきたものの、ワタシと米米太は一度も会話をしたことがなかったのである。
ワタシはどう捉えれば良いのかいまいち分からない風貌をしていた。白とピンクのボーダー柄のスーツを身にまとい、右手には新鮮なキャベツを持っていた。目は横から見たきしめんほど細く、いかにもずる賢そうであった。
すっかり困惑したワタシは長いドレッドヘアーを指でいじりながら、何を血迷ったか、
「再度お伺いしてもよろし?」
とニヤつきながら言った。すると米米太はギュシンッと眉を吊り上げながら、
「もうお弁当はありません!」
と強い口調で言い返した。
見かねた私は2人の間に入り、まあまあと米米太をなだめながらその顔に味噌を塗りたくった。
そうして和気アイアイしているうちにすっかり日が沈み、見えるのは街頭の明かりと暗闇に光る米米太の目だけになった。米米太は夜行性であった。
本来なら暗くなると道が分からなくなるためどこかで野宿することになるのだが、米米太は夜行性であり、そもそも声を反響させて道を確認しているため周りの明るさは関係なく、私たちは無事目的のンノ神社に着いたのであった。