第726話 浄化魔法と瘴気魔法での演出
さて、後は紅焔さんが浄化魔法を、俺が瘴気魔法を放てばスクショの撮影チャンスの完成である。……んー、ふと思ったんだけど土の瘴気魔法を撃っても、見た目は瘴気が混ざったアップリフトなんだよな。
魔法砲撃でアップリフトだと、破壊力はともかく見た目的には土の柱みたいなのが伸びてるようにしか見えない。……ちょっとこの大袈裟な砲台を用意した割には微妙じゃね?
「それじゃ準備完了ー! それじゃ始――」
「あー、レナさん待った!」
「およ? どうしたの、ケイさん?」
「いや、ちょっと思ったんだけど、これって見た目的にはアップリフトよりウォーターフォールの方が良くない?」
「それだとケイさんの方が属性的に強くなり過ぎそうだけど……、んー、思ったより派手な事になったしねー。どうしよっかな……」
「あー、属性の相性的な問題か……」
ふむ、同じPTとはいえ真正面から魔法を撃ち合えば、ダメージこそないけど相殺はし合うしね……。属性的に考えると水属性の俺の方の瘴気魔法が威力として上回って、紅焔さんの浄化魔法を掻き消してしまう可能性があるんだな。
紅焔さんの浄化魔法をメインに据えたスクショにするんだから、俺は水属性ではない方が良いのか。うーん、それだと今のは余計な事を言ったかも……?
「んー、紅焔さん、少しコンセプトを変えていい? 初めは拮抗してるけど、打ち消されて力尽きて落ちていく感じになんだけど……」
「おう、良いぜ! どっちにしても俺は浄化魔法のデメリットで力尽きて落ちていくからな! それに、団体部門で出すスクショも拮抗してる部分とその後の落ちていく部分の両方を撮るんだろ?」
「うん、そうなるねー。本命は瘴気魔法と浄化魔法が拮抗してる方だけどねー」
「それなら拮抗するシーンに迫力がある方が良いから、ケイさんは水属性で良いぜ!」
「そういう事ならそうしよっか。ケイさん、それで良い?」
「ほいよっと」
別にスクショのコンテストへの申し込みについては枚数制限はないから、迫力があってうまく撮れそうなのを増やす方が良いっていう判断なんだろう。
さて、これで俺が発動する予定の瘴気魔法は『ミアズマ・アース』から『ミアズマ・アクア』へと変更になったね。『ミアズマ・アクア』は禍々しい瘴気が混ざった水を凄い勢いで放水する様な形にはなるけど、見方によっては岩の砲塔も相まって禍々しいレーザーみたいに見えるはず。
「それじゃちょっと予定は変わったけど、ケイさん、紅焔さん、お願いねー!」
「おうよ! いくぜ、ケイさん! 『並列制御』『浄化の光』『ファイアクリエイト』!」
そうして紅焔さんがピュリフィケイション・ファイアを龍の口から吐き出していく。さて、俺もやっていきますか!
<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>
<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』は並列発動の待機になります> 行動値 53/70(上限値使用:8): 魔力値 213/216
<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>
<行動値を2消費して『瘴気収束Lv1』を発動します> 行動値 51/70(上限値使用:8)
<指定を完了しました。並列発動を開始します>
右のハサミでアクアクリエイトを、左のハサミで瘴気収束をって……瘴気の収束があまり早くない? あ、いや違う。岩の砲塔の先から瘴気が流れ込んで来たり、ロブスターのハサミから滲み出てきている。なるほど、纏っている瘴気を収束しているんだな。
<『瘴気魔法:ミアズマ・アクア』が発動しました>
そうして紅焔さんが放つピュリフィケイション・ファイアに向かって禍々しい瘴気を帯びた大量の水が放出されていく。……前に使った時よりも勢いが増しているような気がするけど、Lvが上がってステータスの魔力が上がったから?
まぁステータスが上がっても変化がないとなるとステータスの意味がないし、当たり前といえば当たり前か。
それにしても瘴気魔法と浄化魔法の衝突って凄いもんだな。浄化の光と禍々しい瘴気が互いに相殺しあっている。ただ、水属性と火属性という違いが大きいようで、俺の方が押し切りそうだな。
「わー!? これ、思った以上に凄いねー!?」
「ハーレ、ソラさん、しっかり撮ってねー!」
「あはは、これはうまく撮れてるか、自信はないね……」
それからしばらく紅焔さんのピュリフィケイション・ファイアと、俺のミアズマ・アクアの衝突は長く続いたような気もしたけど、それにも終わりが訪れていく。
ふっふっふ、俺の瘴気魔法が紅焔さんの浄化魔法を掻き消して、威力はかなり削がれたけどもそれでも残った禍々しい放水が紅焔さんに直撃していった。それと同時に紅焔さんの纏浄が解除になった事で浄化属性の光が消えていき、地面へと墜落していく。でも発火は発動したままのようだね。
ま、俺の瘴気魔法でのダメージはないから浄化魔法の反動で動けなくなっただけだけど、ぱっと見た感じでは俺に撃ち落とされた感じが凄いな。あ、でも反動でHPはほぼ全て消し飛んでるのか。
<瘴気の過剰使用により、『瘴気汚染・重度』の状態異常になりました>
<HPの回復が不可になり、行動値、魔力値の回復速度が大幅に低下します>
<『瘴気汚染・重度』により、効果時間切れ以外での纏属進化・纏瘴の解除が不可になります>
あ、俺の方も瘴気魔法のデメリットが発生して、瘴気汚染・重度になっちゃったか。ま、これについては元々分かってた事だし、今はそれ程支障もないから別に良いけどね。
とりあえずもう必要ない飛行鎧……見た目は完全に砲台だけど、ともかく解除しておこうっと。魔法砲撃もいらないから、一緒に解除だな。
<『移動操作制御Ⅰ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 51/70 → 51/76(上限値使用:2)
<『魔法砲撃Lv1』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 51/76 → 51/77(上限値使用:1)
よし、解除完了っと。そういや紅焔さんが落下中だけど、どうするんだろ? ダイクさん辺りが水魔法ででも受け止める……ような事はなく、そのまま地面に叩きつけられた。まぁ今の条件だと落下ダメージは無いから大丈夫だったけど、ダメージが発生してたら紅焔さんは死んでたな。
それにしても、紅焔さんが落下していても誰も助けようと動かなかったなー。いや、俺もなんだけど、誰かがやるとは思ったんだけどなー。
「ぐはっ!」
「紅焔、大丈夫かい?」
「大丈夫だけど、落ちてるのに誰も助けてくれねぇの!?」
ソラさんが飛んで近寄っていってるけど、レナさんとハーレさんはまだ真剣な様子でスクショを……って、ソラさんが行くのも演出になってません?
あ、とりあえずソラさんが蜜柑を紅焔さんの龍の口の中に押し込んでいた。……うん、脚で掴んで口の中に突っ込むのもどうなんだ? まぁタカであるソラさんには手がないからそうなるのも仕方ないか。
「ふっふっふ、地面に墜落して倒れ伏すまでが今回の演出だからね! 今のソラさんの動きもナイス!」
「瘴気魔法に敗れ、力尽きる浄化属性のドラゴン、バッチリ撮れたのです!」
「落ちる途中までかと思ってたけど、演出って完全に墜落するまでが演出か!?」
「紅焔さん、そんなもんだって」
「いつも割と逃げてるのに、言う事は悟りきってんのな、ダイクさん!?」
「まぁ、良いんじゃないかい? 動けなくなるのは想定済みだろう?」
「そりゃそうだけどよー」
うーん、俺も助けに動きはしなかったけども、結果的にはこれで良かったってとこか? さっきので変に水魔法で紅焔さんが落ちていくのを助けていたら、敗れ去るドラゴンという構図が何とも言えないスクショになっていたのかもしれないしね。
というか、更にギャラリーが賑やかになってきているのは気のせい……?
「あー、なるほど。迫力ばっか求めてたけど、敗北していく演出っていうのもありか」
「はっ、閃いた! 泥濘みの地で泥だらけになりつつ、満身創痍感を出すのはどう?」
「お、そりゃいいな」
「……いっそ、本当にぶっ殺されていく光景もあり?」
「おい、灰の群集!? こっちを見るな!?」
「ガチバトルする気か!?」
「えー、でも良い案だと思わない?」
「……同意ありになるから、PK判定は大丈夫か」
「え、マジでやんの!?」
「ほほう、こりゃ面白そうだ」
「乱戦のスクショを取るぞ! 手が空いてるヤツを誘ってこい!」
「おっしゃ、やったるぜ!」
おー、なんだかさっきの俺らのスクショの撮影に触発されたのか、ギャラリーの中でそんな話題が上がってきて移動を始めた。
ふむ、確かに俺らも対戦形式のスクショの撮影はしたけども、敗れ去る光景を撮るという方向性は意図してなかったなー。激戦を繰り広げている迫力あるスクショも良いけど、こうやって考えてみると強大な敵に負けそうになりつつも、抗おうとするスクショも良いかもしれないね。
「おい、朗報だ! 泥濘みの地に、成熟体のクジラが近付いてきてるらしいぞ!」
「マジか!? 本気でヤバい強敵じゃん!?」
「ヤラセじゃない激戦が撮れるぞ! 準備を急げ!」
「灰のサファリ同盟に撮影要員と、その護衛の人を頼んでくるね!」
「おう、そこは任せた!」
「うん! 護衛はオオカミ組の手が空いていれば良いんだけど……」
「……あー、青の群集も混ざって大丈夫か?」
「死んでもランダムリスポーンすりゃ問題ないだろ」
「だねー。全群集の混在の、成熟体との衝突スクショを撮るよー!」
「よし、それなら雪山支部の青の群集の奴らを呼んでくるか」
なんだかギャラリーの中で、あっという間に予定が決まっていっている。っていうか、このタイミングで泥濘みの地に向けて成熟体のクジラがやってきてるって凄いな!? でもここからは見えないから、成熟体のクジラが来ているのはハイルング高原方面ではなさそうだ。
「赤の群集でも手伝えるとこはあるか!?」
「あー、最近出来たあの共同体ならいけるか?」
「そういやなんでも屋の共同体が出来てたよね」
「え、初耳なんだけど、そんな共同体出来てたの?」
「うん、設立経緯はいまいち分からないんだけど、そこそこ強いってさ」
「へぇ、そうなのか。よし、そこへの協力要請は頼んだ!」
「お任せあれ〜」
ほほう? 赤の群集にそれなりに強いなんでも屋共同体が発足してるのか。ふーん、それはちょっと気になる話ではあるね。
「あらら、何か大事になってきたねー?」
「レナさん、どうすんの? 予定を変えて、乱戦のスクショに参加しに行く?」
「ううん、ダイク、わたしは今回は行かないよー。ケイさん達とネス湖に行くって先約があるからねー」
「ま、そうだよな。それならギャラリーが俺らの方を見てないうちにさっさと進もうぜ」
「それには賛成なんだが、誰か運んでくれ……」
「……まったく紅焔は仕方ないね。とりあえず大型化を解除したらどうだい?」
「あー……」
えっ、なんで紅焔さんはそこで視線を逸らすんだ? あれ、もしかして纏浄で浄化魔法を使った後って操作が効かないから……。
「……紅焔さん、スキルの操作が一切出来ないんだな?」
「……そうなるなー」
「うげ、大型化の解除も無理なのか!?」
「……ダイク、大型化してる紅焔さんは運べる?」
「まぁやろうと思えば出来るけど……ケイさん、紅焔さんを運ぶのは頼んでも良いか?」
「それくらいなら任せとけー! 俺は纏瘴の反動で行動値の回復が劇的に遅くなってるし、攻撃には参加出来そうにないからな」
「それじゃ任せるぜ、ケイさん!」
「おうよ、紅焔さん!」
とりあえず俺と紅焔さんはしばらくの間は戦力外って事にはなるけど、まぁ強い敵が出てくる場所でもないから他のみんなに任せても大丈夫だろう。
俺自身はダイクさんの水のカーペットに乗せてもらうとして、紅焔さんを運ぶのは飛行鎧を岩の板みたいにしてその上に乗せていこうか。行動値は節約の方向でね!
<行動値上限を6使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します> 行動値 51/77 → 51/71(上限値使用:7)
えーと、今回は俺の周囲に岩は必要ないから倒れ伏している紅焔さんを持ち上げられるように岩を生成。光の操作は今回も破棄で!
コケの増殖はロブスターの背中部分からハサミの部分まで広がってきたね。……それにしても纏瘴を使っているから当然ではあるけど禍々しいロブスターだよなー。うん、コケも禍々しい。
「ケイさん、サンキュ!」
「どういたしましてっと。ダイクさん、俺をそっちに乗せてくれー!」
「おうよ! ハーレさんとソラさんも乗ってくれ」
「はーい!」
「まだ飛んでいられるけど、僕も少しのんびりさせてもらおうかな。あ、そういえばこれはもう要らないね。纏属進化は解除っと」
そうしてダイクさんの水のカーペットの上には紅焔さん以外のみんなが乗っていき、紅焔さんは俺の岩で持ち上げて運ぶ体制は完了で、ソラさんは不要になった纏浄を解除していつもの状態に戻っていた。
「少し脱線しちゃったけど、改めて出発するよー! 目的地はネス湖だけど、まずはその手前のザッタ平原へレッツゴー!」
「「「「「おー!」」」」」
そのレナさんの号令に合わせて、ハイルング高原を東に進み、まずはザッタ平原を目指していこう! まぁザッタ平原はただの通り道だし、もう割とエリアの切り替えの目前まで来てるしね。
それはそうとして纏瘴の効果時間はまだ50分くらいは残っている。……これ、行動値の回復が劇的に遅くなるけどそれを緩和させる手段って何か……あ、養分吸収を使えばどうなんだろ?
纏瘴で駄目なのはアイテムでの回復だから、敵を相手に養分吸収を使えばいける? うーん、検証する余裕があれば試してみたいけど、劇的に回復速度が遅くなってるから、ネス湖に辿り着いて余裕があればだな。