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てんころ  作者: 毛利 良々名
1/3

第一話 火を持って飛んできた私の晩御飯

「すみません...。登録したいんですけど....。」


「はい、かしこまりました。少々お待ちください。」


「あの、スキルとかもらえるんですよね...?」


「はい、スキルの賜りは手続きなどを終えてから最後になります。えーと、登録料はすべて含めまして15000ゴールドになります。」


「お願いします.....。」


「確かに頂戴いたしました。それではこちらが誓約書になります。重要な点だけ口頭で説明しておきますと、まずスキルは希望しているものが賜れるとは限りません。そしてスキルやレベルの情報はこちらで保管させていただきます。万が一問題を起こした場合には冒険者証は剥奪されます。その他も目を通されて、了承されましたらサインをお願いします。」


「はい、大丈夫です....。」


「それではこちらを。」


「これは......?」


「このペンダントを握りしめて目を閉じてください。天から声が届くはずです。お聞き逃しのないようご注意ください。どうかあなた様のお気に召されるようなスキルを天から賜れますよう願っております。」


「ついに.......これで決まる....!」


 少女は緊張した面持ちでギルド特製のペンダントを握りしめ目を瞑り天からの声に耳を傾けます。


「.....!!」


「聞こえましたか?」


「はい....!!『汝、その剣の才ここに極まれたり』...と.....!」


「なるほど.....剣術ですか.....。シンプルなスキルであるものの序盤から戦闘には自信が持てる良いスキルです。即戦力ですぐにパーティーにも勧誘されるでしょう。まずは剣を手に入れるところからですね。」

はにかみながらそう告げると少女は目をキラキラさせます。


「ありがとうございます!!頑張ります!!」


「はい、私もここにいますので、何かお困りになりましたらいつでもお声掛けください。それでは良い冒険者ライフを。」

一礼。新たな冒険者がまたここに誕生しました。


 ここは世界の侵略を試みる魔王の討伐を目標とする冒険者たちが集う町。冒険者はクエストを達成し報酬を受け生活します。彼らは各々一つずつ固有のスキルを持ちます。魔法を使う者、怪力を持つ者、さらに一捻りしたような能力を持つ者まで様々です。それぞれの持ち味を活かしパーティーを組みクエストやダンジョンを攻略します。そうして勇者となるべく力をつけ、新たな場所へと移りやがては魔王城まで踏み込んで行くのです。


 そんな私は冒険者ギルドで受付嬢をさせていただいています。冒険者に対して少し人数が乏しく、お仕事はまあまあ激務です。昨日も今日もギルド内は賑やか。早速先ほどの子も初級のクエストを受けていました。質問や依頼は後を絶たず目は回りっぱなし。ですがこのお仕事は私にとって生きがいでもあったりするんです。



深夜。


「ふう。疲れた疲れた.....。」

 盛り上がりを失い閑散とした誰一人いない場内を歩き回り、忘れ物がないか見回します。


「よし、帰りますか.....。」

 月の光を浴びながらうーんと背伸び。明日も夜からお仕事です。


 暗い暗い夜道。照明の少ない通りに松明がふよふよ浮いています。


「あら、あなたは....。」


「えへへ....張り切りすぎちゃいました.....。」


 とことこ歩み寄ってきたのは今日初めて冒険者になった若い女の子。背中に剣を差し込み服は既にボロボロです。余程冒険者になって嬉しかったのかこんな暗くなるまでモンスターと戦っていたようです。

 じゅるり、とつい涎が垂れてしまいそうになるのを我慢します。


「受付嬢さん!私ったらすごいんですよ!剣なんて触ったことなんてなかったのになんというか.....剣をどう動かせばいいかがわかるんです!!」

「スライムだってゴブリンだって問題なく倒せました!あ、パーティーにも入れていただいたんです!」

「明日もまたモンスターを倒しまくってレベルを上げて、魔王なんか私が倒してやりますよっ!!!」


「........。」


「.....受付嬢さん?」


 一歩、少女は近づいてきました。ずっと黙っている私の顔を覗き込みます。


「.......!!!受付嬢さん!?....目が...どうしたんですか.....!?」


 少女は私から離れ剣を抜き構えます。


「ふふ...ひどいじゃないですか。人をモンスターみたいに。ねえ?さくらちゃん。」


「化け物!!」


「泣いちゃいますよ?私だって女なんですよ?」

 真っ赤な瞳にコウモリの羽。鋭い牙。久々の特上の餌を目の前に我ながらかなり興奮しています。

ああ、この子は味わっていただかないと....。


「一体何者だ!?」


 直球な質問。いじわるしたい気分なので答えてあげません。


「さあて、何でしょうね?見たまんまだとは思いますが。それはそうと、手を出してくれませんか?」


「ふざけるな!断る!」


 叫ぶなり自慢の剣で斬りかかってきます。


「これはこれは....。」

 新米とは思えない剣筋。躊躇もなく殺しに来ていますね。流石のスキルの恩恵は馬鹿にはできない様子です。

ですが。


「なっ!?」


 頭部めがけて飛んできた剣を手で触りながらひらりとかいくぐります。


「ふふふ.....痛いじゃないですかあ...。」

 唖然とする背後に回り込みます。抱き着くように両手で顔を撫で、少し切れた人差し指でさくらちゃんの頬に血をつけてあげます。

 つやつやの肌。若い女の子特有の肌。どれほど待ちわびたことか。最後のまともな食事は約1年前。いままで腹を満たすことしかできなかった食事。殺人欲は満たせても食欲は満たされなかった。やっと、やっと、味わえる。ああ、この子はどこまで私の食欲を満たしてくれるのだろう.....。


「くそっ!離れろっ!化け物っ!!」


 ぶんっと振り払われますが後ろに跳び元の距離に戻ります。


「大人しくしてくださいよ。おちおち食事も出来ないじゃないですか。」


「だまれ化け物め!」


「何度も言われると流石に傷つきますね....。でもあなたに勝ち目なんてあるわけないじゃないですか。」


「そんなこと!戦ってみないとわからない!!」


 やる気です。体はできるだけ傷つけたくはありませんが、血気盛んなのは食べ応えがありそうです。

しかしどうして食事にありつきましょうか。


「そうだ。」

 辺りを見渡し、ポイ捨てされた先の折れた剣を拾い上げます。すかさず血を流したままの人差し指で挑発。


「....!!な、舐めんなっ.....!!」


 猛撃。でたらめに見えてもやはり正確に斬り抜いてきます。一太刀でも受けたらそれはもう痛いことでしょう。ひとつひとつ丁寧にはじき返します。


「くそっ!どうして当たらない!!」


 今度は一瞬間を置き剣を両手で持ち、鋭く素早い喉元目掛けた突き。


「単調......。」

 これも剣を弾い....ていない?折れた剣は空を搔き、下をのぞけばすでに居合の構えをとっているさくらちゃん。


「くらえっ!!」


 ぶんっと力強くもコンパクトな振り。


「やばっ.....。」

 すかさず相手の頭にもう片手を乗せ跳び越す前転。


「くっ......!あと少しだったのに.....!」


 天才です。よもや一日でここまでとは。まさに金の卵。私もまだ金の卵は食べたことがないので楽しみです。


「では今度は私から....。」

 折れた剣で斬りかかります。もちろん斬る気は毛頭ありませんが。ですが相手も抜群の剣術で対抗してきます。やはり一筋縄ではいかなさそうです。


「ほっ。」

 唐突に突きを入れます。間髪入れず受けの剣が間に割り込みます。


「あなたがやってたんですよ。」

 剣を引っ込め一回転。居合の構えから相手の剣目掛け振り抜き。


 ガキィン!!と音と共にさくらちゃんの剣は手から離れ、からんと地面に落ちました。


「そんな.....。」


少女は成す術を無くしへたり込みます。


「もしかして、お前も剣術のスキルを....?」


「違いますよ。もう少し良質なスキルです。さくらちゃんと一緒にしないでくださいよ。」

 むしゃぶりつきたい欲求をこらえ平静を保ち近づきます。


「う..........だっ、誰かーーー!!!!!!助けてーーーーーー!!!!!!」


 へとへとでしょう体に鞭打って叫んでいますよ。困りますね。


「むぐっ!?」


 口を手で押さえつけ、声が漏れないように封じます。


「もう、私的には一番困るんです。それ。行動的には一番正しいのでしょうが。まあこれにてあなたの人生は終わりますが、何かやり残したことは?」

押さえつける手を握る手に力はなく、ただただえぐえぐ泣いています。

ああ、命とはなんと尊くて儚いのでしょう。心配いりませんよ、あなたの命は私の命となり生き続けるのですから。


「.....いただきます。」


「んんーーー!!!!!」


 抵抗する頭をどかし首元を露にし噛みつきます。





「おはようございます!」


「おはよう受付嬢ちゃん。今日は元気がいいね。はい、これお願い。」


「はい、クエストですね。それではお気をつけて!!」




 私はこの異世界に転生してから100年以上受付嬢を続けてきました。

 もう人間ではなくなってしまいましたが、なんとかここまで生活してこれました。生きがいも見つかり退屈しません。次はどんな人を殺しましょうか、どんな子の血をいただきましょうか。考えただけでも胸がときめいてしまいます。

 どうであれ、まずは神様、こんな生活を用意していただけて誠に感謝しております。

どうかこの生活が死ぬまで続きますように――――。

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