第700話 青の群集の湿地帯へ
さてと、今はヨッシさんとハーレさんの戦闘担当である。まぁよっぽど危ない状況になったら手は出すけど、基本的には俺とサヤは回復を最優先だな。
そういや……えーと、この妙に長いヒレが多い毒魚はミノカサゴだっけ? このミノカサゴもだと思うけど、さっき俺らが倒したライオンとヒョウはLvが俺らより下だったから、あの大量の経験値を持っていたカニほどは効率は良くないんだよな。Lv上げ、しときたいよなー。
「なぁ、アル」
「なんだ、ケイ?」
「1回、樹液分泌で敵を集めまくって、一気に経験値稼ぎとかしてみない?」
「……経験値の増加効果を十全に使いたいんだろうが、今は却下だな」
「それもそうかー。……え、今は?」
「今日、ログアウトする前なら良いんじゃねぇか? それか明日以降で予め予定を決めてからか」
「あ、それは良さそうかな!」
「その手があったか! よし、そうしよう!」
「ま、今日は時間があるかどうか分からんがな」
ふむふむ、それは手段としては確かにありだよな。まぁ始末しきれなかったら近くにいるプレイヤーにも迷惑がかかるし、今日の予定が終わった段階で時間があるかも分からない。……やるなら元々そのつもりでやるべきか。
とりあえずアルの樹液分泌による敵を集める戦法は今は却下だけど、場合によってはやるという事になった。まぁそれをいつ、どこでやるかというのはまた今度の話だな。
今はヨッシさんとハーレさんがミノカサゴを相手にしているとこだしね。俺らがしょうもない話をしてる間にある程度はダメージを与えて、HPも7割くらいまで減っている……って、えっ!?
「わっ、急接近しながら毒を撃ってきたよー!? 『略:ウィンドボム』!」
「ハーレ、ナイス!」
うっわ、この魚の移動方法にびっくりしたー。あの複数の長い……えーと、今のは腹の方にあるヒレだから、腹ビレかな? 腹ビレが更に伸びて、それを脚のように使って走ってくるとは……。
あー、でもだからこその特性の伸縮か。しかも……毒を撃ってきたのは何ビレだ?
「さっきの魔法砲撃なら胸ビレだよ、ケイさん」
「ほほう、今のは胸ビレか。サンキュー、ヨッシさん」
「いえいえ、どういたしまして。ハーレ、一度距離を取るよ」
「了解です!」
「神経毒で『ポイズンインパクト』!」
「毒はやっぱり無理っぽいねー!?」
「……まぁ予想は出来てたけどね。でも今のは距離を取る為だから問題ないよ」
流石は料理が得意なヨッシさん。魚の側面にあるのは胸ビレなんだなー。ふむふむ、あそこから魔法砲撃で毒魔法を使ってきたって事か。
それにしても毒持ちの魚らしいし属性にも毒があるから、ヨッシさんの毒が強力とはいえ毒は効かないっぽいね。ま、相性的な問題だからその辺は仕方ないか。とりあえず吹き飛ばして距離は取れたみたいだけどね。
「てか、ヒレで走る魚ってありなんだなー」
「まぁありといえばありだよな。まぁ、飛ぶ魚だけって訳じゃないって事だ」
「あれってどのくらい速度が出るのかな?」
「……あれで猛スピードで走る光景か」
「……ちょっと見てみたい気もするな」
さっきも走ってはいたけど、そこまでは速くはなかったもんな。あのミノカサゴがもっと俊敏に走ってくると……怖そうな気もしたけど、割とそうでもないか。よく考えたら俺のロブスターが高速で飛んでるのも大概だしね。
「ヨッシ、サクッと決めるから時間稼ぎをお願いー! 『アースクリエイト』『爆散投擲』!」
「了解! 『エレクトロクリエイト』『同族統率』! 行け、ハチ1〜3号! それと『並列制御』『エレクトロプリズン』『アイスプリズン』!」
お、これは電気の流れる氷の檻を生成する複合魔法のエレクトロケージか。毒は効かなくても、水属性も持っていたから電気での麻痺は効くみたいである。それと直前に生成した同族統率のハチ3匹も、遠慮なく電気を纏った針を刺しまくっているしね。こりゃ麻痺が決まりまくってハメ殺し状態になってるな。
ハーレさんはハーレさんで、銀光の強弱の間隔が短いからこれはLv3での発動っぽい。ま、これでちゃんと当たれば終わりだろうね。
「チャージ完了です!」
「ハーレ、任せたよ」
「了解なのさー! えいや!」
ヨッシさんのかなり凶悪な麻痺でのハメ殺し状態でハーレさんのチャージの時間を稼ぎ、その眩い銀光を発する投擲がミノカサゴに向かって投げ放たれていく。そしてエレクトロケージの合間を通り抜けてミノカサゴに直撃して、弾が盛大に破裂していった。
その一撃でミノカサゴのHPは全て無くなり、ポリゴンとなって砕け散っていった。ま、通常の敵相手ならこんなもんか。
<ケイが未成体・瘴気強化種を討伐しました>
<未成体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント3、融合進化ポイント3、生存進化ポイント3獲得しました>
<ケイ2ndが未成体・瘴気強化種を討伐しました>
<未成体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント3、融合進化ポイント3、生存進化ポイント3獲得しました>
とりあえず討伐報酬はゲットだね。おっと、思ったよりは経験値が多かったな。……いや、50%増量中なんだから普段より多くて当たり前か。
「ハーレ、ヨッシ、お疲れさまかな」
「ふっふっふ、あの程度は雑魚なのさー!」
「まぁあそこまで麻痺が入れば楽勝だね。でも、あれなら爆散投擲以外でもう少し時間をかけても良かったんじゃない?」
「魔法型だったし、多分爆散投擲はLv2でも充分だった気がします!」
「……その辺の威力調整は追々やっていった方が良いかもね」
「同感なのさー!」
ふむふむ、今のでもちょっとオーバーキル気味だったっぽい。まぁ魔法型だったなら、ハーレさん自身も言ってるように威力は抑え気味でも良いかもね。
「それじゃ移動を再開していくぞ。空中浮遊を解除っと」
「「「「おー!」」」」
水流から浮かせていたアルのクジラが水流の上に戻り、再び水流に乗っての移動を再開である。さて、それ程エリアの切り替え地点まで距離もなさそうだけど、一応聞いておこうっと。
「ヨッシさん、ハーレさん、交代するか?」
「まだ行動値は半分は残ってるから大丈夫なのさー!」
「私もまだ行動値も魔力値も余裕はあるよ。でもサヤとケイさんは全快してる? 2体相手だったから私達より消耗してたよね?」
「……あはは、まだ7割くらいかな?」
「……俺も行動値は全快してるけど、魔力値は6割ちょっとだな」
まぁこれだけ回復していれば普通に戦う分には問題ないけどね。魔力値については最悪、アイテムを使えば何とかなるし……。
「それならもう1戦したら交代って事で良いんじゃない?」
「え、良いのかな?」
「別に1戦ごとで交代とも言ってないのさー!」
「あー、そういやそうだっけ」
「それにアルさんもいるのさー!」
「おう、俺はほぼ全快してるから、次は参戦するぜ」
「……そういう事なら、もう少し回復させてもらうか」
「そうさせてもらおうかな」
「それでいいのです!」
ま、アルがほぼ全快しているのなら戦力的に問題はないし、万全の状態に回復してから交代って形にしていけばいいか。そもそも即座に敵を見つけて連戦になるとも限らないもんな。
そもそも仲間内での話なので、戦闘中の状況によって臨機応変に対応していけばいいか。って、あんまりこの話は意味が無さそうだな……。
「どうやら今の話はあんまり意味なかったみたいだぞ」
「……みたいだなー。アル、ちょっと観察したいから止まってくれー」
「おうよ。『略:空中浮遊』!」
「サンキュー!」
水流に乗ったままだと観察もろくに出来ないまま突っ込む事になるからね。さっきのヨッシさんとハーレさんの戦闘の時と同じように、水流から一度離れて止まった状態で観察をしていこう。
「おー!? 何か景色が変わったよー!?」
「……これは、湿地かな?」
「窪地になってて、そこが湿地帯になってるみたいだね」
移動を止めてよく見てみれば、もうエリアの切り替え目前というような場所であり、俺達のすぐ右側は競争クエストの森林エリアである。そして俺らの真正面にはそのまま続く平原と、結構な急斜面で窪地の2つに分かれていた。
北側が平原っぽいから広範平原の東部で、南側の窪地が青の群集の整備クエストのエリアっぽいな。ふむ、北側の平原から、南側の窪地まではかなり緩やかな感じの傾斜で繋がっているようだね。
窪地の方を上から見下ろしてみると、北側の平原に繋がってる部分はそれほどでもないけど、南側の方は青々と茂った水草と合間から見える水がある湿地帯になっている様子である。何というか、蓮が大量にある湿地帯のようだね。
ふむ、所々に木材で出来た足場みたいなのもあるから、あれがここの整備クエストっぽいね。整備クエストって、安定した足場を作るって内容が多いのかな?
「この水って川からの水だよな?」
「ここからは川は見えないねー!?」
「あー、こういう地形なら滝があるんじゃねぇか?」
「やっぱりそう思うよなー。ジェイさんが言ってた景色って滝の事?」
「それは有り得そうかな」
「うん、それは私も同感だね」
「私も同じくさー!」
ま、青の群集の森林に川が流れてて、隣接してるエリアとかなりの高度の差があって、そのエリアが湿地帯となれば、なんとなく予想はつく。さて、そうなるとどの程度の規模の滝かって事にはなるけど、流石に初期エリアの隣接地点からはそこまで大々的なものではないはず。
というか、滝があるにしてもこのエリアに入ってすぐの場所じゃないよな。間に競争クエストのエリアがあるから、滝があるのはもう少し南の方だろう。
「……今思ったんだけど、この湿地帯って割と広くない?」
「そうでもないんじゃない? ほら、赤の群集の森林の北部のフレッシュ平原だって、ミズキの森林とも隣接してたしね」
「あー、そういやそうか」
言われてみると確かにそうだったっけ。ふむ、今のは俺のただの思い過ごしで、エリアによって必ずしも同じ広さって訳でもないんだろうね。
そもそも俺らのメイン活動場所である森林深部から行ける湿地エリアとか地味にまだ行った事ないがな! 自分達で行ってない場所も多いのに、行った事のある場所のみで判断するのは軽率にも程があるね……。
「ま、とりあえずそこの湿地帯に行ってみますか!」
「あー、少し待った。このまま水流に乗ってで良いのか? というか、俺はどの程度の高さで移動していけばいい?」
「あ、そういやそうか」
窪地というか湿地帯の方はかなり高度が下がっているので、その辺は調整しておいた方が良いよな……。えーと、ここは整備クエストのエリアって事だし、俺らが戦って美味い敵が出てくる事もないはずだし、高めの位置の方が良いのか。
いや、違うか。おそらくほぼ成長体しかいないはずだから、何もしなければ未成体である俺らに襲いかかって来ることはないはず。
「よし、アル! 水面から1メートルくらい上の位置で!」
「ま、そんなとこか。みんなもそれでいいか?」
「問題なしさー!」
「同じくかな」
「私も良いと思うよ」
「んじゃそれで決定だな。それなりに距離はあるっぽいから、少しずつ高度は下げてくぞ」
「「「「おー!」」」」
そうして湿地帯へと向かって移動を再開していく。今日の目的地は青の群集の森林エリアではあるけども、その直前であるエリアにはジェイさんが良い景色があるって言ってたからそれも楽しみなんだよなー。多分滝の事だとは思うんだけど、どれほどのものか是非見てみたいね。
<『広範平原・中央部』から『涙の溢れた地』に移動しました>
さて、エリアの切り替えに……って『涙の溢れた地』!? え、ここのエリアの名前ってこういう名前なの!? いやまぁ命名クエストで決まったんだろうし、何かそれっぽい要素があるのか?
「これはちょっと予想外の名前かな?」
「溢れた地は見えてる湿地帯の事なんだろうけど、涙は……滝?」
「そんな気はするけど、ただの滝ならそうはならない気もします!」
「これは実際に見てみるしかないっぽいな」
「どうもそうっぽいな。……とりあえず、高度を下げつつ南下していくぞ」
「ほいよっと」
移動はアルに任せて、このエリアの様子を観察していこうっと。……ふむ、プレイヤーの数はそれほど多くはないみたいだけど、魚系のプレイヤーの姿はちょいちょい見えるね。
うーん、何か微妙に注目を浴びてる気もするけど、これは気のせいじゃないだろうね。競争クエストで勝って占有しているエリア以外では堂々としていれば問題はないはず! そもそも今通っている場所はジェイさんが指定したルートだしね。
お、正面方向の水の中にワニがいるなー。やっぱり湿地帯にはワニがいる……って、あれ? カーソルが黒じゃなくて青って事はプレイヤーか! ……ん? よく見てみれば、見覚えのある名前……って紫雲さんじゃん!?
「お、グリーズ・リベルテの到着だな。おーい、こっちだ、こっち!」
「あ、紫雲さんだー!」
「もしかして出迎え?」
「そうかもな。って事で、アル、よろしく」
「おうよ。サヤ、スイカはかなり冷えたと思うから預けとくぜ」
「あ、うん。分かったかな」
「ほらよっと。『略:空中浮遊』! それと移動操作制御を解除!」
そうしてサヤがアルから流水で冷やしていたスイカを預かり、移動操作制御の水流の操作と根の操作を解除して、空中を泳ぎながら紫雲さんの目の前へと移動していった。
さて、紫雲さんの方から声をかけてきた訳だし偶然って事はないだろうね。やっぱりヨッシさんが呟いていたように俺らの出迎えの可能性はありそうだな。




