第741話 思いついた作戦
アルがすぐに逃げ出せる程度の群れの特性を持つ海藻によって一般生物の海藻に巻き付かれるというトラブルがあり、刹那さんにちょっとしたアイデアの提供のついでで邪魔な海藻の始末は終わった。
周囲にあった大量の一般生物の海藻を切り刻んだから、ちょっと景色が変わっちゃったね。まぁ一度さっきみたいに捕まって、そこから脱出すればこんなところか。
「って、あれ? そういや討伐報酬も何も無かったし、残滓だったのか?」
「いや、ケイ、それは違うぞ」
「というと?」
「まだ普通に生き残ってるからな、一般生物じゃない敵の海藻」
「あー、そりゃ討伐報酬が出るわけないか」
まだ倒せてないのなら、そうなるのが当然ですよねー。……うん、普通に敵のやつはアルに巻き付いていなかったから、敵という認識が無かったよ。
「とりあえず、これはさっさと倒しておくかな?」
「それもそだな。あ、識別はどうする?」
「苦戦するとも思えないので、必要ないと思います!」
「……確かにそりゃそうだ」
刹那さんはこの周辺にいるのは、成長体が主で極一部に未成体が混ざるくらいだと言ってたからね。俺らに攻撃を仕掛けてきたから多分未成体だとは思うけど、Lvとしてはかなり下のはず。
「みんな、ちょっと練習がてら、私にやらせてもらっていい?」
「もちろん良いのさー!」
「それじゃヨッシにお任せかな」
「任せたぜ、ヨッシさん!」
「ほいよっと。あ、ヨッシさん、氷塊の操作でやるのか?」
「それもなんだけど、ただ単にそれじゃケイさんの真似でしかないからね。私なりのアレンジをしてみるよ」
「……なるほどね」
「ほほう、どのようなアレンジになるのか気になるであるな!」
俺がやったのは岩の操作を使って岩の大剣で最高加速をして叩き斬るって手段だけど、ヨッシさんが氷塊の操作でそれをどうアレンジするのかが気になる所だね。
「それじゃいくよ。『溶解毒生成』『同族統率』『アイスクリエイト』『氷塊の操作』!」
おっと、事前に溶解毒を持たせたハチを生成した状態で待機させ、そこから形は麺棒みたいな氷塊を生成して海藻に向けて叩きつけて……あ、追加生成で海藻の周りを凍らせていってる!?
「それでこうだよ。行け、ハチ1号!」
そして一部凍らせていない部分が用意されてあり、そこに生成されたハチが飛び込んでいき、ハチの毒針を海藻に突き刺して枯らして、あっという間にHPが無くなりポリゴンとなって砕け散っていった。……うん、これって地味に凶悪なコンボな気がする。
<ケイが未成体・瘴気強化種を討伐しました>
<未成体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント3、融合進化ポイント3、生存進化ポイント3獲得しました>
<ケイ2ndが未成体・瘴気強化種を討伐しました>
<未成体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント3、融合進化ポイント3、生存進化ポイント3獲得しました>
おっと、瘴気強化種の討伐報酬だね。予想通り未成体でもあったみたいだし、進化ポイントが美味いですなー。まぁ今は進化ポイントは余りまくってるけどね。
「ヨッシ殿も意外とエゲツないであるな……」
「まぁヨッシさんは状態異常への特化型だしなー」
「エゲツなさで言えば、ケイの方が上じゃねぇか?」
うーむ、全力で否定したい気分ではあるけど、自分でもあまり説得力がない気がするので反論は諦めておこう。
それにしても、状態異常の効く相手にはヨッシさんは無類の強さを発揮するよね。まぁ状態異常が効かなければかなり優位性は落ちるけど、海中では使いにくそうな毒魔法は使わずに同族統率のハチを……って、あれ? さっきまでいた同族統率のハチの姿が見当たらない?
「ヨッシさん、生成してたハチは……?」
「……あはは、ほんの少しの間は頑張ってくれたけど、海エリアは駄目みたい?」
「あー、そこでバランスを取ってるのか……」
本体であるヨッシさんのハチはウニとの共生進化で海にも適応出来ているけど、生成されたハチにはそこまで便利な環境適応は反映されていないか。まぁそこまで適応出来てたら流石に便利過ぎるもんなー。
「それでは片付いたという事で、改めて出発である!」
「それもそうだな。それじゃみんな、改めてアルに乗って移動って事で!」
「「「「おー!」」」」
そうしてみんなが改めてアルクジラの背中の上に乗って、移動が再開になった。そこから徐々に北に向けて進んでいけば、徐々に海底に傾斜があるように見える。まぁ巨大な海藻が大量にあるのは変わらないけどね。
「あ、この辺の海藻はボロボロになってるかな」
「先に行ってるPTが戦闘をした後かもな」
アルの言うように海藻以外にも荒れた雰囲気はあるし、魚とかの一般生物の姿が全然見当たらないんだよな。ここに来るまでの道中には……アルのクジラが巻き付かれた時以外には結構見えてたんだけどな。
それと普通なら海面に向かって伸びている巨大な海藻があちこちへし折れていたりするんだよね。パッと見た感じでは一般生物みたいだけど、消滅はしていないっぽいな。この辺ってどうなってるんだろ?
「刹那さん、ここの一般生物の海藻って消滅しないのか?」
「アイテムとして収集が出来ないので、消滅はしないであるな。放っておけば、元に戻るのである」
「あー、森林とかでの木と同じようなもんなのか」
「拙者はむしろ森林の方があまり分からないのである。薪割りをする事があるとは聞く事もあるが……」
「そっか、海エリアの人からするとそうなるのか」
レナさんみたいにあちこち移動しまくってる人はそれほど多くはないだろうし、刹那さんの場合はタチウオもヒトデもどっちも海エリアの種族だもんな。オフライン版では薪割りなんてなかったし、普段から海エリアを活動拠点にしていれば森林での薪割りはピンと来ないか。
「それなら海エリアのこの巨大な海藻って何かに使ったりはするのかな?」
「……そうであるな。巨大なのに限らず海藻を固めておくと一般生物の魚が特に集まりやすい故に、一気に魚を捕まえる漁に使う事はあるのである!」
「漁をすんの!?」
「……あはは、ちょっとビックリな用途だったかな?」
「そうであるか? 使い道が少ないとされていた海水の操作など、この漁が広まった際には大活躍となっているのであるぞ!」
「へぇ、海水の操作ってそんな風に活用されてるんだ」
「そりゃ興味深いな」
お、アルが海水の操作の使い道についての話題に食いついてきた。まぁアルは海水魔法や海水の操作や海流の操作とかも育てていく予定だし、海水の昇華は水の昇華の下位互換みたいな判断をされていたのが用途があるとなっているなら気にもなるよね。
「漁……海で漁……アジ……イワシ……イカ……サンマ…………ロブスター……ウニ……じゅるり」
「おいこら、ハーレさん!? ブツブツと海産物の名前を呟きながら俺とヨッシさんを見てくるのはやめろ!?」
「ハーレ!? 私のウニとケイさんのロブスターは食べられないからね!?」
これは完全に話題をミスったぞ!? 海で漁と聞いて、ハーレさんの食欲スイッチが入ってしまっている。……ハーレさんのリスの目が完全に獲物を狙う目になっている……って、リスは草食じゃなかったっけ? いや、雑食か? ……このゲームじゃ普通の生物とは違ってモンスターになってるんだし、草食とか肉食はどっちでも関係ないか……。
「……これは何事であるか?」
「……あはは、ハーレって食べ物には盛大に貪欲になるかな」
「で、時々ああして食べ物が絡むと変な事になるって訳だ。……ハーレさんも、プレイヤーは食べられない事は分かってる筈なんだがな?」
「なるほど、そういう事であるか! 拙者も海産物は好みであるから、気持ちは分からなくはないのである!」
「って、他人事みたいに呑気に話してる場合かー!?」
「いや、だって、実際他人事だしな? なぁ、サヤ」
「……あはは。ケイ、ヨッシ、ごめんかな?」
うわ!? 完全にアルとサヤが他人事として、ハーレさんの扱いを放棄したよ!? いや、まぁそうしたくなる気持ちも分からなくはないけど……くっ、いつもならそろそろ大人しくなりそうなのに、まだ魚介類の名前を呟き続けてるぞ!?
「ヨッシさん、ハーレさんの今の状態はなに!? 流石にあそこまでのは見た事ないんだけど!?」
「……えっと、心当たりはあるにはあるんだけど……」
「あ、もしかして昼間のあれかな?」
「……うん、多分そうだと思う」
「……昼間のあれって何だ?」
何か明確に理由がありそうな感じではあるけど、あれと言われただけでは分からないな。……でも昼間にサヤとヨッシさんとハーレさんが知っている内容となると、リアル側でのやり取りで海産物に関する何かがあった?
「……えっと、今週末に私の家で海鮮バーベキューをする事になって、それが話題になってハーレが羨ましがってたかな?」
「絶対、原因はそれじゃん!?」
うわぁ、それは絶対にハーレさんが思いっきり羨ましがるやつだ。っていうか、それなら俺も思いっきり参加したいくらいなんですけど。いや、距離が遠いから絶対に無理だけどさ。
くっ、実際にリアルでハーレさんを参加させる事は出来ないから、ここは何かの代替手段で落ち着かせて……っていうか、地味に興奮してるけどこれでは強制ログアウトにはならないのかよ! 一旦ログアウトして、リアル側で落ち着かせて来ようかな……。
「それならば代わりと言ってはなんではあるが、イカの討伐作戦が終わった際に祝勝会で海鮮バーベキューをやるのはいかがであるか?」
「え!? 刹那さん、それって出来るのー!?」
「……反応が早いであるな。まぁ今回は無報酬の作戦という事ではあるが、成功した際にはそれくらいはあっても良いとは思うのである。拙者の方から、灰のサファリ同盟の海原支部や、漁を専門にしている共同体へ掛け合ってみるであるよ」
「やったー! それならイカの討伐作戦を頑張るのさー!」
「ハーレの変わり身が早いかな!?」
まぁイカの討伐作戦が終わった後に、祝勝会で海鮮バーベキューっていうのもありと言えばありだよな。……開催場所がどこになるのかが少し気になる所ではあるけど、それについてはまぁ何かしらの手段はあるのだろう。
今パッと思いついたので言えば、常闇の洞窟の海水の地下湖がある所とか? ……うん、真っ暗闇というのは既にどうとでも対策は出来るから、可能か不可能かで言えば普通に可能そうだな。
もしくはヨシミの所の空気がある場所とか、他の群集拠点種の海水の大きな水球がある場所とか、その辺だな。それか海エリアの人が陸地への適応をして、どこかの陸地ってとこだね。
「あ、そうそう。イカの討伐作戦で少し考えていた手段があるのであるが、意見を聞いてもよろしいか?」
「お、刹那さん、それってどんな内容?」
「それは少し前にアルマース殿とハーレ殿が情報共有板で報告していた内容に関わるのである!」
「ほほう? 詳しく聞こうじゃねぇか」
「報告した内容ってアロワナの件だよねー!? あれが何か使えるの!?」
アルとハーレさんが具体的にどんな風に報告したかは分からないけど、報告した内容そのものは俺も把握はしている。
ハーレさんは俺らが誕生させたフィールドボスのキツネを、成熟体のアロワナが横槍を入れて殺した事で得た称号とスキルの事を……あー、そういやそこで刹那さんが再現のしやすい方法の考察をしてたって言ってたっけ。これはかなり聞く価値がありそうな作戦かもしれないね。
「拙者、思ったのである。何も逃げているイカを討伐するのは、プレイヤーでなくても良いのではないかと?」
「っ! そうか、確かにそれはありだ! 刹那さん、ナイスアイデア!」
「……なるほど、確かにあのアロワナの攻撃力を考えれば、同格のプレイヤーが足止めしつつ仕留めるよりは早く仕留められそうだな」
「でも、それってどうやって攻撃をさせるのかな?」
「死亡覚悟で、イカを巻き込むのさー!」
「……それだとなんだかザックさんみたいだね。でも、ありと言えばありな気もするよ」
プレイヤーで倒すのが困難ならばいっそのこと格上の成熟体に倒させてしまえばいいというのが、刹那さんの作戦だね。これは俺らがネス湖でその状況が発生していたからこそ、可能性として浮上してきた作戦なのだろう。
これは確かに作戦としてはありだとは思う。ありだとは思うけども、だからといってそのまま即実行という訳にはいかないな。実際にやろうと思えば、いくつか必須な条件が出てくるね。
「ただ、問題がいくつかあるのである……」
「逃げてるイカの捜索は元々の予定だから除外するとして……まず近くに成熟体がいるかどうかだな」
「それと見つけた場合にどうやって成熟体とイカを遭遇させるかも問題だぞ」
「ケイ殿とアルマース殿の言う通りなのである。もし近くに成熟体が居なければ……」
「……そもそも作戦としては成り立たないかな」
サヤが身も蓋もない事を言ったけども、れっきとした事実だから否定する意味もない。この作戦の要は成熟体の存在なんだし、いなければ作戦として成立しないのは自明の理。
それに成熟体を利用するというのも言うのは簡単だけど、実際に行うのは簡単ではないな。ま、難しいからというのは却下する理由にはならないけどね。
「よし、とりあえずこれは俺らだけじゃどうにもならないから情報共有版で意見を聞こう。あちこちに人が散らばっているだろうから、成熟体の目撃情報も得やすい筈だしな」
「そうするのである! ベスタ殿を筆頭に成熟体から長時間逃げられる方々もおられるし、成熟体さえ見つかれば可能性はあるのである!」
「……だな。まずは作戦を話して、条件を詰めてから実行に移せるかを検討すべきだろう」
「横槍を入れてきたアロワナの件が役に立つかもしれないのさー!」
「確かにそれは嬉しいかな!」
とりあえず方針としては、一度情報共有板で相談してみるという形で決定だね。そこから実際にどう動くかは、他のみんなと打ち合わせをしてという感じになりそうだ。
それにしても称号とスキルを手に入れられたとはいえ、あのキツネをアロワナに横取りされて不完全燃焼にはなっていたけど、その時の状況が役に立つ可能性があるとはね。成熟体がいるかどうかは運任せにはなるけども、ここは是非ともいて欲しいところ!




