第73話 ヒノノコリベンジ戦 上
ヒノノコの出現地点である陥没した地形に到達し、アルの同族同調でヒノノコの位置を探り見つけ出した。その際に以前焼かれた場所も確認した結果、焼かれた植物や樹木は完全ではないけども8割くらいは回復しているらしい。プレイヤーがダメージを与えたらもっと回復に時間掛かりそうな気はするけど、ボスの特別仕様かな……。
ヤツが地面にいるのがわかっているので、前回のように奇襲されるまで場所が分からないということは無い。アルが発見した後に、俺が先行してヒノノコのいる周辺のコケの群体化は済ませておいた。索敵に始めから行動値を使ってたら無駄だしな。ある程度予想はしていたが、毒を使わない限りはこまめに移動さえしてしまえばヒノノコは俺の存在には気付きにくいらしい。
かといってそれだけであっさり倒されてくれるようなボスキャラがいるはずもない。あくまで出来たのは最初の奇襲を察知する為のコケの準備だけである。
群体化したコケにより、ヒノノコの大体の位置は把握済み。そして察知されないだろう距離を保って状況を確認していく。ヒノノコの現在地は、こちらから奇襲するには位置が悪く、木の密集した狭いところに隠れている。普段はそんな所に隠れているのか。近くに少し拓けた場所があるので戦うのはそこだ。
そしてまずは俺たちが戦いやすい場所にヒノノコを誘き出す必要がある。覚悟しろ、ヒノノコ! リベンジ戦開始だ!
「よし、作戦開始!」
「まずは森の中に隠れているのを引っ張り出すよ! 『同族統率』!」
誘き出す為の手段は言い方は悪いが囮である。ただし、使うのはヨッシさんの指揮下のハチの1匹。分かっているパターンからすればヒノノコが特に反応するのは毒の使用と飛行系のモンスター。両方を併せ持ち、使い捨てても問題ないヨッシさんのスキル産のハチは絶好の囮だ。これを使って拓けた場所に誘き出す。
「よし、食いついた!」
「行くぞ、みんな! リベンジ戦、開幕だ!」
「「「「おー!」」」」
囮のハチをヒノノコが奇襲し、食いついたのを確認したところで一斉に移動を開始する。すぐに隠れられるかもしれないが、それも想定済み。この少し拓けた場所を戦場に出来れば問題ない!
ヒノノコは急に現れた俺達に警戒し、臨戦態勢へと移行する。今のうちに改めてヤツの情報の確認しておく。ヒノノコめ、狩るモノの眼をしているが、今日はお前が狩られる番だよ!
<行動値を1消費して『識別Lv1』を発動します> 行動値 22/23(−1)
『ヒノノコ』
種族:黒の暴走種
進化階位:成長体・暴走種
「ちっ、識別Lv1じゃ今まで以上の情報はなしか。アル、予定通りの位置で『根下ろし』、ハーレさんはアルにヒノノコを近付けさせるな!」
「おうよ!」
「任せてー! 『投擲』『投擲』『投擲』!」
移動の速すぎるヒノノコ相手に、アルに速度で対抗させるのは不可能だ。だからこそ、ヒノノコの根城のど真ん中に回復拠点を陣取ってやる! そのアルとハーレさんに向けて、ヒノノコが強烈な速度で突進していく。
だけど、そんなものは予測済み。初めから巣で待機していたハーレさんが迎撃の為に投擲を繰り返していく。一撃一撃は微々たる威力だが、ヒノノコの突進の勢いも合わせて目に見える勢いでHPが微減していく。やはりボスなだけにHPは多いか!
「『同族統率』! そんなに簡単に行かせるわけがないよね!」
「そうそう、私達を無視してくれたら困るかな? ケイ、予想通りヒノノコは火属性持ちだよ! それで特性は俊敏と隠密!」
サヤがヒノノコの突進をカウンター気味に叩き落とし、そこに再びヨッシさんが統率のハチを出す。今度は2匹。最大で同時に3匹まで出せるが一度倒されれば10分間は使えなくなるらしい。それでもこれで狙いを分散させることができる。
ヨッシさんには少し制限がかかるが、ヨッシさん自身は毒の使用は囮を万全に発揮させるためにも基本的には控える予定にしている。とは言っても状況次第ではヘイトを取るために俺もヨッシさんも使う事にはしているけども。その辺りは臨機応変に対応する事にした。
そして識別がLv2になっているサヤがヒノノコの情報を確認する。Lv2で属性と特性が確認できるのか。それにしても俊敏と隠密とは厄介な組み合わせだな。だけどそれも想像の範疇だ。進化して強くなったから、ヒノノコの速さにもついていけている。それでもヤツが速いことには変わりないけど、前みたいに一方的ということは無い。
「『根下ろし』! よし、これもOK。こっちは準備完了だ」
「ケイさん、ぶちかませー!」
アルの準備は完了したようだ。これで第一段階のヒノノコの誘き出しと回復拠点の確保は完了。ここまでは順調だけど、相手の手の内を完全に晒させている訳ではないので油断は禁物。だが、序盤の行動パターンは変わらないはず。だからとりあえず、前に負けた時の分を一発をぶちかます。
<行動値2と魔力値12消費して『水魔法Lv2:アクアボール』を発動します> 行動値 20/23(−1): 魔力値 34/46
「サヤ、捕まえてくれ!」
「任せて!」
突進をサヤに妨害され、更に標的の数が増え、警戒心を増したヒノノコはヨッシさんのハチへと標的を定め、突進しようとしていた。数を減らす事を優先したのだろうが、その途中で俺の魔法を察知したようだ。ヒノノコは攻撃体勢を解除し即座に逃げに移るが、もう遅い。
サヤがその身をガッシリと掴んでいる。味方には衝撃こそあれ、ダメージは一切ない。サヤに負担はかかるけども、味方にダメージを負わせる心配は必要ない。水の操作がLv5になったことで、同時操作数は3に増えた。それに打ち出し速度を5まで上げて消費魔力値は+4。初っ端から大盤振る舞いだが、これで一気に削る!
1発目命中。HPがガリッと削れる。やはり水が弱点か。間髪入れずに2発目命中。少し位置が悪かったのかサヤの体勢が少し崩れた。流石のサヤもダメージなしとはいえ、この威力の衝撃はきついか。この手は何度もは使えないな……。
「あっ!? この、暴れてっ!?」
「ちっ、そう簡単にはいかないか!」
3発目はサヤが捕まえていたところからヒノノコに逃げられてしまい、掠っただけとなった。それでも確実にヒノノコのHPは削った。合計ダメージ量は1割行くかどうかってとこか。上等だよ、上等。ボス相手に、弱点だと思う属性魔法の一発でそれだけ削れれば充分過ぎるくらいだ。
「サヤ! 口開けてー!」
「うん!」
ヒノノコは一旦身を隠すために森の木々の中へと隠れていく。だが、逃げた訳ではなく隙を伺っているだけだろう。その間に逃げられた時にヒノノコから受けたダメージをハーレさんが蜜柑をサヤの口の中に投げ入れる事で回復をする。
さてと、前哨戦はこんなもんか。確実に渡り合えている。あの時に一方的にボロ負けした俺達ではない。確実に強くなっている。それでも油断はしてはいけない。ベスタでも削りきれなかった相手だ。
「各自、散開! さて、何処から来るか……」
「っ! 来るよ!」
「ちっ! やっぱりヨッシさん狙いで来るか!」
誰を狙っているかを明確にする為、それぞれ距離をある程度は離しておく。俺は誰に攻撃が行ってもフォロー出来るようにど真ん中である。固まっている方がむしろ対応の邪魔になりかねない。
群体化したコケによる索敵とハーレさんの『危機察知』により、ヒノノコの攻撃を予測していく。ハーレさんの『危機察知』はいつの間にかLvが上がっていて、同じPTメンバーの危機も察知出来るようになっているそうだ。行動値の上限を消費するらしいが、こういうボス戦には必須かもしれない。
それにしてもやっぱりヒノノコの標準のヘイト値は飛行と毒が優先か!
「ヨッシさん、すぐに水の防壁を!」
「ケイさん、大丈夫。『魔力集中』『斬針』!」
「おー! 見事なカウンター!」
ヨッシさんは自分に向かってくるヒノノコに『魔力集中』で強化した『斬針』でカウンターを決める。刺すのではなく斬るのを選択したのは、刺したあとにそのまま吹き飛ばされないようにする為か。
その一撃を受けたヒノノコは勢いのまま反対側の木々の中へと突っ込んでいった。今回は退避ではなく完全にダメージを受けてのものだった。群体化したコケの上に転がるようにヒノノコが落ちていったのが分かる。そうか、ヒノノコは速度が速い代わりにカウンターを受ければ勢いがある分ダメージが大きくなるんだな。
当たり前の話だがヨッシさんだって強くなっている。俺の水の防壁がなくても問題はなかった。任せられる時は任せて、行動値と魔力値の回復に充てた方がいいな。
まだまだヒノノコとのリベンジ戦は始まったばかり。まだヤツも手の内の火を吐くのすら見ていない。俺たちもまだまだ手の内を出しきってはいないし、切り札のベスタから貰った『進化の軌跡・水の欠片』もある。そもそもボス戦なのだ。このまま同じ調子で同じ攻撃を続けてくるとは限らない。油断せずに行こう。
「っ!? ケイさん来るけど、なんかパターン違いそう!」
「くそっ、これどこ狙ってやがる!?」
コケの上を移動するヒノノコの向きで、ある程度の攻撃目標の想定は出来る。その為にアルとハーレさん以外は極力分散して配置している。だが、狙っている方向は誰の方向でもない……。何を狙っている……? そしてヒノノコの狙いが分からないまま、ヤツが飛び出してきた。
ヒノノコは周囲の木々の枝のしなりを利用して、立体的に飛び跳ねていく。くそっ、こんな攻撃パターンもあるのか! これじゃ狙いが誰か解からない。……ん? なんだ、ヒノノコの尻尾に赤い光が纏っているような……。
「どんどん早くなってるね……。これはちょっとキツイかも?」
「赤い光……って、まさか!?」
「サヤ、避けて!」
「私が狙いなんだね!」
<行動値2を消費して『スリップLv2』を発動します> 行動値 21/23(−1)
カウンターを狙うサヤだが、嫌な予感がするから避けろ!と言いたいがもう間に合わない。くそ、緊急措置だ! すまん、サヤ!
「わっ!?」
「サヤ、大丈夫!?」
「すまん、緊急措置だ。……やっぱりかよ」
思いっきりサヤを滑らせて転ばせる事で、ヒノノコの攻撃を強制的に回避させた。そしてヒノノコの尻尾には赤い光のエフェクトがあり、それは色こそ違うが『魔力集中』のモノとよく似ていた。そして岩に尻尾が突き刺さっていた。熱を持っているのか、岩が少し赤熱している。とんでもない威力だ。どんな攻撃か分からずに受ければどうなったかわかったものではない。
恐らくは火属性の『魔力集中』なのだろう。こんな手の内まで持ってるとはな……。
「……これは私も使った方が良さそうだね。『自己強化』!」
予想外の威力と行動だったが、新たな手の内を引き摺り出してやったぜ、ヒノノコ。とはいえまだHPは8割を切った程度である。決して出し惜しみしている訳ではないけど、『自己強化』も『魔力集中』も時間制限ありのスキルだ。迂闊なタイミングでは使えないからな。
さてとこれから中盤戦突入ってとこか!




