第750話 集まるプレイヤー達
俺達はベスタの指定した場所に向かっていき、他のプレイヤー達もまたイカの包囲網を構築する為にどんどんと集まってきている様子が見える。
ざっと見ただけでも数えるのが大変なくらいの光源があるし、それぞれがPTで動いている方が多いだろうから、実際の人数は凄い事になってそうだ。
「これ、凄い人数が集まってるなー」
「みたいだな。ちなみにケイ、獲物察知でどの程度のもんか確認出来るか?」
「……数え切れる気もしないけど、やる意味ある?」
「ぶっちゃけそこまでは意味はないんだが、明かり無しで動いてるPTがどれくらいの割合でいるのかが気になってな?」
「あ、そっか。光源を使ってない人もいるかな!」
「確かに夜目と暗視でも暗闇はどうにかなるもんねー!」
「……それは確かに気になるね」
「明かりを使わない海エリアのプレイヤーは結構いるのであるよ! 今日は人数が多くて戦闘が少ないであるが、普段なら明かりがあると敵が集まりやすいのである!」
「あー、そういう事か。ま、それなら確認するだけしてみる」
「おう、頼んだぜ!」
アルとしては人数は確認しきれなくても、今の状態では見えない光源を使わないプレイヤーがどれくらいいるのかが知りたいんだろうね。
確かにこんな真っ暗な場所が普段からあるのなら、夜目や暗視を常用してるプレイヤーもいそう。その辺りもまた海エリアと陸エリアの違いなのかもしれないね。……そういやジンベエさんも光源は無かったような気もする。
ふと思ったけど、一部のプレイヤーが深海魚っぽい方向性になってそうな気がするね。まぁ海エリアだと必然的に深い場所になればなるほど昼の日でも暗くなるだろうし、陸エリアとは事情が違ってくるだろうけどさ。
今はPTで活動してるから発光でみんなで使える光源を用意してるけど、1人で動くなら俺も夜目と暗視のコンボで暗闇での視界を確保したいもんな。ある意味ではこういうのも適応していってるって事なんだろうね。
ま、細かいことは置いておいて、とりあえず獲物察知を使って光源を使っていないプレイヤーが近くにいるかを確認しておこうっと。そういう光源を使わないプレイヤーが近くに多くいた場合は巻き込まないように気を付ける必要もあるしね。
<行動値を4消費して『獲物察知Lv4』を発動します> 行動値 62/66(上限値使用:12)
<熟練度が規定値に到達したため、スキル『獲物察知Lv4』が『獲物察知Lv5』になりました>
あ、このタイミングで獲物察知がLv5になった!? え、もう必要ない気もするんだけど、タイミング悪過ぎません!? いや、今回限りしか使わない訳じゃないから良いけど、もう少し早めに上がって欲しかったよ……。
まぁいいや、とりあえず確認しようと思った事を確認していこうっと。えーと……あー、光源の近くに数本の灰色のカーソルがあったりするけど、それ以外の場所にも結構な数の灰色のカーソルが見えている。こりゃ光源なしの人も結構いるね。
黒いカーソルも見えてるけど、近くに灰色のカーソルがある場所はすぐに消えていってるから、近くにいたPTに倒されてるっぽいな。緑のカーソルは……ちょいちょい岩場の方にあるけど、今は近くにはそれほど見えないか。……まぁプレイヤーが大挙してきているし、一般生物の魚の群れとかは逃げているのかもしれない。
「ケイ、どうだ?」
「あー、うん。思った以上に光源がないプレイヤーが多いから、ちょっとその辺は気をつけた方が良いかも」
「やっぱりか。その辺は要注意だな」
「一応意識しておくほうが良いのではあるが、ケイ殿のように目立つ光源があれば相手側の方も気をつけてくれるのであるよ?」
「……あ、そりゃそうだよな」
俺らが気をつける事ばっか考えてたけど、向こうは俺らの事は見えてるんだからそりゃ気をつけてはくれるよな。まぁ片方だけでなく、お互いに気をつけておく方が安全ではあるけどね。
あ、それはそうとして、一応獲物察知がLv5になった事は報告しておこうっと。今回は出番がなくて終わりそうな気もするけど、それでも今後に役立つ可能性もあるからね。
「……みんな、ちょっと悪いお知らせ」
「ん? 悪い知らせってどうしたんだ、ヨッシさん?」
「……私の発光針の効果が切れて、目印が無くなったって」
「え、マジで!?」
「……それは確かに悪い知らせであるな」
「それで今は慌ててイカの位置を捕捉しているPTが見失わないように追跡をしてるとこらしいね」
「おー! そのPTの人、頑張ってなのさー!」
「そこで見失うと、流石に面倒な事になりそうかな……」
確かにこれは良くない報告だし、まだ包囲網が完成していない今の段階でイカを見失ってしまうのはマズい。……もう少し保っていて欲しかったけど、流石にそれは無茶だったか。
そもそもヨッシさんの発光針がいつまでも有効である訳じゃないのは分かってはいた。でもまぁイカの位置を捕捉できているPTがいるというのが不幸中の幸いか。ここはそのPTに頑張ってもらうしかないな。
「あ、少し動きがあった……これはナイス!」
「どうやら包囲網の形成に集まっていたプレイヤーの中に発光針を使えたプレイヤーがいたようであるな!」
「あー!? やったの、多分翡翠さんだー!?」
「え、ハーレ、それってどういう事かな?」
「またザックさんが捨て身の突撃をして、イカからカウンターを受けつつPTメンバーのハチの人の発光針を刺したそうです!」
「またザックさんかな!?」
「……ついさっき無茶したばっかなのにまたやったのか、ザックさん」
「ケイ、それこそザックさんの特徴だぜ?」
「……だなー」
もう完全にザックさんの捨て身戦法は、ザックさん自身に定着してしまってるよな。そしてザックさんのPTメンバーならハチの人はほぼ間違いなく翡翠さんだろうね。
まぁここはザックさんと翡翠さんはグッジョブと言っておくべきだな。発光針を刺してしまえば、こういう暗闇に支配されているエリアで逃亡する敵には有効みたいだしね。それにしてもあの当てにくいイカによく当てたもんだよ。
おっと、そうしている間に前を泳いでいたジンベエさんが速度を落として並んできて、ソウさんもそれに合わせて速度を落としてきたね。わざわざ速度を落として話しやすい状態にしたって事は、そろそろ到着か?
「ちょっと何かがあったみたいだが、ソウ、アルマース、そろそろ到着するぞ!」
「分かってるっての!」
「お、そうなのか?」
「目的地はまだ暗くて見えにくいであるが、もう少しであるな! アルマース殿、少し浮上しなければ岩壁に衝突するのでご注意を!」
「このまま進めば衝突すんのかよ!? ケイ、悪いんだが前方に明かりを集中させてくれ!」
「ほいよっと」
とりあえず刹那さんが物騒な事を言ったけど、もしかして目的地の浅い場所の岩場って急激に深さが変わる部分なのか? まぁアルがその辺の確認をする為に明かりの調節を要望しているんだろうから、それに合わせて周囲を全体的に照らしている状態から前方のみを照らすように調節してっと……。
「わっ!? 岩壁になってるよー!?」
「あ、所々に亀裂みたいなのもあるかな?」
「迷路みたいになってるって話だったし、それじゃない?」
ふむふむ、確かに断崖絶壁みたいな感じになっていて、そこに割れたような地形や洞窟っぽいのが複数存在していた。えーと、とりあえずこの断崖絶壁の上の部分が集合場所なんだろうね。
そして割れたとこや洞窟の奥とかが迷路みたいになっていて、その先にアンモナイトが居着いている場所があるって事か。……この複雑そうな地形じゃ、今日まで成熟体のアンモナイトが見つかってなかったのも仕方ないのかもなー。
「ここは一気に深度が変わる部分だし、地形としても特に複雑だからな。……刹那、そこは説明しとこうぜ?」
「ジンベエ殿が競争を始めるから、説明を忘れてしまったのであるよ!?」
「あー、流石にそりゃ悪かったか。アルマース、聞いての通りだ」
「……とりあえず、集合場所はそこの断崖絶壁の上で良いんだな?」
「それで間違いないのである!」
そんな風に刹那さんが断言したので、ベスタの指定した集合場所はこの上なんだね。さてと、シアンさんやセリアさんがいるのは確定だろうけど、他には誰が呼ばれているんだろう? ちょっとメンバーが気になるよなー。
「アル、ちょっとずつ浮上は出来るか?」
「……ちょっと岩壁までの距離がなさ過ぎるから、緩やかには無理そうだな」
「……まぁそんな気はしてた」
もっと早めに位置が分かっていればちょっとずつ浮上しながら進めてたんだけど、ジンベエさんとソウさんが全然浮上をする気配がなかったんだよな。
でもジンベエさんとソウさんは完全に海エリアに慣れてるだろうから、この位置からでも問題なく浮上は出来るんだろう。……うーむ、エリアの違いによる動き方の差ってのがどうしてもあるもんだな。
「少しその辺を回って速度を落とすか、そのまま海面に向けて泳いでいくか、どっちがいい? 俺はどっちでも行けるぞ」
「はい! そのまま海面に向けてがいいです!」
「というかジンベエ殿もソウ殿も速度を落とす気はなさそうなので、それしかないのでは!?」
「ふっははは! このまま一着はもらったぜ、ソウ、アルマース!」
「ちょ!? 待てって、ジンベエ!」
「……ケイ、どうするよ?」
「いや、どうするって言われても……」
ここで無理に誰が一着かを決める必要はないから、俺らは後から少し遅れて到着しても別に問題はない。……とはいえ、ハーレさんと刹那さんの視線がそれは許さないと思いっきり訴えかけている状態でもある。
というか、一旦収まった筈のレース状態がなんで再開になってる上に、その判断が俺にやってきてんの!? ……って、そんな呑気な事をしてる間にもう岩壁が目の前じゃん!?
「ちっ、考える時間もなかったか。ケイ、みんなの固定を頼む! 『略:旋回』!」
「あー、タイミング的にはそれしかないよな!?」
もうアルが岩壁にぶつかるという寸前で海面方向へと急旋回で向きを変えていき、もう方向性の変更が不可能なタイミングになってしまったので、大慌てで飛行鎧の岩でみんなの固定をしていく。
「いやっほー! クジラの崖上りなのさー!」
「ハーレ、それを言うなら鯉の滝登りじゃない?」
「なんとなく今の雰囲気に合わせて変えてみたのです!」
「……そういえば、コイで滝を登ったら変化があったりするのかな?」
「それは試してみているという話は聞いた事があるのである!」
「あー、まぁ確かに試してる人は居そうだよな。それで結果は……?」
「現時点では、純粋に泳ぎのみで滝を登るのは不可能だそうである!」
「……なるほどね」
試している人はいるけど、意外と難易度が高くて成功している人は今のところいないって事か。……なんかコイで滝登りを成功させたら竜への変異進化とか発生しそうな気もするし、そう簡単ではないのかも。
あれ? そういや灰の群集の人でも行きやすい滝がどっかにあったりするのか? 青の群集の隣接エリアの『涙の溢れた地』ではいくら何でも無理なはず。あそこは青の群集に近過ぎるし……。
「刹那さん、灰の群集で行きやすい滝ってどっかにあるのか?」
「小規模ではあるが、あるのである! しかし、その話は後ほどに!」
「あ、到着か」
ハーレさんの発言から少し変な風に脱線はしたものの、とりあえずどうにか岩壁の上まで泳ぎきったようである。他の所より浅瀬になっている岩場の上へと何とか到着したね。
ふむふむ、どうやら曇っていた天気も晴れたようで月明かりが射し込んでいて、周囲の様子も見やすくなっていた。まぁ浅瀬……とはいってもアルが普通に泳ぎ回れるくらいの深さはあるみたいだな。
「おし、俺の勝ちだな!」
「いきなり始めるのはやっぱりズルいだろ、ジンベエ!」
「……いや、いきなり以前に合流しようって時にレースはやめてくれ」
「アルマース殿の言う通りである! ジンベエ殿とソウ殿は反省すべきだと――」
「……アルも刹那さんも乗り気になってなかったっけ?」
あ、アルも刹那さんも思いっきり黙り込んだよ。まぁ変則的な形でレース状態になってたし、それで負けたのを誤魔化そうとしている気持ちは分からなくもないけどね。
アルも刹那さんも乗り気になってなかったのなら今のはスルーで良いんだけど、普段色々とツッコまれる身としては反撃しておきたいところ!
まぁ放っておいたら脱線しそうな雰囲気もあったから、今はそっちの軌道修正がメインだけどね。さーて、現時点で集まっているメンバーは結構な戦力みたいだな。
ベスタがいるのは当然として、パッと見た感じで知っている人はクジラのシアンさん、同じくクジラのセリアさん、カツオのケンローさん、風雷コンビくらいか。他にも海エリアの1PTや、陸エリアの1PTくらいはいるけど、その辺は知らない人だ。……レナさんとかも居そうだと思ったけど、そうでもなかったみたいだね。
「ベスタ、到着したぞー!」
「あぁ、分かっている。これで『グリーズ・リベルテ』と、刹那、ソウ、ジンベエが揃ったか。後は『飛翔連隊』が来れば予定のメンバーは揃うな」
「え、紅焔さん達も来るのか?」
「あぁ、まぁな」
ほほう、ここで紅焔さん達が呼ばれているのはちょっと意外だった……いや、そうでもないか。まだ最終案は聞いてないけど、オウムガイ……じゃなくてアンモナイトを空中で翻弄するという案で俺らが戦力の候補に上がっていたもんな。
さて、それじゃどういう最終作戦になったのかを確認していこうじゃないか。紅焔さん達がいるのなら、アンモナイトとの空中戦は確定な気はするけどね。