第８２４話 足りない人数の募集
モンスターズ・サバイバルの肉食獣さんを筆頭に、俺の方へと注目してきている。紅焔さんとザックさんが先に着いてたんだからそっちからの説明でも良い気もするけど……無駄に目立つ様な状況にしてしまったんだから、この状況は自業自得か。
「えっと、これから上風の丘に行ってフィールドボスの連戦をやろうかと――」
「ほほう？ この面子でボスの連戦をやんのか！ って事は、フル連結PTには足りないからその募集が目的だな！」
「食いつき早いな、肉食獣さん！？」
「いやいや、ケイさん。そこはちょうど俺らモンスターズ・サバイバルの方でも計画してたとこだぜ？」
「え、マジで？」
「おう、マジだ、マジ！ 灰のサファリ同盟はLv上げはそう熱心って訳じゃねぇが、戦闘もガッツリやるって方針で分かれた俺らはそうじゃねぇからな！」
「あー、そういやそうだっけ」
モンスターズ・サバイバルは共同体の機能が実装されるまでは灰のサファリ同盟と同一の集団だったけど、共同体が作れるようになってから分かれた共同体だもんな。
そりゃ戦闘もガッツリやるならLv上げは重要だし、俺らと同じようにそっちに専念しようというタイミングだってある訳だ。というか、ザックさんは勘とか言ってたけど、普通にこれを知ってたんじゃ……？
「へぇ、ちょうど良いこともあったもんだな！ ん？ どうしたよ、ケイさん？」
「あー、いや、何でもない」
ちょっとザックさんの方を見てみたけど、今の反応を見る限りでは知ってた雰囲気ではないっぽい？ うーん、まぁそこは重要な内容でもないからスルーで良いか。
「翡翠さん、実際のところはどうなの？」
「……ヨッシ、それにみんなも気になる？」
「気になるのさー！」
「……確かに気になるかな？」
「ん？ 実際のところも何も、俺は普通に知らなかったぜ？」
「……ザックは少し静かにしてて」
「お、おう」
何か今度は翡翠さんの方が注目されてるけど、実態としてはどうなんだろ？ さっきはスルーしようと思ったけど、こうやって聞く状態になったなら知っておきたいとこだよね。
「……私は知らなかったけど、ザックは時々単独行動もあるから分からない。……もしかしたら無自覚に聞いていたのを無自覚に思い出してただけ？」
「……あはは、確かにそれはありそうだね」
「あー、何か話してるとこ悪いんだが、ザックなら普通に知ってるはずだぞ……？ 少し前に来てた時に計画してたからな」
「あれ、そんな事あったっけか？ 確かにここにトレードに……って、あの時か！」
「……まぁザックに直接話してた訳じゃねぇからな」
肉食獣さんの言葉から考えると具体的な経緯やタイミングとかは分からないけど、翡翠さんの推測が大正解って感じだね。意識せず覚えていた事が、勘という形で表面化していたんだな。
「そもそも、その辺は紅焔さんとソラさんも知ってんじゃねぇか？」
「え、そうなのか？」
「いや、時々Lv上げに行ってるのは知ってるけど、いつも夜じゃね？」
「……そうだね。基本的に夕方は生産を優先してた筈だし、やってても募集はしてなかったと思うけど……？」
「あー、そういう認識か。まぁ概ね間違っちゃいないんだが、夕方でやってねぇのは単純にモンスターズ・サバイバルだけじゃ人数不足になる事が多いからだぜ？ 夜なら人数が足りるから、外部に募集をする必要がないだけだ」
「なるほど、それは僕らの認識が少し間違ってたみたいだね。それなら条件さえ揃えば夕方でもLv上げをする意思自体はあるって感じなのかい？」
「おう、そういう事だ。まぁ流石に全員が離れる訳にはいかねぇがな」
ふむふむ、これはどうやらモンスターズ・サバイバルから参戦してくる可能性がありそうな流れだね。あー、でも他にも参加したそうにしている人もいそうな感じだな。これ、どうしよう？
「そう言えばこれは聞いておかねぇと駄目だな。ケイさん、Lv上げの適正想定Lvはいくつだ？」
「あー、未成体のLv20〜25くらいのつもりだな」
「……少し想定Lvは高めか。他の募集要件は何がある？」
「今の時点で獲物察知持ちが2人いるけど、PTに1人ずつにしたいからもう1人は獲物察知持ちは欲しいとこだな。後は＋10以上の瘴気石の所持者と、もし居たらLv20の成長体を持ってる人ってとこか」
「ま、妥当なとこか」
確かにこれは重要な情報ではあるし、募集の内容としては必須条項ではあるな。てか、Lv20代前半でも想定Lvとしては高めなのか。
まぁ俺らはなんだかんだでログイン制限に引っかからない上限に近いくらいはやってるもんな。そういう意味ではLv自体も高めにはなるんだね。……テスト期間でその辺は落ちそうではあるけどさ。
「で、今の人数は8人って事で良いのか？ アルマースさんが居ないみたいだが、まだ来てない奴もいるのか？」
「夜まではアルさんは不在なのです！ ちなみにグリーズ・リベルテのメンバーは予定としては6時までなのさー！」
「……なるほどな。紅焔達やザック達も同じくらいで終わりか？」
「いや、俺らはその後も問題はないぞ。なぁ、ソラ？」
「まぁ途中で食事には行くけど、そこはどうとでも調整は出来るからね」
「俺も似たようなもんだな！ な、翡翠！」
「……うん、そうなるね」
俺とハーレさんに限ってなら7時まででもいけるけど、サヤとヨッシさんがいない状況でハーレさんと2人で全力でLv上げをするのもあれだしね。6時からはスキルの強化と夜からの情報収集に時間を使うとしようか。
「……ふむ、俺が決めちまうのもあれなんだが、こういうのはどうだ？ 6時まではケイさん達をメインにしつつ、同じ時間くらいまでが限界で今参加したいってメンバーでやっていく。そこから時間的に問題ないメンバーと交代していくって感じだ。6時を過ぎたら、俺らの方で指揮は引き継ぐぜ？」
「あー、確かにそれもありか」
集まってる人達の中には想定Lvを聞いて残念そうにしていた人も結構いるけど、ちょうど適正Lvなのか参加したそうな人もいるもんな。
そういう人にも考慮しつつ、途中からは肉食獣さんが仕切ってくれるのなら悪い話でもないね。
「みんな、どうする？ ぶっちゃけ結構良い条件だと思うけど」
「私は賛成なのさー！」
「同じくかな！」
「私も賛成だね」
「……私もみんなと同じ意見」
「反対する理由が思い付かねぇぜ！」
「僕も異議はないよ」
「俺もソラ……ってか、みんなに同意だぜ！」
ふむ、とりあえず今の確定メンバーからは反対意見は欠片もなしだな。これなら肉食獣さんの提案に乗っていくので問題はなさそうだ。
「おし、俺の提案で問題なさそうだな。あー、今はPT構成はどうなってる？」
「えっと、俺、サヤ、ヨッシさん、ハーレさん、ザックさん、翡翠さんで1PT。もう1PTが紅焔さんとソラさんになってる」
「ほうほう、そういう感じか。なら紅焔さんのとこに瘴気石持ちを加入して、もう1PTに獲物察知持ちを含める感じが良さそうだな。そんな感じで俺の方からメンバーを決めてくが、問題ないか？」
「そこは肉食獣さんに任せた！」
「おし、それなら任されようじゃねぇか！
今はミズキの森林の湖の畔にある野外炊事場を仕切っているモンスターズ・サバイバルのリーダーである肉食獣さんに任せるのが最善だろう。俺らが6時で抜けた後も継続してフィールドボスの連戦を続けていくなら尚更だ。
てか、既に連戦をしているところに交代として参戦っていう手段もあったんだなー。でも、これについてはタイミングとか交代する人数も関係してくるから俺らには不向きな気がする。
「おい、おまえら聞いてたな！ 獲物察知持ちと＋10以上の瘴気石持ちを優先しつつ、メンバーを8人までに絞り込め！」
「「「「「「「「「「おう！」」」」」」」」」」
「後から交代もあるから、晩飯とかの時間も考慮に入れろよ！」
「お、面白そうな事をやってんじゃん？」
ん？ 何か聞き覚えのある声が聞こえてきたけど……あ、カインさんか。うん、ここでカインさんは割と見かけるから、今こうやってやってくるのは不思議でもないな。
「カインか。お前も参加していくか？」
「あー、参加したい気はするけど後からの交代でいいや。それより、たまには肉食獣が参加してきても良いんじゃね？」
「……流石に人数が少ない時にリーダーが離れる訳にもいかんだろう」
「やっぱり肉食獣はそう言ってくるよなー！ ケイさん……よりはハーレさんか。ほらよ、ハーレさん！」
「わっ！？ 『受け止め』！ あっ、＋20の瘴気石だー！？ え、なんで！？」
「俺の昨日のトーナメント戦での報酬だよ。それやるから、肉食獣を連れていってやってくれ」
「……どういうつもりだ、カイン？」
「ゲームなんだから、まとめ役ばっか引き受けてないでたまには思いっきり暴れてこいってな！ その間は俺の方でここの様子は見とくからよ」
「……そう言われてもな」
ふむ、この様子だとどうも肉食獣さんとカインさんは結構親しい感じか？ カインさんは共同体には無所属っぽいけど、一緒に加工とかしてそうだからその繋がりとかかもね。
「肉食獣は微妙に頑固なんだよなぁ……。おーい、モンスターズ・サバイバルのメンバー、何とか言ってやってくれ！」
「肉食獣、いつも頼りにさせてもらってるし、たまには俺らの事は気にせず行ってこい！」
「俺らの方を優先して、Lvが低めなんだから良い機会だろ！」
「『聖火の人』の厚意を無駄にすんなよー！」
「おいこら、ドサクサに紛れて余計な事は言わんで良いわ！ 俺の名前はカインだよ！」
「そういう事なら、あれも渡すか」
「あれって、あれか！ 確かに＋20の瘴気石があって、肉食獣も行くなら俺らの秘蔵を出すか！」
「おっしゃ、そうするか！ 肉食獣、晩飯でログアウトするまで戻ってくんなよ！」
ほほう、肉食獣さんはどうやらモンスターズ・サバイバルのメンバーからはかなり慕われてるみたいだね。どうやら肉食獣さん自身は普段から共同体のメンバーの事を優先しているっぽいなー。
それにしてもモンスターズ・サバイバルの秘蔵って何だろ？ ＋20の瘴気石と関係してくるって事は……あ、もしかしてそういう事か！？
「ソラさん、悪いんだがちょっと降りてきて、これを受け取ってくれね？」
「僕かい？ それは別に良いけど……あぁ、なるほど」
「俺らの秘蔵の成長体Lv20の黒の暴走種のツバメだ。＋20の瘴気石と一緒に使ってくれよな！」
「……確かに受け取ったよ」
そんな風にソラさんがモンスターズ・サバイバルのメンバーのキツネの人から少し緑っぽい成長体のツバメを受け取り、それを咥えていた。……まぁすぐに取りに行けて、捕獲しておけそうなのはソラさんだったからな。
＜ケイが成長体・暴走種を発見しました＞
＜成長体・暴走種の初回発見報酬として、増強進化ポイント4、融合進化ポイント4、生存進化ポイント4獲得しました＞
＜ケイ2ndが成長体・暴走種を発見しました＞
＜成長体・暴走種の初回発見報酬として、増強進化ポイント4、融合進化ポイント4、生存進化ポイント4獲得しました＞
てか、これでも発見報酬って貰えるんだ。流石に一人一度きりだろうけど、黒の暴走種を確保しておくだけでもこういうメリットがあるんだな。
それにしてもカインさんもモンスターズ・サバイバルの人達も太っ腹だね。自分達が使う訳でもないのに、遠慮なく貴重な物を渡してくるとは思わなかった。
「……お、お前ら。……そういう事なら、今回は甘えさせてもらおうか」
「おう、こっちは任せて行ってこい！」
「あぁ、任せるぞ、『聖火の人』！」
「そこは普通にカインって言ってくれても良いんじゃね！？」
「ふん、ちょっとした意趣返しだ。……ありがとな」
「なに、良いって事よ！」
なんか口を挟む余地が無かったけど、カインさんと肉食獣さんが仲が良い事がよく分かった。いやー、こういう信頼関係って、見てて気分が良いものですなー。
「よし、もう少しで5時だからそこまで時間はないから急ぐぞ！ ケイさん、すぐに参加者は決めるからもう少し待っててくれ」
「ほいよっと」
そうして肉食獣さんが筆頭になって、これからやるフィールドボスの連戦に参加者を決めていく。さっきの黒の暴走種のツバメは＋20の瘴気石で単独でフィールドボスに進化させられるし、既に確保済みで今は紅焔さんによってトカゲとタケノコは確保出来ている。
現時点でフィールドボス戦を2連戦出来るのは確定だな。それにフル連結PTで戦うんだから、行動値や魔力値にも余裕はあるはず。
「そういやちょっと思ったんだがよ？ 後で交代しながらやるんなら、そこで参戦確定な人が成長体を探して持ってくるってのもありじゃね？」
「……ザック、それだと交代した後の人が同じような恩恵が得られない可能性があると思うよ？」
「あー、そういやそうなんのか」
「いや、単なる野良でやるならそうだが……ザック、それは良いアイデアだ」
「え、肉食獣さん、マジで？」
「あぁ、その辺は共同体のメンバーで調整しながらやれば良い話だ。……場合によっては小規模な共同体と連携するのもありだな」
「あー、確かにその手があったか！」
ふむふむ、確かにそれならフル連結PTは戦闘のみに集中して、他のPTとかで成長体の確保とかも出来る訳か。
その手段だと、ちゃんと成立しなければ損する人も出てくるけど、上手く噛み合えば討伐効率は良くなりそうだね。
「おっしゃ、俺は移動操作制御の取得ついでにそっちをやってくか！」
「獲物察知鍛える良い機会かも！」
「上風の丘は丁度適正Lvだから、そのついででも良ければやるよー！」
「持っていったら瘴気石と交換ってのもありか？」
「お、それもありだな」
「よし、んじゃとりあえず参戦から外れる方はそういう方向性でやっていくか！」
「「「「「「おう！」」」」」」
あ、なんか俺らの連結PTに入れなさそうな人達にも目的が出来たっぽい。これはちょっと思ってた展開とは違ってきてるけど、良い方向に違ってる感じだな。
若干俺達が蚊帳の外になって決まっていってるのが気にはなるけど、まぁ悪い結果にはならなさそうだから気にしないでおこうっと。
とにかくフル連結PTのメンバーが確定したら、上風の丘まで行ってフィールドボスの連戦開始だ！
