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てんころ  作者: 毛利 良々名
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第二話 町の指名手配者(1)

 あちゃー....。

 出勤するなりまず心の中で呟いてしまったのはこれ。お仕事の内容の中には特別警戒の情報が追加されています。これはクエストとは異なり、受ける必要はありません。簡単に言えばモンスターの指名手配のようなものです。討伐対象の罪は殺人。被害者は「さくら」だそうです。


「こんばんは。リーダー。」


「はい、こんばんわ。」

 私は他の受付嬢たちにはリーダーと呼ばれています。これだけ長くやっていれば後輩なんているはずもありません。100年の間で勿論不都合は生じましたが隠滅すればどうということはありませんでした。


「リーダー...残念でしたね...。あの元気な子、亡くなってしまって....。」


「ええ。あの日が嘘かのようですね.....。」

 よっぽどショックだったのか顔を曲げて今にも泣きそうな受付嬢に返答します。可愛い子には旅をさせた結果ですよ。


「しかし、どういった経緯で殺人と判断されたんですか?」


「はい、さくらちゃんは王国にいる貴族の三姉妹の一人だったそうで、家族に行方不明の情報が入った瞬間総力を決して捜索を開始したようです。決定打は死体が埋められていて、なんと死体の血はなく干からびていたそうです。それらから恐ろしいことにこの町に人間に紛れてヴァンパイアが存在すると噂されています。近くに王国からも人が派遣されるらしいですよ。」


「なるほど......。」

 詰めが甘すぎました。いつもであればモンスターに殺されたように装うのですが....血を吸いすぎて干からびた死体は野に放るには不自然と判断したのです。この町にヴァンパイアの存在を露呈させるわけにはいきませんからね。しかし貴族の娘だったとは、私があんなに苦労した15000ゴールドをポンと出せたのも納得です。困りました、おいしいご飯に気分が良くなりすぎて処理が少し雑でした。


「あなたも気を付けてくださいね。」


「はい、リーダーも。ヴァンパイアは女性の血が大好物と聞きましたし....。」


 本の所はあの捕食は我慢すべきだったのです。ターゲットは素性を調べてから行動するのが基本。それを欠いて状況と本能に負けてしまったのが今回の敗因です。


「さて....(これからどうしたものですか....)。」

仕事に移りながら思考します。手元の手配書にはヴァンパイアの討伐と賞金。貴族の依頼なだけあって賞金はかなり高いものとなっております。

王国からの派遣ですか。私なんて少し調べられてしまえばば疑いの余地なく捕まるでしょうね。


 100年ほど、この冒険者ギルドで過ごしました。場内の鏡や十字架は徹底的に排除し、時には勘づいた冒険者や受付嬢までも殺しました。名簿から殺す者を選んで....数えられないほどの冒険者を殺し、血を啜ってきました。

......潮時ですかね。この生活やこの町に居座ることは諦めた方がいいかもしれません。




........いえ。

 まだ諦めるには時期尚早。今までもこんな困難いくらでもあったじゃないですか。こんなにも楽しい生活を簡単に手放すにはいかないでしょう。


 目標は『私への不信感0かつ現状の生活維持』。これ以外は全て失敗としましょう。

 まずは調査をどう乗り越えるか。鏡を照らされただけでバレてしまう貧弱な私では王国からの派遣隊と仲良く顔を合わせるわけにはいきません。それに相手は戦闘に関して甘くはないはず。一人で対応できるかの数も把握が必要ですね。これは町に着いて調査を始めてしまう前に手を打つべきでしょうか。

 そしてさらに問題なものは町自身が行う調査。どうせ行われるでしょう。日中外に出られない私が不審がられることは目に見えています。さらに痛くなってくるのは冒険者たちの目。彼らはほとんど全員が私を知っています。しかし日の下の私の姿を見たことはありません。もう既に疑われていると考えていた方がいいです。そしてこのヴァンパイアの情報はどこまで広まっているのでしょうか....少ない場合によっては知っている者全て殺すことも視野に入れておきましょう。


 正直この町がどうなろうが私には思い入れはありません。最終手段としては町の破壊か他町への逃走。後者が楽で望ましそうにも見えますが顔が割れた状態での逃亡劇に発展しそうな予感がします。

 奇跡的にヴァンパイアが他にいるというのが一番の理想ですね。まあ流石にそれは都合が良すぎます。探すというのも手ではありますが骨が折れるだけで済むようなものではありません。時間が足らずにゲームオーバーです。


「よし。」

 ある程度考えを並べ、行動の選択肢を広げていきます。そして自分の行う答えに辿り着き、順序をなぞります。途中に問題はないか、阻止される可能性はないか。仮に、もしも、可能性があった場合と脳内の私でかもしれない運転。情報が足らずアドリブになる部分も多少ありますがとりあえずまあ、なんとかなりませんか?


 この戦いは時間との勝負でもあります。なるべく早く事態を収めるため行動は今日の深夜から。


 頑張れ私。死力を尽くし、誰であろうと邪魔するものは排除し、どんな手段を使ってでも、すべてを壊してでも神から受けし今の生活を守るのです。

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