第817話 灰のサファリ同盟の不動種
さて……まぁサヤとヨッシさんとハーレさんが覗き見ていたのは良いとしておこう。とりあえず待ってたメンバーが揃ったし、やる事をやっていきますか。
「そういやサヤ達はいつログインしたんだ?」
「少し前に共同体のチャットで呼びかけたんだけど、気付いてないみたいかな?」
「……え? あっ」
言われて気付いたけど、思いっきりチャットの欄が光ってるじゃん! うっわ、完全に紅焔さんとソラさんと話してて気付いてなかった……。
「それで反応がないから座標を見たら紅焔さんとソラさんと一緒にいたのに気付いて、近くまで来てたんだよね」
「そしたらフーリエさんが見えたから隠れたのさー!」
「なんでそこで隠れる!?」
「普通に声をかけてくれていいんですよ!?」
「……あはは、次からはそうするかな」
「まぁ姿を見て隠れるってのも失礼だしね。ごめんね、フーリエさん」
「弟子入りの邪魔はしないようにと思ったのさー! でも、次からは普通に声をかけるねー!」
「はい!」
うーん、サヤ達としても会話の内容的に変に声をかけると邪魔になるから遠慮したって感じみたいだな。まぁそういう配慮があったなら変にどうこう言うような内容でもないか。……他の群集の盗み見なら即座に殺っても良いだろうけど。
「おし、とりあえず約束通り模擬戦をやるか!」
「はい! よろしくお願いします、!」
うん、フーリエさんの返事の気合は充分だな。さーて、フーリエさんはコケをメインにしたヘビだし、基本的に物理攻撃が主体なはず。
とりあえずフーリエさんに全力で挑んできてもらって、そこで気になったところを指摘する形で模擬戦をやっていきますか。ぶっちゃけLv差があるから、とんでもなくフーリエさんのプレイヤースキルが高くなければ勝負にはなりそうにないしね。
「へぇ、ケイさんとフーリエさんはこれから模擬戦なんだね?」
「特に今はする事ねぇし、ソラ、見ていくか?」
「うん、僕もちょうどその提案をしようと思ってたところだよ。そういう事なんだけど、2人ともいいかい?」
「俺は別に良いけど、フーリエさんは?」
「多分僕がケイさんに鍛えて貰うだけになりますけど、それでも良ければ僕は構いません!」
「問題なしだな。……ふむ、それなら中継ありでいくか」
それじゃ桜花さんにでも頼んで……って、そういやもうログインはしてるのか? 桜花さんがログインしてなきゃそもそも頼みようがないし、その場合だと他の不動種の人に頼む必要が出てくる。
とりあえずフレンドリストを確認して……あー、まだ桜花さんはログインしてないっぽい。まぁいつでも絶対に居る保証なんかないし仕方ないか。
「……桜花さんに中継を頼もうかと思ったけど、今はログインしてないな」
「あー、桜花さんはいないのか。となると他の不動種の人に頼むとして……あー、俺の知り合いの方も今は全然駄目っぽい。ソラの知り合いで誰かいねぇか?」
「……僕の方も駄目だね」
ふむ、紅焔さんとソラさんの知り合いの不動種の人もどうやら今はログインしていないようだね。うーん、流石に普段交流してなくてあんまり馴染みがない人に頼むのも頼み辛いんだよな。
間接的にでも交流があって、中継の出来る不動種のいそうなところ……。うん、普通に心当たりはいくつかあるけど、向こうの都合次第ではある。ま、聞くだけ聞いてみるか。
「ハーレさん、灰のサファリ同盟の本部にいる不動種の人に中継を頼めたり出来る?」
「向こうの予定次第だと思うけど、ちょっとラックに聞いてみるねー!」
「おう、任せた!」
さて、可能性が一番高いのは灰のサファリ同盟だけど、だからといって必ずしもやってもらえる訳でもない。他の候補としてはオオカミ組やモンスターズ・サバイバルとかもいるけど、場合によっては依頼って形になるかもなー。
「灰のサファリ同盟の不動種と言えば、カンキツさんですね!」
「……カンキツさん?」
カンキツさん……間違いなく名前を聞いた覚えはある。灰のサファリ同盟の不動種で、名前を知っているのなら会ったこともあるような気も……?
森林深部にいる不動種の人で灰のサファリ同盟に入ってる人もそれなりにいるから、どこで会ったんだっけなー!?
「ケイ、カンキツさんは灰のサファリ同盟の本拠地で不動種をやってる人かな」
「あっ、崖のすぐ側で登り降りをしやすくもしてる人か!」
「ケイさん、それは杉の別の人。カンキツさんはアルさんの初期位置に植わってる蜜柑の不動種の人だよ」
「思いっきり間違ってた!?」
くっ、そういえばアルが植わってた場所に蜜柑の木の人はいたし、崖の登り降りになってたのは確かに杉の木の人だったはず。……そうか、灰のサファリ同盟に不動種が1人な訳がないし、思いっきり混ざってたよ。
かつては俺らの特訓場だったけど、最近はあまり灰のサファリ同盟の本部の本拠地には行ってないからその辺の記憶があやふやになってるなぁ……。
「……サヤとヨッシさんは、普通に把握してるんだな?」
「まぁケイさんとハーレが晩御飯でログアウトしてる間に行く事もあるからね」
「ハーレの弾の補充とか、ヨッシの調理済みアイテムのトレードとかしてるかな。基本的に桜花さんがいない時に行ってるかな?」
「あー、なるほど」
そっか、俺とハーレさんがいない間にサヤとヨッシさんの2人で灰のサファリ同盟の本拠地に行く事もあるんだね。……凄く当たり前な話ではあるけど、桜花さんも食事とかでログアウトはしてるんだろうな。
「そういやフーリエさんはカンキツさんとは結構交流があったりするのか?」
「はい、何度もお世話になってます! 初心者講座とかを仕切ってましたし、模擬戦が実装されてからは中継を絡めて解説もしてました!」
「ほほう、そういう感じなのか」
ふむふむ、要するに灰のサファリ同盟の本部で中継関係や初心者向け講座を担当している人なんだね。……今ログインしていれば、これからの中継をしてくれそうではあるな。
「ケイさん、ラックに聞いたら中継は大丈夫だってー! ただし、戦闘内容を講座にしたいから出来ればケイさんがやった行動を自分で説明しながらやってほしいって要望です! 急な話だから、ケイさんの行動を解説出来る要員がいないようです!」
「なんか微妙に気になるところがあるんけど!?」
俺がする行動を俺自身で解説しながら模擬戦をやれってか。いやまぁ、フーリエさんを鍛える過程でそれは普通にするつもりだったから問題はないけどさ。
ま、急な話を持ちかけているのは俺らの方だし、そういう講座にする条件で引き受けてくれると考えればいいか。
「フーリエさん、元々そんな感じでやるつもりではあったけど、それでも良いか?」
「はい、大丈夫です!」
「ほいよっと。ハーレさん、それで良いって伝えてくれー!」
「はーい! あ、ラック、今の条件で――」
さて、これでみんなが中継を見れる環境は整ったかな。……具体的に灰のサファリ同盟の誰が中継をするかは分からなかったけど、まぁ話題に出てたカンキツさんがやる可能性は高そうだよね。
「おっしゃ、ソラ!」
「……僕らで解説をやるんだね?」
「お、分かってんじゃん!」
「まぁ今の流れから考えたらそうなるよ。僕が解説かい?」
「いんや、解説は俺がやるから、ソラはゲストで補佐を頼んだ!」
「うん、問題ないね。それじゃそれでいこうか」
お、どうやら解説とゲストに紅焔さんとソラさんが加わるみたいだね。ハーレさんは間違いなく実況をするだろうし、あっさりと解説要員が確保出来たよ。
まぁヨッシさんはやろうと思えば出来るけどあまりやりたがらないし、サヤについては完全に苦手としている部分だからね。
「おー!? 紅焔さんとソラさんがやる気なのです!?」
「おう、やる気だぜ! ハーレさん、その辺を伝えといてくれな!」
「既にフレンドコールは切っちゃったのさー!?」
「あぁ、それじゃ仕方ないね。どっちにしても中継を見に行く訳だし、そこで直接話をしようか」
「それしかないのです!」
ま、これから中継場所に行くんだからその辺の話は現地に着いてからでもどうとでもなるだろう。さて、これで中継を行う環境自体は整った訳だ。
「おし、それじゃ始めるか」
「はい!」
「あ、ケイ、待ったかな! PT申請!」
「おっと、そうだった」
俺とフーリエさんはエンの樹洞へ行き、サヤ達は灰のサファリ同盟の本拠地に行って少し距離が離れるんだから、ここはPT会話を使えるようにしておいた方がいい。
とりあえずサヤがPT申請を出してくれたので承諾っと。
<サヤ様のPTに加入しました>
<フーリエ様がPTに加入しました>
<紅焔様のPTと連結しました>
おっと、今いる全員が一緒の連結PTになるようにしたんだな。でも今は7人いるから、1PTでは収まらなかったのは仕方ないか。
「それじゃ私達は移動だね。ハーレ、灰のサファリ同盟の本拠地で良いんだよね?」
「うん、それで良いよー! 中継はカンキツさんがしてくれるのさー!」
「あ、やっぱりカンキツさんだったかな」
「おーし、んじゃ誰が先に辿り着くか競争すっか!」
「その提案、乗ったー! スキルでの強化は無しでどうですか!?」
「え、競争するの?」
「負けないかな!」
「……まぁ対戦でもこういうのなら別にいいかもね」
あー、何だか思いっきり競争が始まりそうではあるけど、これって誰が勝つんだろう? 種族的に飛べる紅焔さんとソラさんとヨッシさんが有利そうだけど、サヤも走るのは早いもんな。
一番不利そうなのはハーレさん? その割には自信満々って感じだけど……あー、ハーレさんのリスは物理型だから移動速度は決して遅くはないか。
「おっしゃ、それじゃケイさん、合図を頼むぜ!」
「え、あれ? ほんとにやるんだ?」
「ほいよっと。ヨッシさん、頑張れ!」
「……あはは、まぁいっか」
何か俺の方に競争開始の合図を任されてきたけど、まぁこういうのは競争する本人達がやったら駄目だしな。
ヨッシさんがちょっと戸惑う気持ちも分かるけど、他のみんなはやる気だからね。特に勝っても負けても何もないみたいだし、ここは気楽にやっておけばいいだろう。
てか、俺が混ざってたらスキル無しなら俺が間違いなくビリだな。ロブスターで森林深部の中を早く移動とか出来ないからね! うん、俺の参加なしで良かった。
「それじゃ、位置について……よーい、スタート!」
その俺の掛け声に合わせて、紅焔さんとソラさんは森の上へと飛び上がり、ヨッシさんは普通に飛び、サヤは地面を駆け出し、ハーレさんはエンの上へと凄い勢いで登っている。
えーと、ハーレさんの狙いがいまいち分からないんだけど……って、あっ! ハーレさんが紅焔さんの上に飛び移ったー!?
「ちょ、ハーレさん、それありかよ!?」
「ふっふっふ、スキルは使ってないからありなのです!」
「……まぁ確かにそれはそうかもね?」
「あ、ソラ!?」
「よく考えたら、崖がある分だけ私は不利じゃないかな!? あ、でも竜の飛行はスキルじゃないから問題ない……?」
「……あはは、そうかもね!」
うーん、みんなの姿はあっという間に遠くなって見えなくなっていったけど、まぁ楽しそうだからいいか。……まぁハーレさんが紅焔さんの上に飛び乗ったのはズルいとは思うけどね。
さて、それじゃ俺らの方も準備していきますかね。まずは模擬戦の項目を開いてからフーリエさんに模擬戦の申請をしてっと。
<フーリエ様に模擬戦の申し込みをしますか?>
ちゃんと確認画面が出たし、これでフーリエさんからの承認を待って……。
<フーリエ様が模擬戦の申請を受諾しました>
よし、これで模擬戦の受付は完了っと。順番待ちの表示は出てこなかったから、特に待つ必要は無さそうだな。
「フーリエさん、エンの樹洞の中へ移動して設定していくぞ」
「はい!」
そうしてフーリエさんを出したままになってた水のカーペットの上に乗せて、エンの樹洞の中へと入っていく。
ふむ、模擬戦の順番待ちは無かったけど、割と待機中の人が多いっぽい? そうなるとここで今待機中の人達はトーナメント戦で自分の順番が来るのを待っているんだな。あ、時々歓声を上げてる人がいるから、待機中にトーナメント戦の他の試合を見てる感じか。
「昨日よりは人数は少ないですけど、トーナメント戦をしてる人は多いですね!」
「あー、そっか。フーリエさんは昨日もここに来てたよな。俺はまだトーナメント戦には参加してないんだけど、雰囲気的には昨日もこんな感じ?」
「昨日の方が混乱してる人は多かったし、もっと騒がしかったですね」
「なるほどね。1日経って、少し落ち着いたってとこか」
流石に実装初日と2日目では様子が違うみたいだな。ま、新機能を試したいというのもあっただろうから、初日はどうしても混雑するよね。
みんなの競争はそれほどかからないだろうし、とりあえずそれまでの間に――
「ふっふっふ、私の勝ちなのさー!」
「ハーレさんに異議ありだ! 飛び乗ってくるのもあれだけど、到着寸前に翼を握って墜落させるのなしだろ!?」
「僕は反則だとは思わないよ。自力で走る事ってルールも無かったし、飛べる僕らの方が有利な設定だったからね」
「……あはは、まぁ細かいルールを設定しなかったし、崖下からスタートは不公平ではあったもんね」
「崖は竜で飛んで登ったけど、時間ロスが酷かったかな……!」
「うぐっ!? ……確かに条件が不公平だったか」
「まぁそういう事だね。今度やる事があれば、ルールはちゃんと設定しよう」
「そうなのです! 実は普通にやれば私が圧倒的に不利だったしねー!」
「……結果的にはサヤがビリだったけど、普通にやればそうだよね」
うん、とりあえず思ってたよりも早く競争の決着はついたらしい。ハーレさんは自分が圧倒的に不利な状況だとわかった上で、それを盾にするつもりで紅焔さんの上に飛び乗ったっぽいなー。
「あ、ケイさんー! 到着したから、設定が終わったら声をかけてねー!」
「ほいよっと」
さて、みんなが灰のサファリ同盟の本拠地に到着したみたいだし、今度こそ模擬戦の設定をしていこうっと。特訓の内容を考えつつ、エリアや天候とかを決めていくか。




