第821話 夕方からのLv上げ
フーリエさんとの模擬戦というか特訓が一段落ついたという事で、模擬戦自体は中断という事で終了にした。わざわざフーリエさんを一方的にぶっ倒すような真似をする必要性もないからね。
<『模擬戦エリア』から『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』に移動しました>
という事で、模擬戦が終わりエンの近くへと戻ってきた。あー、そういや今日は夜の日だから夜目の発動をし直さないといけないか。
フーリエさんもスキルが解除状態になってるから、普通のコケ状態だしね。
<行動値上限を1使用して『夜目』を発動します> 行動値 80/80 → 79/79(上限値使用:1)
ふー、とりあえずこれで良しっと。周囲を見てみれば模擬戦を始める前よりも人が集まっているみたいだし、変に混雑しない内にさっさと移動してしまうか。みんなも灰のサファリ同盟の本拠地にいるだろうしね。
「あ、フーリエさん。俺は灰のサファリ同盟の方に行くけど、フーリエさんは時間とか大丈夫か?」
「それは……ちょっと待ってもらっていいですか? シリウスがもうログインしてるはずなので、少し連絡を……って、あれ? シリウスが灰のサファリ同盟の本拠地にいる?」
「……もしかして、俺らのを見てたか?」
「そうかもしれないです! ケイさん、一緒に行ってもいいですか?」
「おう、問題ないぞ」
「それじゃお願いします! 『群体擬態』!」
「……それにしても、その姿ってヘビっぽくはないよな」
「それ、よく言われます! あ、そういえばケイさんはヘビが苦手だって聞きましたけど、大丈夫なんですか?」
「あー、微妙に変な感じで苦手生物フィルタはかかってるけど、極端に見え方が違う訳じゃないっぽいんだよな。でもまぁヘビっぽさは薄いから問題ないぞ」
「それなら良かったですけど……ちなみにどう見えてるんです?」
「んー、ウネウネと動く細長いコケの塊? あ、ちなみに牙の部分は尖った枝みたいに見えて、目はなんか黒い石っぽい感じ」
「その部分って苦手生物フィルタ、必要あります!?」
「……ぶっちゃけ必要ないと思うわ」
「……ですよね」
まぁ他のヘビに対して苦手生物フィルタが切れたら困るからオフにも出来ないんだけどね。でも、弟子になったフーリエさんに対して種族的に苦手意識を持たずに済む状況はありがたいな。
おっと、ちょっと雑談をしてたら共同体のチャットから早く来てとの書き込みがあったね。とりあえず急ぐとして、フーリエさんも乗せて行くなら水のカーペットの方でいいな。
<行動値上限を2使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します> 行動値 79/79 → 77/77(上限値使用:3)
人が多めだから邪魔にならないように少し人が少なめな位置に移動してから水のカーペットを展開して、移動準備は完了! 俺が乗れば、すぐにフーリエさんも乗ってきたし出発しますか。
「んじゃ、行くぞ!」
「はい!」
そうしてフーリエさんを水のカーペットに乗せて、上空へと飛び上がっていく。森林深部での移動はやっぱり飛んでいくのが楽だね!
それほど時間もかからずに元俺らの特訓場であった、今は灰のサファリ同盟の本拠地になっている場所へと辿り着いた。
てか、前に見た時よりも更に魔改造されてるな!? 崖上にあった畑の範囲も広くなってるし、池には水草というか癒水草が大量に栽培されている。しかも一般生物の川魚やカニとかが普通にいるっぽい。
それに風呂っぽい小さな池の数も増えてるし、岩を切り出して作ったっぽいもので蓋がされているよ。これってデンキウナギを閉じ込めて……いや、何かが暴れているような音が聞こえるぞ。もしかしてデンキウナギじゃなくて、捕獲してる成長体か!?
そして、アルが植わっていた場所にいるという話だった蜜柑の不動種のカンキツさんの目の前には岩を使った椅子や丸太を並べて、中継が見やすいような感じになっていた。
あ、ハーレさんと紅焔さんとソラさんが並んで丸太の上で寛いでる場所もある。なるほど、あれが実況席か。なんというか、前よりも快適そうになってるね。
それにしてもハーレさんは見つかったけど、サヤとヨッシさんはどこだ……? あ、崖上で崖に腰掛けているクマと、その頭の上に止まってる独特な氷と毒と電気の模様があるハチ姿を発見!
あれはどう見てもサヤとヨッシさんだけど、その隣……というか崖上まで登れる杉の木の枝にトンビが止まってるな。
「あ、ケイさんが来たね」
「おーい、フーリエ! こっちだ、こっち!」
「あ、そこにいたんだ、シリウス!」
「ケイもこっちかな!」
「って、シリウスさんとサヤとヨッシさんは一緒にいたんかい!」
まぁ別に一緒に居て問題がある訳じゃないし、別々に探す必要が無くなって良かったか。とりあえず崖上の方にいこうっと。
「合流完了……って言いたいけど、ハーレさん達はまだ実況をやってんの?」
「ううん、それもう終わったかな」
「……それなら実況席っぽいとこでなにやってんの?」
「それはただ単純にケイさんが来るのを待ってただけなのさー!」
「おわっ!? びっくりした!?」
背後から紅焔さんの背中に乗っていきなり飛び上がってくるんじゃないよ、ハーレさん! ……てか、紅焔さんと一緒にこういう風に驚かすのを狙ってたな!? あ、その後ろからソラさんも飛んできたか。
「作戦は大成功だな、ハーレさん!」
「ふっふっふ、紅焔さんのおかげなのさー!」
「……おーし、2人とも反撃される覚悟はいいな?」
「その前にケイさんに苦情なのです! 今回、ケイさんは全然攻撃してないし、やった事の説明も無かったのさー!」
「あー、それはまぁ……」
フーリエさんの攻撃の幅を広げさせる為に、俺の方は攻撃を全然してなかったのは間違いないからなぁ……。中継の約束としては、俺がやる事を俺自身が説明するって内容だった。
うーん、フーリエさんを鍛える方向性としてそれはやりにくかったからハーレさん達に解説をぶん投げたけど、流石に何も言わずにそれはまずかったか。
「あはは、ケイさん、そこは心配ないから安心してくれていいよ。今のは紅焔とハーレさんが悪ふざけする為の口実でしかないからね」
「あ、そうなのか、ソラさん?」
「まぁそういう事だな! でもこっちに完全に解説をぶん投げたんだから、少しくらいは反撃させてくれよ?」
「そうそう、そうなのさー!」
「……まぁそこは悪かったよ」
模擬戦をしていた俺の声はハーレさん達に届くようになってたんだから、フーリエさんへの特訓の方針を決めた際に一言くらい伝えておけば良かった話ではある。ま、俺にも落ち度があるんだし、少し驚かされた位は仕方ないか。
「あれ? でも僕にヒントを出してくれた辺りでは、コケ潰しの対処方法の説明とかしてましたよね?」
「あー、あれは見に集まってた人達がかなり参考にしてたぞ。動き自体は無かったから、実況も控えめで解説は特に無かったしな」
「あ、そうなんだね、シリウス」
「……ほう?」
シリウスさんの言葉を聞く限りでは、俺が全くやれていなかった訳でもないか。……そうなってくると、少し話が違ってくるね。
「その辺はどうなんだ、紅焔さん、ハーレさん?」
あ、ちょっとハーレさんと紅焔さんの方を凝視してみたら、2人とも思いっきり顔を逸らした!? その辺の部分は自覚ありかい!
「……まぁ俺に落ち度がなかった訳でもないし、これくらいならいいけどさ」
「「ほっ」」
「……怒られずに安心するくらいなら、やらなければ良い気もするけどね」
「ソラ、それは言わないのが約束ってもんだぜ!」
「紅焔さんの言う通りなのさー!」
「……紅焔、ほどほどにしないと僕が怒るけど良いのかい?」
「ハーレも、私が怒るよ?」
「「……悪ふざけが過ぎました」」
なるほど、抑え込める人がそれぞれに居たか。まぁこの件については、ここで水に流すとしようか。あんまり長々と話していたらLv上げをしにいく時間も減っていくしね。
「あ、そういやラックさん達には挨拶をしといた方がいいか?」
「えっと、これから元々予定してた中継をやるから多分手が空いてないと思います! 少しその時間をズラして私達に合わせてくれたんだよー!」
「え、マジで!? ……そりゃちょっと悪い事をしたか?」
まさか元々の予定をズラして、俺らの中継を優先してくれていたとは……。あー、だから条件付けがあって、講義にしたいって話だったのか。
「それについては大丈夫だと思うかな」
「フーリエさんを灰のサファリ同盟からの成長の代表例にしてたし、ケイさんのフーリエさんの鍛え方そのものも参考にしてたからね」
「フーリエ、思いっきり目立ってたぜ!」
「シリウス、そうだったの!?」
「こんなとこで嘘は言わないって。そんで、この後にやる中継って操作系スキルの初心者講座らしいぞ? どうするよ?」
「……それは見ていくしかないね!」
「さっきの中継を見てる感じだとそういうと思ったぜ!」
ふむふむ、苦手な操作系スキルも特訓すると決めたフーリエさんにとっては丁度いいタイミングだな。やっぱり灰のサファリ同盟はこういう形でのサポートが手厚いですなー。
「フーリエさんとシリウスさんはこのままここで中継を見ていくんだな?」
「はい、そうします!」
「俺はフーリエの付き添いですね!」
「ま、2人とも頑張れよ!」
「「はい!」」
<フーリエ様がPTから脱退しました>
ここからはフーリエさんは別行動になるという事でPTからは脱退して、シリウスさんの上にフーリエさんが乗って、次の中継の準備をカンキツさんの前へと降りていった。
という事で、今度は俺らの予定を決めていかないとな。アルからはテストの関係もあるから4人でLv上げをしてくれて良いという話にはなってるから、Lv上げをしていくのは確定だ。
「さて、これからLv上げをするとして……昨日の続きでカイヨウ渓谷に行く?」
「ん? ケイさん達、アルマースさんは不在だけどこれからLv上げをすんの?」
「あー、俺らは来週からしばらくログイン出来ないって言ったじゃん? その分だけ、アルの了承ありでアルがいない時にも本格的に経験値を稼いどこうって話になってる」
「でも、みんなで行った事のある場所に限定してるのさー!」
「……なるほど、そういう事かい」
「そういう事になってるから、適正Lvのカイヨウ渓谷が候補かな?」
「他の適正Lvの所はまだ行ってないもんね」
ぶっちゃけ適正Lvの所は他にも候補地はあるにはあるけど、初めて行く場所はみんなでって決めてるからね。他は多少の融通をきかせていきたいけど、ここは一緒にやっているから譲りたくはない部分ではある。
「あー、カイヨウ渓谷か……。晩飯までは一緒にやろうって誘おうかと思ってたんだが、流石に俺らには場所が悪いな……」
「はっ!? 紅焔さんとソラさんはこの後に予定はないのですか!?」
「うん、ないよ。でも、僕と紅焔はカイヨウ渓谷……というよりは海エリアへの適正は決して高くはないからね。纏海を使うにしても、スキルの関係で効率が良くないからさ」
「あー、紅焔さんもソラさんも火属性だもんな」
厳密には2人とも物理攻撃も持っているけど、海エリアでは火魔法がまともに使えなくなるのが痛いよな。折角、予定が空いているなら一緒にやりたいとこだけど……。
「……あっ」
「ヨッシさん、どうした?」
「えっと、今思ったんだけど、アルさんが居ないと海で電気魔法を使うのは微妙じゃない?」
「「「……あっ」」」
ちょ、確かにそりゃそうだ!? 俺も含め、みんなもそれぞれに海水魔法も海水の操作も持ってるけど、おまけ程度にしか育ててないぞ……。
うーん、俺のロブスターは進化先を出すという目標達成済みではあるから、俺がその役目を引き受けるか? そこにあまり向いていないとはいえ、アンモナイトと戦えた紅焔さんとソラさんに纏海をしてもらって、物理攻撃を担当してもらうという手も……。
「あっ! それなら海面のカモメをメインで狩るのはどうだ? 紅焔さんとソラさんなら、空中戦は得意だろ!」
「あー、そりゃ確かにそうなんだし、それがいけるならそうしたいんだが……」
「……今日は夜の日だからね。海面で襲ってくるのは、カモメじゃなくて海中から飛び跳ねてくる魚だよ」
「あー、マジか!」
「……中々、都合よくは行かないかな」
くっそ、カモメ相手で空中戦はいい案だと思ったんだけど、ここで昼の日と夜の日の違いが影響してくるとは……。やっぱり海中で俺が海水魔法と海水の操作を担当して行くのが無難か?
うーん、折角紅焔さんとソラさんの予定が空いていて、一緒にやる気になってるんだしな。全員にとって戦いやすく、それでいてみんなのスキルを強化していくような方法でもあれば良いんだけど……。
「あ、ソラ! メンバー的にあれが良いんじゃねぇか?」
「あれって……あぁ、確かにこのメンバーなら良いかもしれないね」
「……紅焔さん、ソラさん、あれってなんだ?」
「「フィールドボスの連戦!」」
「……フィールドボスの連戦?」
えーと、聞いたはいいもののいまいち状況が把握しきれないでいる。フィールドボスってそんなに連戦をしていくようなものだっけ?




