第80話 氷狼戦
俺の作った水の防壁に衝突したアルだけど、結果から言うと一応無事だった。完全に凍らされる前で良かったよ。ダメージ判定が俺のものだからアルにはダメージ無し。
その衝突直後に、水が完全に凍ってしまい殺しきれなかった勢いとともに氷狼へと体当たりとなっていたけども……。そこでアルもダメージを負っていた。流石に体当たりになるとダメージなしとはいかないか。まぁ、一発目の攻撃は完全に予定外だったけど、一気に1割は削れたからよしとしよう。
「……つい気合が入って付き合ったが、いつもこんな事やってんのか?」
「……いつもより過剰だった気はするぞ。まぁ俺も調子に乗ったとこもあるが……」
「私もだね……。つい張り切っちゃった」
「そうだぞ! もう少し限度ってものをだな……」
「「「ケイが言うな!」」」
「はい、すみません!」
うん、みんながノリに乗った結果とはいえ、発案は俺だ。想定外とはいえ、文句が言える立場でもないか……。
「とりあえず氷狼を倒そうよ!」
「……そうだな。どうにも調子が狂うが、面白い方に狂ってるから悪いとも言い切れねぇな!」
「そりゃどうも!」
アルの体当たりを受け、氷狼は頭をフラフラとさせている。これは朦朧の状態異常が入ったか?
「氷狼は属性は氷、特性は強靭だよ!」
「ほう、サヤは識別のLv2以上持ちか」
「そういう言い方するって事はベスタもか!」
「当然だろう。情報は重要な武器だからな! 『魔力集中』!」
そしてベスタが氷狼目掛けて飛びかかっていく。自己強化は移動の途中で切れてたから魔力集中を使う訳だな。ベスタは強化した爪で無防備な様子を晒している氷狼の頭部を狙い、一閃する。だが直前で朦朧状態が回復した氷狼に気付かれ、少しだけタイミングを外される。それでも目に見えるほどにHPは削っていた。
「ちっ、一気に畳み掛けるつもりが、しくじったか。サヤ、挟撃するぞ!」
「分かったよ!」
「アルマース、ちょっと足場にさせてもらうぜ!」
「おわっ!? びっくりした」
サヤに指示を出してから、ベスタは勢いをつけてアルを駆け登り、枝を足場にして氷狼を飛び越える。ベスタのヤツ、身軽だな。あの身軽さと速さでマップ踏破1位を取ったのか。
ベスタが氷狼を飛び越えた事で、サヤとベスタによる挟撃状態が整った。挟まれた氷狼は警戒態勢へと移行し、隙を消そうとしている。流石にボスはそこらの黒の暴走種ほど甘くはないか。
「よし、ベスタとサヤが引き付けてるうちに体勢立て直そう!」
「おう! 『根下ろし』『水分吸収』!」
「よいしょっ! 準備完了だよ!」
「ヨッシさんは俺とベスタ側に回るぞ!」
「分かった!」
アルは根下ろしをして回復環境を整えてから水分吸収でHPを回復していき、ハーレさんは定位置の巣に戻る。俺も行動値と魔力値を今のうちに回復だ。敵は1匹で隠れもしないのであれば挟撃は有効だろう。魔法持ちの俺とアルが氷狼の氷魔法だと思われる攻撃を防げばいい。そして近接攻撃は今は2人いる。
<行動値を1消費して『群体化Lv1』を発動します> 行動値 22/26(−1)
<行動値を1消費して『群体内移動Lv1』を発動します> 行動値 21/26(−1)
この辺りはどうにも氷狼が地面を荒らしているのか、無事なコケが少なめなのがちょっと困るな。だけど全く存在しない訳ではないから、ベスタの近くに見えるコケに移動した。
「ベスタ、どう攻略する?」
「……相変わらず神出鬼没な移動方法だな。特性の強靭があるからHPは多め、そして不定期に吹雪を放ってくる。HPが半分を切った時点で、氷の爪を生やして攻撃力が増すそうだ」
「なら防御は俺に任せろ。攻撃は任せるぞ?」
「おう、頼んだぜ、ケイ!」
攻略の目処は立っているというだけあって行動パターンはある程度判明しているみたいだな。吹雪はさっきの俺の水魔法を凍らせたあれなのだろう。魔法に干渉出来るということはあれも魔法か。
あれを受ければ凍結の状態異常になるのは前に見た。そして水魔法で防げるのはさっき確認済み。
「アル! そっちも攻撃と防御で役割を分けてくれ!」
「おう! 了解だ!」
「私も使っとくね。『魔力集中』!」
さてとお互いに牽制し合って膠着状態にはなっているが、戦力的にも状況的にもこっちが圧倒的優位。行動値も魔力値も全快したし、そろそろ状況を動かすか。ちょうど良い位置にヨッシさんがいるし。
「ヨッシさん! ハチを突撃!」
「うん。『同族統率』!」
氷狼の警戒を避けながら移動する為に少し上の方を飛んでいたヨッシさんが、スキルでハチを生み出し突撃させる。前後にサヤとベスタ、上からヨッシさんの同時に3方向からの脅威の警戒は流石に無理があるだろうよ。
氷狼が上空のハチに気を取られた瞬間を狙い、サヤとベスタが一気に距離を詰める。氷狼は上空のハチは無視し、サヤの腕を口で咥え、尾でベスタの爪を弾く。今の攻撃を止めるとは流石はボスモンスター。アッサリとは攻撃を当てさせてはくれないらしい。
「私を忘れてたら困るよ! 『投擲』!」
「よし、俺もついでだ。『リーフカッター』! ……おっ?」
アルの巣からハーレさんの投擲が氷狼の顔面に命中し、アルの葉の刃が氷狼を襲い切り刻む。ハーレさんの投げた弾は特訓中に散々作りまくった泥団子だったようで、それが目に入ったのか、氷狼は暴れ出していた。よし、周りが見えていないからか隙だらけだな。そんな隙を見逃す筈がない2人が攻撃に移っていく。
「よし、2人とも良い腕だ! 『強爪撃』!」
「ハーレ、アルさん、ナイスだよ! そこ! 『双爪撃』!」
ベスタの一撃が背中に突き刺さる。そして氷狼が背中に刺さったベスタの爪を振り払うように2本足で立ち上がった所を、サヤの一撃が腹部へと決まる。もちろんベスタは邪魔にならないようにすぐに飛び退いていた。
2人の魔力集中を使った強烈な攻撃を立て続けに受けて、氷狼のHPは6割を切る。ヒノノコに比べたら全然弱いな。……ヒノノコが4体の中で最強って話だし、弱く感じても仕方ないか。
あ、氷狼の目の泥が取れたみたいだな。怒りの籠もったような目をベスタに向け、息を大きく吸い込んでいく。あれは氷魔法の事前動作で、標的はベスタか。
<行動値1と魔力値4消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 25/26(−1): 魔力値 48/52
<行動値を4消費して『水の操作Lv5』を発動します> 行動値 21/26(−1)
さて、防御は俺の担当だな。うん、ぶっちゃけこれ、全員の総攻撃で速攻仕留められそうなんだけど……。
「ちっ! もう始まってんのか?」
「うわ、やっぱりか!」
「まぁ早いもん勝ちだしな。仕方ねぇさ」
「それもそうだな。今回は諦めようっと」
「せっかくここまで来たんだし、見学していこう!」
「コケの人の戦闘か。ちょっと見てみたかったんだよな」
「俺も俺も!」
「あれが水魔法か!」
「残滓になった後の討伐順でも決めとこうぜ」
「お、そりゃいいね。ソロの人、PT組みませんかー?」
「あ、私はPT入りたい!」
ここまで来る時に追い抜いていったプレイヤー達が続々と到着してきている。どうも見学していって、その後に残滓になった氷狼を倒すつもりでいるらしい。なんか順番決めたりPT組んだりしてるしな。って事で、一応攻撃パターンだけは全部出させておきたい訳ですよ、うん。
とりあえず見物してるプレイヤー達の事は意識から外して、戦闘に集中しよう。ベスタの前に水の操作で壁を作る。ヨッシさんは予備動作を見て上空に退避済み。そして、氷狼が吹雪の息を吐く。よしよし、凍らされて使い捨てにはなるけど防御は全く問題なし。
「……俺もなんか魔法取るか」
「ん? ベスタは魔法はないのか?」
「まぁな。風魔法辺りが欲しいんだが、魔力も低いしポイントで取るには悩ましいとこでな」
「あー物理寄りだとな。まぁ物理でも魔法次第じゃ使い方で化けるぞ?」
「ほう? そりゃ興味深いな」
「ま、後で教えてやるよ」
そんな雑談を交えながら、着実に氷狼のHPを削っていく。ヒノノコ相手の後だとちょっと余裕過ぎるな。そしてHPが半分を切って、氷狼が遠吠えを上げると共に元々鋭い爪に氷のコーティングが施され、大きな氷の爪が形成されていく。ほう、これがベスタの言ってた氷狼の強化パターンか。
「ねぇ、ケイさん! 折角だし、あれやっても良い?」
「あーあれか。ベスタに見せておきたいし、良いかな」
「やった! そんじゃ行くよ! 『アースクリエイト』! 『魔力集中』! 『投擲』!」
ハーレさんのとっておきの魔法産の石の魔力集中投擲が炸裂して、氷狼の生成されたばかりの氷の爪が砕け散った。破壊されるとダメージもあるようで氷狼のHPも減り、苦しそうな唸り声が聞こえてくる。
よし、ある程度予想はしてたけど魔法で作ったモノは魔法産か魔力を乗せた攻撃なら壊せるって事だな。
「今のが化ける使い方ってか。こりゃ面白いな」
「だろ? 俺も何かの方法で魔力集中を取りたいんだけどな」
「コケのどこを強化するんだよ……」
「……さぁ?」
どっちもポイント取得の一覧にないから種族的に取得出来ないのかな……。というか、強化した爪を即座に破壊したら氷狼の攻撃パターンが特に変わらない……。単純にあの氷の爪で威力強化だけだったのか……?
「ふむ、あの爪を即座に破壊するのが最適解か。ふん、分かってしまえば雑魚じゃねぇか」
「ベスタ、どういう事だ?」
「あぁ、あの氷の爪になった後は爪による全攻撃の威力上昇と確率で凍結効果があるらしくてな。そこが突破出来なかった要因らしいぞ」
「あーなるほどな」
そんな強化効果があったのか。見る前に壊したもんなぁ。つまりあの爪さえ壊してしまえば、強化効果が無くなって楽勝になると。だからさっきからギャラリーがざわついてる訳だ。
それでもあと1段階くらいはなんかありそうだけど。あ、吹雪予備動作。狙いはこっちか。
<行動値1と魔力値4消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 20/26(−1): 魔力値 44/52
<行動値を4消費して『水の操作Lv5』を発動します> 行動値 16/26(−1)
はい、吹雪は水の防壁で防御っと。うん、もう氷狼は全然敵じゃないや。俺は防御しかしてないし、ヨッシさんもすることが無い。あ、次はサヤの方に吹雪狙いをつけている。アル、防御頑張れよー!
「よし、さっき覚えたばかりの新魔法のお披露目だ! 『スタブルート』!」
お、アルが新魔法を覚えたのか!? 地面から根が大量に生えて突き上げている。地味にえげつないな、これ。そこそこの範囲攻撃魔法か。氷狼は攻撃をキャンセルして飛び退いて避けてるけど、避けきれずに何本かが当たっている。使いどころを間違えなきゃ結構使えそうな魔法だな。残りHPはもうすぐ1割。氷狼討伐完了まであと少し。
「あーもう! 私がすることが何も無い! もう片っ端から打ち込んじゃえ! 『微毒生成』『麻痺毒生成』『腐食毒生成』、そんでもって『乱れ針』!」
あ、することが無くて暇すぎて、ヨッシさんがブチ切れて突っ込んでいった。まぁ毒で動き鈍らせる必要も継続ダメージを与える必要も無かったしね。まぁ流石に何もなしじゃ物足らないだろうし、別に良いだろう。
ヨッシさんの繰り出した『乱れ針』は要するに連続突きか。お、見事に全部の毒が入ったっぽい。なるほど、複数の毒を生成してたとこから推測すると、あの連続突きはそれぞれに別の毒判定があるみたいだな。
氷狼が時折痙攣しながらも、最後の攻撃パターンの変化が始まった様子。周囲に冷気が漂い出して氷狼へと集まっていく。お、氷で体表面を覆って体毛が刺々しい感じになった。結構強そうだし、普通にやってればあの氷の防御は突破しにくいかもしれないな。
「さて最終攻撃パターンまで見れたっぽいし、トドメいくか」
「それもそうだな。さて誰がやるか……?」
「ねぇ、ケイさん。さっきの毒連発でちょーっと予想外のスキル取得が起きたんだけど、試していい?」
「……良いけど、ヨッシさん何を取得したんだ?」
「それは見てからのお楽しみって事で!」
「そういう事なら任せようじゃねぇか、ケイ」
「そうだな。みんなも聞こえてたよな? トドメはヨッシさんに任せていいか?」
「私は問題ないかな」
「俺も問題ないぞ」
「ヨッシの新技かー! 期待してるね!」
反対意見はまるで無しと。んじゃヨッシさんに任せるか! さっきの『乱れ針』も新技だったけど取得したばかりの新技を見せてもらおう。氷狼……? 毒で弱ってもはや虫の息で身動き取れなくなってるから、監視しとくだけでいいよ。
「それじゃ行くね。『ポイズンクリエイト』で腐食毒生成! それで『毒の操作』!」
黒く毒々しい色合いの液体が生成されていく。それは凄くゆっくりだけど球体になり氷狼を包み込んでいく。そして氷狼は毒々しい液体に触れる度に白い煙を上げつつ、完全に呑み込まれた後に盛大に痙攣し、そのまま絶命してポリゴンとなり砕け散った。
……ちょっと待て。クリエイト系って事はこれ、毒魔法か!? しかも毒の操作って事は称号取得!?
<ケイがLv8に上がりました。各種ステータスが上昇します>
<Lvアップにより、増強進化ポイント1、融合進化ポイント1、生存進化ポイント1獲得しました>
<群集クエスト《地図の作成・灰の群集》のエリアボスが撃破されました>
<『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』にて『氷狼』が撃破されました>
<初回撃破により『氷狼』が残滓となり弱体化します>
<エリアボス『氷狼』の初回撃破報酬として、増強進化ポイント4、融合進化ポイント4、生存進化ポイント4獲得しました>
<規定条件を満たしましたので、称号『氷狼を解放したモノ』を取得しました>
<『進化の軌跡・氷の欠片』を3個獲得しました>
色々手に入ったのは分かったけど、毒魔法の方が無茶苦茶気になるんですけど!?
【ステータス】
名前:ケイ
種族:水陸コケ
所属:灰の群集
レベル 7 → 8
進化階位:成長体・複合適応種
属性:水、土
特性:複合適応
群体数 1289/1800 → 1289/1900
魔力値 52/52 → 52/54
行動値 27/27 → 27/28
攻撃 19 → 21
防御 27 → 29
俊敏 18 → 20
知識 33 → 36
器用 33 → 36
魔力 46 → 50




