第966話 群集拠点種の更なる強化
新たに始まっていた群集クエストの開始演出を見るために、ログイン場面へと戻ってきた。出来るだけ素早く確認して戻らないとね。あんまりアルも待たせてはいられない!
「いったん、追憶の実を使わせてくれ!」
「はいはい〜。見たいのはどの演出かな〜」
「最新の群集クエストの開始の演出で!」
「群集クエスト《群集拠点種の更なる強化・灰の群集》の開始演出だね〜。それじゃ再生するよ〜」
「ほいよ!」
そうしてログイン場面にグレイの姿が浮かび上がって、演出が再生されていく。さて、具体的にどういう内容になっているのか……。
『同胞達よ、休養はそろそろ終わりだ。クォーツに頼んでいた事の準備が整いつつある』
[具体的な内容は我が説明しよう。そなたらが今、主に活動している範囲の浄化はほぼ終了した。そこで他の地域への浄化も進める事を頼まれていたが、まだ一部ではあるが、その実行のおおよその目処が立った。だが、そなたらが一枚岩でない事は我も承知している]
あ、ここでクォーツも出てくるのか。まぁこの惑星の浄化を担っているし、グレイやセキやセイアンの手によってただの道具としての機械から、精神生命体へと変わったんだからストーリーには関わってくるよね。
『そして、その他の地域に特に強力な進化を遂げた、5体の黒の暴走種の存在を確認した。赤の群集と青の群集と腹の探り……協議の結果、その黒の暴走種の討伐を成した群集がその地を優先的に扱えると決定した』
[我の力で、その5つの地への転移の経路は確立しよう。だが、その為の力が我だけではまだ足りぬ]
『そこでエニシ、エン、ユカリ、キズナ、ヨシミの5名の群集拠点種の進化を誘発し、経路確立の補助とする。同胞達には彼らの進化への協力を頼みたい』
[我はそなたらに対しては中立の立場とさせてもらう。故に、経路確立に必要な力を満たしさえすれば、その時点で我の方で実行に移そう。だが、完全に独占となれば色々と滞る事はある筈だ。最低限、他の勢力の干渉を受けない安全圏を我の力で用意しよう]
あー、なるほど。新エリアへの転移の経路確立はクオーツの協力と、群集拠点種の進化が必須なんだな。それからそれぞれのエリアにいるボスを他の群集よりも早く倒せって内容が含まれてるから、これが次の競争クエストか。……どんなボスかにもよるけど、早く辿り着いた群集が有利そうだ。
そして、最低限の新エリアでの活動範囲は保証されるんだね。まぁそれが無いと競争クエストに全敗したら新エリアには行けないなんて事にもなり得るし、妥当な処置か。
『その安全圏の確保についてだが、最低でも1名、既に占有を守ってきた群集支援種の者の力を借りる予定だ。すぐに代わりの群集支援種の者は手配するが、そこを赤の群集や青の群集に狙われる可能性がある。そちらも注意してもらいたい』
ん!? これって、ミズキやミヤビみたいに既に群集支援種として占有エリアを守ってるのを送り込むって事か!? そして、そこを他の群集に狙われる可能性がある!?
これって、占有エリアを多く持ってる灰の群集が不利じゃない!? でも赤の群集と青の群集が隣接してるエリアとかはどうなるんだろ?
『また、赤の群集や青の群集の群集支援種は少ないが故に、初めから安全圏の確保に送り込む可能性は高い。今回は複数の場所に分散する可能性が高く、多くの同胞達の協力が欲しいところだ』
あ、灰の群集の占有エリアで無くなるのは、『最低でも1名』だから1ヶ所だけって事もあり得るのか。……これは新エリアの確保が増えれば増えるほど、今ある占有エリアが再び戦場になる可能性が高くなるって感じかー。
くっそ、運営め! 前回圧勝だった灰の群集には、少しハンデを負わせるわけか! うーん、多分だけど今までの占有エリアに関しては、相手の群集は固定になるよな。
そうなると『灰の群集VS赤の群集』、『灰の群集VS青の群集』、『赤の群集VS青の群集』の3パターンか。ここは崩すと公平じゃなくなるから、最低でも3エリア、多ければ倍の6エリアってとこか?
流石に新たなエリアの5ヶ所と含めたら、それ以上はないはず。……6エリアだと、灰の群集の負担が大き過ぎるから、3エリアか? 競争クエストの対象エリアは8エリアが妥当なところ?
『同胞達にはまずは群集拠点種の進化への協力を求めたい。だが、これまで通り無理強いはしない。そして、赤の群集や青の群集との諍いも強要する事はない。それらは各自の判断に任せよう』
うん、ここら辺はいつも通り自由参加って事なんだね。ま、対人戦は嫌な人もいるしなー。でも、群集クエストで群集拠点種の進化については参加する人は多そうだ。
てか、成熟体に進化出来るようになっても、成熟体へとまともに進化させる気はないよね、運営よ! まぁ俺はまだ上限Lvに到達してないし、そっちの方が都合はいいけど。
[最後に我から一言だ。まだ多くの場所で我の力が及ばずに瘴気が漏れ出し、進出の目処が立たない場所もある。これらは我が表面上は浄化を終わらせていたように見せていたのが一因だが、今は瘴気が垂れ流しになっている場所も多い]
あ、そうなんだ? あー、そっか。そもそもプレイヤーは安全な惑星として降り立ってた設定だけど、実際は瘴気に汚染された惑星だったもんな。その影響を受けているのが黒の暴走種だしね。
[だが、そなたらの力を借り、時間はかかるが明確に惑星の浄化は進みだしている。これからも色々とあるだろうが、完全な惑星の浄化に手を貸して欲しい]
あー、なるほど。これは今後も、今回みたいな形で行けるエリアが広がっていく事への示唆かな? うん、今の俺らの活動範囲はあくまでもこの惑星の一部って訳か。
そして、その新しいエリアに行くまでは成熟体での育成はほぼお預け状態で、基本的には未成体の状態で群集拠点種を進化させろと。
それが終わったら、進化して新たなエリアでの拠点の奪い合いと、その際に空きが出来た占有エリアも争奪戦になる訳か。こりゃ色々と忙しいな!
さて、ここまでで演出は終わりみたいだけど、これは自分で見て正解だな。説明してもらうよりも、実際に見る方が確実に早い。
ともかく状況は分かったから、さっさと戻ってアルに色々聞いていこう。他にも聞きたい事は山ほどあるんだしね。
「いったん、サンキュー! それじゃ戻るわ!」
「はいはい〜。楽しんでいってね〜」
「おうよ!」
そうして再びいったんに見送られながらゲーム内へと戻っていく。ふー、追憶の実は演出を把握するのには良いけど、ログイン場面でしか使えないのがちょっとだけ面倒だな。まぁそこは仕方ないけどさ。
◇ ◇ ◇
そして再びゲームの中へと戻り、ミズキの森林である。アルが待ってるのは当然として、サヤは先に戻って……あ、サヤの竜が小型化してるね。そういやまだ小型化の目的Lvは未達成のままか。
えーと、PTメンバーの表示を見た限りではヨッシさんとハーレさんはまだっぽい。
「お、サヤに続いて、ケイも戻ったか」
「ただいまっと。サヤが一番乗りだったんだな」
「ほんの少しの差だから、ほぼ変わらないかな?」
「あー、そうなのか」
まぁ先にログインしてる人が、ログインしてからの経過時間とか分からないもんな。内容的にはそこまで極端な差は出ないだろうし……。
「って、考えてる間にヨッシさんもハーレさんも戻ってきたか」
「ただいまなのさー!」
「ただいま。あれ、ちょっと待たせちゃった?」
「いや、全員大差ないからほぼ待ってねぇぞ」
「でも、アルさんは待たせたのです! 待っててくれてありがとねー!」
「……そこは気にすんな、ハーレさん。さて、話は移動しながらにするぞ」
「はーい! あっ!? その前に忘れてた事があるのです!?」
「え、ハーレ? 何を忘れてるのかな?」
「まだログインボーナスを受け取っていないのさー!」
「「「あっ!」」」
「……あー、俺が声をかけたから、そのまま忘れてたのか」
ハーレさんに言われて初めて思い出したよ、ログインボーナス! 確かに今日の分はまだもらってないわ!
「忘れないうちに貰っておくのかな!」
「あはは、ログインの間が空いたからすっかり忘れてたよ」
「完全に頭から抜け落ちてたなー」
「アルさん、少しだけ待っててー!」
「おうよ」
という事で、手早くログインボーナスを貰っておこう。まぁテスト期間中は貰ってなかったんだからそこまで固執する事もないんだけど、貰えるものは貰っておく!
<ケイが『進化ポイントの実:灰の群集』を使用します>
<アイテム使用により、増強進化ポイント4、融合進化ポイント4、生存進化ポイント7獲得しました>
<ケイ2ndが『進化ポイントの実:灰の群集』を使用します>
<アイテム使用により、増強進化ポイント4、融合進化ポイント4、生存進化ポイント7獲得しました>
ふー、これで今日のログインボーナスは確保完了! さて、みんなも手早く同じ事をやっているし、すぐに終わるはず。
確か共生進化でもインベントリは両方とも操作出来たはず。帰還の実とかの一部のアイテムはログインし直さないと使えなかった気もするけど。
それからみんながログインボーナスを受け取り終わり、再びアルに乗って移動再開になった。ふー、とりあえずアルに色々な情報を聞いていこう!
「さて、聞きたい事は山ほどあるだろうし、順番に説明していくか。まず何から聞きたい?」
「はい! とりあえず灰の群集としての、今の活動方針はどうなってますか!?」
「あ、それは確かに気になるかな!」
「そこからくるか……。あー、とりあえず灰の群集の方針だな。それなら『成熟体への進化より先に群集クエストのクリアを目指せ』だ。あくまでも変わらず強制ではないがな」
ふむふむ、これは掲示板を見てたらなんとなくの理由は分かるけど、はっきりとした答えをもらっておいた方がいいだろう。アルがまだ成熟体に進化してないのもその辺が理由なはず。
「アル、それは成熟体に進化してからだと不都合があるからか?」
「当たりだ、ケイ。成熟体に進化してからだと、群集拠点種への安定した経験値の提供が出来なくなってな」
「掲示板で見たけど、成熟体だと殆ど倒せる相手がいないって本当かな?」
「あぁ、そうだ。ベスタやレナさん辺りが真っ先に成熟体に進化させたが、その上で『他の群集の奴と戦う気がないなら、まだやめておけ』という話になってるぞ」
「……ベスタやレナさんからストップがかかってるのか。てか、それって対人戦が前提!?」
「……あはは、要するに他の群集の成熟体のプレイヤーが一番の狙い目?」
「そういう事になるな。固定位置の成熟体を1体倒すまでに、他の群集のプレイヤーを倒す人数が多くなってる状態だ。そういう事を奇襲ばっかで強引にやり過ぎて黒の統率種に進化して、格好の餌食となったプレイヤーも何人か出たぞ」
「殺伐としてるのさー!?」
それは今の段階で成熟体への進化を止める理由としては充分過ぎるな。そっか、今の成熟体ってそんな状態かー。
「って、なんで格好の餌食? いや、そりゃ黒の統率種になった奴相手に遠慮はいらないんだろうけど……」
「ん? あぁ、そうか。そこも知らないのか」
「アル、どういう事かな?」
「黒の統率種はな……未成体での基準にはなるが、最低でも適正Lvのフィールドボスの倍の経験値が貰えるらしいと言えば分かるか? しかも倒すのに人数も所属も関係無しでだ」
「……はい? え、それって、つまり……」
「格好の餌食なのさー!?」
そうなるよねー!? これ、どう考えても黒の統率種は周りから袋叩きにされるように設計されてる!?
「ま、今の成熟体で経験値が一番美味いのが黒の統率種になった奴って事だ。その辺は流石に成熟体への進化が出始めてすぐの頃だけで、今は落ち着いてはきてるがな」
「だよなー。どう考えても、自分から黒の統率種になるメリットがない」
あ、でも意図的に狙ってやれば経験値を提供する事も……って、戦闘への同意判定になるから、そもそも黒く染まっていかないか。
進化記憶の結晶は前の群集クエスト関係のアイテムだから、多分その手段は無理だろうし……。やるとするなら、誰かに殺される為にボランティアで無差別に襲いまくる? これなら出来なくもない? いや、でも実行する本人に旨みがないか。
「……おい、ケイ。サラッとあっさり無茶な抜け道を見つけてんじゃねぇよ。それ、多分やろうと思えば出来るぞ」
「え、あ、声に出てた!? てか、ただの思いつきだけど、出来るのか?」
「……例えばだが、ベスタが赤の群集や青の群集を無差別に襲いまくって黒の統率種になって、ミズキの森林で無防備にいたらどうだ?」
「……あ、ヤバい。多分、それは普通に出来そう……」
それを実行すれば、代償としてベスタが赤の群集や青の群集から猛烈に嫌われるだろうけど、不可能じゃない。……というか、ある意味では群集の強化に最大限の貢献になる気がする。
「……この手段、まとめに上げとく?」
「あー、実行手段としては書かずに、警戒手段として書いとけ。……場合によっては、それを実行してる群集がいたかもしれん」
「ほいよっと」
確かに人によっては実行してる可能性もあり得るか。……流石にベスタみたいに有名な人がやるとは思えないけど、名が知られていない実力者が実行する可能性は否定出来ない。
十六夜さんみたいに群集へ協力的ではあっても、目立つのを避ける人もいるはずだしね。十六夜さんが今の手段を実行するとは思わないけど。
「……あはは、再開早々、物騒な内容かな?」
「しばらくは成熟体への進化は控えた方が良さそうだね。まぁ、まだLv的に出来ないけどさ」
「まずはLv30を目指すのです!」
「ま、それが良いだろう。あぁ、Lv上限になってなくても経験値の譲渡は可能だが、それは無理にしなくていいぞ」
「まず自分達が最優先かな?」
「そういう事だな。よし、上風の丘へ入るぞ!」
「「「「おー!」」」」
とりあえずまとめにさっきの件は書き終わったから、返事をしておく。さーて、とりあえず今の群集の状態は分かったし、他の事も聞いていきますか!