第740話 海藻の多い場所
『海の新緑』へとやってきて、その移動中に刹那さんのタチウオの独特な戦法について話を聞く事が出来た。異常に攻撃性の高いタケノコみたいな敵が使ってくる分体生成だけど、まさかプレイヤーが分体を生成して戦う事が出来るとはね。
まぁ遠隔同調よりも更に操作難易度が高そうだけど……って、あれ? 何か忘れているような気がしないでもない? あ、忘れてるのはこれか。
「ちょっと質問。分体の生成中に片方がやられたら、どういう扱いになるんだ?」
「それについては答えられぬ……!」
「……まぁ言いたくないならそれでも仕方――」
「言いたくないのではないのである! まだ試していないから、分からないだけなのだ! それに分体の生成しておける時間にも制限があるのである!」
「あー、なるほどね。そういうパターンか」
そっか、まだ分体生成の特性を得てそれほど経ってないって話だし、まだ未検証な部分もあって当然ではあるか。しかも分体生成には時間制限ありとなると、殺られるのにもタイミングの問題もあるね。こりゃ失礼しました。
「アルさん、右前の海藻に注意なのさー!」
「おうよ! って、何だ!?」
「おわっ!?」
ちょ、アルがハーレさんから警告を受けて巻き付いてきた海藻を回避したのに、なんか衝撃が走ったぞ!? 一体何が……って、アルのクジラも木も周囲の海藻でグルグル巻きにされている。
あ、慌ててアルが移動を止めたっぽい。……いや、強制的に止められたのか? これは一体どっちだ?
「アル、動きを止められたのか?」
「いや、自分で止めただけだ。……一体この状況は何がどうなった? ハーレさん、危機察知は1ヶ所じゃなかったのか?」
「分かんない!? アルさんが避けた瞬間に、急に危機察知が周囲全体から一気に来たのさー!」
「……周りの長い海藻が全部巻き付いてきてるよね」
「刹那さん、これってどういう個体かな?」
「これは群れの特性持ちの個体であるな! 滅多に出現しないと聞くので、拙者も初めて見たのである!」
「海藻でも群れとかあんのかよ! てか刹那さんでも初見かい!」
それは盛大にアルに同意だな! えーと、群れの特性は周囲の一般生物を自身の支配下に置いて群れとして扱うものだったよな。……それにしても、滅多に出現しないのがいきなり出てくるとは想定外にも程があるね。運が良いのか、悪いのか……。
「アル、強引に引き千切れるか?」
「大して拘束は強くないから多分可能だが、ケイ達も振り落とす事になるかもしれないぞ?」
「あー、そりゃそうなるよな……。刹那さん、この辺の敵のLvってどんなもん?」
「この辺りならほぼ成長体が大半で、極一部に未成体がいるくらいである! それにこの敵は邪魔ではあってもよほど低Lvでなければ脅威ではない……と聞いた事がある!」
「あ、脅威じゃないのか」
まぁ確かにアルが大量の海藻に巻き付かれているだけで、そのほぼ全てが一般生物だし脅威な訳もないよな。ちょっと手近に巻き付いている海藻をハサミで挟んでみて、チョキンと閉じればあっさりと切断出来たしね。
ふむふむ。急な出来事でちょっと焦ったけど、こんなにあっさり切れるなら邪魔なだけでそれ以上の意味もなさそうだ。てか、これくらいならアルが俺らを振り落とすほど暴れなくても、普通に引っ張っていくだけでどうにかなりそう。
「で、これは結局どうする?」
「はい! 海藻に絡め取られているクジラの姿を撮りたいです!」
「ハーレさん、コンテストに出す用であれば流石にそれは嫌なんだが……。灰の群集にクジラのプレイヤーはそれなりにいるが、蜜柑の木とセットなのはそう居ないからな」
へぇ、クジラはそれなりにいるけど、アルと全く同じ構成っていうのはそんなに多くはないんだな。……確かにクジラ自体は何度か見た事はあるけど、木を背中に生やしているのはアル以外に見た覚えはない。
多分全くいないって事はないんだろうけど、それ程多くもないんだろうなー。色んな種族の組み合わせが可能なんだから、似たような構成はあっても全く同じっていうのも早々ないか。ジェイさんと俺が種族の構成は似てるけど、それでも大きく違うしね。
「あぅ!? でも刹那さんでも初見なら珍しい光景の筈なのさー!?」
「そういえば少し前にセリア殿がそのようなスクショを撮ったと自慢していたような気もするのであるが……」
「……アルさん、コンテスト用は諦めるので、普通に撮らせて下さい!」
「おーい、土下座までする事か? あー、俺の負けだ。ハーレさんの好きに撮ってくれ」
「やったー! アルさん、ありがとうー!」
なんというか、確かに中々無さそうな光景ではあるけど、ハーレさんもそこまでするか? うーん、こういう部分の拘りは他人にはいまいち通じない部分なのかもしれないけど……まぁ、アルが良いと言うなら別に良いか。
「それじゃ俺らはちょっと邪魔だろうし、一旦下りとくか」
「それもそうかな。あ、ヨッシ。氷塊は大丈夫かな?」
「うーん、ちょっと引っかかってそのままじゃ無理そう。……ハーレ、この海藻は切らない方が良いよね?」
「そうしてくれると助かります!」
「それじゃ氷塊の操作は一度解除だね。……結局1回も使わなかったけど」
そうして、アルと一緒に海藻に巻き付かれていたヨッシさんの氷の大剣……というよりは形状が変わってて棍棒……いや、麺棒……? まぁそんな形状の氷塊の操作は一度解除になり、消滅していった。
へぇ、ハーレさんが言うまでヨッシさんの氷塊も海藻に巻き付かれていたとは気付いてなかったけど、前よりも荒ぶっている様子もなく、かなり安定しているな。
「ヨッシさん、もしかして氷塊の操作がLv3に上がった?」
「ううん、まだLv2だよ。でも、操作する形状で意外と扱いやすくなるもんだね」
「あー、まぁそういうのがコツでもあるからなー。……ちなみにヨッシさん、さっきの氷塊はどんなイメージ?」
「えっと、前にうどんを打った時の麺棒のイメージだね。攻撃をする段階で包丁みたいな形状にしようかと思ってたんだ」
「……なるほどね」
なんというか、これは料理をするヨッシさんらしいイメージ方法だな。……これ、包丁みたいな形で斬るのは俺よりヨッシさんの方が向いてるんじゃないか?
あ、そんな風に話しながらアルの上からみんなが退けば、ハーレさんが思いっきりスクショを撮りまくっているね。
「ヨッシ殿の氷塊の操作は豪快であるな! ケイ殿も岩で大剣を形成していると聞き及んでおるし、そういう方向性もあったのかと痛感しているところである!」
「いやー、その辺は一長一短だと思うぞ。岩の操作じゃ刹那さんのさっきの二刀流は……いや、並列制御を使えば出来るには出来るな。……でも、流石にそれは――」
「その場合の問題点は分かっているのである。行動値の消費が激し過ぎて、それ以外の行動が不可能!」
「……その辺は承知済みなんだな」
「然り! ただ、その辺は2ndのヒトデで検討中なのである!」
ほほう? 刹那さんの2ndのヒトデは風魔法で吹き飛ばして体当たりをしていくイメージだったけど、案外そうでもないのか?
「参考までにどんな構成にするのか、聞いてみても良いかな?」
「まだ検討中ではあるが、それでも良ければにはなるがよろしいか?」
「うん、それでも大丈夫かな」
「左様か。では拙者の検討中の構成を説明するのである。目指しているのは支配進化……厳密にはその先の同調であるな!」
「いきなり予想外の方にぶっ飛んで行ったんだけど!?」
「まぁ最後まで聞いてくだされ!」
いや、まぁそりゃ最後まで聞くけど、俺と同じ同調を目指してるってマジかー。えー、タチウオとヒトデで同調ってどんなのを想定してるんだ? いかん、全然想像が出来ない。
「メインにするのはヒトデの予定であるな。まず大型化の進化を目指し、タチウオを刀として構えるヒトデにする予定である!」
「あー、そういう方向か。……もしかして、それでヒトデでタチウオの二刀流にするのを計画して特性に分体生成を加えた?」
「分体生成に時間制限があったのが少し誤算ではあったが、その通りなのである! まぁ二刀流に関しては奥の手にもなるので、問題はない! それとヒトデを手裏剣に見立てる戦法は同調で使う計画を立てているが、気軽に使えぬ為に少し行き詰まっているところである! 風魔法と突撃系スキルの併用はありだと思ったのであるが……」
「あー、そこで行き詰まってるのか」
ふむふむ、刹那さんの説明を聞いている感じだと遠隔同調をヒトデでの体当たりで手裏剣に見立てた遠距離攻撃をしようと考えて、近距離攻撃はタチウオで戦うという想定なんだな。そして奥の手が分体生成による二刀流化って事か。
うん、思いっきり刀と手裏剣をイメージした構成にしようとしているのは良く分かったし、遠近両方の戦闘スタイルも確立しようとしているんだな。でも遠隔同調にも時間制限という欠点もあるし、本体が直接飛んでいくというのはちょっと問題がありそうだ。
うーん、これに関しては思い付く解決策はあるにはあるね。こうやって刹那さんの手の内を俺らにわざわざ説明する義務もないのに、厚意で教えてくれたんだからそれ相応のお返しをしておこうかな。
刹那さんのプレイヤースキルなら多分扱いきれると思うし、支配進化の強みも活かせるはず。なにより、実際に形になった時の状況が面白そうだ!
「刹那さん、その解決策に心当たりがあるんだけど――」
「ケイ殿、それは真か!? そうであるならば是非ともご教授願いたい!」
「……それは良いけど、実際にどうするかはしっかり考えてくれな?」
「勿論なのである! それでは是非にご教授を!」
「分かった! 分かったから、少し落ち着いてくれ!」
「……これはつい興奮して、失礼した!」
「とりあえず言葉で説明するよりは、実際にやってみせた方が早いな」
この手段については、俺自身が使っている攻撃手段をちょっと弄ったもんだしね。変に説明するよりは実際にそのものを使ってみるのが手っ取り早いだろう。
「あ、何となくケイがやろうとしてる事は分かったかな」
「私も分かったかも。……というか、やろうと思えばケイさんより精度は落ちるけど私も出来るかも?」
「なんと!? ケイ殿だけでなく、ヨッシ殿にも可能なのであるか!?」
「まぁヨッシさんなら出来るだろうね。ま、とりあえずやっていくぞ」
「これは明確な希望が見えてきたのである!」
あはは、思いっきり刹那さんが食い入るように俺の方を見ているなー。さーて、それじゃ実際にやっていきますかね。……どうせなら最大数でやってみるか。
<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>
<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』は並列発動の待機になります> 行動値 66/67(上限値使用:11): 魔力値 213/216
<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>
<行動値2と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』は並列発動の待機になります> 行動値 64/67(上限値使用:11): 魔力値 210/216
<指定を完了しました。並列発動を開始します>
さて、これで6個の小石の生成は完了だな。それじゃ次はこれを操作して、今回は刹那さんが使う為のやり方だから手裏剣の形に成形して――
「こ、これは!? なるほど、なんとなく理解したであるぞ!」
「ちょ!? え、まだ途中なんだけど!?」
小石を6個生成しただけで、俺がどういう手段でやろうとしているのかを把握したのか!? ……やっぱり刹那さんは喋り方は変だけど、実力を侮ってはいけない人だな。なんというか、同じ群集で良かった気がするよ。
<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>
<行動値を3消費して『土の操作Lv6』は並列発動の待機になります> 行動値 61/67(上限値使用:11)
<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>
<行動値を6消費して『土の操作Lv6』は並列発動の待機になります> 行動値 55/67(上限値使用:11)
<指定を完了しました。並列発動を開始します>
もう既に刹那さんは俺の意図を理解しているようではあるけど、ここまでやったなら最後までやり通そう。という事で、6つの小石を支配下に置いて手裏剣の形に成形していく。……うーん、流石に形状が形状だから歪にはなったけどまぁ許容範囲か。
あ、そういや狙う先を考えてなかったけど、それはどうしよ? ハーレさんがアルのスクショを撮り終えていたら、そのまま邪魔な海藻を斬ってしまうのに使えば良いんだけど……。
「撮影、完了なのさー!」
「お、ハーレさん、ナイスタイミング! アル、動くなよ」
「……おい、ケイ、もしかして!?」
「そのもしかしてだな。アルには当てないから、心配すんな!」
「……あー、もう勝手にしろー!」
「んじゃ遠慮なく!」
アルの許可……半ばヤケだった気もするけど、許可を得たのは間違いないので小石製の6発の手裏剣を発射! ……あ、これは回転させながら個別にバラバラの方向に動かすのは難しいな。
でも、6発の手裏剣を同じ軌道を飛ぶように操作すれば難易度は一気に下がるから、とりあえずその方向性で……よし、アルに絡みついていた海藻の切断はほぼ完了っと!
「ケイ殿! これが、これこそが! 拙者の求めていた手裏剣である! 至極単純な内容であるが、それ故に見落としていたようで、ケイ殿に感謝しかない!」
「お、おう。参考になったなら何よりだよ」
「これならばヒトデは完全に魔法型にして、支配進化の特徴を最大限に活かす事も可能! そしてヨッシ殿でも出来るという事はこれは氷でも出来るのであるな!?」
「あー、まぁ元々はヨッシさんが氷で包丁を作ってたのが発想の元だしね。あ、土属性にしろ、氷属性にしろ、昇華での生成量の増加は必須条件だからなー」
「昇華は必須条件であるな! それではヒトデを魔法型にするのは確定として、土属性にするか氷属性にするかが悩みどころでは……いや、両方というのも選択肢としてはありなのではないか……? しかし、優先順位を決めなければ……」
とりあえず刹那さんの今後の育成方針の参考にはなったみたいで良かったよ。俺としても自分の中に無かった発想に触れられて刺激にはなったもんな。こういう情報交換の有意義な点はこういう所だよね。




