第724話 移動中の思いつき
さて、ざっくりとだけど情報は仕入れ終わったから、情報収集は終了だな。夜に海エリアのイカ退治に参加するかどうかはみんなが集合してから決めていくとして……。
とりあえず今は元々予定していたネス湖でのフィールドボス戦に備えて移動が先だな。水属性が主力なのに『水属性強化Ⅰ』を取れてないままだしね。……最近は岩の汎用性が高くて、岩の使用頻度が高いけどさ。
とりあえず情報共有板を見るのは切り上げて、周囲へと視線を戻していこう。んー、ちょっと曇っていて普段より暗めなくらいで特別代わり映えはしない夜のハイルング高原だね。周囲に敵の姿はないし、紅焔さんとソラさんが隣で飛んでいるのが見えるくらいか。
「はっ!? ケイさん、聞き忘れの情報があるのです!」
「……ん? ハーレさん、聞き忘れた情報って何だ?」
何かあったっけ、情報共有板で聞いておくべき事って……? えーと、昨日の光る進化記憶の結晶の場所や黒の統率種に関してはアルが報告してくれたから、それは俺が報告する必要はない……というか、これは聞き忘れた情報ではないよな。
『カイヨウ渓谷』が俺らのLv上げに丁度いい場所という情報は既に手に入れているし、そこにいる例のイカの最新情報も得た。……他に聞き忘れた……あっ!?
「タッグ戦に誰が出るのかをどうやって決めるのかを聞いていないのです!」
「……確かにそれだ!」
「およ? それなら、まだ検討中で何も決まってないよー? 今のところ候補としては立候補にしてくじ引きか、参戦希望者を集めてトーナメント戦か、誰が出るかを指名で決めてもらうかくらいだったねー」
「おー、まだ全然なんだー!?」
「なるほどなー」
「なるほどなーって、指名する場合はケイさん達の『グリーズ・リベルテ』がやるんだよー?」
「え、俺らがやんの!?」
「そりゃそうさー。中継の権利を受け取ったのはケイさん達なんだしさー」
「……あ、そりゃそうか」
言われてみれば当然といえば当然な話ではあるけど、ぶっちゃけ全然気にしてなかったよ。それこそレナさんやベスタとか灰のサファリ同盟に仕切ってもらおうとか思ってた。
それならさっき俺らに話を持ってきても良かったような気もするんだけど……ん? そういやトーナメントって、ちょっと引っ掛かるな?
「そういえば模擬戦の2段階目のテスト実装は明日じゃなかったかい?」
「うん、そうだよ、ソラさん!」
「あー、そういや共同体が主催でトーナメント戦を開催出来るんだっけ?」
「確かそうだったと思うよ、紅焔」
「そこでわたしが色々と確認を頼まれているのだよー! ホントはケイさん達が全員集合してる時に聞くつもりだったんだけど、どういう方向性が良いか今聞いていいー?」
あ、さっきの情報共有板で聞かれなかったのも誰もがそれぞれに聞いてきたら混乱するからで、俺らの意思確認についてはレナさんに一任されているという事か。そして、レナさんとしては今聞く予定ではなかったけど、話題に出たからそのまま聞いてしまおうって感じみたいだね。
「ケイさん、どうするー!?」
「どうするも何も、俺とハーレさんだけの今は答えられんだろ」
「だよねー! という事でレナさん、夜まで保留でお願いなのさー!」
「まぁそうなるよねー。ま、とりあえずそういう流れになってるって事は伝えたから、検討をよろしくねー! あ、そうそう。面倒ならその辺の決定権はベスタさんに移譲でも良いってさー」
「……それってベスタは了承済み?」
「うん、了承済み。流石にそんなとこで嘘は言わないって」
「……そりゃそうか」
あのベスタの名前を勝手に騙るなんて真似をレナさんがするはずないか。……それにしてもタッグ戦の灰の群集の出場枠の決定権は俺らにあるんだな。こりゃ夜に全員集合した時に話し合う案件が増えたもんだね。
「レナさん、少し質問いいかい?」
「んー? ソラさん、どうかしたー?」
「もし仮にトーナメント戦になった場合は、どこの共同体が主催になるんだい?」
「実際の仕様を見てからにはなるけど、多分灰のサファリ同盟だねー」
「ふぅん、まぁそれは想像通りだね。それでトーナメントの参加者が海エリアと陸エリアで人数が分かれた場合はどうなるんだい?」
「あ、その場合ね。まだ未確定事項の方が多いからあくまでわたしの見解だけど、海と陸の2ヶ所でトーナメントをして、それぞれに勝ち抜いた2人で対戦エリアをランダムにしての模擬戦で決めれば良いんじゃないかなーとは思ってるよー」
「色々と案自体は既に考えてあるんだね。ケイさん、ハーレさん、その辺の事も含めて考えておくれ」
「おう、そうさせてもらうよ」
「レナさん、ソラさん、ありがとねー!」
とりあえずソラさんがレナさんに聞いてくれた内容も考慮しつつ、どういう形でタッグ戦に誰が出るかを選んでいかないとだなー。うーん、正直に言えば面倒だから、ベスタに決定権を移譲するのが楽そうだよね。……まぁそれも含めて、みんなとの相談か。
「それにしても、もうハイルング高原じゃろくに戦闘にならんなー」
「紅焔、それは仕方ないだろう? 一応少数だけど未成体も出現するとはいえ、ここは基本的に成長体の人向けのエリアだよ?」
「そりゃ分かってるんだけど、やっぱりこの移動時間って暇といえば暇じゃん?」
「紅焔さん、そういう時は景色を楽しむのです! この高原は夜でも星空が……あぅ、今日は曇り……」
「あはは、まぁ曇ってる日はどうしてもねー」
確かに星空を眺めながら進めるならもっと違った雰囲気にはなるんだろうけど、生憎と今は曇り空だもんな。昼間ならそれでも高原の風景は良いんだろうけど、今は夜で暗いしね。
「それなら紅焔、こういうのはどうだい? 『発火』『高速飛翔』!」
「おっ、そりゃ良いな! そんじゃ俺は『大型化』『発火』『高速飛翔』!」
「お、そういう事なら一旦止まるか」
「ほほーう? 火の鳥と火の龍が夜空を舞うのはいいねー!」
「これはスクショのチャンスなのさー!」
おー、ダイクさんがこの状態を見て進むのを一旦止めていく。そして火を纏った紅焔さんの龍とソラさんのタカが夜空を照らしながら舞うように飛んでいた。へぇ、こりゃ結構な見応えがあるなー。……でも曇り空っていうのが惜しいとこだね。
ふーむ、あの曇ってなんとか出来ないかな? あの曇さえ無ければもっと良い雰囲気の光景になるはず……。
「……なぁ、ダイクさん?」
「今度は何を思いついたんだ、ケイさん?」
「あ、これは何か期待出来そうだねー」
「わくわく!」
「……風の昇華魔法のストームで、あの邪魔な雲って吹き飛ばせない?」
「あー、多分出来なくはないけど、単独発動じゃ範囲は狭いと思うぞ……?」
「それなら僕も風の昇華が使えるから、2人での発動でどうだい?」
「お、ソラさんは風の昇華持ちか」
そういやソラさんは火属性にはなってるけど、風属性の昇華も持ってるんだよな。ダイクさん1人での発動では範囲がそれほど広くなくても、ソラさんと一緒に2人で発動するのなら問題はないな。
俺と紅焔さんでスチームエクスプロージョンでふっ飛ばしてみてもいいんだけど、ここは純粋な風属性の方が向いている気がするしね。
「いいね、いいね! それじゃ急な案だけど、みんなで団体部門のスクショを撮っちゃう?」
「賛成なのさー! 雲は全部は吹き飛ばさずに、月明かりが差し込む感じになれば神秘的だと思います!」
「ハーレ、それだよ! 曇り空の隙間から月明かりに照らされる火の鳥と火の龍の共演! それで行こう!」
「お、そりゃ良いじゃんか! なぁ、ソラ!」
「そうだね、紅焔。思いつきで飛んでみただけなんだけど、ダイクさんはどうだい?」
「まー、レナさんが既に乗り気だしな。俺も良いと思うぜ」
うん、なんだか突発的にスクショの撮影会が始まったね。まぁきっかけの一部を作ったのは俺だけど。あ、そういやそろそろ一度エンのとこでスクショの提供と、スクショのコンテストへの応募もしとかないとな。……まぁ今日はちょっと厳しそうだけど。
「スクショの撮影は私とレナさん?」
「役割としてはそうなるね。んー、それじゃダイクはわたしを乗せて、ソラさんと上空でストームで雲に穴を開けて、ハーレさんはケイさんに乗って撮る感じでどう?」
「おう、了解だ! ケイさん、それで良いか?」
「問題ないぞー!」
とりあえず今回は俺はハーレさんの足場役って事だな。まぁ団体部門用のスクショを撮るのであれば、単なる足場でも協力していかないと判定から外されるしね。って事で、やっていこうじゃないか。その前にっと……。
「ハーレさん、水のカーペットと飛行鎧のどっちがいい?」
「安定感がある飛行鎧でお願いします!」
「ほいよっと。光源は?」
「月明かりと紅焔さんとソラさんの火だけにしたいから、無しで!」
「了解っと」
さて、ハーレさんの要望も聞いた事だし、光源のない飛行鎧を展開していこう。
<行動値上限を6使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します> 行動値 77/77 → 71/71(上限値使用:7)
光源はいらないという事なので光の操作は指定なしで破棄。発光は発動していないから、増殖したコケを隠す必要はないな。
「えいや! うん、安定感抜群ですさー!」
「そりゃどうも」
とりあえずハーレさんが、ダイクさんの水のカーペットから俺の飛行鎧を展開したロブスターの背中の上に移動してきた。ま、水のカーペットに比べると安定感があるのは間違いないよな。
それにしても光の操作を使わない事も多いから、その辺も何とかしたいね。とはいえ、光が欲しい時にはすぐに使えるようにはしておきたいから、除外して登録し直しをするのも微妙なんだよね。……もう1枠、岩のみでの登録枠が欲しいとこだ。
「えっと、僕はダイクさんと昇華魔法を使った後はどうすればいいんだい?」
「月明かりが射し込んできたとこで、紅焔さんと一緒に適当に飛んでくれたらいいよー! ダイクとケイさんに動いてもらって良いアングルの場所を探りながら撮っていくからねー」
「だそうだよ、紅焔」
「おし、適当に飛んでりゃ良いんだな!」
ふむふむ、雲の合間から射し込む月明かりの中を飛ぶ火の龍と火の鳥という事になって、俺とダイクさんが撮影位置を調整しつつ、ハーレさんとレナさんが実際にスクショを撮っていく感じだな。
適当に飛ぶという大雑把な指定だから、良い具合の位置関係のスクショになるかは運次第というとこがありそうだ。
「それじゃまずは雲を吹き飛ばすから、ソラさん、ダイク、お願いねー!」
「ほいよっと。んじゃソラさん、やりますか!」
「そうだね。えーと、出来るだけ上空の方が良いよね?」
「だな。レナさん、ちょっと高度上げるぞ」
「うん、そこは任せたよー!」
そうして俺と俺のロブスターに乗っているハーレさんはダイクさんの水のカーペットからは完全に離れて、ダイクさんはレナさんを乗せたまま、ソラさんと一緒に上空へと飛んでいく。
お、ほぼ雲の真下までは行けたのか。届かないと思ったんだけど……って、ここが高原で元々の高度が高いおかげかな? うん、その可能性はありそうだ。場所によっては雲の上とかも行けるのかもしれないね。
「それじゃいこうか、ダイクさん。『ウィンドクリエイト』!」
「おうよ! 『ウィンドクリエイト』!」
そしてソラさんとダイクさんの生成した少しの風が重なり合い、荒れ狂う暴風を生み出す昇華魔法のストームが発動した。おー、上空だから地上にはほぼ影響はないけど、邪魔だった雲が暴風に吹き飛ばされて消えていく。
「わぁ! 予想より範囲は広くなったけど、月明かりが凄いのさー!」
「……だな」
「うわ、すっげ!」
「あはは、これは予想以上だね」
「あ、上からも良い感じだねー! ね、ダイク」
「だなー。天然のスポットライトって感じだ。天然じゃないけど」
全体的な曇り空で夜の日でも普段より暗めの中に、ぽっかりと空いた雲の穴から射し込む月明かりがより際立っていて綺麗だな。それに雲の近くにいるソラさんとその少し下で飛んでいる紅焔さんが月明かりに照らされて、より神秘的な光景へとなっていた。
ははっ、思った以上に凄いな、これ。……ただ、今思いついたけど、もっと神秘さはパワーアップ出来るぞ。これを紅焔さんとソラさんが今日は使ってなければだけど……。
「紅焔さん、ソラさん、纏浄は出来るか!?」
「はっ! ケイさん、ナイスアイデア! 2人とも纏浄は使える!?」
「へっ、そうきたか! 問題ないし、やるか、ソラ!」
「そうだね。その方がより神秘的になりそうだし、やらない理由がないね。『纏属進化・纏浄』!」
「だな! 『纏属進化・纏浄』!」
纏属進化で浄化属性の温かい光に包まれていく紅焔さんとソラさんの進化の様子もまた神秘的な感じである。そして、それほど時間もかからずに纏浄への纏属進化が完了した。うわー、ただの思いつきだったけど、今の光景は月明かりで力を得たような風に見えるね!
「レナさん、今のは撮れたー!?」
「もちろんだよー! ハーレは?」
「バッチリです!」
うん、今の進化の様子もしっかりと撮っていたようである。ま、今の神秘的な光景を撮らない理由はないよね。うーん、この前掲示板で見たフェニックスよりも今のソラさんの方がフェニックスっぽい。
まぁ纏浄の効果でそう見えるんだろうけどね。発火の火の色合いが普通の火ではなく、日の光っぽい色合いになってるんだよなー。
「それじゃどんどん撮っていくよー!」
「「「「「おー!」」」」」
ネス湖まで移動するという目的から脱線してしまっているけども、まぁまだ6時も来てないから大丈夫だろう。ただ単に移動するだけだと特に難関もないから退屈ではあるからね。こういう脱線も悪くはないさ!