第918話 垣間見える実力
フラムの無神経な発言は無かった事にしようかと思ったけど、それはそれでなんだか腹立たしいので今後もあいつを雑に扱う理由の一覧に加えておくとして……。
とりあえずこれで第1陣は出発した。……ここでみんなの暇潰しの演出をする事で17時半の時点で俺らも出発が出来るとはいえ、なんか妙な事になってきたものである。
それはそうとして、ルストさんが呼びかけ続けてはいるけども誰も名乗り上げはしておらず、未だに弥生さんに追いかけられていた。うん、声だけは薄っすら聞こえてたけど、もう普通にスルーしてた。
というか、ルストさんって前より確実に強くなってる気がする。元々ルストさん自身がとんでもなかったのに、それを上回る弥生さんに抑え込まれてたけど、ここまで逃げ続けるようになったんだな。
「なんというか、ルストさんが対人戦に興味を示していなくて良かった気がする」
「おや、ケイさん。それはどうしてだい?」
「……そこを敢えて聞いてくるんだ、シュウさん」
「いやいや、やっぱり他の群集の人の評価って気になるじゃないかい?」
「……まぁ、そりゃそうだけど」
シュウさんが言ってる事も分かるんだけど、そこをわざわざ聞いてくるって事は何かある? というか、そもそもシュウさん自体は対人戦って出てくるんだろうか?
「お、弥生さんに動きがあるな」
「おっ、どれどれ?」
シュウさんからの問いかけに答えるかどうか悩んだとこだし、良いタイミングでアルが弥生さんとルストさんの様子の話題を振ってくれたね。
おぉ、縦横無尽に足場の小石を飛び移りつつ、銀光を放つ弥生さんの大型化した爪の一撃が……おぉ!? 直接ルストさんを狙うんじゃなくて、ルストさんの手前にあった岩を砕いた!?
その岩……というか砕けて石になったものを即座に操作したのか、ルストさんの木の根が着地する部分に置くことでバランスを崩させたね。……これだけ動き回ってて、まだスキルを使う余地があるのが凄いな。
「っ!? なんの!」
「よく逃げたけど、まだ甘い!」
「……くっ、ここまでですか」
「私に勝とうなんて、まだまだ早い!」
バランスを崩してから即座に根を伸ばしてバランスを戻そうとしたルストさんの判断も早かった。だけど、それを先読みしてたように全身をしならせる様に尻尾で伸ばした根を更に払った弥生さんもとんでもないなー。どんな早技ですかねー?
というか、どう考えてもこんなとこで、しょうもない理由で発生していていいレベルの動きじゃない気がする。今、本気で大暴れされても困るけど……。
「どうやら片付いたみたいだね。ケイさん、答えは聞けなかったけど……ルストが参戦しないという決めつけは止めておいた方がいいよ。もちろん僕についてもね?」
「え? ちょ、シュウさん、それってどういう――」
「ルスト、そこまでだよ! 弥生、わざわざ魅せる戦い方をご苦労様」
「シュウさん、それは内緒ー!?」
「……くっ、やはり手を抜かれていましたか! というか、誰も演出に来てくれないのは何故ですか!?」
あ、シュウさんに思いっきり話を遮られてしまった。……ルストさんやシュウさんが、対人戦には参加しないとは考えない方がいい? うーん、対人戦には興味を示していないルストさんが出てくる可能性もあるのか?
シュウさんは弥生さんとセットで出てくると思って……いや、待て。それも思い込みで、単独で動く事もあり得るのか? そもそも今のシュウさんの発言自体がどこまでそのまま鵜呑みにしていい内容なんだ!?
「……ケイ、無駄に考え過ぎんな。そもそも警戒させる為の誤情報って可能性もある」
「……あ、そういやそうか」
アルが小声で言ってきたけど、確かにそれも否定出来ない可能性だな。……直接的には戦いには出ないけど、出ると匂わせておいて警戒させるという作戦はあり得る。
ただ、ジェイさん相手なら盛大に警戒するんだけど、シュウさん相手だと何とも微妙なラインだな。……それも含めて考え過ぎは良くないか。なるようになれだ!
「あ、ケイさん達も片付いたみたいだね。さっきのフラム君の無神経な発言はごめんね」
「私達の方からも謝っておきます。申し訳ありません」
「そこは弥生さんやルストさんに謝って貰う必要はないけど……って、あの状況で俺らの事を把握してた!?」
あれ? ちょっと待って、ルストさんも弥生さんも思いっきり動きまくってたよな。その状況で、さっきの俺らの会話を把握するって無茶苦茶な事をしてないか!?
「あぁ、ケイさん、それは単純にPT会話だよ」
「……それでも結構無茶じゃない?」
「あはは、まぁ途中からは余力があったからねー!」
「私は名乗りを上げてくれる人を見落とさない様に気を張っていましたから」
……うん、それでも充分過ぎるほどに無茶な事をやっていた気がする。冗談抜きで次に開催される対人でのイベントでは弥生さんとは当たりたくない。
ルストさんが出てくるかは不明だけど、弥生さんが出てくるのは既に確定している。あれだね、弥生さんの相手はベスタにしてもらいたい!
あ、そういや明日のタッグ戦がレナさんと弥生さんが組むんだった。そこで是非とも弥生さんの全力での戦闘を見ておきたいところだなー。
「シュウさん、一旦区切りがついたみたいだし、おいら達の出番っすかね?」
「あぁ、そうなるね。煮付けさん、次はお願いするよ」
「了解っす! やるっすよ、みんな!」
「「「「「おー!」」」」」
そうして今度こそ『青の野菜畑』の面々の出番がやってきて、気合が入っている様である。でも、すぐには始めずになんだか決めてた位置に移動しているようである。
パッと見た感じでは等間隔に並んでいってるみたいだし、どういう演出をするのかは決まってるっぽいな。どんなのをやるんだろ?
「……ところで何故、誰も手伝ってくれなかったのでしょうか?」
「本気で言ってるの、ルスト!?」
「冗談であんな事はしませんよ、弥生さん!」
「……冗談でやってて欲しかったなー」
あ、弥生さんの猫の力が抜けていって、どっか遠いところを見てる。まぁ弥生さんの気持ちは分からなくもない。どう考えても、ルストさんが暴走してただけだもんな。
「ルスト、この後に発火草の群生地へ一緒にスクショを取りに行く周囲の人達……今回で言えば、灰の群集の『グリーズ・リベルテ』の人達と青の群集の『青の野菜畑』の人達から同意を得ていないのが明白な状況で、そこに加われると思うかい? 今の僕らはそういう枠組みだよ?」
「あっ、それは完全に失念していました……! 確かにそれでは無理ですね……」
「ルースートー? そう分かったなら、言うべき事があるよねー?」
「や、弥生さん!? す、すみませんでした!」
「謝るのは私にじゃない!」
「そ、そうでした! 『グリーズ・リベルテ』の皆さん、『青の野菜畑』の皆さん、すみませんでした!」
わぁ、久々に見た気がするよ、ルストさんの土下座をしてるっぽい木の姿。……そう何度も見るような光景ではないような気もするけど。
「面白いものが見れたから問題ないっすよ!」
「まぁ、それは俺らも同意だなー」
アル達も特に異論はないみたいだし、煮付けさん達『青の野菜畑』の人達も問題ないみたいだから、ルストさんが謝ったという事で終わりにしようじゃないか。
正直なところ人数的な空きはあったし、元々誰と組む事になるかも分からない状態で参加してるから別に今の理由で拒否するような内容じゃないけどね。……まぁルストさんの独断てとこは確実に良くない部分ではあるか。
初めの立候補段階で名乗りを上げていなければ、既に始めていた班分けの邪魔になる可能性があるほうが高いだろうなー。まぁ途中からは見るのを面白がってたという理由が一番多そうだけど。
「ごめんね、みんな。はぁ……ルスト、普通に私達の赤のサファリ同盟の誰かを呼ぶ事も出来たんだよ?」
「何故それを先に言ってくれないんですか、弥生さん!?」
「ルストが聞く耳を持たなかっただけでしょうが!」
ルストさん、同じ共同体からの協力は普通に考えよう。……今まで何度か見たけど、暴走した時のルストさんって周囲が見えなくなってるよね。
てか、よく見たらいつの間にやら集まってきてる人が増えている気がする。まぁ基本的にこの手の集まりは途中参加OKって言ってたし、集合時間を過ぎてから集まって来てる人もいるんだね。
あ、灰の群集の空飛ぶクジラが並んでるとこがある。あれはシアンさんとセリアさんかな? そして、後から来た人達の案内をしてるのがレナさんっぽい。
そのレナさんのとこに、琥珀さんが近寄っていってる。ふむ、この感じは総指揮はレナさんがやってる感じ? うん、まぁ全群集で顔が広いレナさんが適任ではある気はするよね。
「レナさん、そろそろ第2陣の出発をしようと思いますが、予定通りスクショの撮影は第1陣と入れ替わりで問題ないですね?」
「うん、それで問題ないよー! あ、琥珀さん、ついでで悪いんだけど既に終わった人を対象に、ここの演出を交代しても良いって人も募ってきてもらえる? 一応、わたしの方でも後から来た人達の中から募集しとくからさ」
「あ、はい、分かりました。もし居なかった場合はどうしましょうか?」
「んー、その可能性は低そうな気はするけどね。まぁその場合は主催者側から人手を出すって事で。弥生もそれでいいー?」
「レナ、私はそれでいいよー!」
「それではそうなった時に改めて誰がやるかを相談という事にしましょうか」
「うん、そういう感じでよろしくー!」
「はい、分かりました。それでは第2陣、出発しますよー!」
クジャクの琥珀さんが先導する感じで第2陣の集団が出発みたいだね。さっきまでアーサーや水月さんがやっていた班分けはクジャクの琥珀さんがやってたのか。
軽く見た感じで各群集が6人以上はいそうだから、多分3群集で合計6PT、連結PT2つ分で1陣にしてるみたいだね。……正直種族がバラバラで大きさが全然違うから、今ここに何人集まってるのかが一切分からないよな。
まぁその辺も数えている青の群集の人がいるっぽいけど、知らない人だなー。共同体の所属の表示が『青のサファリ同盟・本部』所属になってるから、青のサファリ同盟も動いているっぽい。
「さぁ、準備は万端っす! みんな、良いっすか!?」
「「「「「おー!」」」」」
「それじゃ始めるっすよ! ご覧あれ、6色の魔法花火の乱れ打ちっす!」
その煮付けさんの宣言と共に、それぞれが別々の属性の魔法を発動していき、曇り空の中に6種の色が散らばっていく。
へぇ、爆発魔法の指向性を一方向にするんじゃなくて、全方向により拡散する様に発動してるのか。しかもそれぞれが少しずつタイミングをズラし、属性も変え、それでいて色のが偏りがないようにしたりしている。
「こりゃ凄いなー!」
「6属性の魔法の花火なのさー! これは撮り逃したら、後悔するのです!」
「あはは、確かにね。私も撮っておこうっと。そういやこれって全体的に爆発を広げるように操作してるみたいだね」
「え、そういう操作も出来るのかな!?」
「戦闘中だと威力が分散するだけだからあまり意味はないが、より拡散させる操作も可能ではあるぞ」
そうして曇り空の岩山の拓けた場所で、燃え広がる火属性、散らばる水属性、荒れ狂う風属性、破裂する土属性、広がる雷属性、砕け飛ぶ氷属性の6属性の爆発魔法が次々と続いていく。
同時に同じ属性で揃える事もあれば、全員がバラバラの属性でやっている時もある。これ、絶対に『青の野菜畑』で特訓してそうだよな。
……というか、この精度なら普通に戦っても強いかもしれない。『青の野菜畑』は要警戒にしておこうっと。
「あ、ケイさんー! あと1巡くらいやってもらった辺りで出発にするから、そのつもりでいてねー!」
「レナさん、了解だ!」
さて、俺らの出番はもう1巡あるっぽいから、そこら辺は頑張っていきますか。……そういや、ツキノワさん達も来るみたいな事を言ってたけど、見当たらないね。
流石にこの大人数で、割といるクマやリスやヒツジを見つけるのはちょっと厳しいかー。シオカラさんのトンボはそう多くはないけど、サイズが小さい方だから見つけにくいよな。
「わー!? 大遅刻だー!? もう1戦やろうってツキノワが言うから!」
「おいこら、アリス!? お前だって賛成してただろ!」
「喧嘩はそこまでだよ。レナさん、遅刻は大丈夫ー!?」
「およ、黒曜さん達? 他にも次々とやってきてるから、そこら辺は問題ないよー! まぁ順番は最後になるけど、そこら辺はご了承をー!」
あ、ツキノワさん達が離れたとこから大声で叫んでるのが聞こえてきた。なるほど、遅れて今来たばかりなら見当たらなくても当然か。
「あー、良かった! あ、アルマースさん、発見! あれって、何やってるんだろ?」
「ん? アリス、どこだ?」
「ツキノワ、あっちあっち! なんか知らないけど花火をやってるとこから少し離れたとこ」
「レナさん、あれって何をやってるの?」
「流れでそのまま発生した、待ってる間の時間潰しを兼ねたスクショの演出大会だねー! 丁度いいタイミングだし、遅れて来た人達の中でやりたいって人はいるかなー? 17時半からメンバーを変えてやるから、今から募集していくよー!」
そんな風にレナさんが、増えてきている大勢の人達に向けて呼びかけていく。……なんというか、こっちの待ってる時の撮影会の方も楽しいイベントになってきている気がする。
「行動値が尽きたっす! 交代、お願いするっすよ!」
「ほいよっと。煮付けさん達、凄かったぞ!」
「特訓した甲斐があったってもんっすね! とりあえずおいら達はああいう事が出来るから、発火草の群生地での演出の参考にして欲しいっす!」
「あー、その辺も考えなきゃな。ま、それは移動中にだな。弥生さん達もそれでいい?」
「今は全員が揃って話し込む訳にもいかないし、それでいいよー」
よし、それぞれのPTの代表者の同意は得られたし、そこについては移動中に考えよっと。間欠泉に、棚田に、さっきの連携の素晴らしい魔法での花火に、スクショの撮影技術は飛び抜けて凄そうな赤のサファリ同盟の3人か。
どう組み合わせたらいいかは、移動中にみんなで話し合って決めないとね。さて、その前にやるべき事をやりますか!
「2回目の演出、やってくぞ!」
「「「「おー!」」」」
とりあえず、17時半までは半ば流れで始まったこの時間潰しの演出をやっていくまで! これでも団体部門には参加出来るんだからありがたいよね。