第930話 ログインで……?
晩飯の時間なので現実の自分の部屋に戻ってきた。晴香は……今回は俺の部屋にはいなかったな。あー、今日はアルの晩飯も俺らの時間に合わせるって言ってたのをサヤやヨッシさんに連絡してるのかも?
まぁ、それなら先に下に降りておくか。今日の晩飯のメニューはなんだろうね? あ、部屋のドアを開けたら思いっきり目の前に晴香がいた。
「兄貴が出てくる方が早かったー!?」
「俺がログアウトする前にいるのは、わざと待ち構えてんのか?」
「んー、そこに特に理由はないのです! あ、サヤとヨッシにはメッセージを送っておきました!」
「理由はないのに、俺の部屋に毎回いるのかよ! ……えーと、とりあえず連絡したなら降りていくか」
「はーい!」
わざわざ俺の部屋に来る必要はないから何か理由でもあるのかと思ったら、理由自体も特にないんかい。まぁ勝手に入ってきているけど、不用意に俺の物を漁りまくってる訳でもないし、その程度なら良いけどさ。
「お母さん、今日の晩ごはんって何ー?」
「今日は唐揚げね。何となく晴ちゃんが食べたそうな予感がしたんだけど、どうかしら?」
「おー!? お母さん、凄いのさー!? 大当たり!」
「うふふ、そろそろ出来上がりだからもう少し待っててね」
「はーい! 楽しみなのさー!」
え、ヨッシさんが弟からの要望で唐揚げを作るって言ってハーレさんが凄い食べたそうな様子だったけど、母さんがそれに合わせて晩飯を唐揚げにしてたとか凄くない?
「圭吾、ちょいと静かにこっちに来い」
このタイミングで俺だけに聞こえるような小声でとうさんが手招きをして呼んでくるってどういう事だ? 何か晴香には伝えたくない話でもあるのか? まぁ一応行くけどさ。
「……父さん、何さ?」
「今のな、母さんが雫ちゃんのお母さんと話してて伝わってきた内容で決めててな。ほれ、晴香は今日は色々あったろ?」
「あー、そういう事か」
「晴香には黙っとけよー」
「ほいよー」
そういや母親同士で面識があるんだった。ヨッシさんのお母さんなら、ヨッシさんが何を作るのかは知る事は簡単だろうし、それが母さんにどういう形なのかは分からないけど伝わったんだろう。
それに今朝の金魚の件で色々あったし、母さんとしても晴香の好物を用意したってとこなのかもね。ま、この辺を晴香に教えるのは無粋だし、父さんが理由を教えてきた意図もわかったから俺も黙っとこ。
「圭ちゃん、運ぶのをお願いー!」
「ほいよっと!」
さて、母さんは揚げたての唐揚げを盛り付け終わったみたいだし、食卓まで運んでいきますかね。……今回は晴香に取られないように気をつけないとなー。
そうして晩飯を食べ終えて、食器の後片付け中である。うん、今日は晴香は俺の皿から狙ってくる事もなく、無事に食べ終えた。いやまぁ、その辺を見越して母さんが唐揚げを多めに揚げてただけの話なんだけど。
「兄貴、先に行ってるねー!」
「おう、これを片付けたらすぐ行く!」
晴香にも食器の片付けをさせたい気分ではあるけど、まぁそっちの方が大惨事になるから諦めよう。そっちの方が別の片付けが発生するから、余計に時間もかかるしね。
◇ ◇ ◇
さて、食器の片付けも終えて、自室に戻ってきたからゲーム再開だ。それじゃ再びログインをして……あれ? なんか少しログインに時間がかかってる気がするけど……あ、ログインが出来て視界が切り替わった。今のログインまでの挙動って少し混雑してる時の感じか?
ちょっと妙な感じはしたけど、とりあえずいったんのいるログイン場面にはやってきた。あれ? ここにいったんじゃなくて、提灯の姿のチョーチがいるって、何かトラブルでもあったのか?
そういやこの場合のいつものいったんの胴体のお知らせって、どうなってるんだ? あ、空中に文字が浮かび上がってるな。
えーと『混雑によるログイン障害のお知らせ』って、やっぱりログイン障害が発生してるのか。……そんなに急に混雑するような事ってあったっけ?
スクショのコンテストの最終日だから、駆け込みでログインしてる人が多いとか? うーん、理由がよく分からないけど、とりあえずチョーチに話を聞いてみようっと。
「チョーチ、なんか混雑してるのか? いったんはそっちの対応?」
「はい、そうなりますね。10分ほど前から急激にアクセスが増加していまして、負荷分散の為に私も臨時でログインの対応に当たらせてもらっています」
「……そんなにアクセスが増えるような何かがあったっけ?」
「申し訳ありませんが、そちらの情報の開示はしかねます」
「え、そうなんだ?」
ふむ、アクセスが増えた理由が教えてもらえないってどういう事だ? 今から10分前なら新しいお知らせでも出て、それがログアウト中の人に伝わったって理由でアクセスが増えたとか……いや、それなら今もお知らせに出てるはず。
もしかして時限的なイベントでもゲリラ的に開催したとか、そんな感じ? うーん、今までそんなイベントって……あー、命名クエストみたいなのがあるんだし可能性としては無くもないか。
でも、今のイベントのない育成期間でそんな事をする? あ、逆か。もしかしたら経験値のボーナスタイムとかがゲリラ的に発生してるとかあり得るかも!?
もしくは緊急の臨時メンテでもあったとか? いや、それならそれで別にお知らせがありそうなもんだけど……。
てか、普通にチョーチに聞いてみれば良いだけじゃん。あー、でもゲリラ的なイベントだとここだと内容を伏せられそうな気もするけど、まぁダメ元で聞いてみよ。
「チョーチ、突発的な何かがあったりした?」
「その件は、詳細はお答え出来ません」
「……なるほど」
ふむ、チョーチは具体的な内容は教えてくれないのか。緊急の臨時メンテなら伏せる理由もないから、どっちかというとやっぱりゲリラ的なものかな?
あ、場合によってはユーザーの間で大々的な動きがあった? 突発的に誰かが何かイベントを始めて、掲示板辺りで話題になって見に行ってる人が多いとかはありそうかも。運営が企画したものじゃないなら、変に言及する事もないかもしれない。
うーん、こういう状況になるならちょっと掲示板でも見てくれば良かったかもなー。まぁゲーム内に行けばサヤとヨッシさんはログインしてるはずだし、先にハーレさんもログインしたから何があったかは分かるはず。
「あ、この状況だとスクショの承諾とかは?」
「申し訳ありませんが、そちらの処理も滞っております。ログインの混雑状況が緩和し次第、そちらの処理は再開しますのでお待ちいただければ……」
「まぁ混雑中なら仕方ないか」
いったんだけじゃ処理し切れない混雑でのログイン障害なんだから、その辺は仕方ないね。とりあえず完全にゲームの方に行ってしまえばログイン障害の影響は受けないだろうし、ササっと始めますか。
「それじゃコケの方でログインをよろしく」
「はい、承りました。お楽しみ下さいませ」
「ほいよっと」
そうしてチョーチに見送られながら、ゲームの方へと移動をしていく。さて、とりあえずみんなと合流しつつ、何があったのかの確認だなー。
運営からのゲリラ的なイベントだと参加しそびれてたら悔しいから、ユーザー開催の何かであってほしいもんだね。
◇ ◇ ◇
さて、ゲーム内にやってきた。あ、小雨が降って……って、一気に雨足が強まった!? あ、雷も鳴りだした!? これはヨッシさんが電気の昇華を取るチャンスだな!
周囲には……特に誰かの姿はないか。まぁログアウトした場所ってヤナギさんのいた位置で
ミズキの森林の南の外れの方だから、そこまで人が集まってくる場所でもない。……って、思ってたら誰かログインしてきたよ。あー、リスの……って、あれ?
「わー!? 思いっきり土砂降りなのさー! あ、ケイさん発見!」
「……ハーレさんの方が先にログインしてたのに、なんでタイミングが一緒?」
「ログイン障害で、整理コードを配られて足止めを食らってたのさー! それで今ようやくログイン出来たのです!」
「あー、なるほど」
俺は運良くチョーチに当たって早くログイン出来た感じで、ハーレさんの方は本格的にログイン障害の影響を受けてたっぽいな。……こうなると俺らにタイミングを合わせてたアルはログイン出来てるのか?
とりあえずフレンドリストでみんなのログイン状態を確認してみようっと。サヤとヨッシさんは……あ、草原エリアでいるっぽい。アルはまだログインしてないみたいだな。
「というか、雨宿りー!」
あ、ハーレさんが土砂降りに堪りかねて、近くの木の下に退避したね。俺の場合は特に雨は影響ないし、むしろコケは元気になるもんな。ステータス的には特に影響はないけども。
「とりあえずサヤとヨッシさんに連絡するか」
「ヨッシの電気の昇華の取得チャンスなのです!」
「後、ログインの混雑の理由だなー。ハーレさん、その辺って何か知らない? 例えば、誰かが大々的にイベントをしようとしてるとか」
「んー? 特に思い当たる事はないのです?」
「……ふむ」
ハーレさんならラックさん経由で何かしら情報を得てる可能性もあるかと思ったけど、特にそんな事もないようである。こりゃ普通にサヤとヨッシさんに聞いてみるのが早いか。
「ともかく、雷が収まる前にサヤとヨッシに連絡なのさー!」
「それもそうだなー」
もしかしたら俺らがログアウトしてる間に機会があって既に取得済みの可能性はあるけど、そうじゃない可能性もあるからね。
今俺らがいる場所はミズキの森林だし、ここならすぐに来れるだろう。あ、そういやログアウトした時はヤナギさんの前だったけど……まぁ、今もまだ近くにヤナギさんがいる訳もないか。
ケイ : 晩飯、食ってきたぞー。
ハーレ : サヤ、ヨッシ、たっだいまー!
ヨッシ : あ、2人共、おかえり。
サヤ : おかえりかな。後はアルだけだね。
ふむ、何かあったならここで言ってきそうな気もしたけど、特に何もなさそう? んー、混雑でのログイン障害の原因がいまいち分からないね。……まぁ今は雷雨の方が急ぐから、その辺を聞くのは後にしようっと。
ハーレ : ヨッシ、電気の昇華は取れたー!?
ヨッシ : ううん、まだだよ。……今、その話題って事はもしかして?
ハーレ : ふっふっふ、今まさにミズキの森林が雷雨になっているのです!
ケイ : ついさっき小雨が雷雨に変わったとこだな。
ヨッシ : それはチャンスだね!
ハーレ : 予定は変わるけど、ミズキの森林で合流を提案します!
ケイ : お、確かにその方がいいか。
まだアルがログインしてないけど、ログインした時点でアルに合流場所の事を伝えれば良いだけだしね。それにアルも俺らと一緒にミズキの森林でログアウトしたんだから、合流もしやすいはず。
サヤ : 私はそれで問題ないかな。ヨッシ、すぐに移動かな!
ヨッシ : そだね。今すぐミズキの森林まで移動するよ。
アルマース : 合流場所の変更か。了解だ。
って、アル!? あ、共同体のチャット画面を見るのをやめて周囲を見てみれば、普通にアルが近くにいた。こりゃちょうど良いタイミングでアルもログインしてきたね。
「アルさん、ただいまなのさー! そして、おかえりなのです!」
「おっす、アル。ちょうどログインしたんだな」
「おう、ハーレさんもケイもな。……ちょっと話したい事もあるが、とりあえずミズキのとこまで移動するか。サヤとヨッシさんと合流するぞ」
「ほいよっと」
「了解です!」
という事なので、ハーレさんは素早くアルの木の巣の中へ駆け登っていき、俺は普通にクジラの背の上に乗っていく。
多分、アルが話したい事って俺が気にしてる事と同じような気もするけど、その辺の事を話すにしても先にログインしていたサヤとヨッシさんと合流した方が良いもんな。
それ以上に今のヨッシさんの電気の昇華を手に入れるチャンスを逃す訳にはいかない。ゲーム内に天気予報なんかないんだから、次にいつ雷雨に遭遇出来るか分からないからなー。今はそっちを最優先!
「んじゃ、行くぜ! 『略:空中浮遊』『略:高速遊泳』!」
少しミズキの位置までは離れているけども、アルの今の移動速度ならそこまで時間はかからないだろう。
「……ケイ、ハーレさん、ログイン障害の件は知ってるよな?」
「まぁお知らせで出てたし、チョーチが出てきてたもんな」
「ケイさんはチョーチだったのー!? 私は普通にいったんだったよー!」
「俺もいったんだったぞ。整理コードを配られて少し待たされたな……」
「え、そうなんだ? 俺はほぼ待たなかったぞ」
「……なるほど、チョーチが担当だとそれほど負荷はかかってないのか」
「そうみたいなのさー!? 私とケイさんのログインがほぼ同時だった謎が解けたのです!」
「あー、そういう感じか」
なるほど、チョーチがいったんのログイン作業の全てを代わりにやってる訳じゃなくて、一部の人のログインをチョーチに振り分けて処理してただけなんだな。てか、ログイン処理をする管理AIが違えば、整理コードの配布も違うんだな。もしくはチョーチへ振り分ける前だったか。
ふむ、チョーチの臨時の出番は始まったばかりで、そこに俺がログインして、少し違和感がある程度の待ち時間で整理コードの配布は無しでログインまで行けた可能性は高そうだ。
「そういやアル、掲示板で何か話題になってる事とかあった? このログイン障害、誰かユーザー主催のイベントでも開催して、それへの参加で起こってるような気もするんだけど」
「晩飯を食いながら掲示板は見てたが、その手の情報は皆無だったぞ」
「あー、そっちは外れか……」
「私は運営のゲリライベントかと思ってます! サヤとヨッシと合流したら確認してみるのさー!」
「まぁ考えられる可能性としては、それが高そうだけど……」
「……それでも掲示板で話題になってないのが不自然だな」
「だよなー」
ログインが集中しているって事は、ゲーム外のどこかにみんなが一斉に早くログインをしたくなる何かがなければ起きないはずだ。でも、その手の情報は今のところなさそう。
公式掲示板じゃなくて、外部の掲示板か、SNS辺りで何かあったか? んー、そこまでいくと情報は把握し切れないし、よく分からん。
これが臨時メンテ明けならこの混雑も分かるんだけど、どうもログイン障害が発生するほどの混雑が起きている理由が分からないんだよなー。
まぁ混雑でのログイン障害なら、順番整理の為に整理コードが配布されるんだから少し時間が経てば解消するはず。今みたいにログイン障害を超えてゲーム内に来てしまえば、基本的に問題はないし。
まぁ混雑の理由は気にはなるけど、今はサヤとヨッシさんと合流するのが先決か。とりあえずヨッシさんの電気の昇華称号を取ってしまわないとね。