第929話 貴重なアイテム
ヤナギさんを見つけてすぐにその場へと向かったハーレさんから、すぐに来た方が良いと言われ、大急ぎで駆けつけていった。いや、厳密には飛んでるんだけどね。
「ケイさん、アルさん、こっちなのさー!」
『あらまぁ、今日は盛況ね。何か欲しいものがあれば、交換するわよ?』
「あ、お願いします!」
「同じくお願いします」
そうしてヤナギさんとのアイテムの取引画面が表示されていく。ハーレさんの声音から、相当良いものがあるような感じではあったけど、一体何が……。
「はぁ!? 『スキル強化の種』が情報ポイント4000!?」
「……こりゃ冗談抜きで破格だな。トーナメント戦を勝ち抜いたのと同等の情報ポイントじゃねぇか」
「そうなのさー! でも、在庫は1個しかないのです……」
まさかここで『スキル強化の種』が出てくるとは思わなかった。……この場にいるのは俺とアルとハーレさんの3人で、他の人は今のところいない。手に入れられるのは誰か1人。
今ここで迂闊に『スキル強化の種』を誰が取るかの相談をしている間に、それが他の人に聞こえて先に取られてもマズいな。今ここで『スキル強化の種』が手に入る状況は同じ群集の人でも教えられない。となれば、共同体のチャットの出番だな。
ケイ : こっちで相談タイム!
ハーレ : この話は聞かれない方が良いのです!
アルマース : だな。そして、出来るだけ手早く済ませた方が良い。
そりゃアルの言う通りだね。呑気に話している間に他の人が来て、誰も交換出来ませんでしたという結果が一番最悪だ。という事で、手早くいこう。
ケイ : 『スキル強化の種』が欲しい人! 俺は欲しい!
アルマース : 俺もだ。まぁ入手機会があるなら、そりゃ欲しいよな。
ハーレ : 私も欲しいのさー! 連速投擲をLv3にしたいのです!
ケイ : あー、ハーレさんは連速投擲を上げたいのか。俺は水の操作か土の操作をLv7にしたいとこだなー。
アルマース : 俺は具体的に今はこれというのは無いな。……ふむ、急ぎでないなら今回は俺は辞退しとくか。他に交換したいものもあったしな。
おっと、ここでアルがあっさりと引き下がったか。てか、他に交換したいものがあったのか。まぁ今は誰が交換するかを手早く決めたいから、そこは後で聞く事にしよう。
うーん、ハーレさんは連速投擲Lv3狙いか。連撃やチャージの応用スキルのLv3の威力は相当高いから、物理の遠距離での連撃でそれはPTとしての手札として欲しいとこではある。……よし、あまり時間もかけられないし、ここは即断即決でいこう。
ケイ : 今回のはハーレさんが交換してくれ。俺は諦める。
ハーレ : え、アルさんもケイさんも良いのー!?
ケイ : 納得して決めたから問題なし!
アルマース : 俺も問題ないが、ケイは随分とあっさり引き下がったな?
ケイ : 遠距離での物理攻撃の強化を優先だよ。魔法はみんなが強化されてきてるしなー。
アルマース : ……確かにそれもそうか。
ケイ : という事で、ハーレさん。誰かに取られない内にサクッと交換してくれー!
ハーレ : そういう事なら了解なのです!
まぁじっくり考える時間的な猶予があるのであれば、もっと詳しく話し合ったけどね。1個しか無い上に、いつ誰が来るか分からない以上は急いで決める必要があったからこれでいい。
あ、ヤナギさんとの取引画面に出ていた『スキル強化の種』の在庫数が0個になった。周囲には他に誰もいないから無事にハーレさんが取引出来たかな?
『あらあら、ありがとうねぇ。貴重なものだから大切に使ってね』
「ヤナギさん、ありがとうございます! それじゃ早速使うのさー!」
おっ、どうやら無事に『スキル強化の種』は交換出来たようだ。そしてハーレさんは手に入れて早々に使っていくか。まぁ上げるものが決まっている以上、使うのを惜しむ必要もないもんな。
「ふっふっふ、これで連速投擲がLv3になった……って、進化の項目が光り出したのです!?」
「って事は、何か進化条件を満たしたのか!?」
「ハーレさん、どんな内容だ?」
「ちょっと確認するから待ってー! えっと、新しく『豪腕連投リス』と『多彩豪投リス』ってのが出たー! 『豪腕連投リス』は連鎖増強Ⅰと連撃系の応用スキルLv3以上が1つ以上が条件で、『多彩豪投リス』は凝縮破壊Ⅰと連鎖増強Ⅰと応用スキルLv3以上が2つ以上が条件です!」
なるほど、連速投擲がLv3に上がった事で条件を満たした進化先が2つ出た訳か。しかも、後の方の『多彩豪投リス』って、多分条件的に上位の進化先だよな。
「私の成熟体の進化先は『多彩豪投リス』で決定かもしれないのです!」
「こりゃハーレさんに使ってもらって正解だったか。良かったな、ハーレさん」
「確かにな。そういやサヤのクマはハーレさんのリスと同じ系統の進化先が出てた感じだし、そっちの目安にもなりそうだな」
「はっ!? そういえばそうなのです!」
アルの言うように、サヤのクマも多彩と名の付いている進化先は出ていたはず。今ので応用スキルLv3以上のスキル……まぁ連撃系かチャージ系のどっちかだろうけど、Lv3以上が2つあれば良いんだな。
確かサヤは爪刃双閃舞がLv3で、連閃がLv2だったはず。……連撃系の強化版が出る可能性もあるけど、まぁそれはそれで悪くはないか。場合によっては2種類出るという可能性もありそうだ。
「とりあえず私の進化先については今はいいのです! 他にも有用そうなのはあるから、チェックするのさー!」
「確かにそりゃそうだ」
「だなー。他のも見ていこうっと」
そういやアルは他に欲しいのがあるって言ってたもんな。真っ先に貴重な『スキル強化の種』に気を取られてて、他に何があるのかを全然見てなかった。
もうちょいじっくりと見ていくとして……お、『部位合成の種』や『特性付与の水』や『属性付与の水』があるんだね。他には細々とした回復アイテムの類とか、投擲用の弾とかがあるのか。
お、『転移の実』も……って、在庫切れじゃん。『空白の称号』もあるけどこれも在庫切れ……。
うーん、ソラさんがヤナギさんの位置を知っていたんだし、もしかしたら『空白の称号』はソラさん達が交換したのかもなー。
この感じだと元々はもっと『スキル強化の種』の在庫もあったかもしれないね。交換の為の情報ポイントが足りなくて、1個だけ在庫が残った可能性もありそうだ。まぁここら辺は早いもの勝ちだし、それは言っても仕方ない。
「ところで、アルさんが欲しいのって何ー!?」
「あー、それか。クジラ用に『特性付与の水』だな。情報ポイント1500なら、まぁ悪くはないだろ」
「え、クジラに特性を追加するのー!?」
「あぁ、打撃を追加して、尾びれで叩きつけるのもありかと思ってな」
「ほほう、確かにそれはありだな」
時々ではあるけど、旋回とかで思いっきり敵を叩きつける事もあるし、尾びれを使った打撃攻撃は実用性は十分ありそうだよね。
んー、俺はパッと思いついたのがあるんだけどすぐに使えるかどうかがすごい怪しいんだよなー。まぁしばらくは温存するとして、他の用途に使うのもありか? あ、でもこれって……。
「そういうケイは何かあるのか?」
「あー、一応思いついたのはある。あくまで希望的観測からの理由になるけどそれでもいい?」
「どんな内容なのか気になるのです!」
「とりあえず言ってみろ」
「まぁそういう事なら……フェニックスが持ってるっていう『魔喰い』の特性が欲しかったりはする。とはいえ、詳細が不明だし、そもそも取れるか分からないのがなぁ……」
しかも『特性付与の水』の在庫は1つだけだから、アルと取り合いになるんだよね。俺の不確定な用途よりも、安定してすぐにでも使えるアルの方に譲った方が良いかもしれない。
「……希望が俺と被るのか。なら、ケイが取ってくれ」
「いやいや、すぐに使えるアルが取ってくれって! そもそも俺の方は不確定な部分が多いしさ!」
「いや、俺はしばらく育成期間があるからな。そこでなんとか次の進化で出せるように育てる事も出来る。ここはケイが持っていけ」
「それなら早めに特性を取って、その期間に応用スキルの熟練度を稼いでた方が良くね!?」
「わー!? ケイさんとアルさんで譲り合いになったのさー!?」
うーん、ここで譲られても、俺の方は不確定な理由だから受け取りにくいんだよな。内容的に博打過ぎるし、アルの方がすぐに実用化が出来る理由だし……。
俺らのテスト期間中にアルが応用スキルを鍛えられる方が絶対に良い。それに『特性付与の水』を手に入れられる機会は今回限りではない。それこそ、運が良ければこういう機会もあるはずだ。
「ケイ、引く気はなさそうだな?」
「今回はアルの実用性を優先で! 博打をするのは、テスト前の今じゃなくてもいい!」
「……はぁ、そこまで堂々と拒否られたら仕方ねぇか。んじゃ、ありがたく取らせてもらうぞ」
「そうしてくれると気が楽だよ」
「ふぅ、無事に解決なのさー!」
これで今回はアルが取る事になったけど、次の機会がもしあれば遠慮なく優先権を主張しよう! まぁその時の状況にもよるけどね。サヤやヨッシさんがいれば、また話は変わってくるし。
「あ、そういやハーレさんは『特性付与の水』は良いのか?」
「私は特に付与したい特性はないから問題なしです!」
「それなら問題ないか」
そうしてアルが『特性付与の水』を交換していった。ま、ハーレさんは既に『スキル強化の種』の交換をしたんだし、もし取りたいと言ってもアルが優先で良いとは思うけどね。それにしても、まぁ在庫数は少ないものの良いものが揃っていたもんだ。
このラインナップで『スキル強化の種』が1個でも残っていたのはラッキーだよなー。地味に他の有用なアイテムは在庫が尽きてるしね。
「てか、地味に『転移の実』が欲しかった……」
「……課金アイテムが、まさかここで手に入るとはな」
「それは私も欲しかったのです……」
何気に凄いラインナップになってるけど、完全に早いもの勝ちだよな、これ。うん、固定位置にいるマサキでの交換が人気な理由がよーく分かった。こりゃ人気も出るわ。
「だが、ここまで豪華だとは知らなかったな。ハーレさん、その辺は知らなかったのか?」
「うん! 今日初めて『スキル強化の種』が出るのを知ったのです!」
「……え、マジ?」
「……知っていれば、もっと探し回ってる奴もいそうなもんだしな」
「そういう事なのです! もしかしたら今までもあったかもしれないけど、これに関しては伏せてる人も居そうなのさー!」
「あー、それもあり得るか」
これはどう考えても凄い豪華なラインナップだもんな。これは流石に同じ群集の人だとしても教えたら絶対に取り合いになるし、俺だってこの内容なら迂闊に内容を広めはしない。
もし誰かに教えるとしても、よく交流のある人に居場所を教える程度の……って、まさしくさっきのソラさんの行動じゃん。あー、色々と納得。いくらなんでもこの内容は迂闊にまともに載せられないよな。
「それで他にはケイが欲しいのはないのか?」
「あー、どうだろな?」
んー、他に欲しいアイテムとしては……アイテム自体は色々あると言えばあるけども、回復アイテムの類は特に困ってないからなー。他に在庫があるアイテムで何か出来そうな事をちょっと考えてみよう。
『部位合成の種』で何か部位でも増やすとか? もし増やすとしたら……うーん、ロブスターの尻尾でも2本にしてみる? あんまり意味を感じないな、その増やし方。
もしくはコケに何かの部位を……コケに何を増やす? ふむ、フーリエさんのヘビとの融合種のコケみたいに牙を増やすみたいな事は出来そうな気はする。だけど、それを何に使うかと言われれば……正直、思いつかない!
常に遠隔同調が使えるなら考えなくもないけど、今の状態では見た目が少し変わる以上の意味はなさそうだな。うん、『部位合成の種』は却下。
今のところコケの属性は増やす気はないし、ロブスターはそもそも属性を持たせる気がないから『属性付与の水』も却下。
投擲用の弾はそもそも俺には必要ないし、その辺も却下だなー。うーん、欲しいと思うやつが根本的に在庫切ればっかか。
「特に必要そうなのはないし、今回は諦めるかー」
「あぅ、残念なのです……」
「ま、共同体としては強化にはなったし、問題ないぞ! それに今はサヤとヨッシさんもいないんだから、俺が取れてなくても問題なし!」
ぶっちゃけ、サヤとヨッシさんがいない状況で俺ら3人全員が強化出来ましたというよりは、今の状況の方が良いだろうしね。ヨッシさんはともかくサヤは寂しがり屋なとこもあるしなー。
「おっと、そろそろ7時だな」
「あー、ホントだ!?」
「それじゃ一旦解散にするか。晩飯を食った後の合流は草原エリアだな」
「ほいよっと」
「了解なのさー!」
という事で、晩飯を食べる為に一旦解散である。その後からは草原エリアで集合して、望海砂漠まで行って、その地下にある大空洞まで行って、そこでLv上げだね。
◇ ◇ ◇
そして、いったんのいるログイン場面へとやってきた。えーと、今回の胴体部分の内容は『スクリーショットコンテストのエントリーは本日24時までとなっております。エントリーがまだの方はお忘れないようにお願いします』となっている。
まぁ今日のお知らせだとそういう内容になるよね。とりあえずエントリーを混雑する前に終わらせたのは、多分正解だとは思うけど。
「いったん、スクショの承諾は来てる?」
「今は特にないよ〜」
「……あれ? 意外だな」
てっきり合同撮影会で撮られたスクショが沢山来てるかと思ったけど、意外とそうでもなかったらしい。あー、でもちょっと考えたら何となく理由が想像出来た。
「あれか、スクショの撮影の大詰めで、承諾に回してない人が多いのか」
「そういう傾向はあるみたいだね〜」
「やっぱりか。って事は、明日辺りに一気に来そうだなー」
「僕は処理能力が足りるかが心配だね〜」
「あー、そういう心配もあるのか……」
うん、普段よりも一気に承諾の申請の量が増えそうではあるから、いったんの処理が追いつかないという可能性も出てくるんだな。……もしかすると、明日は久々にチョーチが出てくるかもしれないね。
まぁこの辺はプレイヤーの1人でしかない俺にはどうしようもない事だから、運営さんに頑張ってくれと言うしかないね。運営さん、ファイト!
「とりあえず、晩飯食ってくるわ」
「はいはい〜。いってらっしゃい〜」
そうして、いったんに見送られながらログアウトをしていった。さーて、今日の晩飯は何だろうな?