第988話 干潟の方は?
混雑の都合でサヤとヨッシさんがまだ戦えていないという状況にはなってしまった。でもそのおかげで俺とアルとハーレさんのボーナスの恩恵が得られるようになったらすぐにでも戦闘が開始出来る状況にもなっている。
まぁまだ20分近くかかる上に、そのタイミングで空きが出来ないとどうしようもない。空きについては1時間ずつで纏まって交代にはなりそうだから、多分大丈夫そうな気はするけどね。
「今って、サヤとヨッシさんは既にPTは組んでる状態?」
「あ、うん、そうなるかな。はい、どうぞ」
おっと、サヤからPTの申請が来た。今すぐに組んでおく必要はないけど、後で必ず組まなきゃならないんだから忘れないうちにしておいた方がいいもんな。
<ケイ様がPTに加入しました>
<フーリエ様がPTに加入しました>
<アルマース様がPTに加入しました>
<ハーレ様がPTに加入しました>
ん? フーリエさんはまだPTに加入してなかった……って、俺らに臨時メンバーとして加入して良いかを聞いてきたんだし、今のタイミングになるか。
「夜はこのメンバーで頑張るのさー! あ、ケイさん、1つ提案です!」
「ハーレさん、どした?」
「私とケイさんは、次の1戦は経験値の結晶は未使用でどうですか!?」
「あー、サヤとヨッシさんと少しズレたし、そうしとくか」
「え、その辺は気にしなくてもいいかな!?」
「サヤ、ストップ。ハーレ、ケイさん、それって個数調整も含めてだよね?」
「ヨッシ、正解なのです!」
「ま、その方がいいだろ?」
「……あはは、確かにそれはそうかな?」
「そういう事で、気にしなくてもよし!」
本当に調整するというのであれば、それこそ夕方は俺とハーレさんは戦わずに他の事をしていればよかったって事にもなるしなー。まさかサヤとヨッシさんが戦えてない状態になるとは思ってなかったから、その辺は誤算だね。……誤算というより、緊急クエストを甘く見ていたと言うべきか。
「あ、そういやフーリエさん、干潟にいたならそっちの様子を教えてくれない?」
「私も聞きたいのです!」
「それは良いですけど……ケイさん達は既に適正外のLvですし、聞いても関係ないかもしれないですよ?」
「いや、フーリエさん、その認識は甘いぞ!」
「え、ケイさん、どういう事ですか!?」
いや、言ってみただけ……っていう冗談は抜きとして、知っておいて損はないはず。適正外だとしても、大真面目に理由自体はあるしね。
「単純に今回だけで考えるならそうかもしれないけど、今後も同じような緊急クエストが発生する可能性もあるだろ? その時に前例が分かってれば、傾向を掴みやすくもなるからな」
「あ、確かにそうですね! 今後もある可能性は考えてなかったです!」
「……そうか、そういう可能性もあるのか」
「アルさん、どうしたのー?」
「あぁ、いや、今のケイの発言で思いついた可能性があってな」
ん? さっきの俺の言葉からアルが思いついた事? いや、可能性か。……なんかそこまで重要な事を言ったっけ? うーん、どういう可能性……あ、もしかしてこれか?
「アル、それって明日になったら場所によって適正Lvが変わってるとか、そういう可能性か?」
「……相変わらずきっかけがあれば気付くのが早いな。単なる推測に過ぎんが、何日かこれが続くなら可能性としては十分あり得るだろ。そうじゃないと、俺とか雑魚戦しかするなって事になりかねんしな」
「あ、そっか。フーリエさんみたいにLvが上がって他の場所に移動したなら良いけど、アルさんみたいに上限Lvになってたら、戦場自体が変わらないと変わり映えがしなくて退屈になるんだね」
「確かにヨッシの言う通りなのさー!」
「ま、そういう事だ」
「……確かにそれなら聞いておいた方が良さそうかな」
成熟体の敵が普通に沢山いるのであれば進化してしまえばいいんだろうけど、夕方に戦ってた時はタイドプールに敵の補充の波が発生した時に1体の成熟体が現れてた程度だもんな。
殆ど海中で戦ってたみたいだから詳しくは知らないけど、あれで成熟体に進化した人達の敵を全て賄えてるとも思えない。日によって適正Lvが変わるのはあり得ない話じゃないはず。
「そういう事なら、僕が知ってる限りの事を説明しますね!」
「フーリエさん、頼んだ!」
「はい! 僕がいた干潟はネス湖から続いてる川の河口だったんですけど、メインはフィールドボス戦でした。適正Lvは未成体のLv20〜25くらいです」
「ほほう? って事は、残滓じゃなくて瘴気強化種?」
「はい、そうなりますね。基本的に連結PTを組んで、干潟にいるLv20の成長体を引っ張り出して、進化させて戦うって感じでした」
「それって瘴気石はどうしたのかな? 強化済みの丁度いい数があるとも限らないよね?」
うん、そこはかなり気になるところ。フィールドボス戦なら俺らが戦っていた忘れ者の岩場みたいに大量の残滓を相手にする訳じゃないし、進化ポイントも稼げるようにはなってたっぽい。
だけど、フィールドボスへの進化をさせるには瘴気石が必須になる。それも適正Lv20〜25になるなら、そのくらいになる強化度合いの瘴気石が。
「それが、実は色んな貝の中に通常とは違う+20〜24相当になる専用の瘴気石を持ってる未成体の個体がいたんですよ。それが海の人達が海水を浴びせたら出てきたので、それで確保しながらフィールドボス戦ですね」
「あー、緊急クエスト用に専用の瘴気石が用意されてたんだな」
「あはは、なんだか貝の中にあるって真珠みたいだね」
「出現方法もマテ貝みたいなのさー!」
「それって、海の人達にも何か恩恵はあったのかな?」
あー、今のとこまでの情報だと干潟……陸地側のプレイヤーへの敵や進化の為の瘴気石の供給方法だもんな。海の人達にはちょっと得があるとも思い辛いけど、この辺も何か要素があるんだろうね。
「干潟に接している海の敵にもその専用の瘴気石が使えたんですよ。ただ、その専用の瘴気石を持ってる未成体が出てくるのは干潟だけだったので、その回収を陸側でやってギブアンドテイクみたいな感じになってました」
「陸と海でお互いに協力して、初めて上手く回る感じか」
「はい、そんな感じでした。流石に無制限にフィールドボス戦をする連結PTを作る訳にもいかなかったので、お互いに邪魔にならない程度に距離を取っていくつかの連結PTで戦ってましたよ」
「それはもしかして、待ってる人達がLv20の成長体や瘴気石の確保をしてた感じですか!?」
「はい、そんな感じでした。僕は最初の段階で連結PTに入れたので、確保の方はしてないですけど……」
ふむふむ、干潟の方での戦い方は大体把握した。海と陸の方で協力してやれば、効率よく経験値稼ぎが出来るようになってるっぽいね。
「よし、大体分かった! フーリエさん、情報ありがとな!」
「いえ、これくらいは当然です!」
「逆にフーリエさん……サヤとヨッシさんもか。ここでの戦い方は分かる?」
「アルに軽くは聞いたし、待ってる間に見てたから大丈夫かな!」
「うん、その辺は大丈夫」
「僕も多分大丈夫だと思います!」
「ただ、海の中の方は分からないんだけど……そこは問題ないよね?」
「海の中は正直、私達もよく分かってないので問題ないのさー!」
「だなー」
海の中での戦闘の様子は気にならない訳じゃないけど、まぁ海の方に行くと邪魔になりそうだし、行かないって事でいいか。陸側の戦い方さえ把握しておけば、その辺は問題ないはず。
「あ、そういや成熟体の討伐の方はどうなってる? それとフーリエさんのいた干潟には成熟体って出てた?」
「成熟体なら大きなカモメとかサギが来たりしてました! 放置してると色々と横取りされるので、成熟体の皆さんが倒してくれましたね」
「こっちは海の中がメインって感じで、陸の人は他のエリアに移動したかな」
「ほら、待ってる人達の中に成熟体らしき人はあんまりいないでしょ?」
「……そう言われてみたら、確かにそうだなー」
「要するに、ここのは海エリアの人向けの成熟体って訳か」
「そうみたいなのさー!」
この付近に成熟体の人の姿が少ないのはそういう理由か。フーリエさんの情報を合わせて考えると、干潟に陸エリア向けの成熟体が出て、磯場に海エリア向けの成熟体が出てるんだし、戦いやすい場所に移動したんだね。
今回の緊急クエストには他にも何か要素があるかもしれないけど、とりあえず今はそこまで考える必要もないか。日付が変われば適正Lvが変わるというのはただの推測でしかないし、これ以上の情報収集は実際に変化があった時に改めて調べればいいだろう。
てか、ちょっとみんなに聞いておきたい事もあるから、今のうちに聞いておかないとなー。戦闘中に聞いてもいいけど、折角こうして待ってる空き時間があるんだしね。
「話は変わるんだけど、みんなはスクショのコンテストの報酬はどうした?」
「あ、ケイさんとハーレさんは受賞してましたね! それに他の皆さんも写ってるのがありましたし、おめでとうございます!」
「サンキュー、フーリエさん!」
「ありがとうなのです!」
いやー、こうしておめでとうと言われるとなんかむず痒くなるもんだなー! でも、そういう風に言ってもらえるのはやっぱり嬉しいもんだね。
「ほんと、参加しといて良かったぜ」
「あはは、確かにそうかな!」
「思った以上に色々通ってたもんね」
「僕はLv上げに集中してあんまり団体部門にも参加してなかったし、個人部門は全滅だったんですけど、もっとやれば良かったです……」
「ま、そのうち次もあると思うし、その時は参加したらいいと思うぞ?」
「はい、次があった時はそうしてみたいと思います!」
1回限りの開催だとは思えないし、参加しそびれたと思うなら次の機会に色々とやってみればいいさ。まぁどうしてもスクショを撮るのが上手い人が色々と取っていってしまった感じだけど、俺でも偶然取れたスクショで入賞も出来たんだし、チャンスは誰にでもあるはず!
「それで話は戻すけど、みんなは報酬はどうした? 俺はスキル強化の種以外は、3rdで使えそうなのがあったから受け取りは保留にしてきたんだけど」
「俺も保留にしてきたぞ。すぐに必要そうなものが思いつかなかったからな」
「私も温存してきたかな」
「あぅ!? みんな、かなり温存してるのさー!? 私は肉と魚と果物の詰め合わせを貰ってきたのです! ヨッシ、加工はお願いなのさー!」
「あはは、まぁハーレはそんなとこだと思ってたし、それは了解。私は味付けセットを1つ交換してきたよ。塩と胡椒と唐辛子と鶏卵で、それぞれに結構な量があるね」
「おぉ、卵なのです! 塩もあるのです! 塩釜焼きが出来るのさー!」
「うん、それはそのうちやってみないとね」
おー、まさかの鶏卵がここで手に入った! そしてやっぱりヨッシさんは味付けセットを選んでたか。ふむ、この辺のアイテムはトレード可能なはずだから、不足してきたらみんなの報酬から補充していくのもありかもなー。
「私としては油も欲しかったんだけど、まだ手に入らないみたいだね」
「……油か。何か食用油になる植物の種でも絞ってみるか?」
「その辺はやってみたいとこだけど、どこで元になる植物の種が手に入るかが分からないとね?」
「アル、その辺の情報は持ってないかな?」
「あー、悪い。回復アイテムのトレードとかはしてたが、その辺の加工の情報についてはさっぱりだ。……後で灰のサファリ同盟か、モンスターズ・サバイバルか、桜花さんにでも聞きに行ってみるか?」
「それもそだね。そろそろ20時だし、この戦闘が終わってからちょっと行ってみよっか」
「賛成なのさー!」
ふむふむ、まぁ戦闘が終わるのは21時は過ぎるだろうし、そこから1時間はボーナスの恩恵は受けれなくなる。可能そうなら22時からもう1時間戦うという選択肢はあるけど、これはその時の待ち時間次第だな。
あんまり何度も参戦して場所を取り過ぎるのもあれだし、待ち時間が長そうなら今日は充分にLvは上がったから撤退でも良い。まぁまだ群集クエスト……って、進捗状態を見てないよ! あー、21時になったらその辺の確認は必要だな。
「あの、それって僕も一緒に行ってもいいですか!?」
「俺はいいけど、みんなはどう?」
「俺は問題ねぇぞ」
「私も問題ないのさー!」
「私も大丈夫かな」
「同じく私もだね」
「皆さん、ありがとうございます!」
さて、フーリエさんがこれからのボーナス戦の後も一緒に行動する事になったし、そろそろいつでも動けるように待機しておこうっと。スキル強化の種の使い道とかの相談もしたかったけど、それは後でも――
「グリーズ・リベルテの人達! そろそろ交代だから、メンバーが揃ったなら準備をお願いねー!」
「あ、分かったかな!」
「よし、それじゃLv上げに行きますか!」
「「「「おー!」」」」
「お、おー!」
何だかフーリエさんは声を合わせるのに戸惑ってた様子だけど、まぁいつも一緒にやってる訳じゃないしその辺は無理に合わせなくてもいいんだけどね。
「ところで、これってどういう風に交代していけばいいんですか?」
「えっと、戦闘行為を止めてるPTのとこに待ってる順番で行く感じかな? ほら、戦闘を止めてのんびりしてるPTが増えてきてるのは見えるよね」
「あ、確かにそういうPTがいくつかありますね! そこに行って交代をしたらいいんですね?」
「うん、そういう事になるかな」
崖上からの交代手順については把握してなかったから、今のフーリエさんの質問とサヤの解答でどうすればいいのかよく分かった。とりあえず戦闘行為をやめているPTのとこに行けばいい……というか、既にアルがそんな感じで移動中か。
さーて、それじゃ忘れ者の岩場に移動して、交代していこう! それから敵の補充の為に餌になる一般生物を仕留めて、海の方にばら撒いていこうじゃないか!