第709話 タッグ戦の打ち合わせ 後編
さてと、とりあえず赤の群集と青の群集についてはタッグ戦を行う事自体は問題ないという判断だね。残るは俺ら灰の群集なんだけど……レナさん、情報をまとめてくれるという話はどうなったー!?
まぁヨッシさんやハーレさんも混じって楽しそうにしているし、情報自体が俺が見ても分かるだろうから、自分で確認して……あれ? そういやサヤは混ざってないんだな? 意外と寂しがりやなところがあるサヤが混ざってないのは珍しいような気もするけど、サヤは何か黙々と作業をしてるっぽい?
「それで灰の群集はどうなっています? ……レナさんはあの様子ですが」
「あー、それは俺の方でこれから確認を――」
「ケイ、待ったかな! それなら私が確認してきたかな!」
「お、マジで!?」
サヤは弥生さん達の会話に加わらずに何か黙々とやっていたとは思っていたけど、どうやらレナさんの代わりに情報の確認をしていてくれたようである。
そっか、普段はサヤはこの手の情報収集をしないんだけど、今回は積極的にやってくれたんだね。ありがたい話である。
「サヤさん、灰の群集はタッグ戦についてはどうなんだい?」
「えっと、もうやる気一杯で誰が出るかで盛り上がってる感じかな。誰の戦いが見たいとかそういう感じだよ」
「あー、なんとなく想像がつく……」
うん、それでこそ灰の群集って感じの反応だよな。あれじゃね、ベスタとか紅焔さんとか蒼弦さんとかレナさんとか風雷コンビとか、とにかく強い人達の名前が上がってそうな気がする。
「……ちなみにケイ、私達5人全員の名前も上がってるかな」
「……ですよねー」
あえて自分達を外して考えてみたけど、サヤにはその考えは見抜かれてたねー。今のは声に出てないはずだけど、読まれるとは思っていたさ!
「とりあえず、各群集の人達からの猛烈な反対はないようだね。……まだ誰が出るかは決められないし、誰が出るかが決まらないと予定日時も決めにくいから、この辺りは後日改めて決めるという事でいいかい?」
「それが無難でしょうね。まぁ今回は開催の合意を得られたという事で良しとしましょうか」
「ま、そだなー」
それ以上は今この場で決めるのは難しいだろうし、開催の合意が得られたという事だけでも良しとしよう。そこが決まってからでないと次の段階には進めないしね。
お、そうしている内に弥生さん達のワイワイと賑やかな状態が収まってきた。ふむ、話題に一区切りでもついたのか、もしくはこっちで話を進めているのに気付いたか、そんなとこだろうな。あ、揃って俺らの方にやってきた。……てか、ハーレさんが何か齧ってるけどなんだ、あれ?
「あ、シュウさんごめん、任せちゃってた? ケイさんもジェイさんもごめんね?」
「これくらいなら構わないよ、弥生」
「えぇ、シュウさんが対応してくれましたし、大丈夫ですよ」
「俺の方も問題ないぞー。そもそもヨッシさん達が食いついたのが元だしな」
「……あはは、ついね? ごめんね、ケイさん」
「お詫びに弥生さんから貰ったこれをケイさんにも進呈なのさー!」
そう言いながらハーレさんが何かを手渡してきたけど、これは何だろう? あー、これって小魚を干したものか。ほほう、効果量はそれ程でもないけど地味に魔力値の回復のアイテムのようだね。こりゃいいな。
「弥生さんがそれで煮干しだしを作ろうとしてるんだってさ」
「そうそう、そうなの。でも、わたし自身が操作系スキルをあまり上げてないから作業効率が微妙でね。やっぱりネコの姿だと、リアルでやるのとは勝手が違うからさ」
「あー、そうなんだ?」
料理に関してはそんなに詳しくないからその辺のだしの取り方とかはよく分からないけども、それでもこのゲーム内で料理をするのはリアルでやるより遥かに難しいのだけは分かる。
共闘イベントの報酬で手に入ったアイテムの詰め合わせの器が鍋代わりになるとしても、ネコの姿だとそれなりに鍛えた操作系スキルがないと難しいんだろうね。
「という事で、煮干しをいくつかあげるから、ヨッシさんを主体でケイさん達でも試してみてくれない?」
「えーと、それはヨッシさんが良ければいいけど、赤のサファリ同盟ではやらないのか?」
「あはは、それは無理なんだよー。シュウさんを含めて、操作系が得意な人で料理が出来る人がいないからねー。水月さんは料理出来るんだけど、育成方向はわたしに近いしさ」
「……面目ないね、弥生」
「シュウさん、得意不得意は誰にでもあるから大丈夫だって。シュウさんの食事は、ずーっとわたしが作るからね!」
「弥生、ありがとう」
「あらま、また始まったねー」
あー、うん、大体の状況は分かったけど、この状況でいちゃつき始めたよ、このネコ夫婦! まぁ傍目にはネコがじゃれ合ってるだけにしか見えないけどさー。
ま、既に煮干しを受け取っている事から考えると、ヨッシさんは既に了承済みなんだろうね。……それにしてもレナさんといい、弥生さんとシュウさんといい、今日はどうも変な方向に脱線していく事が多いね。まぁ大体の用件はもう済んでいるから別にいいんだけど……。
「ごほん! 本題に戻してもよろしいでしょうか?」
「はっ!? 脱線に次ぐ脱線になってたね!? えっと、他に今決めとく事って何かある?」
「……そうだね。誰が出るかが決まらないと日程は決められないし、今この場で決められる事と言えば開催場所くらいじゃないかい?」
「ん? そりゃ雪山の中立地点で良いんじゃねぇのか? なぁ、ジェイ」
「別にそれで構わないと思いますが、シュウさんには何か考えがお有りですか?」
「そこまで深い意味もないんだけども、たまにはエリアの影響を受けにくい場所でやるのも良いんじゃないかと思ってね」
「そういう理由なら確かにありかも……?」
「……そうですね。どこか、ここならどうだという意見はありませんか?」
そんな風にジェイさんがみんなに尋ねているけど、中立地点の雪山以外のエリアだよな。確かにエリアの影響を受けにくいエリアでタッグ戦をやるというのは良い案だとは思う。ただ、各群集の人の移動を考えるとそこまで極端な場所の変更は微妙なとこだよな。
「あー、それについてちょっと質問良いか?」
「なんでしょうか、アルマースさん?」
「当たり前のように地上を前提にしてるが、参戦するのが海エリアの人になった場合はどうすんだ?」
あ、確かにそう言われてみればそうだな。普通に自分達を基準に考えていたけど、その可能性も今の段階では存在する事を忘れていた。
「……その可能性は失念していましたね。それでは参加者の4人中、3人以上が海エリアの方ならどこかの群集の海の初期エリアか、その隣接エリアで行うというのでどうでしょう? 海エリアについては3群集はすべて隣接していますし、それで問題ないかと思いますが……」
「ふむ、まぁそれなら良いと思うぞ。ケイはどう見る?」
「俺もそのジェイさんの提案に賛成だな。弥生さんとシュウさんはどう?」
「わたしもそれでいいと思うよー」
「特に反対する理由も見当たらないね」
「では、海エリアの方が多かった場合の対応は同意が得られたという事で構いませんね。それでは改めて陸地での開催地として希望の場所はありますか?」
さて、アルが質問した事についてはすんなり片付いたけども、他の開催地かー。エリアの影響を受けるというのはあくまで雪山のエリアの特徴だし、他に特徴があるエリアというのもありだよね。
例えば上風の丘で強風の吹き荒れる中で戦うというのも、それはそれで楽しそうではある。あ、ネス湖で陸地の湖畔と湖の中と空中で入り混じっての対決というのも面白そうだよね。
「はい! ハイルング高原が良いと思います!」
「え、ハーレさん、それは無難過ぎないか?」
「いえ、私はハーレさんの意見を支持しますよ」
「俺もジェイと同じだな! ケイさんの意見も面白そうではあるんだが、それは次の機会に取っておこうぜ?」
「……え? あ、もしかしてまた声に出てたり……?」
「うん、思いっきり出てたかな」
「ケイさんの案も良いとは思うんだけど、今回はハーレの無難な意見がいいと思うよ?」
「ケイ、時期尚早って言葉を知ってるか?」
「アル、それくらい知ってるからな!?」
あーもう、今回は完全に筒抜けでやらかしたー! ……他のエリアとしての特色がある場所を選ぶ事そのものは否定はされなかったけど、今回の対象エリアとしてはみんなとしては不適格って判断か……。
くっ、確かに今回一回限りで終わる気はあまりしていないし、そう考えるなら初手から特色のあるエリアでやるのも微妙ではあるか……。そりゃアルに時期尚早だって言われても仕方ないよな。
「ハイルング高原であれば中立地点の隣ではありますし、特に大きく変わった特徴のないエリアなので良い場所だと思いますので、そこで決定でよろしいでしょうか?」
「おう、俺はいいぜ!」
「私も賛成かな」
「言い出した私はもちろん賛成さー!」
「俺もそれで良いぜ」
「ハイルング高原になったねー! んー、弥生、雑魚敵とかはどうする?」
「それなら赤の群集と灰の群集から、護衛要員を出すんで良いんじゃない? ギャラリーの周りを未成体の人達で囲むだけでもかなり違うでしょ」
「後は状況に合わせて威嚇持ちの人を配置するのでも良いんじゃないかい?」
「あ、そうだね。それじゃそういう方向性で調整するって事で、ジェイさんいいー?」
「えぇ、その辺りは近くの赤の群集と灰の群集にお任せしますよ」
そんな感じで青の群集の2人組と、赤の群集の1人と灰の群集の1人によるタッグ戦の大雑把な概要がほぼ決定した。後は誰が出場するかを決めていく必要があるけども、これはどうやって決めていくべきなんだろうね?
「さてと、色々と脱線はしたけど、とりあえずこれで話し合いは終わりだね。わたしとシュウさんは戻るけど、みんなはどうするの?」
「……そうですね。ケイさん達を案内する予定ではあったんですが……行きたい所ってありますか?」
「あー、ちょっと他の隣接エリアの景色が見てみたくはなってきてるぞ」
「あぁ、確かにそれはありですね。それではそうしましょうか?」
「それでよろしく……あ、みんなそれでいい?」
危ない、危ない、俺の独断で行動方針を決定するところだった。こういう事はみんなにちゃんと確認してから決めておかないとね。
「私は賛成なのさー!」
「私も賛成……あっ、ケイ、ちょっと待ったかな!」
「え、サヤ、何か問題あったか?」
「今の時刻を見てかな!」
「……へ? あー!? もう11時半を過ぎてる!?」
「……あはは、思っていた以上に時間が経ってたんだね」
「全然時間を見てなかったのさー!?」
しまったな、移動にもそれなりに時間はかかってたし、結構話し合いで時間が経ってしまっていたようである。……明日が休日ならこのまま続行でもいいけど、あいにく平日だし時間切れか。あーあ、ちょっと他の隣接エリアも見てみたかったなー。
「流石に時間切れでは仕方ありませんか。まぁ一度ここまで来れた事ですし、案内についてはまたの機会という事になりますね」
「ちょっと不本意ではあるけど、そうなるな……」
「だったら、ケイさん達はここに転移の種を登録しとけば良いんじゃねぇか?」
「お、斬雨さん、ナイスアイデア!」
「いえ、それは出来ませんよ」
「ん? どういうこった、ジェイ?」
「ただ単純な話ですよ。転移の種と実では、始まりのエリアの登録は不可能となっていますからね」
「そうなのー!?」
えー、折角良い案だと思ったのに、それは出来ないのかよ……。ここまで来るのを目的にして転移の種の登録をしてたから上書きする事は問題なかったのにな。
「ジェイさん、それって隣の『涙の溢れた地』ならどうなの?」
「そちらは問題ないはずなので、登録するのならそちらでするのがいいと思いますよ」
「あ、なんだ、そっちなら問題ないのか」
そういう事ならこれからする事は決定だね。転移の種を他の場所で登録する機会があるまでは『涙の溢れた地』に登録しておいて、すぐにこの近くまで来れるように登録をしておけばいい。
「よし、それじゃ俺らは『涙の溢れた地』まで戻るぞ!」
「「「「おー!」」」」
「わたしはちょっと色々と脱線して変な事になってるのを修正していくね。お、アルさん、まとめに情報上がってるね」
「おう、ケイ達が話し合ってる間に報告は上げておいたからな」
アルは脱線する事なく、ちゃんと有言実行をしてくれていたようである。今日のレナさんはかなり頼りなかったけども、アルやサヤがその分しっかりと対応してくれたもんな。いやー、ありがたい、ありがたい。
「それでは今回の話し合いはこの辺でお開きにしましょうか」
そうしてそのジェイさんの宣言で、今回のタッグ戦の話し合いについては完了した。ふー、なんだかんだでこの青の群集の森林エリアに辿り着くまでも色々あったし、辿り着いてからも色々あった。
でもまぁ、道中で絶景も見ながらスイカも食べたし、大量の経験値も手に入ったし、黒の統率種の情報や群集クエストの進行も出来たし、タッグ戦の打ち合わせも出来たし、色々と成果はあったものである。




