第732話 みんなと合流
俺がログインしてみれば、ヨッシさんの強制ログアウトからの成長体の逃走というトラブルが発生していた。まぁ俺が動き始めようとした瞬間に、湖の中を探していたヨッシさんが氷の檻で捕獲し直して水面に上がってきたから何もする事はなく解決したけどね。
あ、共同体のチャットの方にアルが書き込んでるな。今はまだPTを組んでないし、ヨッシさんが水面に出てきた所は声が届く範囲だけど、アルは多分だけど水中にいるから声が届かないんだろう。
アルマース : とりあえずケイのいる湖の畔に集まるか。
サヤ : 分かったかな!
ハーレ : 了解なのさー!
ヨッシ : うん、分かったよ。
ケイ : ほいよっと。
とりあえず今はみんながバラバラの状態になってるみたいなので、合流するのが最優先だな。ハーレさんも泳いで合流しに行こうとしてたから、まだPTが組めてない状況かもしれないしね。
ヨッシ : みんなごめんね、手間かけさせて……。
アルマース : これくらいどうって事ないから、ヨッシさんは気にすんな。強制ログアウトじゃ仕方ないし、手……というか根は空いてたのに、捕まえ損ねたのは俺だしな。
サヤ : ヨッシ、気にしなくても大丈夫かな。私も対応は遅れたしね。
ハーレ : わざとじゃないなら問題ないのです! 悪いのはヨッシの弟なのさー!
ヨッシ : あはは、そう言ってもらえると助かるよ……。
あ、そういやヨッシさんの弟が何かをして強制ログアウトになったとかさっき言ってたっけ。……何をしたのかは分からないけど、強制ログアウトになるという事は何か明確に衝撃を与えたとかそういうやつか?
んー、ヨッシさんの弟が何歳かは知らないけど、流石に身体に衝撃を与えるのはないか? 他に考えられるとしたら、ホームサーバーの方を下手に弄って一時的に接続が切れたとかかな。……うん、その辺は有り得そう。
サヤ : アル、ちょっと迎えに来てもらってもいいかな?
アルマース : あ、そういやそうか。ちょっと待ってろ。
ケイ : そういや何がどうなって、サヤが小島の方にいるんだ? ついでにアルも今どこ?
色々とその辺の事情が分かってないまま状況が進んでいるからねー。とりあえずハーレさんは今俺の近くに辿り着いたし、ヨッシさんもこっちに向かって飛んできている。多分アルはまだ湖の中にいるだけだろう。
だけど火属性のキツネを持っているのがサヤだとは言ってたから水中にいない理由は分かるんだけど、何故サヤが小島にいるのかの理由が分からない……。
アルマース : 俺なら湖の中だけど、そろそろ水面に出るぜ。
ケイ : あ、マジだ。
そのアルの書き込みとほぼ同時に湖の中から水飛沫を上げながらアルのクジラが顔を出し、俺のいる方向とは逆方向になるサヤのいるという小島の方に向かって泳いでいる。これだけ広い湖だと、アルのクジラでも悠々と泳げるもんだなー。
サヤ : えっと、順を追って説明をしようかな?
ケイ : それでよろしく。
まぁアルとサヤが俺のいる所まで戻ってくるのに少し時間がかかりそうだから、その時間の内に状況を把握しておきたい。
単純にみんなが進化記憶の結晶がある小島にいるのなら、経験値増加のアイテムが入手出来ないか見に行ったんだろうとは思うんだけどね。
サヤ : まず進化記憶の結晶が生成されてるかもしれないって事で、私とアルとヨッシで見に行く事にしたんだ。これは手に入るタイミングの問題があるし、大丈夫だよね?
ケイ : それは問題ないぞ。夕方にハーレさんが手に入れてるしな。
ハーレ : そうなのさー! これについては大発見があったから後で話すねー!
ヨッシ : え、そんなのあったの?
ケイ : おう、あったぞ。レナさんも一緒にいたから、早けりゃもうまとめに上がってるんじゃないか?
アルマース : ほう? そりゃ興味深いな。
ケイ : それはとりあえず後でなー。サヤ、続きをよろしく。
サヤ : あ、うん。それで私が竜でキツネの成長体を巻き付けて捕獲して、ヨッシが氷の檻でアルマジロを捕獲して、それでアルのクジラに乗って移動してたんだよね。
ヨッシ : それから今アルさんがいる辺りまで行った時に私が強制ログアウトになっちゃってね……。
サヤ : 慌ててアルがアルマジロを捕獲しようとしたんだけど、急だったから対応が遅れてそのままアルマジロが湖に落ちちゃって……。私が追いかけようにも竜でキツネを捕獲してて飛べなかったし、キツネを捕まえたまま潜る訳にもいかなかったから、アルに近かった小島の方に下ろしてもらったんだ。ちなみに経験値増加アイテムは手に入らなかったかな。
ケイ : あー、なるほどね。
ハーレ : そういや、ヨッシの弟は何をやったのー!?
ヨッシ : えーと、リビングでふざけてて、ホームサーバーにぶつかって、接続エラーを起こしちゃってね。それで接続中だった私が強制ログアウトになっちゃって……。
アルマース : なるほど、そういう経緯か。まぁ子供ならよくある事ではあるな。
ヨッシ : うん、まぁそうなんだけどね。今はお父さんが盛大に説教中。……近所迷惑になったらいけないから、ホームサーバー内での仮想空間でだけど。
うん、まぁホームサーバーの仮想空間をそういう風に使うのもありといえばありか。どれだけ大声を上げようが近所迷惑にはならないだろうしね。
ケイ : えーと、簡単にまとめると、ヨッシさんが強制ログアウトになって、その際に落としたアルマジロが湖に潜って逃げて、かといってすぐにサヤが追いかけられる状態でもなかったからアルがサヤを小島に退避させて、そこからアルが水中に潜って探しに行ってた感じか?
アルマース : まぁそうなるな。その後ヨッシさんが戻ってきて手分けをして探しているとこにハーレさんがログインして、サヤが状況を説明して捜索に加わろうとした時にケイがログインしたってとこだ。
ケイ : なるほどね。
うん、大体の流れは把握した。単純に言ってしまえば想定外の事が重なってしまって、大慌てしてたってところか。まぁ聞いている限りでは慌てる気持ちは充分分かるけどね。
「はい、到着っと。アルさん、PTリーダーもらえない? うん……あ、ありがと」
おっと、そうしている間にヨッシさんが到着したようである。ふむ、この氷の檻に閉じ込められているのが逃げ出したアルマジロか。色は特に変哲もないから、属性なしの物理型かな?
「ハーレ、ケイさん、どうぞ」
「あ、PT申請か」
「了承なのさー!」
<ヨッシ様のPTに加入しました>
俺よりもハーレさんの方が少し先にPT申請を承認したようで、表示されたのは俺のPT加入のメッセージだけだな。ま、その辺の順番を気にする必要は別にないからどっちでもいいけど。
さて、これで共同体のチャットを使わなくてもPT会話で普通に会話が出来る。それにアルがサヤを背の上に乗せて、俺らの方に向かって来ているのでもう少し待てば合流だな。
「それで、ケイ、ハーレさん、夕方には何があったんだ?」
「ふっふっふ、光る方の進化記憶の結晶で手に入る経験値増加のアイテムで、ボーナスタイムが発生するのを発見したのさー!」
「それってどういう事かな?」
「あ、まとめにあったよ。……え、経験値増加の効果がある一般生物が大量に発生したの!?」
「え、マジか!?」
「おう、マジだぞ! 俺が初めて光る進化記憶の結晶を見つけた場所で偶々遭遇してな」
「通りすがりに寄ってみたら、凄かったのです! ちなみにそれがこれー!」
「わっ、光ってる海老かな!」
「あ、手長海老なんだね。」
ハーレさんが自慢げに手に入れた光っている手長海老を見せびらかしている。うん、やっぱりレナさん達がいたしその辺はしっかりとまとめてくれていたみたいだね。地味にこの件の報告はさっきまで忘れてたけど、俺らだけじゃなくて良かったとこだな。
「ハーレ、ちょっと待って。まとめを見た感じだと、それを聞いた灰の群集のみんなが取りに行ってたってなってるんだけど……これ、教えてくれてたらタイミング的に私とサヤも取りに行けたんじゃ?」
「あ、途中で近くは通ったんだし、それはそうかな?」
「はっ!? 確かにそうなのです!?」
「ヨッシさん、過ぎた事を言っても仕方ないだろ。それに俺が確保する予定だった成長体の確保もしといてくれたんだしな」
「……アルさんの言う通りだね。うん、今のはごめんね、ハーレ」
「私も連絡不足でしたー! ごめんね、サヤ、ヨッシ」
ふー、とりあえずアルの一言で揉めずに済んだね。まぁヨッシさんがしつこく責め立てるような状況というのも想像が出来ないから、放っておいても大丈夫だったんだろうけどさ。
「サヤ、時間も勿体無いから少し飛ばすぞ」
「あ、うん、分かったかな」
「んじゃいくぞ。『自己強化』『高速遊泳』『水流の操作』!」
そうして湖面の水を水流に変えてその流れに乗りつつ、アルが勢い良く泳いでくる。おー、アルの移動の影響か、湖畔の波打ち際に少し強めの波が打ち寄せてきているね。湖面には他のプレイヤーの姿はないので迷惑にもなってはいないな。
それにしてもこのネス湖ってスクショのコンテストの開催直後は混雑してたと聞いたけど、今はそうでもないな。一応全然人がいないって訳でもないから、今くらいの人数がが平常時なのかもね。……まぁこのネス湖に限っては、湖の中の方に人がいる可能性も十分あるけど……って、それはさっきまで潜ってたアルに聞けば良いか。
「アル、湖の中の混雑具合ってどんなもん?」
「ん? いや、別にもう混雑してなかったぞ」
「あ、そうなんだ」
「まぁここの混雑は落ち着いたってとこだろうよ」
「なるほどね。ま、その方が気兼ねなく動けて良い感じか」
「そうなのさー! そして手早くフィールドボス戦を済ませて、海エリアに行くのです!」
うん、それはハーレさんの言う通りだね。って、海エリアに行く件についてはちょっと相談しないといけないんだった。経験値稼ぎに良さそうな場所は例の逃亡中のイカのフィールドボスがいるエリアだし、9時から大人数での討伐作戦も計画されている。
もしみんなが討伐作戦に参加するなら経験値稼ぎは少し諦める必要があるだろうし、参加しないなら陸のエリアでどこか経験値が良い場所を改めて探す事になるね。
「そういえば逃げてるイカの討伐を大人数でやるんだってな」
「え、アル、もう知ってたのか?」
「おう、ログインした時にはどこもその話題になってたぞ。……ま、多分その話題でさっきの光る進化記憶の結晶の話は流れてたんだろうな」
「あー、そういう感じか」
タイミング的にはどっちも話題になってても不思議ではないけど、数が多かったとはいえ上限数はあったと思われる経験値増加の効果のある一般生物の話題よりは、人手が欲しいイカの討伐の方の話題を積極的にしてた感じなんだろうね。
「おし、到着!」
「みんな、お待たせかな!」
そんな風に話している間に、アルとサヤが湖畔に到着した。……ちょっと勢いをつけ過ぎて湖畔にアルが乗り上げそうになったけど、水流の操作で強引に勢いを殺して止まったね。さて、これで全員合流だな。
「ちなみにイカの討伐については俺もサヤもヨッシさんも参戦の意志はありだ」
「うん、待ってる間に私達の意見は決めておいたかな」
「経験値よりお祭り騒ぎを優先って感じだね。後はケイさんとハーレ次第だよ」
ほほう、既にその件については参戦するって事で意思決定済みなんだね。俺としては参戦したいとこだけど、ハーレさんはどうなんだろ? ま、とりあえず俺の意思表明は――
「私も賛成さー! 後はケイさんの意見のみです!」
「……ハーレさん、俺が言おうとするタイミングに被せようと狙ってない?」
「そ、そんな事はないの、ですさー!」
「いや、その反応は絶対にわざとだよな!?」
顔を反らしつつ、微妙に口籠りながら言っても説得力は皆無だぞ! ……まぁ良いんだけどさ。別にそれで困る訳でもないし、軽いイタズラ程度の悪意は感じるけど悪質なものでもないし……。
「……まぁいいや。イカの件については俺も賛成って事で、フィールドボス戦が終わったら海エリアに行くって事でいい?」
一応確認の為にそう聞いてみるとみんなが力強く頷いていたので、イカの討伐作戦についてはこれで参戦が確定だね。あとはそのエリアが元々調べる事にしていた、経験値の美味いエリアという事を伝えておかないとね。
「ちなみにそのイカのいるのは『カイヨウ渓谷』ってエリアで、調べるのを頼まれてた今の俺らの適正Lvで経験値が美味いエリアだぞ。まぁ陸で経験値の良い場所を探す手段もあるけど、イカを優先するならこれは調べなくていいよな」
「あー、それは確かに必要ないが、結局目的地は一緒だったんかい!」
「それは予想してなかったかな!?」
「あはは、そういう偶然もあるんだね」
「そうなのさー! そして9時からのイカの討伐に参戦する為にも、手早くフィールドボス戦を終わらせるのです!」
うん、そこはハーレさんの意見に大賛成だな。今は8時半くらいだから、まぁよっぽど手間取らない限りは大丈夫だろう。ただ該当エリアの『カイヨウ渓谷』まで辿り着けるかは微妙なとこだな。まぁこれについては初めて行く場所はみんなでって事にしてるし仕方ないか。
さて、それじゃフィールドボス戦をやっていこう。今回はサヤとヨッシさんが選んできたのは火属性で赤いキツネと、特に色に変化はないから物理型っぽいアルマジロがベースだね。
「この2体を選んできたって事は、水中じゃなくて湖畔でも誕生させるのは問題ないって事で良いのか?」
「うん、それは大丈夫だって確認はしてきたかな」
「……水中が苦手なのを選んだつもりなんだけど、アルマジロが泳げたのは誤算だったのはごめんね」
「あー、まぁそれは仕方ないって」
ぶっちゃけついさっきまで俺もアルマジロが泳げるとは知らなかったから、そこを責める気は欠片もないからね。
それにそういう事ならアルマジロを主体にせず、キツネを主体に進化させれば問題はないだろう。火属性っぽいキツネだし、水には弱いはず。……ただキツネも地味に湖面では泳ぎそうではあるから、湖の深いとこまで連れていきたいところだな。
ま、何はともあれ、キツネとアルマジロでフィールドボスを誕生させていこうじゃないか。今回は倒す事よりも誕生させる事で手に入る『水属性強化Ⅰ』が一番の目的だしね。まぁ倒さずに放置するつもりもないけどさ。