第797話 敵の纏属進化
ちょっと雑魚敵だと甘く見ていたけど、まさか水に適応する為に進化をしてくるとはね。しかもプレイヤーとは明確に違いがあるという事なのか、瘴気属性まで得ているとは……。
「ケイ、ここからどう倒す……?」
「……とりあえずどっちかから集中して倒すか。識別は……みんな、行動値に余裕は?」
「少しはあるけど、今の状態ではあまり減らしたくはないね……」
識別をして情報を確認しておきたいとこではあるけど、ヨッシさんの言う事も分かる。1体ずつならまだしも複数体相手だし、全く予想が出来ない内容でもないからね……。
ん? そういや苦手な環境に対応する為の進化って事は……昨日のネス湖で水中に沈めたキツネも進化する可能性があった……? うーん、これは気になるところだけど――
「私はまだ余裕はあるから、私が――」
「はっ!? サヤ、ケイさん! それぞれに狙われてます!」
「……これは識別は無理そうかな。一気に攻めるね! 『爪刃双閃舞』!」
「みたいだな! アル、ヨッシさん、少し離れといてくれ!」
「うん!」
「了解だ!」
サヤの方にはエイが突撃していき、俺の方には大きく口を開けたサメが迫ってきている。とりあえず俺は飛行鎧で真横にスライドして回避して、サヤは避けずに真っ向から迎撃をしていた。
どうもエイもサメも禍々しい瘴気の色をした魔力集中を発動してるっぽいなー。いや、瘴気属性になっているならこれは瘴気制御という可能性もあるのか。
「わっ!? この急な挙動はしがみつくのが大変なのさー!?」
「あ、ハーレさん、無理に乗ったままじゃなくてもいいぞ?」
「何とか乗りこなしてみせるのさー!」
「……別に乗り物じゃないんだけどな」
ハーレさんは俺のロブスターに乗ったままだったけど、とりあえずは大丈夫そうだな。このサメの噛みつき攻撃自体の回避は飛行鎧で真横にスライドすれば簡単ではあるね。簡単に避けられ過ぎている気もするけど、進化したとはいえ普通の敵ならこんなもん?
いや、水属性はともかく瘴気属性は攻撃を受けたら瘴気汚染とかになりそうだし、ここはとりあえず様子見を兼ねて回避優先でいくか。
えーと、サヤの方は……銀光の強弱を見れば爪刃双閃舞はLv3での発動で、エイも尾の部分で禍々しい瘴気の混ざった銀光を放ちつつの連続刺突をしてきている。このLv帯だと普通の敵でも応用スキルを使ってくるなー。
「サヤ、瘴気汚染は大丈夫か?」
「今のところはそれは大丈夫そうかな! ただ、相殺せずに一方的にダメージを受けるとどうか分からないけど!」
「……まぁそりゃそうか」
どうやらサヤの咄嗟の判断で出し惜しみ無しのLv3での発動が良かったようで、相殺どころか圧倒的に押し勝ってエイのHPを大幅に削っている。……回避も良いけど、ここは変に時間をかけず一気に畳み掛けて倒した方が良さそうだ。
「ハーレさん、残り行動値は?」
「応用スキルの1発くらいなら大丈夫です!」
「……応用スキルは1発はいけるんだな?」
「いけるよー!」
「よし、アルとヨッシさんは俺らが仕留め損なった時のフォローを頼む!」
「了解!」
「おう、任せとけ!」
とりあえずアルとヨッシさんに待機をしてもらっているけど、今回は識別は諦めた方が良さそうだな。
識別内容は気になるけど、今の状況で変に行動値を減らすのは得策ではなさそうだ。まぁ見た感じ物理攻撃が多い感じだし物理型だとは思うけど……海中だと一部の魔法が使いにくいね。
「ヨッシ、行動値がもう無いからトドメを任せても良いかな!?」
「それなら任せて! 『並列制御』『アイスボム』『氷の操作』!」
<ケイが未成体・瘴気強化種を討伐しました>
<未成体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント3、融合進化ポイント3、生存進化ポイント3獲得しました>
<ケイ2ndが未成体・瘴気強化種を討伐しました>
<未成体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント3、融合進化ポイント3、生存進化ポイント3獲得しました>
<『進化の軌跡・水の小結晶』を1個獲得しました>
おっと、サヤがエイを仕留めきれずにヨッシさんが指向性を操作したアイスボムで仕留めたみたいだね。魔法の方が効きが良いみたいだし、あっちのエイは属性を持ってただけの物理型か。
このサメの攻撃を回避し続けるのはこの辺までにしておいて……どう倒す? 状況が予定とはかけ離れているし、俺らもサヤのように普段通りの戦法に完全に切り替えて――
「あ!? ケイさん、前!」
「おわっ!?」
ちょ、噛み付きを回避した直後に旋回して、尾ビレで叩きつけてくるとかありかよ!? あ、やばっ、変に周りの海水が乱れて飛行鎧の操作が狂った!? くっ、体勢を立て直す間に直撃するぞ、これ!
<行動値5と魔力値15消費して『水魔法Lv5:アクアウォール』を発動します> 行動値 25/70(上限値使用:9): 魔力値 200/218
大急ぎで目の前に水の防御魔法を展開して……ふー、ぎりぎりなんとか間に合った。とりあえず一旦距離を取って……ちっ、普通に追いかけてくるし、サメとの距離が引き離せないか。
「ケイ、大丈夫か!?」
「おー、何とかな。あー、今のはちょっと焦った」
「……まぁ今のを受けてても別に死にはしないんだろうが、ヒヤヒヤさせるなよ」
「……悪い」
今のはこの予定外の状況でキャラのLv上げと同時にスキルの熟練度稼ぎの事も一緒にやろうと考えようとしたのが駄目だったな。……敵の数が減って、進化してもそれほど強そうに思えなくて油断していた。
確かにまだダメージというダメージは受けてないし、さっきのを回避出来なくても死にはしなかっただろう。でもまぁ、それを良しとする訳にもいかないね。
「……よし、あのサメはぶっ殺す」
「あ、ケイさんのスイッチが切り替わった気がするのさー!?」
さて、問題はサメをどう仕留めるかだな。今のサメの動きを見る限りでは結構動きは早いから、まずは拘束して動きを止める……? 並列制御で攻撃用と拘束用の岩の操作を2つ……には行動値が足りないか。……ちょっと不安要素はあるけど、この手でいくか。
「ハーレさん、俺が合図したら上からサメに向かって砂で拡散投擲」
「りょ、了解です!」
「アル、デブリスフロウを使うから合わせてくれ」
「……どう当てる気かは知らんが、了解だ!」
後はサメの動きに合わせて……よし、口から銀光を放ちながら一気に突っ込んできた。ここが狙い目だ! 飛行鎧で真上へと避けて……その噛みつき攻撃がチャージか連撃かは知らないけど、それはもう関係ない!
<『移動操作制御Ⅰ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 25/70 → 25/76(上限値使用:3)
回避すると同時にサメの頭部の少し手前で飛行鎧を解除っと。これを発動したままだと邪魔でしかないけど、これで問題はない!
「え、何で飛行鎧を解除ー!?」
「それはいいから、ハーレさん、拡散投擲!」
「気になるけど、了解です! 『拡散投擲』!」
よし、ハーレさんがクラゲの傘の中に風を生成して俺のロブスターの上から飛んでいき、上部からサメに投げ放たれた砂が当たると同時に銀光がどんどん強くなっていく。ここからはタイミングがズレると位置がズレるので、スピード勝負だ!
<行動値上限を39使用して『大型化Lv1』を発動します> 行動値 25/76 → 25/37(上限値使用:42)
「あ、大型化するからだったー!?」
とりあえず元の大きさのままだと実行が不可能な手段だから、大型化を発動していく。よし、この大型化したサイズならサメを抑え込める! それじゃ次!
<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>
<行動値を15消費して『万力鋏Lv1』は並列発動の待機になります> 行動値 10/37(上限値使用:42)
<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>
<行動値2と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』は並列発動の待機になります> 行動値 8/37(上限値使用:42): 魔力値 197/218
<指定を完了しました。並列発動を開始します>
<『万力鋏Lv1』のチャージを開始します>
大型化したロブスターの右側のハサミで万力鋏を発動し、上からサメの首を挟み込んだ。その状態でハーレさんの拡散投擲の銀光がより強くなって叩き込まれていく。……大型化したロブスターの上にしっかり乗ったままなんだから、ハーレさんの対応力も高いよね。
よしよし、ハサミで挟んだだけだと暴れまくって逃げる可能性も考えてたけど、拡散投擲による範囲攻撃でそれを妨害するのは正解だったようである。
ただ、HPは半分は切ったけど思ったほどは削れていない。うーん、さっきまでのマグロやウツボに比べて地味に耐久性が上がってないか、このサメ。
あ、でも拡散投擲の銀光が最大までなってないな。もしかして近過ぎで全弾直撃みたいな状況だとうまく連撃にカウントされないのか? その可能性はありそうだし、今後は気を付けるとして……。
「アル、アクアクリエイト!」
「……ったく、無茶な抑え込み方をするもんだな。『アクアクリエイト』!」
「これって昇華魔法は発動するのかな?」
「多分大丈夫だと思うよ」
<『昇華魔法:デブリスフロウ』の発動の為に、全魔力値を消費します> 魔力値 0/218
おっしゃ! サヤが疑問に思ってた事は俺も少しは考えてはいたけど、アルの生成した水と俺の生成した土が重なって無事に昇華魔法は発動してくれた。
それに移動は出来そうにはないけど、万力鋏も銀光が強まると同時にどんどんと閉まっていく。ふっふっふ、鋭利なハサミで首を挟まれながら、背中に向けて大量に生成されていく土石流を浴びて沈んでいけ!
「近接スキルと昇華魔法の同時使用はリスクが高いと思うけどね」
「あ、そっか。敵に近い位置だから、キャンセルされる可能性が高いのかな?」
「まぁそれもなんだけど……」
「あー!? ケイさんがサメと一緒に沈んでいくのです!?」
「とか言いながら、ちゃっかり退避してるんだね、ハーレは」
「えっへん!」
「ちょ!? 自分まで動けなくて一緒に沈むのは想定してなかったんだけど!?」
「……ケイ、倒したら戻ってこいな?」
「ケイ、ドンマイかな」
「え、マジでそうなるの!?」
抑え込む手段として万力鋏を使ったけど、戦ってた場所が海底ではなかった事を全然考慮に入れてなかったー!? くっ、デブリスフロウの余波で万力鋏がキャンセルには……なってくれないよねー!?
それなら万力鋏の発動をキャンセルして……って、昇華魔法が発動中だからキャンセルを受け付けてくれない!? サメから反撃でキャンセルの可能性は考えてたから、それを防ぐ為にもハーレさんの拡散投擲を使ってもらったのが逆に仇になったか……。
えぇい、こうなったらサッサとサメが死んでくれるのを待つしかない。サメが死にさえすれば……ってもう死にそうだね。流石は昇華魔法。あ、HPが全て無くなってポリゴンとなって砕け散っていった。
<ケイが未成体・瘴気強化種を討伐しました>
<未成体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント3、融合進化ポイント3、生存進化ポイント3獲得しました>
<ケイ2ndが未成体・瘴気強化種を討伐しました>
<未成体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント3、融合進化ポイント3、生存進化ポイント3獲得しました>
<『進化の軌跡・水の小結晶』を1個獲得しました>
よし、サメの撃破完了っと。これで身動きが……って、まだ昇華魔法が発動中で無理っぽいー!? くっ、海中と陸地では昇華魔法の使い勝手が違い過ぎる! まぁ今回のは俺が足場の事を失念していたのが原因だけどさ……。
<『万力鋏Lv1』のチャージが完了しました>
あ、不要になってから万力鋏のチャージが完了したよ……。いや、抑え込むのに役には立ったから無駄ではなかったんだけど、なんだろう、この釈然としない気持ち! とりあえず無駄……ではないんだけど、チャージとしては無駄打ちしておくしかないな。
「そういえば進化の軌跡がどっちでも手に入ったかな?」
「あぁ、それはさっきみたいな進化が発生した場合は確定で落ちるらしいぞ」
「あ、そうなのかな」
「でも、これって狙うのは地味に面倒じゃない?」
「だろうな。まとめでも全属性ではまだ再現出来てないらしいからな」
「そうなのー!? ちなみに分かってる属性はー!?」
「一番簡単なのは水属性で、水の中に放り込む事らしいぞ。火属性は軽く炙ったり、土属性は土に埋めたり、雷属性は電気を浴びせ続ければ良いらしい。コツは極端に弱い種族にはやらない事だそうだ」
「それって海の生物に淡水は例外なの?」
「そこは海の生物に効果的過ぎるから、例外的に扱われてるんじゃないかって推測みたいだな」
「あ、確かにそれはありそうかな!」
へぇ、まだ全属性での敵の纏属進化……呼び名はこれでいいのか? まぁ手順は違っても性質は似たようなもんだろうし、敵のも纏属進化でいいよな。ともかく条件の判定が地味に難しそうなとこではあるね。
というか、俺が海底に向けて沈んでいってるのにみんなは普通に雑談してますがな! はぁ、今回は判断ミスが地味に多かったから、その反省って事なのかもなー。
ともかく昇華魔法の効果は早く切れてくれ! 挟んだサメを沈めていた勢いがそのまま残ってて結構な勢いで沈んでるし、周囲がどんどん暗くなってきてるからー!?




