第72話 リベンジ準備完了
しばらくアルとの相談というか打ち合わせをして、思いついた事をアルに伝えていく。
「アル、いけると思うか?」
「多分な。突飛なアイデアだが、あの素早さを考えるとそういう物は必須かもな。材料はどうする?」
「鹿の皮を使おうかと思ってる」
「あー、あれか。よし、分かった。ヨッシさんがログインしたら協力頼んどくぞ」
「おう、任せた。その後の仕上げは俺がやるからな」
「そこが肝心なとこだしな」
さて、アルとの悪巧みの打ち合わせは済んだし、後は実際に実物を用意する時にヨッシさんに少し手伝ってもらおう。加工するにはヨッシさんの針があるとかなり楽になる筈だ。
そんな風に悪巧みの打ち合わせが終わりかけたところにハーレさんが小走りでやってくる。なんか嬉しそうな感じだ。
「やったー! ケイさん、アルさん、『魔力集中』取得出来たよー!」
「お、ハーレさん、おめでとう!」
「おめでとさん!」
「って事で一区切りついたし、もうすぐ7時だしご飯食べてくるねー!」
「あ、もうそんな時間か。俺も飯食ってくる」
「おう、2人とも行ってこい! サヤとヨッシさんの特訓は俺が相手役やるからよ」
「アルさんお願いね!」
「任せたぞ!」
という事で一旦食事休憩。サヤとヨッシさんの特訓相手はアルがしてくれるみたいだし任せておこう。さて、ログアウトして晩飯食おうっと。
◇ ◇ ◇
いつもの如く、いったんのいる場所へ。今の胴体記述は『腹減った……』って知るか、そんなこと!
「お疲れ様〜。ご飯かな?」
「おうよ。その後またやるつもりだ」
「うんうん、楽しんでもらえてるみたいで何よりだよ〜」
「何か連絡事項とかある?」
「特にないね〜」
「そっか。んじゃ飯食ってくるわ」
「いってらっしゃーい」
いったんに見送られて、現実世界へと戻ってくる。今日の晩飯は俺も晴香も共に好物である唐揚げだ。油断すると、晴香が横から掻っ攫って行くから油断せずに行こう。あ、黒の暴走種の鳥に魚を取られてモヤモヤした気分になったのはそのせいか……?
まぁいいか。取られないようにしっかりと味わって食おう。
……1個だけだけど取られたよ。チクショウ! 取り敢えず晴香は罰として食器洗いを母さん監修の元でする事になった。普段からやれよとか、監修なしだと被害が出るとか色々思う所もあるが、まぁいいや。気を取り直してゲームしよ……。
◇ ◇ ◇
ゲーム内に戻ったら、サヤとアルが特訓中だった。サヤが舞い散る葉の刃を全身で舞うように叩き落としていく。無色のオーラみたいなのを纏っているので『自己強化』を取得したのかもしれない。『魔力集中』の方はどうなのだろうか? ヨッシさんは何か集中している様子だが、『自己強化』の取得はうまく行っていない感じか。
「戻ったぞー」
「あ、ケイおかえり」
「ケイさん、おかえり」
「お、戻ったか」
俺が戻ってきたのを確認して、みんなが一旦特訓を中断する。あれ、別に中断しなくてもいいんだけどな?
「色々と進展あったぞ」
「ほう、どんな感じ?」
「サヤが『魔力集中』と『自己強化』の両方を取得した。あとさっき言ってた例のブツ、作っといたぞ」
「私も手伝ったからね」
「お、マジか。ヨッシさん、ありがとな」
「良いって別に。作戦の一環なら協力して当然だよ」
なるほど、サヤが取得したのは両方か。中断した理由は早速頼んだものを作ったかららしい。どれどれ、お、いい感じだな。後は俺が手を加えれば完成だな。大した手間でもないのでサクッと完成させとこう。
「それにしても、ケイは変わった事をよく思いつくよね? どれほど効果があるかは分からないけどさ」
「まぁ多分無いよりは良いだろ」
「ただいまー! あー、迂闊なことするんじゃなかったよ!」
戻ってくるなり、ハーレさんが不満を漏らしている。一体どうしたんだろうか。リアルで何かあったのか?
「ハーレ、どうしたの?」
「リアルでちょっとね。まぁ私が悪かったんだけどさ……」
「そうなのか? 何したんだ?」
「それは黙秘ー! 自分で言い出しといてなんだけどリアルの事はいいよ。みんな成果はどう?」
「それなりにみんなは成果出てるぞ」
やっぱりリアルで何かあったらしい。だけどこの感じならそれほど深刻そうでもないし、つい口が滑ったって感じのようなので深く追求はしないでおこう。オンラインゲームで過剰にリアルの事を聞きまくるのもマナー違反だしな。
サヤが取得したという事で、とりあえず『自己強化』の仕様も確認してもらった。簡単に纏めると『魔力集中』が一点集中の強化で、『自己強化』は全身強化らしい。どちらも効果時間は10分で再使用まで10分かかるとの事。まぁこの辺は使い分けか。両方取れたのはまだサヤだけだけど。
とにかく、これで一応全員魔法への対抗手段は得た訳だし、具体的な話に移していっても良い頃合いだな。
「それでツチノコ……いや敢えてここはヒノノコと呼ぼうか。ヒノノコへのリベンジ戦、いつやる? 明日くらいにやろうかとも思ってるんだけど」
「私は何時でも良いかな?」
「あーすまん、明日は仕事の都合でログイン出来そうにねぇ……」
「アルさん、明日はいないんだ……。それじゃ今日中にだね!」
「そうだな。明後日だと誰かに先を越される可能性もあるし、今日やるか!」
「もう少し特訓したかったけど、アルさんがログイン出来ないなら仕方ないか」
「すまんな、無理言って」
「気にしない、気にしない!」
「リアル優先で問題ねぇよ、アル」
アルのリアル事情により、リベンジ戦は今日に決定した。さてと、これからお互いの情報をまとめて作戦会議と行こうじゃないか。
「基本的には固まらずにいよう。でもアルとハーレさんだけはセットな」
「そうだね! 私が全力の威力が出るのはアルさんの巣の上だしね!」
「俺は遊撃で動くから、サヤがメインアタッカーで、ヨッシさんはーー」
どういう流れでヒノノコに挑み、分かっている範囲のヒノノコの攻撃パターンへの対処方法を考えていく。そしてまだ聞いていなかった互いの持つ新スキルの情報の交換も行い、行動方針を決めていく。とはいえ、ヒノノコはまだ未知の攻撃パターンの方が多い敵だ。実際もっと臨機応変に動く事になるだろう。
そしてアルに作って貰ったモノも完成させて、アルに預けておく。実際に使うのはアルだからな。
しばらくの話し合いの末に大まかな作戦は決まった。そして俺をリーダーとしてPTも組んだ。後はリベンジ戦をこれから行うのみ。ただ一つ、ベスタに渡された『進化の軌跡・水の欠片』を誰が使うかだけが決まらなかった。
「これはもう臨機応変で1番必要そうな人が使うって事にしよう」
「……そうだね。攻撃パターンも全部分かってる訳じゃないから、その方がいいかも」
「攻撃が足りないようなら、サヤか、ヨッシさんか、ハーレさんが使って」
「防御がヤバけりゃ俺が使えばいい訳だな?」
「それがよさそう」
「って事で、誰にでも投げ渡せるハーレさんが持っててくれ」
「分かったよ! きちんと預かっておきます!」
ハーレさんのすぐ近くに移動し、インベントリから『進化の軌跡・水の欠片』を取り出して取ってもらう。果物の投擲により回復役も兼ねているハーレさんが持っているのが戦闘中での受け渡しには1番確実だろう。
「よし、そんじゃ仮に死んでも問題ないように全員リスポーン位置の再設定しておこう」
「あ、そっか。私、あと1回しか使えないから設置し直しておかないとまずいんだ!」
「それじゃ、みんな巣の作り直しだね!」
ヨッシさんはヒノノコに殺られた時に1回、そして全員が進化の時に1回消費している。安全策を兼ねて再設定しておいたほうが良いだろう。一度今あるものを破棄して、再設定しておこう。万が一死んでもアルがいる位置で即座に戦線復帰が可能だからな。……サヤとアル以外は。
そしてアルは『株分け』、ハーレさんとヨッシさんが『巣作り』、サヤが『巣穴作り』とそれぞれのリスポーン位置設定を行っていく。あ、そういえば……。
「ついでだから、俺もアルにリスポーン位置設定が出来るか試していいか?」
「そういやそんな話もしてたよね」
「お、ケイさんもアルさんに作るんだね!」
「まぁ今更断る理由もないか。構わんぞ」
「んじゃ、早速『群体分離』っと!」
お、アルの幹の表面にコケが生えた。よし、成功だな。えーと、プレイヤーに使った際の特殊効果は……お、火耐性微上昇と物理攻撃の確率回避か! これはコケで物理攻撃を滑らせて回避するのか……? まぁいい。それよりもこれからのリベンジ戦で、少しでも火耐性が上がるのはありがたい!
「……称号『コケの住処』はまぁ良いとしてだ。なんか変異進化先が出たんだが、なんだこりゃ?」
「……え?」
「なになに!? 何が出たの、アルさん!?」
「成長体で『根脚拠点蜜柑』ってなんだ……?」
「……そんなのあるのかよ」
「……アルさん、その進化したら私もアルさんにリスポーン位置の設定出来たりしないかな?」
あ、サヤが食いついた。種族名に拠点とか付いたらそりゃ期待するよな。今の状況、サヤが1人だけアルにリスポーン位置が設定出来ないって事になってるし……。っていうか、変異進化にも進化階位変わらないパターンがあるのか!? 一体何種類の進化パターンがあるんだよ……?
「とりあえず、サヤには悪いがこの進化は後回し! ヒノノコへのリベンジが先だ!」
「うん、そうだよね。リベンジしてからじっくり確認しようね!」
なんかサヤだけ気合の入り方が別物になった気もする。まぁいいのかな……? それにしてもこんなタイミングでアルに変わった変異進化先が出るとはな……。進化すれば色々と変わる可能性があるから、今のタイミングで進化するのは得策じゃない。それに変異進化ならいつでも出来るんだ。ヒノノコを始末してからでも問題ないだろう。
「なんか変なタイミングで変な進化が出てきたけど、ひとまずそれは置いといて。ヒノノコにリベンジするぞ!」
「「「「おー!」」」」
気合は充分。特訓は万全とは言い切れないかもしれないが、可能な範囲で全員強化した。あとは実際に戦うのみ!
これより移動を開始する。目標地点は、ヒノノコの出現する陥没した地形だ!




