第811話 タッグ戦、出場者決定戦! その4
カインさんは自らの周りを火の操作で火で固めて燃える森の中を警戒しながら進んでいき、その進行方向からは猛烈な勢いで風を纏ったレナさんが凄い勢いで駆けてきている。
「おぉーっと! これはレナ選手も燃え盛る森の中に自ら突っ込んできていたー!? しかもレナ選手の移動速度が上がっていますねー!」
「魔力集中を切って、自己強化に風属性の付与へと切り替えているな。燃えている森からのダメージはお構いなしか」
「……そういやこの火でレナさんは死ぬのか? 普通ならダメージ判定は火を着けたレナさんのものになるよな?」
直接制御はしていないけど、通常時はレナさんが火を着けた以上はダメージ判定はレナさんのものになるはず。……そういう仕様で進化の為に死ににくいようになっているはずだけど、模擬戦だと違う可能性もあるから確認しておかないとね。
「まぁ気になるところだろうな。この辺は通常のエリアの仕様とは違い、模擬戦では火を着けた本人もダメージを受けるようにはなっているぞ。そうでなければ火を着けた側が有利過ぎるからな」
「なるほど、そういう仕様か。了解っと」
「そのように火傷の状態異常になりながらも、レナ選手は火の中を突っ走っていくー! カイン選手は接敵するまでに気付く事が出来るのかー!?」
まぁそりゃ自分が火を着けてたら無事なら、有利不利が明確に出るからそういう調整にはなるよな。通常時だと自分自身にダメージを与える手段が非常に少ないけど、模擬戦では自分の攻撃がキッカケで自分が死ぬという事もありそうだ。
てか、レナさんはまだ倒れていない燃えてる木にも駆け上ったりして、周囲を確認しつつ再び森の中へと突っ込んだりしている。……やる事が凄いな、レナさん。
「時々森の上に出ているのは、カインの位置を特定する為か。これはカインは自分の火の操作が仇になっているな」
「……今の状況でカインさんの位置って特定は出来るもんなのか?」
「火の操作をしつつ火の中を動けば、どうしても不自然な部分は出るからな。まぁそれなりの観察力が必要になるから簡単とは言えないが……」
「……レナさんなら出来るって事か」
「あとは、カインは火の操作で自分の視界を少し邪魔しているな。まぁ流石に投げ飛ばしてレナから距離を取ったのに、全く行動値の回復もせずにそのまま突っ込んで来るとは思わないだろう」
「……確かにそりゃそうだ」
今のレナさんはプレイヤーが操作する事で発生する些細な違和感を見極めて、それを元に移動方向を決めて、一気に畳み掛けようという算段なのだろう。
でも、ある程度カインさんの選択肢を限定したとはいえ確定させられた訳ではないし、カインさんが逃げた方向によっては全く的外れな事になっていたはず。今回は今のところ上手くいってるけど、カインさんを見つけられない可能性もある博打の要素が強い事をなんで実行して……。
「あ、レナさんは遭遇しなくても損はしないのか、これ!」
「そういう事だな。見つけられれば火の中から強襲し、出来なければそのまま……それこそカインがハッタリで消火した部分で回復をすればいい。そんな所で回復してるとは思わないだろうからな」
「そうなると一連の動きはレナ選手の二段構えの作戦だったという訳ですねー!」
うわー、ここまで考えた上で盛大に森に火を着けたのか。カインさんも色々仕込んできてたけど、レナさんはそれ以上に罠を仕掛けてきてた訳だ。
「さて、そうしている間にも両者の距離が段々と近付いていくー! おっと、ここでレナ選手は今にも焼け落ちて倒れそうな木に登ったー!」
「うぉ!? 危ね!」
「カインさん、もらったー! 『踵落とし』!」
「……は? え、ぐはっ!? や、やべぇ……!」
あらま、カインさんが倒れてくる木を避けたのは良いけど、それと一緒に迫ってきていたレナさんには気付いていなかったみたいだね。
「予想外のレナ選手の登場に動揺してしまい、カイン選手の頭部にレナ選手の踵落としが綺麗に決まったー! しかも朦朧が入ったようだー! これはカイン選手にとっては非常に厳しいー!」
「レナの接近に気付くのが遅かったな。ここからの立て直しは……流石に無理だろう」
「俺もそう思う。こりゃレナさんの作戦勝ちだな」
「互いに行った手の内の読み合いはレナ選手の勝ちかー!? そしてレナ選手の通常攻撃が次々と叩き込まれていくー! ここからまさかのカイン選手の逆転劇はあるのかー!?」
ふむ、こりゃもう完全に詰んだかな? レナさんも周囲の火に焼かれて火傷の状態異常で継続ダメージを受けているけど、それ以上の速度でカインさんのHPが削られていってる。
「まだ……負けて……たまるかー!」
「間に合えー! 『強脚撃』!」
「くっ……そ!」
「おーっと、カイン選手の最後の足掻きで思考操作からラヴァ・フロウを発動したようですが、生成された溶岩がレナ選手に当たる前に、レナ選手の蹴りが決まったー! そして、その一撃によってカイン選手のHPが全て無くなったー!」
カインさんは最後の最後で昇華魔法での逆転を狙ったけど、レナさんには一歩届かずだったね。魔力値も減っていたからか、生成された溶岩自体も少なめだったし、当たっていても勝てていたかは微妙なところ。
でも、レナさんのHPも3割も残ってなかったから今のが上手く決まれば逆転もあり得たかもしれない。まぁこれは言っても仕方ないか。
「カイン選手とレナ選手による、決勝戦に相応しい読み合いや攻防の応酬の決着が今、ここに決まったー! 決勝トーナメント戦『タッグ戦、出場者決定戦!』の決勝戦の勝者はレナ選手ー!」
これで決勝戦は終わりだなー。投影映像もトーナメント表に切り替わって『優勝者:レナ』と表示されてるね。
ふー、レナさんが出ると聞いた時点で圧倒的な優勝候補だとは思ったけど、予想外にカインさんが健闘していたなー。うん、やっぱり実力を知らないだけで強い人は他にもいるという事を実感したよ。
「さて、これにて決勝トーナメント戦『タッグ戦、出場者決定戦!』の全試合は終了となりました! 最後の締めに入る前に、解説のベスタさんとゲストのケイさんに先程の決勝戦の総括をお願いしたいと思います。それではまずはベスタさん、よろしくお願いします」
「さっきの戦闘の総括か。……ふむ、シンプルに纏めるのであれば、少し違えばどちらが勝っていてもおかしくはなかっただろうな。勝負の分かれ目になったのは周囲に対する観察力だろう。真似をしろと言ってすぐに出来るようなものではないが、少し意識をしてみるだけでも違うから試してみるといい」
「はい、ベスタさん、ありがとうございます!」
ふむふむ、ベスタ的には観察力が重要だったという事だったんだな。まぁそれに関しては俺も同意だけど他の要素も……って、俺も言わなきゃいけない様子だから残しておいてくれてる感じか。
まぁ確かにカインさんがもう少し早くにレナさんの接近に気付いていたら、違った結果になってた可能性はあるよね。レナさんは最後はほぼ通常攻撃ばっかで攻めてたしさ。
「それではケイさん、よろしくお願いします!」
「ほいよっと。うーん、それじゃベスタが触れなかった部分で……俺としてはカインさんもレナさんもスキルの使い方が上手かったと思う。どれだけ読み合いで上回るかも大事だけど、意表を突く攻撃は隙を作れるからな。俺としてはそんなとこ」
「はい、ありがとうございます!」
よし、総括と言われても簡単に俺が思った事を言っただけにはなったけど、まぁこんなもんで良いだろ。カインさんが木の枝を投げるのと土の操作での連携攻撃は、実際に便利そうだと思ったし、レナさんにも通用してたからね。
「……意表を突くか。俺もケイ相手に模擬戦をした時には散々警戒した部分ではあるから、これほど説得力のある言葉もなかなかないな」
「それは確かにそうですね!」
そういやそうだったっけ。うん、ベスタに俺が何をするか分からないって警戒されまくって、先手を打たれまくって後手に回ってばっかだったもんな。
あの時と比べれば、それなりにロブスターの近接攻撃も強化したし、操作系スキルを使った近接から中距離攻撃も色々使えるようにはなっている。今度機会があればベスタにリベンジをしたいとこだな。
「さて、総括も終わりましたし、決勝トーナメント戦『タッグ戦、出場者決定戦!』はこれにて閉幕です! それでは最後に私の方から謝辞を述べさせていただきます! 赤の群集と青の群集と行うタッグ戦に出場する方を選出するという目的で、本日からテスト実装されたトーナメント戦を利用して『灰のサファリ同盟』の皆さんを筆頭にベスタさん、桜花さん、『オオカミ組』の皆さん、『モンスターズ・サバイバル』の皆さん、他にも多数の協力のお陰で実行に移せました。この案件を持ち込んできた私達『グリーズ・リベルテ』は大して何も出来ていませんでしたので、ご尽力頂いた皆様にここでお礼を申し上げます」
おぉ!? ハーレさんが思いっきりまともな事を言っててちょっとびっくりなんだけど!? いや、これは多分だけど普段のハーレさんの切り替えが上手いんだな。
おっ、今名前を上げられた関係者……近場にいるのは肉食獣さんや蒼弦さんや桜花さんは何かソワソワしてる。ふむ、こんな風にお礼を言われるとは予想してなかったんだろうね。
「そして今回は優勝者であるレナさんがタッグ戦への出場者となります。タッグ戦の開催日時につきましてはこれから調整を行ってから決定となりますので、その辺りは続報をお待ち下さい」
「そこについては俺から捕足しておくが、極端に出場者の予定が合わないという事がない限りは次の土日のどちらかの夜にしようかと考えている。この辺りは決まり次第、俺の方でまとめ機能の方で告知をしておくから確認をするようにしてくれ」
「という事で、真面目モードは終了なのさー! タッグ戦も中継も実況も予定しているので、開催をお楽しみにー! それではこれにて本当に終了です! 決勝戦の実況は『グリーズ・リベルテ』所属のリスとクラゲのハーレと!」
「解説は新たに2ndでタケノコを育て始めたベスタと」
「ゲストは『グリーズ・リベルテ』リーダーのコケとロブスターのケイでお送りしました!」
そこまで宣言するとみんなから盛大に歓声が上がっていった。うん、実況の最中に話すと邪魔になるからみんな我慢してたようである。
決勝戦は壮絶な森林火災になってたけど、レナさんとカインさんの間でかなりの駆け引きがあったし、見応えもあったもんな。いやー、見てて楽しかったよ。
「おーし、それじゃアイテムの取引とかを再開していくぞ! 語り合いたい奴は、色々と邪魔にならないように樹洞の中が空いてきたらそっちに移れ! 今、樹洞の中にいる奴で特に用がない奴は空けてやってくれ」
「了解だ、桜花さん!」
「んじゃLv上げに行きますか!」
「これから『上風の丘』に行くけど、行きたい人いるー?」
「お、そのPT希望!」
「げっ、俺らもそこに行こうと思ってたのに!?」
「それならいっそ連結PTにでもして、敵を集めて一網打尽にする?」
「お、それいいな!」
「よし、それでいこう! 希望者は桜花さんの西側の辺りで集合な!」
「「「おう!」」」
「そういやあの聖火の人が使ってたスキルって何? 魔法弾とか解説で言ってた気がするけど……」
「……まとめには見当たらないぞ?」
「あ、これか! 未編集の報告欄にあったぞ」
「あー、そっちか! ……よし、任せてばっかもあれだし、編集をやってみるか」
「お、任せた!」
桜花さんのその宣言により、みんなの動きが一気に変わってきた。Lv上げに行く人やさっきの決勝戦について話し合う人や、他にもそれぞれの人の目的で樹洞から出ていったり、樹洞に入っていったりとバラバラだね。
まぁ決勝戦も終わった事だし、これからの時間はそれぞれのやりたい事をやっていく時間か。
あ、赤の群集や青の群集の人達はこの場所から離れていって、転移していったり、フレンドコールで話をし始めたりしている。まぁ灰の群集の誰が出場者になるかを確認するのが目的だったんだろうね。
まぁ今回の出場者については、タッグ戦の日程を決める段階で全員顔合わせする事になるだろうからその辺は問題なしだな。赤の群集と青の群集からは誰が出てくるのか楽しみだね。
「ケイ、ハーレ、お疲れ様かな」
「とりあえず何とか決勝トーナメントは終わったね」
「うん! 楽しかったのさー!」
「てか、レナさんもカインさんもどっちも凄かったな。……ぶっちゃけ、カインさんがあんなに強いとは知らなかった」
「ん? ケイは知らなかったのか?」
「……正直に言うなら、からかわれてるとこか、火の管理をしてる印象ばっかだった」
「あー、まぁ確かにそこの印象は強いよな」
カインさんが戦っている様子を見るのは初めてだったし、こればっかりは仕方ないと思いたいところ。でもまぁ、カインさんが強いのはよーく分かったよ。
「カインは実戦で強くなった訳じゃないからな。タイミングが合わなければ知らないのも無理はないだろう」
「え、ベスタ、それってどういう事だ?」
「割と単純な話なんだが、カインは少し前まで火の管理をする事でスキルLvばかりが上がってたタイプだからな。それだけだとキャラのLvが上がらないから、モンスターズ・サバイバルの連中と一緒にLv上げをして、その間にプレイヤースキルが急激に伸びた感じだ」
「あー、なるほど、そういう感じか」
ふむふむ、そういう理由なのか。まぁあれだけよく火の管理をしていれば、火の操作は確実にLvは上がるし、モンスターズ・サバイバルの人達と一緒に行動する上で土の操作を鍛えたって感じでもあるのかもしれない。
そこから魔法弾の存在を知って、さっきのレナさんとの対戦のような形になったんだろう。まぁあくまで推測だけど、そんな感じで強くなる人もいるもんなんだね。